第174話 玲愛と首輪XⅤ

 打倒玲愛さんを決めた伊達水咲姉妹達は、円陣を組みゴニョゴニョと何かを話し合っている。


「次テニスっすよ、運動系は雷ちゃん論外だし、あーしもルールある競技はあんましだし、天姉か火恋さんがでることになるっすね」

「球技は得意分野だ。私がなんとかしよう」


 頼もしい火恋先輩。


「ポイントがかなり離れてしまってます、できるだけ上位を狙いつつ玲愛姉さんたちには下位にいてほしいですね」

「そんじゃあたしと藤乃で、必ず伊達玲愛ペアを下位にしてみせるわ」


 自信満々の笑みを浮かべる月に、天が唸る。


「テニスはトーナメントでしょ? クジ運によっては玲愛さんが簡単に勝ち上がってくるかもしれないね」

「月姉、主催者権限でなんとかしてよ。プロにぶつけるとか」

「そんなイカサマできるわけないでしょ」

「それなら姉さんに一服盛って試合に出られないようにしてみますか……」


 雷火ちゃん、君は平然と姉に毒を仕込まないでほしい。それならまだトーナメントいじる方がフェアに感じる。

 あれやこれやと玲愛さんを倒す算段を話し合う少女たち。

 これ談合では?


「談合なんかじゃないわよ、主催者として精一杯このイベントを盛り上げる為に、独走を許さないようにしてるだけよ」


 物は言いようである。


「大丈夫ですよ悠介さん、姉さん自分で何をしてもいいから私を倒してみろって言ったんですよね?」

「そうなんだけど」

「フフッ、我が姉ながら馬鹿なものですね。いかなる手段を使ってもいいって言ったからには、お言葉に甘えてなんだってやりますよ」


 すぐやられる下っ端役のように、クククと悪い笑みを浮かべる雷火ちゃん。

 玲愛さんもまさか妹たちがここまで結託して、自分に襲いかかってくるとは思ってなかったんじゃないだろうか。


「わたしは運動系ダメだからテニスは無理ですけど、その次のゲーム大会なら役に立てると思いますよ」

「えー雷ちゃん、それあーしが出ようと思ってたのにぃ」

「エヴァとガンニョムの区別もつかないにわかは黙ってて下さい」

「酷い! あれハメたの雷ちゃんなのに!」


 ムキーと怒る綺羅星を無視して話を進める雷火ちゃん。

 その二人に対して少し気まずげな表情をする月。


「え、え~っと実はゲーム大会の前に、もう一つ競技があるかもしれないわね。例えば料理大会とか料理大会とか」


 どうやらシークレット競技は料理大会らしい。


「えーっとじゃあこの中で料理できる人」


 俺が問うと手を挙げたのは月、天、火恋先輩の姉組。


「君出来るの?」


 疑惑の視線を月に向けると、彼女は失礼ねとツインテをはじく。


「まぁでもできるっちゃできるんだけど、正直大会勝ち抜けるくらいの腕はないのよね」

「ボクもかなぁ、嫁にいっても恥ずかしくないレベルにはしてるけどね」


 意味深な視線をこっちに向けないでほしい。

 水咲姉妹は腕組みしてむーと唸る。

 そうなると、普段料理を作りなれている火恋先輩が適任か?

 そう思っていると、ふとニコっと微笑む静さんが視界に入る。

 もっと適任いたわ。


「そういや肝心の玲愛さんの料理ってどうなんだろ? あの人ウィダーインゼリーの化身みたいな人でしょ? 意外にも料理は爆発させちゃうとか、そんな可愛げ——」

「「ないよ(です)」」


 声をそろえる伊達姉妹。


「姉さん昔和洋中を網羅する、料理の鉄人にも出たことのあるシェフと料理対決をしたことありますけど、圧勝しましたから」

「ああ、シェフは姉さんの料理を食べた瞬間腰から砕け落ち、俺料理人やめりゅと言わしめた人だ」


 なぜアイアンシェフと料理バトルになったのかとか、いろいろ突っ込みが追いつかない人だ。


「さすがパーフェクト人間」


 あれやこれやとイベント内容と、玲愛さんの戦力を分析しつつ対戦シミュレートを繰り返していく。


「とりあえず料理大会については詳細が出るまで保留にしましょう。月さんはそのまま藤乃さんと一緒に首位をキープして、必ず姉さんのペアに勝ってほしいです。テニスは恐らく玲愛姉さんに勝てる見込みがあるとしたら火恋姉さんだけだと思うから、姉さんと組んでください。ゲーム大会に関してはわたしがペアになりますので、多分負けはないと思います」


 できればテニスとゲームでポイント差を縮めたいところだ。


「雷ちゃん明日の競技はどーすんの?」

「明日のイベントに関しては、今日の分が終わってから、その時の順位も考慮にいれながら話しましょう」


 雷火ちゃんがてきぱきと割り振りを決めると、一同は頷く。

 全員のサポート態勢が整うと同時に申し訳なさを感じる。


「皆本当にいいの? 自分たちの順位は滅茶苦茶になっちゃうけど」

「大丈夫っすよ、お遊びが本気にかわっただけっすから」

「そうだよ、姉妹で一位になってもしょうがないからね」

「伊達玲愛に土をつけることができるなんて、後にも先にもこれっきりになりそうだから楽しませてもらうわ」 

「姉さんあれだけ悠介さんと一緒にいて振るとか、マジでどんだけ」

「手錠生活なんて、羨ましすぎて胃がキリキリ痛んだくらいなのに……。襲わなかったところだけは賞賛に値するけど、でも姉さんが襲ってしまえば後は私たちも公然と襲えるわけだから……」


 なんだか皆の瞳に怪しい光が点っている、本当に大丈夫か。

 そんな不安に駆られながらも、作戦会議をつめていった。



 昼食後、本日二つ目のイベント、テニスが行われる。

 俺と火恋先輩は着替えなくてもいいと言われたので、水着姿のままスポーツドーム内にあるテニスコートに移動した。

 コートはビーチバレーの時と同じく、約100組のカップルをA~Hの8グループに分けて行われることになった。

 くじを引くと俺は再びA組となった。因果なもので玲愛さんもA組だったようで、同じコートに集まっていた。


「姉さんと同じグループのようだね」

「そうですね、もしここで俺たちが勝てればポイントを与えずに進めることができるかもしれません」

「そうだね、気を引きしめていこう」

「はい」


 ふと気づいたが、火恋先輩テニスウェアのスカートだけ履いてらっしゃる。


「火恋先輩、何でスカートだけ履いたんですか?」

「流石にパレオで走り回るわけにはいかないよ、それに下は少し過激なものを穿いているからね」


 そう言って彼女はスカートをたくしあげると、骨盤に紐を引っかける真紅のV字パンツが露になる。

 俺は水着とわかっていても、うっと鼻頭を押さえつつ目をそらした。


「それ、後ろどうなってるんですか?」

「後ろかい?」


 ペロンとスカートをまくったまま後ろを向くと、Vバックのブーメラン型の布面積をしていた。

 いろいろハミ出ていて、これは確かに隠さないとまずいと思う。


「Tバックは知ってますけど、Vバックは初めて見ました」

「自分でも少し過激かと思ったのだが、ゲームキャラは普通にこのようなのを着ているからね」


 それエロゲーじゃないですか?


「火恋先輩、今度しまかぜのコスプレしましょうか」

「しまかぜ?」


 忘れて下さい。


「転んだりしたら見えちゃいますよ」

「安心したまえ、君以外には見えないようにするさ」


 キリっと言い放つ火恋先輩はカッコ良かったけど、普通にアンスコかスパッツ履いていただければそれですむ話なのでは? と思ってしまった。


「久しぶりの見せ場だから張り切らせてもらうよ」


 最初の頃はおしとやかで、大和撫子的なキャラクターだったのに気づけばVバックの水着でテニスする変たい……ゲフンゲフン。

 今更先輩の性癖に触れるのはやめよう。


「俺も頑張ります。皆の力にばっかり頼ってると、またヘタレそうなので」

「うむ、頑張りたまえ。私も頑張る君が好きだ」


 俺の言葉を聞いて、火恋先輩はすこぶる嬉しそうに微笑んだ。

 凄くやる気がみなぎってきたな。これが期待されるということなのかもしれない。

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