第304話 ファー♪
俺たち参加者を無人島におろした高速ボートは、ブイーンと音と白い波をたてて去っていく。
これから72時間経つまで、迎えはやってこないらしい。
「これで殺人事件が起きたら、ホラー映画みたいだな」
「嫌なこと言わんで下さい」
俺の耳元でボソリと呟く玲愛さんは、クククと悪役みたいな笑みをこぼす。
軽く視線を向けると、彼女の格好はレンズがでかいサングラスに、白のパーカー、デニムのホットパンツ姿で珍しいバカンス用私服だ。
眩い太陽が白い肌を照らし、潮風によって長い髪が大きく揺れている。
「玲愛さんが、俺たちとこういうイベントに参加するって珍しいですね。家は大丈夫なんですか?」
「父上がなんとかするだろ。私は知らん」
完全に娘に見捨てられとる。
「お前は私が見てないと、悪い大人にすぐいじめられるからな。しばらく保護者としてついてまわる」
「優しい」
最強のスタンドを得た気分だ。
「私は今でもお前のことはフィアンセだと思っているからな」
玲愛さんは、後ろから俺の首に腕をまわしてくる。
巨乳が背中で潰れて幸せ。
あれ……この人下着つけてる?
「どうだ、子供じゃなくて大人の体を見たくないか?」
「……からかわないでください」
ジーっと後ろでジッパーが開く音がする。振り返れば白きパイが見えるかもしれない。
ぐっ、完全に遊ばれてるな。もっと遊んでくれ。そんなことを思っていると
「玲愛ちゃ~ん。こっち来て~荷物があるの~」
「はい、義姉上! 喜んで!」
静さんに呼ばれた玲愛さんは、シュバババっとすっ飛んでいった。
今回のサバイバル、もしかしたら玲愛さんと静さんのイベント発生するかもしれないな。
◇
「それでは皆さ~ん、集まってくださ~い!」
無人島に到着した俺たちは、先についていた主催者であるムチューバーの、とっしぃさんの元へと集まる。
禿頭でランニングシャツ姿のとっしぃさんの他にも、同じ格好をした男性が3人。彼ら4人でとっしぃズなのだろう。
いかにも体張りますって感じのタンクトップ四人衆は、砂浜にたてられたテントの前で俺たち参加者を待っていた。
「お集まりいただきありがとうございます。私がとっしぃずのリーダー
とっしぃ結構いい歳だな。
若い子メインのムチューブで、オジサン世代が成功できてるってすごいと思う。
「我々平均年齢39歳のメンバーで、年金貰えるまではとっしぃズをやっていきます!」
年齢ネタは持ちネタなのか、参加者に笑みがこぼれた。
それから順次とっしぃズのメンバーが自己紹介を行い、今回参加する軍人チーム、足立チーム、俺たちのチームの自己紹介が終わる。
他のチームは皆5人くらいなのに、俺たちのチームだけ10人いてちょっと恥ずかしい。
「皆さんは既に何をやるか承知だと思いますが、改めて説明させていただきます。これより72時間、この島でサバイバルをやってもらいます。もちろん水も食料も、ご自身で調達していただきます。ギブアップせず、耐えきることが出来たら豪華景品をプレゼントさせていただきます」
豪華景品か、一体何をもらえるんだろう。
「その様子の途中途中、我々がムチューブにアップするための動画を撮らせていただきます。またチームには1台、撮影用のカメラを貸し出しますので、面白いシーンを撮っていただけると編集が助かります」
もう既に撮影を行っているようで、とっしぃズとは別のスタッフらしき人がカメラ片手にこちらに手を振る。
「ルールはほとんどありません。3日間、この島から逃げずに生き抜くだけです。ただし、楽しい3日になるか、地獄の3日になるかは恐らくそれぞれのチームによって異なるでしょう」
そう言ってとっしぃさんは、テントのジッパーを開けて入り口を開放した。
そこにはライターやナイフ、ロープに釣り竿、鍋ややかんなどのサバイバル用品がずらっと並んでいた。
「皆様には一人一つ、この中から道具を選んでサバイバルに参加していただきます」
「悠介さん、ギターやプラモまでありますよ」
俺は雷火ちゃんに頷く。
どうやらサバイバルと関係ない、娯楽用品まであるようだ。
これ、俺たちのチームが一人一つ持っていったら、サバイバルじゃなくて快適なキャンプになっちゃうんじゃないか?
「皆さん、順番に道具を選んでもらうんですけど、ここでゲームを行いたいと思います」
「ゲームですか?」
「はい、”被り禁止、チームメイトが無人島に何持っていくかわかるやろ”ゲームです!」
なにそれ? と首を傾げると、とっしぃズの四人が説明してくれる。
「例えば私が最初にテントに入って、この道具の中からライターを持っていくとします。その時、チームメイトに何を選んだか言ってはいけません。その後、2番目に入った我がメンバーもライターを持っていくとします。するとライターが重複してしまいますね。そうなった場合、ライターを持っていくことはできません」
全員にちょっとした動揺が走った。
つまり選んだアイテムが被っちゃった場合、4人メンバーだと4っつもって行けるはずが、残りの二人分しか持っていけないということだ。
その2人も被ってしまったら、アイテム0ってことになる。
さすがにアイテム0はまずい。
俺は皆に振り返って声をかける
「これは誰が何を持ってくるか予測するゲームだ。皆、迷ったら自分が好きなもの、自分に関連のあるものを持ってくるんだ。サバイバルを意識しすぎると被っちゃうぞ」
「わかりました」
全員が頷くと、とっしぃさんが大声を張り上げる。
「皆さん、今から話し合いをしてはいけません。何を持っていくか、チームメイトと相談してはいけませんよ!」
それからアイテム決めが始まり、とっしぃチーム、軍人チームが順番にテントの中へと入って選択を終える。
とっしぃズ、4人チームの取得アイテム
ライター×2(被りのため取得ならず)
大鉈
ろ過器
元軍人、5人チームの獲得アイテム
大鉈
ロープ
防寒シート
手斧×2(被りのため取得ならず)
俺は別チームの取得アイテムを見て、う~むと唸っていた。
とっしぃさんのチームは、ライターが被ってしまいアイテムが2つしかない。
軍人チームは、恐らくライター被りを避けて誰もライターを取得しなかった。
2チームとも、サバイバルの鍵とも言える火を起こす道具がない。
「これ、人数多いと有利だと思ってたけど逆だな……」
人が多ければ多いほど、被りを気にしてライターやナイフのような必須アイテムに手を出せなくなってしまう。
次はチーム足立かなと思って、足立さんの方を見やる。
「三石君、僕たちの番でいいかな」
「ええ、お先にどうぞ」
「僕たちの絆の力、見せてあげるよ」
足立さんは、ふっとセクシーな吐息を吐いてテントへと入っていく。
その後田沼さんや、他大学生メンバーがアイテム選びを終える。
選択が終わり、とっしぃさんが足立チームの支給アイテムを布袋に入れて持ってきた。
見た感じ、大きそうなものは何も入っていない。
「チーム足立の獲得アイテムは~」
布袋を逆さにすると、銀色のハーモニカがコロンと転がってきた。
「ハーモニカ……だけ?」
田沼さんが、えっ? マジで? って顔でとっしぃさんを見やる。
「はい、ハーモニカを選んだ足立君以外、全員ライターを選択しましたので」
どうやらライターが4つかぶったらしい。
ある意味絆を感じる。
田沼さんは焦った表情で、道具の意図を問いただした。
「足立君、なんでハーモニカなの? サバイバルに関係ないじゃない!」
「
意識高い奴は何言ってるかわかんねぇな。
足立さんはハーモニカを手に取り「ファー♪」と音を鳴らした。
他のメンバーがファーじゃねぇよファーじゃって顔をしている。
よそのことを笑ってはいられない、俺たちのチームも同じことになる可能性は充分ある。
「では、最後に三石チームどうぞ」
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