第40話 オタはいなくても話題になる


 悠介が剣心の私室に連れて行かれた後、ひかりと雷火、火恋は客間で話し合っていた。


「久しぶりね雷火ちゃん」

「お久しぶりです月さん。去年ぶりですね」

「そうね、ロスに行ったついでに留学先によらせてもらった時以来かしら」

「はい。急に来られてびっくりしました」

「火恋さんとは何回かパーティーであってますね」

「ああ、伊達と水咲があまり仲が良くなかったから会う回数は少なかったが」


 大企業伊達と、それに追随する水咲。お互い得意分野は違えど、会社が大きくなればなるほどライバル企業として意識し競い合った。

 しかしそれも数年前の話で、現在は国内でシェアを奪い合うより、お互い世界目指そうぜという協力方針にかわっている。

 それに伴い両家の仲も緩和、高校3年の火恋、2年の月、1年の雷火と歳も近く、親戚に近い関係性になっていた。


「ほんと変わってなくてなにより」

「月さん、今わたしの胸見て言いませんでした?」

「言ってない言ってない!」

「ほんとですか?」


 雷火の顔は笑っているが、声は笑っていなかった。


「大体こんなのあっても変なのが寄ってくるだけよ?」

「くぅ、それを喉から手が出るほど欲する人もいるんですよ……」


 雷火は恨めしげに自分の慎ましい胸と、ひかりのでんとした豊かな胸を見やる。

 90オーバーの火恋には及ばぬものの、それに肉迫するレベルである。


「そ、それに大きくても肩凝るだけだし」

「そうだぞ雷火、私はこれのせいで陸上競技を諦めざるをえなくなったんだからな。タイムは伸びないし、全力で走ると痛いし」

「わたしは陸上競技やってませんから」


 べーっと舌を出す雷火。

 伊達姉妹の空気に違和感を感じる月。


「雷火ちゃん……ちょっとかわった?」

「何がですか?」

「いや、なんか……雰囲気が女の子っぽくなったというか」

「そ、そうですか?」


 雷火は思い当たる節があるため、テレテレしながら横髪を耳にかける。


「あなたもっとアイアンマンみたいな不機嫌な顔してたでしょ?」

「あれ不機嫌なんですか」

「前あったときは結構ドライで繊細な感じだったのに、明るく強くなった感じがする」


 月はまじまじと雷火を見やる。


「目の下のクマも大分薄く……あれ……雷火ちゃん、薄くだけど化粧してる?」

「えっ……あぁ、まぁ……わたしも年頃ですので」

「あれ、しかもネイルもしてる?」


 月は雷火の手をとり、薄いピンク色の爪を見やる。


「あぁ、こっちはコス用で」

「コス!?」

「姉さんもしてますよ」


 火恋を見やると、確かに彼女の格好は赤のカーディガンにピンクのメガネ。髪型もポニーテールではなくおろしている。


「そ、それ、もしかして仮面4の吹雪ちゃんコスプレ?」

「はは、恥ずかしいな。あまりキャラのことは知らないんだよ」

「いや、そういうことじゃなくて! 火恋さんってそういうのする人でしたっけ!? サブカルから一番遠い人間だと思ってましたけど!?」

「か、彼がどうしてもってね。今度原作のゲームを一緒にやるんだ」

「彼!?(巻き舌)」

「よく言うわよ、ノリノリでコスしてたくせに」


 火恋の小さな見栄に呆れる雷火。


「待って! あたしの知ってる伊達姉妹じゃなくなってる! 雷火ちゃんは化粧なんかしないし、火恋さんはコスプレ文化となんて無縁だったはずなのに!?」

「「まぁ、彼がオタなので……」」

「いやぁぁぁぁぁぁ! そんな男に染まる伊達姉妹なんて見たくない!」


 月は頭を抱えながらブンブンと振る。


「彼ってあのアレよね? 今さっき連れて行かれた」

「そうです。許嫁ですよ」

「悪いこと言わないわ! あれだけはやめておきなさい。オタクっていう生き物は、いざってとき自分の快楽を優先させる人間のクズなの! クズofクズと言ってもいいわ!」

「月さん、それわたしにも突き刺さるので出来ればやめてほしいです」

「大体あなた達自分のレベルを考えなさいよ! もっとまともな奴いたでしょ!?」


 この場に剣心がいれば、いいぞもっと言ってやれと言っていたことだろう。


「よく思い出してアレの顔を! あの長くて鬱陶しい前髪!」

「片目隠れキャラみたいで、わたし的には結構好きなんですよね」

「センスのない真っ黒な服!」

「私自身があまりセンスがない方だから、そっちの方が助かる」

「一筆書きで書けるような顔!」

「そうですか? わたし的には有り寄りの有りなんですけど」

「無し寄りの無しよ! あなた達悪い魔女に魔法モシャスでもかけられてるんじゃないの!?」


 ひかりはダメだコイツらと頭をかきむしる。


「酷い言われようですね」

「そういう君も彼と何かあるようだが」

「わたしも気になりました。ほんとにカードゲームの大会だけですか?」

「うぐ……」

「カードゲームの時といい、今といい……悠介さんに対して随分熱量が高いように感じますが」

「もしかして、月君も」

「彼に」

「気が」

「あるんじゃ」

「ないのかい?」


 伊達姉妹はジリジリと月に近寄る。

 すると彼女は大笑いしだした。


「ないない! あたしがあれを好きになるとかないわよ。あたしは世界的大企業、水咲アミューズメントウォッチャーの水咲ひかりよ? 男は星の数ほどいても、わたしに相応しい男は片手で数えられる程度」


 彼女は自信満々にツインドリルを弾くと、大きな宝石のついた指輪を光らせる。


「なーんだ。そりゃそうですよね」

「良かった」


 ほっと胸を撫で下ろす二人。


「大体あたし、雷火ちゃんを除く全オタクが嫌いなのよ? あんなカードが強いのと”優しい”しか取り柄のないイキリオタ」

「そうですよね、月さんほどゴージャスな人に悠介さんはちょっと地味ですよね」

「そうそう、もっと綺羅びやかな人じゃないとダメ。あんな陰キャじゃ全然釣り合わない」

「まぁ彼は少し腰が低すぎるところがあるからね……」

「男らしくないのよ。自信のなさが姿勢に現れてる」

「ま、まぁ確かに悠介さん結構猫背ですので、もう少し姿勢を正してもらえるといいかもしれません」


「「「………………」」」


 三人で悠介の思うことを言い合うと、客間に沈黙が広がる。


「「「そこまで言わなくていいんじゃない(です)か!?」」」


 自分で好きな人の愚痴を言うのは許せるのに、他人に言われると無性に腹が立つのはなぜなのだろうかと思う三人だった。

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