第302話 作者取材のため無人島へ
「太陽が眩しい……」
俺たちはゲーム開発をしていたはずなのですが、今現在なぜか無人島にいます。
◇
遡ること数日前――
順調に開発を続けていた我らサークル一同だったが、今度はシナリオ担当の月が突然のスランプに陥っていた。
「アイデアが……閃かない」
そう打ち明けた月は、談話室で悶え苦しんでいた。
彼女がリンゴマークの書かれたノートPCを開くと、モニターには真っ白なテキストファイルが映し出されている。
彼女は5話目までを完成させたのはいいものの、6話目以降さっぱり筆が動かなくなってしまったらしい。
シナリオライターって、ノってくると1日で1万でも2万字でも書けるのだが、一旦ブレーキかかるとその状態で何日も止まってしまうこともあるとのこと。
月は現在1週間近く、点滅を続けるノートPCのプロントと睨めっこすることになっている。
「気分転換に遊んでみたらどうだ?」
「こんな切羽詰まってる状態で、遊びなんかできるわけないでしょ」
目の下にクマを作って怒る月。こうなったら終わりである。
睡眠不足と締め切りのプレッシャーでメンタルぐしゃぐしゃになり、まともなものは書けない。
俺はゴーグルドライブにアップされている、6話目のプロットを見てみる。
【輸送物資を積んだ航空機の護衛を任されたブレイド部隊。しかし敵部隊の奇襲により、輸送機は敵領土内に墜落。
ブレイド部隊も密林に墜落してしまい、物資が何もない状態で敵地から脱出するサバイバルが始まる。
プレイヤーである隊長の指揮と、部隊員たちの協力によってこの困難を乗り越え、チームとして信頼を深めていく】
「俺は面白いと思う内容だけどな。中だるみしやすい6話目あたりに、こういったいつもとは異なる話が挟まるとキャラが深まる」
「あたしもこれはいいと思うけど、サバイバルの案がなんにも浮かばないのよ。これ……」
月は途中まで書かれた6話目本編の下書き(プロットより更に詳細に書いて、イメージを膨らませるもの)をノートPCに表示させる。
「どれどれ……」
『密林に落ちたブレイド部隊は、いつ襲われるかもわからない恐怖を感じながら獣道を進む。
その道中、茂みから野生のキングコブラが襲ってくる。
くそ、コブラめ!
蛇をなんとか退け先を進むが、水がない。
水がないと皆脱水症状になってしまい危険だ。脱水症状は体内の水分がなくなり、めまい、吐き気、意識障害を起こし最悪臓器不全に陥る。すぐさま一人当たり2.5L程度の水の確保が必要だ。
隊長、川があります! と部隊員が声を上げる。
助かったと思い急いで走ると、水場には10mを超える巨大なアナコンダがいた。
くそ、アナコンダめ。俺は棒で蛇を殴り殺した。
これで安心できる。
水を補充した俺たちは、夜になって強い空腹に襲われるが歩みを止めない。
闇夜の暗がりにまぎれ、マムシが飛びかかってきた。
くそ、卑怯な蛇め! 俺はマムシの頭をナイフで切り裂いた』
「蛇の出番多くない? あと隊長強すぎねぇ?」
10m超えるアナコンダ棒で倒せる?
あと、脱水症状の説明がネットのコピペ感あって嫌。
「空腹なら蛇食ったらいいだろ」
「ダメよ、蛇には毒があるし」
「無いやつもおるわ」
どうやら月のスランプの原因は、サバイバル知識のなさから来ているようで、トラブルとなる舞台装置が蛇しか出てこない。
今のところシナリオで遅延は発生していないが、このままだと他の部署が追いついてくるのは目に見えている。
その時シナリオが完成していないと、全てにストップをかけなくてはいけなくなってしまう。
それだけは避けたいと思っているところに、成瀬さんが姿を現す。
「おーい、バトルミュージック試作できたぞって、どうしたんだその金髪?」
床に倒れ伏している、金髪ツインテールの亡骸を見て驚く。
「ちょっとスランプでして」
内容を話すと、成瀬さんは腕組みして「う~ん」と唸る。
「あたしのツテでリアルサバイバルできなくもないが」
「そんなことできるんですか?」
「ムチューバーの知り合いで、そんなの好きな奴がいるんだよ」
「あぁ、動画でキャンプとかサバイバルは人気なジャンルですしね」
成瀬さんはスマホを取り出し、どれだっけなとメールを検索する。
「これだ。サバイバル企画やるから乗らないかって誘いが来てたんだけど無視してる。結構でっかい企画で、無人島を借り切ってその中に一般人やらムチューバーやらを放り込んで、72時間サバイバルするって」
「テレビバラエティっぽいですね」
「道具は一人一個だけ持ち込んでもいいんだけど、後は着てるもん以外持ち込み禁止。最後まで残ったら賞金か景品出すって言ってたな」
成瀬さんが軽く説明を行うと、床にめり込むんじゃないかと思っていた月の頭が上がる。
「すごく面白そう。やりたいんだけど」
「大丈夫か? 時間無いって言ってたけど」
「取材よ取材。このままだと、あたし3日経ってもこの姿勢のままよ」
それでは月が床のシミになってしまう。
「じゃあちょっと聞いてやるよ。待ってろ」
成瀬さんはスマホを持って、主催者と連絡をとってくれる。
数分後――
「参加OK出たけど、すぐ撮りたいって言ってるんだ」
「好都合じゃない。行きましょう」
パチンと指を鳴らす月。
「じゃあ頑張ってな」
取材でケガすんなよと俺が言うと、なぜか月はイラッとした表情で俺の首根っこを掴む。
「あんたも行くのよ」
「は? 俺は別にサバイバルしたくないが」
「ディレクターがクリエーターに協力すんのは当たり前でしょうが」
「ディレクターが、3日も現場留守にするわけにはいかないだろ。開発が精査待ちの山になるぞ」
「シナリオが進まなくて万策尽きるのとどっちがいいのよ」
くっ、こいつ作品を人質に……。
「大体他の皆がそんなこと許すはずないって」
俺は開発メンバーのグループラインで、無人島に行く話をしてみた。
すると
『なにそれ、無人島とか超楽しそうじゃん٩(๑òωó๑)۶ 綺羅星』
『日差しが強いところに行くのかしら? 静』
『泳げるならボクも行きたいなぁ。 天』
『わたし運動苦手なんですけど、準備しておきますね(ㆁωㆁ*) 雷火』
『サバイバルか、私の力が役に立つかもしれないな。火恋』
なんで皆行くつもりで返事返してきてるの?
全員に「行っちゃダメだよ。開発どうするの?」と言ってほしかったのに、なぜか正反対の回答が来てリーダー困惑。
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