第25話 オタとフォトカノ

「じゃあ手始めにFG○辺り行こうか」

「手堅くレイヤーに人気が高い奴ですね」


 雷火ちゃんは様々ある衣装を手に取り、これにしようと決める。


「火恋先輩はこれいきましょうか」

「ふ、ふむ、着物なのだね」

「この衣装のキャラ名は沖田武蔵ちゃんです」


 俺はスマホを開いて先輩にキャラ画像を見せる。


「男だと思ったら女の子なんだね。これはアニメかい?」

「ソシャゲですね。ガチャマネーによって、アニメや劇場版まで制作された人気作モンスターコンテンツです」

「わたしのとこ、まだマリーン師匠いないんですよね……」


 遠い目をする雷火ちゃん。すでに何度爆死したかわからない顔をしている。

 ちなみにマリーン師匠とはゲーム内のぶっ壊れキャラで、彼がガチャピックアップに出ると億単位の金が動くとか。


「それではお着替え下さい」


 俺は着替えが終わるまで、部屋の外で待機することにした。



「あぁ実に楽しみだ。この中ではめくるめく桃源郷が」


 しかしこの薄い襖を開けるだけで、俺は前科一犯となってしまう。

 あけたい、でもあけられないこのジレンマ。

 一昔前の漫画のキャラクターなら間違いなく開けていただろうが、生憎昨今の根性無したちは襖一つあけられないのだ。


「違うって姉さん、それ先に通したらこっちつけられない」

「着る順番があるのか?」

「帯締める前にパーツつけちゃうと、脇差用のベルトつけられないし。あとウィッグはこれね、カラコンはこれ」

「付属品が多いな。後胸が非常に苦しいのだが、これはそういうキャラクター設定なのか?」

「喧嘩売ってんの!?」

「何故怒る!?」


 楽しそうで何よりです。


 それから数分後――


「三石さん、もう入っていいですよ」


 お許しが出たので火恋先輩の部屋に戻ると、憧れの先輩のコスプレ姿がお披露目となる。

 格好いい新選組の法被に、ミニ丈の着物、刀のかわりに二本の木刀を腰に差したコス。

 凛々しい火恋先輩にマッチした衣装と言えるだろう。


「凄く……イイです」

「やはり恥ずかしいものだな」

「姉さん、教えてあげたあのセリフ言って」

「?」


 俺が首を傾げると、火恋先輩はコホンと咳払いして、真剣な眼差しでこちらを見やる。


「ん……。わ、私は新選組一番隊組長沖田武蔵、召礼の儀によって馳せ参じた。問おうそなたが――」

「俺が主だ!!」


 食い気味で返答してしまった。

 だってしょうがないじゃないか、リアルSSRが目の前にいたら誰だってマスター主張するだろう。

 素晴らしい火恋先輩のコスを見た後、俺はちらりと横目で雷火ちゃんのコスを見やる。


「……ところで、完全にツッコミ待ちだと思うけど雷火ちゃん」

「はい」

「その格好は」

「メジェド様です」

「いや、そのキャラは知ってるんだよ」


 雷火ちゃんの格好は、目玉が描かれた風呂敷を頭からすっぽりと被ったエジプト神スタイル。

 用意しておいてなんだが、これをコスプレと言い張るのはいささか無理がある。

 雷火ちゃんは風呂敷から手を出して、ちょいちょいと俺を呼ぶ。


「どしたの?」


 彼女はチラリと風呂敷をめくってみせる。

 すると風呂敷の下に、水着姿の雷火ちゃんがいた。


「水着メジェド様キタァァ!!」


 これは去年の夏配布された、期間限定水着仕様メジェド様。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、風呂敷の下に水着を着てるだけじゃないのか!?」

「それがいいんですよ。じゃあ撮影するんでポーズどうぞ」

「い、いきなりですね」


 二人が戸惑ってる隙にパシャパシャと撮ってしまう。

 さすが火恋先輩、レンズを向けられた瞬間即座にキメポーズをとってくれる。


「何で姉さんそんなに慣れてるの!?」

「なんとなくでやってるだけだ、別に慣れてるわけじゃない」

「嘘、いきなり写真撮られてそんなポーズできるわけないじゃない!」


 火恋先輩は上半身を屈め、胸元を強調するグラビアポーズをとる。確かに咄嗟にできるものじゃないかもしれない。


「うん、可愛い」

「姉さんばっかり褒められてる。ズルイ」

「風呂敷には負けん」

「はい、雷火ちゃんも撮るからね」


 パシャパシャとシャッターを切ると、風呂敷の下から手を出してピースする。なんともシュールな絵になった。


「はい、二人でポーズ」


 それからしばらくして少しずつ慣れてきたのか、二人の硬さがとれてきた。

 当初ぎこちなかった雷火ちゃんも、隣にいる姉がノリノリでポーズを変えていくため羞恥心が消えたらしく、風呂敷をまくりあげてあざとい(✕)可愛い(○)ポーズをとってくれるようになった。


 4、50枚くらい撮った辺りから、火恋先輩の視線が別のコスに移りはじめる。

 その視線の先にあるのは朝の少女アニメ、ハートナックルプリティプリンセスのコスチューム。

 とても可愛らしい衣装を着た少女達がハードに戦う、児童向けアニメの皮を被ったバトルモノ。

 ターゲットは本当に子供なのかと疑いたくなる朝アニメは、大きなお兄さん達のハートにもナックルを入れてしまった作品だ。


(火恋先輩、凄くあれ着たそうだな)


 この前の撮影から感じていた疑いは、確信にかわっていた。


(やっぱ先輩、可愛い服が好きだなんだな)


 学校では凛々しい、強い、大和撫子そんな言葉が似合う火恋先輩。

 イメージ通り着物をよく着ているが、実際はこんな可愛いのを着てみたかったんだろうなと撮影していて思った。

 しばらく火恋先輩をレンズにおさめていると、唐突に雷火ちゃんの風呂敷がアップで写りこんだ。


「三石さん、姉さんばっかり撮ってます」


 気づくと雷火ちゃんより多めに火恋先輩を撮っていたようだ。

 ごめんと謝ろうとしたが、彼女の風呂敷が泣き顔にかわっていることに気づく。まずい自分だけで楽しんでた。


「よし雷火ちゃん。ポーズ言うから、その通りにやってみてもらってもいいかな」

「はい、頑張ります!」


 俺もポーズに詳しいわけじゃないので、スマホから【誰でもできる萌えポーズ】のサイトを参照しつつポーズを指示していく。


「こ、こうですか!」

「そう、いいよいいよ。風呂敷を持ち上げて、半分だけ顔を見せて!」

「は、はい!」

「いいね、次は床に手をついて女豹のポーズ!」

「こ、こうですか?」

「いいよ雷火ちゃん世界で一番かわいいよ!」

「あ、ありがとうございます!」


 俺は床に寝そべり、ローアングルからシャッターを連続で切りまくる。


 ファインダーに映る雷火ちゃんの表情は、胸にくるものがあるな。

 撮影しているのでカメラを見るのは当然なのだが、カメラを通り越して俺を見ていると言うか、カメラを見ているのにカメラを無視している。

 もっと見てほしいと訴えるかのような上目遣いは、反則の域だと思う。


 カシャカシャと雷火ちゃんを撮影すると、今度は火恋先輩が眉をひそめ、早く変わってと言いたげに雷火ちゃんを見ている。

 これは難しいぞ、どっちかを撮りすぎるとどちらかが怒る。バランス良く二人を撮らないと。


「今度は二人同時にいくよー」


 考えた結果、二人をフレーム内に入れて撮影する。

 最初からこうすれば良かったと思ったが、今度は二人でズイズイと近づいてくる。どうやらどっちが大きく写るかで争っているようだ。


「お前はもう散々撮っただろう!」

「姉さんだって撮ってもらったでしょ! 胸元開けてるのあざといんですけど!」

「水着のお前に言われたくない!」


 これだけ喧嘩してますが、シャッターを切ると二人共超笑顔になります。


「この辺りでコスチュームチェンジしましょうか?」


 なんとか間を入れたくて衣装変更を申し入れると、二人は快く受け入れてくれた。


「じゃあ次は……」


 どれにしようかと撮影衣装を選ぶ。当然火恋先輩が、プリティプリンセスの衣装を見ていたのは知っている。


「じゃあ今度は、高雄と愛宕の軍服セットでいきましょうか?」

「はーい」


 雷火ちゃんは俺の言ったコスに着替えようとしてくれたが、火恋先輩は、プリティプリンセスの衣装を手に取っている。


「先輩それじゃないですよ」

「これじゃないんだ……」


 あっ、凄くがっかりしてる。


「先輩、それでいきましょうか?」


 俺がそう提案すると、火恋先輩はぶんぶんと首を振る。


「いや、別に私はこれが着たいわけではないのだよ」

「俺がそのコスで撮影したいんです」


 俺がお願いしますと両手を合わせて頼み込むと


「き、君がそこまで言うのなら……やぶさかではないよ。それにこれは私の罰ゲームだしね」


 やはり自分から、可愛い衣装を着たいというのは抵抗があるらしい。

 そのへんはプライドの問題か。


「雷火ちゃんもいいかな?」


 雷火ちゃんはプリティプリンセスのコスを眺めて「これ難易度高くないですか?」と苦笑い。

 それはそうだろう、衣装はセパレート型でおへそは見えるし、スカートの丈も犯罪的に短い。

 あくまで少女の可愛らしさを前面に出したデザインなので、ヒーローやヒロインから卒業した世代には辛い。


「ルナナイトの衣装なら、まだ大丈夫じゃないかな?」


 プリティプリンセスはキャラクターによってデザインに差があるので、比較的大人しめのキャラクターコスを雷火ちゃんに手渡そうとする。

 しかし火恋先輩がなんの迷いもなくセパレート型の主人公プリンセスファイアのコスをとった為、雷火ちゃんに対抗心がわいたのか同型の仲間プリンセスサンダーの衣装を手にとった。


「絶対姉さんには負けませんから」


 雷火ちゃんは威圧感たっぷりな笑顔を浮かべる。


「さぁどうぞ、俺に気にせず着替えて着替えて」

「三石さん」

「悠介くん」

「「少し外で待っててね」」


 俺は二人にポーンと部屋の外に放り出された。

 どさくさ紛れに居座ろうかと思ったが、やっぱり無理だった。


「あぁ、楽しみだな……」


 俺が三角座りして着替えをワクワクしながら待っていると、正面に見える廊下の奥からぬらりと誰かが顔を出した。

 今現在この家にいるのは、火恋先輩と雷火ちゃんと玲愛さん。

 当然今二人は着替え中なわけで、残る一人と言えば……。


「……まずい、ラスボスとエンカウントした」






――――――――

今回の話はほぼ新規ですね。

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