第14話 オタの一念
雷火ちゃんと雑談を交えた料理特訓は金曜まで続いた。
明日は居土先輩と火恋先輩のデートが迫った、学校の昼休み。
「えっ何コレ、キモっ」
相野が俺の弁当を見て言い放った一言。
弁当の中身はふんわりだし巻きたまごに、足が欠けることのないタコさんウィンナー、きつね色の梅しそからあげ、彩にアスパラベーコンとプチトマトを添えている。
「なんなんお前なんなん、気持ち悪っ」
相野からのわけのわからない罵倒。
「同じメニューばっかり練習すれば普通出来るようになるわ」
まぁ雷火ちゃんと毎日のように深夜まで喋りながら作っていたので、一日8時間ぐらい練習してたけど。
彼女もよく付き合ってくれたものだと思う。
「形によるけど揚げ物とか焼き物は、出来上がる時間をきっちり計測していればそこまで大失敗することはないぞ。後人並の器用さがあれば。俺は不器用だから失敗しまくったけど」
「お前、手酷いことなってるもんな」
「切り傷より火傷が多い。水分の残った野菜の揚げ物は悲惨だぞ。あれはテロのレベルだ」
ボイスチャット越しに何度悲鳴をあげたかわからない。
「お前、これ普通に成功するんじゃないか?」
「俺もそんな気がしてきた」
相野は唐揚げをひょいと掴んで口に放り込む。
「美味い……けどちょっと濃いか?」
「そうなんだよ、味の微妙な裁量が付け焼刃の俺には判断がきかない。多く作って味見して、いけると信じるしかない」
「お前のやる気になった時の情熱は異常だな」
呆れてるのか褒めているのかよくわからない口調の相野。
「何でも楽しいとやる気がでるし、時間制限と目標が見えてるとやる気がでる」
「世の中の締切に追われてる人が耳を塞ぎそうな言葉だ。明日居土先輩とデートして次の日お前とデートか?」
「そうだな、俺は後攻だ」
「せめて逆にしてほしいよな。多分居土先輩めちゃめちゃオシャレな店で食事するんじゃないか? おフランス料理とか」
「俺がそんなおシャレな店知ってるわけないだろ、大体そんなとこ予約して想定外のことになったらどうするんだ」
「あぁ値段が高いとか、思ったより飯が不味いとかな。だからと言って弁当に勝ち目があるかと言うと望み薄いと思うけどな」
「俺もそう思う」
「デートの準備は整ってるのか?」
「一応」
雷火ちゃんに怒られながらデートプランも考えたさ。
もうすでにデート予定地には下見に行って、料金と乗車予定のバスや電車の時刻をチェックして、もし遅れた場合の代替えの交通手段まで把握済み。
ウケが悪かった場合の別プランも用意したいところだが時間がない。
実は準備期間が多く取れる分、土曜じゃなくて日曜で良かったと思ってたりする。
「お前マメだよな……」
食後、スマホで乗り換え情報の洗い出しをしている俺に、苦笑いする相野。
「マメじゃなくてチキンなだけだ。裏を返すとイレギュラーに超弱い。多分伊達先輩が楽しくなさそうな顔してたら、どんどん焦っていくと思う」
「それだけやる見返りはお前にあるのか?」
「………」
腕を組み首をかしげる相野。
「オレはデートも結局は相手と今後親しくなっていきたい将来性から、時間も金も労力も使うっていう投資だと思ってるんだが」
「損得勘定で動くからお前はモテない」
正論でぶん殴ると、食べていたパンを喉に詰まらせる相野。
「好きってのは無償なんだよ、無償と無償が合わさって愛なんだよ」
「三石君、気持ち悪いんですけど」
「俺もそう思う」
「リターンを求めないのが愛ねぇ。元からリターンが来ないとわかっている一方通行な思いは果たして愛なのか?」
「………」
「オレはお前が不憫でならんよ」
「言うな」
わかってるさ、頑張ったって火恋先輩が俺を選ばないってことは。
ただそれでも、頑張っていいって言われたら頑張りたくなるだろ?
やれること全部しないと後悔しそうだから。
だから全部やっておきたいんだ。
「まぁ結果は見えてるから月曜遊びに行こうぜ。カラオケ行こうか」
「今から打ち上げの予定たてるのやめてくれ」
「打ち上がって散るんだろ」
「うるせーよ」
苦い笑いがこぼれる。
俺はこの恋が散った後、どうするんだろうな。
◇
土曜の晩、ようやく完全なプランが出来上がり、武器である手作り弁当も会心のデキとなった。負ける要素が一つも見当たらない。ただし最初から負けている。
インスタ映えする弁当を写真に撮って、雷火ちゃんのチャットに添付する。するとすぐに返信が届いた。
『マジですか、めっちゃ美味しそうじゃないですか。捨てましょう』
『なんでやねん』
『わたし食べれないしーヽ(`Д´)ノ』
『今度作るって』
『マジですか、やった。とりあえずそれは捨てましょう』
『なんでやねん』
『あっ、お姉ちゃん帰ってきたんでちょっと消えます』
そう残してしばらく返信は途切れた。
しばらくして――
『三石さん、真剣な話があるんですけど』
チャットでそう切り出してきたのは、先ほど返信がなくなってから一時間以上経った後だった。
『どうしたの?』
『一個上のお姉ちゃん今日デートだったみたいなんですけど、びっくりするくらい上手くいかなくて、めちゃめちゃ落ち込んでるんですよ』
『具体的には?』
『映画を見に行ったらしいんですけど、予約の入れ間違いで本来見たいモノと全然違う映画の予約入れちゃったみたいです。キャンセルするのも悪いのでそのまま映画を見たらしいんですけど、内容がかなり重いテーマの戦争モノだったらしくて』
『地獄だね。ちなみになんてタイトル?』
『【戦果の代償】って作品ですね』
見なくてもわかる、重い奴だ。
『サブタイトルがあって……』
『あぁ少女の涙とか、引き裂かれた親子とかそんな感じ?』
『【戦果の代償~コロニーが落ちた地で~】だそうです』
『一気にSF臭がするようになったね。逆に興味湧いたよ』
てっきり紛争モノかと思ったが、機動戦士が出てきそうなタイトルである。
『その後食事にしようと男性が予約した、ミシュランガイドにも載ったことがある8つ星レストランに行ったらしいんですけど』
『ちょっと星が多いね』
俺の知ってるミシュランは星3つまでなんだけどな。
ブルーアイズ並みの星の多さだ。
『お姉ちゃん普通の私服で行ったら浮きまくったみたいで』
あるよね気軽な衣装で着てくださいって言われて、私服で行ったら周り全員正装だったみたいな。
多分意識の違いだろうな。男の人は高級志向で、お姉さんは近所でご飯食べるくらいの気持ちだったのだろう。
ってか普通高校生のデートで、ミシュランに載ったレストランに行くなんて誰も思わないだろう。
男の人が元からこの店に行くから正装で着てねって言ってくれれば準備できただろうが、映画といい、そのへん悪い方向に噛み合っちゃった感じがするな。
『お姉さん可哀想だな』
『その後も男の人が料金を全部持つって言ってくれたそうなんですけど、お姉ちゃんそういうの許せないタチの人間なので揉めてしまい』
あー真面目な人だと、おごられるのはダメって言う人いるよね。
『なんとか半分支払おうとしたんですが、これがまた失敗して……』
『お金足りなかったとか?』
『よくわかりましたね。半分でもかなり高額だったらしく結局全部だしてもらうことになったみたいです』
ことごとくお姉さんは恥をかくことになってしまったのか。
高級レストランが一体いくらかかるのか知らないが、一般常識からかけ離れた会計になってしまったんじゃないだろうか。
『お姉さん現金主義?』
『そうなんです。根っからのIT音痴なんで、カード支払いとか無理なんですよ。家に帰って今また返しに行ったみたいなんですけど』
『それは余計ややこしくなるんじゃないかな?』
多分男性側も恥かかせてしまった手前、絶対お金なんか受け取らないぞ。
『わたしもそう言ったんですけど』
『生真面目なお姉さんだね』
『人の事言えた義理じゃないんですけど、お姉ちゃんデート経験がほとんど0なんで、どの程度相手に任せていいかわからないんですよ。あとデート自体も無理して取り付けたらしくて、余計相手の負担になりたくないみたいです……』
『なるほど、両方で引っ込みつかなくなってる感じするね』
なんとか少しでも挽回したい男性の気持ちと、絶対に負担になりたくないお姉さんが折れるところを見失ってるのだろう。
『そうなんですよ、良いお姉ちゃんなんですけどね。融通がきかないと言いますか』
『俺も心当たりあるけど、性格を考えて行動しないと酷い事になる』
『もうなってますー、姉さん泣きそうな顔してたしボロボロですよ。あっお姉ちゃん帰ってきたんで、今日はこれにて落ちますノシ』
そう残して、雷火ちゃんの返信はなくなった。
「心配だな……。雷火ちゃんのところ」
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