第188話 ゲーマーカップル
その頃ライバル姉妹プラスお姉さん組は、荒野に突き刺さる自軍フラッグの前で少なくなった味方プレイヤーとたむろしていた。
「ユウ君大丈夫かしら……」
「ダーリンたち二人で行っちゃったけど、大丈夫かな~」
ウェディングドレス姿の静と、際どい猫スーツを着た
彼女たちは悠介に時が来るまで待っててくれと待機指示を出され、じっとフラッグの防衛に専念しているのだ。
「あーしやっぱ行ってこようかな。ダーリンちょっとポン(コツ)なところあるし心配。うん、やっぱ行こう」
「ダーメだよ、綺羅星」
銀騎士姿の
「ボクたちが行っても敵に操られちゃうだけなんだから」
「その通りだ。我々にできるのは悠介君を信じてここで待つことだけだ」
戦国甲冑姿の火恋は、腕組みしながら遠方の敵フラッグを見やりつつ、網膜UIに表示される敵数を確認する。
先程まで敵総戦力100の数字は少しずつ減っていたのだが、今は93で完全に止まってしまっている。これは恐らく内海、玲愛組と接敵したのだろうと予測がついた。
本当なら今すぐに駆けつけたい、その気持をぐっと堪え妹の雷火に託したのだ。
「待つって言っても、待ってるだけじゃどうにもなんないっしょ。こうばーっと行ってメキメキっとゴキゴキっとやっちゃおうよ!」
全く具体性のない綺羅星の意見に賛同したのは、ハリポタ風魔法使いの一ノ瀬だった。
「そうだね、皆の力を合わせたら勝てるかも! ってか、三石君たちが負けちゃったら、あたしたち無条件で負けなわけでしょ? 援護してあげなくちゃダメじゃない?」
他に残っていた40数名の一般プレイヤーが確かにと頷く。
様々なヒーローアバターを纏ったプレイヤー達は、どうやったら敵から操られずに援護できるかを考える。
「負けるのが悔しくて残ったが、このままなんにもしないのもなぁ」
「でも敵はバグ技を使って俺たちを操ってくるんだろ? どうしようもないじゃないか」
「囮が敵陣に突っ込んでる今なら、操られないんじゃないか?」
「オレのキャラクターは遠距離攻撃ができるぞ。遠くからならやれるんじゃないか?」
プレイヤーたちはざわつき、話がまとまらないにも関わらず少しずつ前進していく。
彼らには薄っすらだが、全員でかかればワンチャン戦えなくはないのではないか? という集団心理が働いていた。
勿論人数でもアバタースキルでも劣る彼らがまともにぶつかって勝てるわけがないのだが、誰かが言い始めた「勝てるかも」という言葉がゲーマーの心を擽ってしまう。
この場に残ったプレイヤーの殆どがゲーム経験者で、ゲームというものはトライ&エラーを繰り返してクリアするものだと脳が理解している。
その為、遠距離攻撃なら成功するかもしれないという、まだ経験していない方法を試したくなるのだ。
それを煽っているのが――
「皆、敵に操られるギリギリからフラッグを攻撃しようよ! 遠距離で一斉攻撃すれば、誰かの攻撃がフラッグに当たるかもしんないよ!」
「待つんだ。敵の有効射程もわかってないのに、ギリギリなんて攻められるわけがない。ここは悠介君の言う通りにすべきだ」
火恋が静止を試みるが、”一ノ瀬”たち一般プレイヤーは「試してみよう! やってみなければわからないこともある」と鼓舞しあう。
その様子を天と成瀬はじっと見つめていた。
悠介から待機以外に内密に指示を受け取っており、それは【皆を扇動して戦わせようとするプレイヤーがいたら、そいつがグリッチの犯人】だと。
「尻尾現し始めたな」
「悠介君が言っていました。グリッチの犯人は高確率で味方側に潜んでる。そして、状況が見えなくなったら見える位置まで移動したがると」
「完全読みどおりじゃねぇか。しかしあの猫の女の子やるな、自らバカのふりをして犯人をあぶり出すなんて」
「綺羅星はあれが素なんです……」
無表情の天から、妹は本当に何も考えてないアホの子なんですと教えられ、微妙な空気が流れる。
「……一応聞いておくが、あの子はグリッチの犯人じゃないよな?」
「綺羅星にそんなことを考えられる頭脳はありません」
「…………そうか。ダメな方への信頼が凄いな」
「ところで
「あの人はママだからな、愛情が深すぎて
「ボク
◇
俺と雷火ちゃんはバリア魔法を駆使し、敵軍の攻撃を凌ぐ。
「アースシールド!!」
「ホーリーシールド!!」
岩石のシールドと十字架をモチーフにした光のシールドが交互に現れ、虹色光線とビーム斬鉄剣を受け止める。
ダメージの少ないサイキックビームは俺が受け、威力が重いビーム必殺剣は雷火ちゃんが受けることでダメージを軽減していく。
「やるねぇ三石君に妹ちゃん。的確にどの防御スキルが一番効果あるか判断して、一瞬で
その通り、雷火ちゃんのキャラクターは
このゲームはスキルを2ついっぺんに使うことが出来ないので、バリアスキルを使っている最中はマリアの加護を張ることが出来ない。
内海さんは当然それをわかっていて、チーム全体に指示をとばす。
「サイキックジョーのみなさーん、シスター服の少女はコントロールウェーブが通りますよ。スイッチする隙を見て操っちゃってくださ~い」
話を聞いたプレイヤー達はサイキックビームをやめて、相手の操作系統を乗っ取るコントロールウェーブを放出する。
「ロックシールド!」
そうはさせまいと俺が地面を拳で叩くと、雷火ちゃんの周囲を円形に岩石が隆起する。
ドーム状の岩の
「ロックシールド内にいるプレイヤーに状態異常は効きません」
「三石君、それで守ったつもりかもしれないけど、岩に囲まれた彼女の視界は0だ。君は妹ちゃんの援護を受けられず、僕の必殺剣を防ぐ手段がなくなったということだ」
「そうでもありませんよ。見えなくてもできることはありますから。いや、雷火ちゃんだからできることがある」
内海さんは一瞬俺の言った言葉の意味を考えるが、すぐに思考を切りかえる。
「時間稼ぎはいい。君はゲームに関しては喋りも計算にいれてるところがある。必殺剣で早いこと沈めさせてもらうよ」
内海さんはビームソードを鞘にしまうと、腰を落とし居合斬りの態勢に入る。
「奔れ……ビーム斬鉄剣」
「ホーリーシールド!」
「!!」
一撃でライフを根こそぎ刈り取る必殺剣が放たれた瞬間、俺の前に十字のシールドが展開され、攻撃を弾いたのだった。
「なぜホーリーシールドが!?」
「勿論雷火ちゃんが張ってくれたんですよ」
「バカな、彼女は岩の中にいる。視界が遮られてる状態でどうやって……」
「音が鳴るんですよ」
「音?」
俺は内海さんの刀を指差す。
「その剣、抜刀時にブォンって音が鳴るんですよ。この音結構独特で耳に残るんです」
「まさかその音に合わせて方角を推測し、バリアを展開したと?」
「はい。ゲーマーって耳が良いんですよ。足音とか攻撃SEとかすごく重要な判断材料になります」
「FPSじゃあるまいし……」
「彼女ゲームセンスが良くて勘が鋭いんです。あとすごく可愛いです」
「(可愛いなんて、そんな本当のことやめて下さい)」
岩の中から雷火ちゃんの弾んだ声が聞こえてくる。
「脈絡なく惚気るのやめてくれるかな!?」
内海さんは雷火ちゃんが何も見えない状態で、音と勘で俺を守ったと聞くと、若い子は冗談きついわと顔をしかめ苦笑いする。
「俺はこれをブラインドバリアと名付けました」
「くっ、厨二病的な技を実際にやってのけるとは、やる……ねぇ!!」
内海さんは不意打ち気味にもう一発斬鉄剣を見舞う。しかしそれもホーリーシールドによって阻まれる。
「偶然じゃないですよ。俺は雷火ちゃんのことをこの世で一番信用していますから。恐らく彼女以上のパートナーはきっと現れないでしょう」
そう言い切ると、海賊服の悪の女幹部みたいなお姉さんがピクリと動いた。
「玲愛ちゃん妬かないでよ。僕の立つ瀬がないじゃない」
「妬いてない。早く片付けろ」
「そうだね、全員総攻撃をしかける!」
内海さんは物量に頼り、仲間のサイキックジョーとともにもう一度波状攻撃を仕掛けてきた。
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