皆と一丸になって

 「坂井隊ッッ!!三好の裏切り者に正義の鉄槌を降せ!!!隼人隊ッッ!!各々が狙撃せよッ!!前田殿は御自分の機で突撃されたしッ!!後続の隊は剣城殿にお任せ致すッ!!!第一陣!進めッッ!!」


 「「「「「オォ──ッッ!!!!」」」」」



 〜坂井目線〜


 クッ・・・。森では狙撃が危なかった。剣城殿から『防弾ちょっきか、防刃ちょっきを選んでくれ』と言われ、俺は防弾ちょっきなる物を着ているから、弾は貫通しないとは思っていたが・・・。

 いやいや、そんな事より・・・防衛する筈が、いつのまにか攻め立てる事となった。またもや、俺が第一陣だ。


 「クックックッ。よもや、万夫不当の豪傑と名高い坂井様でも、一騎残らず討ち取る事は難しいでしょう。後方の我等にも敵を残して下さい」


 「我が主を痛めつけた、三好なんかはこの剣城様から頂いた、蚩尤瀑布砕にて木っ端微塵にしてやる」

 

 甲賀頭領の望月信雅殿・・・。いや、今は信雅の名前を捨て、源三郎だったか。しかも元甲賀頭領だが、今は芝田家の侍大将格だったな。あの望月殿までもが、禍々しい獲物を装備している。

 そして、あの御老体様が彼の有名な・・・骨砕き・・・。うぅ〜ん。口にするのも恐ろしい。そんな者達が後ろに控えているとは・・・。


 シャルルルル〜  ストン


 「うっ・・・うを!?焦った!!」


 「ふふふ。若殿。貴方が坂井様でしょう?ワッチは牧村春子と申します。貴方様の武勇はお聞きしておりまするが・・・くれぐれもワッチ等にも、獲物は残していただきたく」


 「あっ、あぁ。さすがに全部は討ち取る事はできない」


 「そうですか。坂井様ならば我が殿の剣城様もが、一目置いておられる方ですから。本気を出せばこのくらいの敵ならば、討ち取ってしまわれるでしょう?優しい若人じゃ。ではよろしく頼みますよ。ふふふ」


 あの婆さんは串刺し・・・いいや。これこそ口にする事こそ危うい・・・。それにあの身のこなし・・・。あぁ・・・オレが三好側じゃなくて良かった・・・。だが、やはり皆まで勘違いしている。オレは成り行きで、こうなっているだけだというのに・・・。


 考えると、ここまでの大軍と戦った事は無かった。敵にも今回は大砲があると聞いている。無印の大筒とはいえ、小泉殿ほどの腕が無いとはいえ、脅威には変わりない。


 『坂井隊ッッ!!三好の裏切り者に正義の鉄槌を降せ!!!隼人隊ッッ!!各々が狙撃せよッ!!前田殿は御自分の機で突撃されたしッ!!後続の隊は剣城殿にお任せ致すッ!!!第一陣!進めッッ!!』


 「坂井殿!!」


 えぇ!?もう始めるのか!?早くないか!?


 「クッ・・・と、突撃ッッ!!!」


 「「「「ウォォォォ!!!!!」」」」





 「へぇ〜。変にまた口上を言うより、突撃の一声でもあんなに士気が高くなるんだな。青木さん!今度オレが激を言う時は、あんな感じでもいいかな?」


 「はっ。我等は剣城様の御言葉が発せられれば、それがどんな言葉でも尊いです!」


 「あ、うん。ありがとう。さて・・・野田お爺ちゃん、小泉お爺ちゃん、牧村お婆ちゃん、青木さん、それに古の猛者の方々。くれぐれも死なないように。望月さん。後方はお願いしますね」


 「任されたし。此度は私も少々働かせてもらいますが、ね・・・」

 

 シャキ──ン


 怖ぇ〜よ!その返しの鉤爪はどうやって作ったんだよ!?


 「剣城殿!竹中隊も出ます!明智隊、奉行衆も直に出る故・・・後の事は頼みますぞ!」


 「分かりました。道を突進し、三好義継、宗渭は必ず討ち取ります」


 『キャッハッハッハッ!!血さ!血ッ!血ィ!血湧き肉躍る音・・・あぁ〜・・・この音を待っていたのさ!もう待てない!』


 「ほっほっほっ。此度はプロミ嬢を装備ですか?剣城殿も御武運を。プロミ嬢にもたっぷりと、敵の血を吸わせてあげて下さい。では・・・上杉隊、浅井隊は私の後ろに。攻撃陣形!偃月の陣!突撃ッ!!」


 いやいや、普通に成長する剣のプロミネンス剣のプロミさんが、話し掛けて来たんだが!?しかもラリってるんだが!?それを半兵衛さんは疑問に思わないのかよ!?




 〜三好本陣〜


 「何!?義継の言う通り打って出て来ただと!?」


 「叔父上。剣城殿は、ああいう方です。配下も待ちが嫌いで、攻め立てる事を是とする軍です。それに・・・一度、敵と認識されれば容赦は無い」


 「うむ。頭のおかしい連中だ。義継の言った通り、筒井家や別働隊もこちらに移しておいてよかったわ」


 「侮ってはいけません。ここからが本番です。新式ではありませんが、2門だけとはいえ、大筒がこちらにもあって良かった。剣城軍の小泉隊程ではない故、連射は出来ませぬが、まさか己の武器が自分達に向けられるとは、思っていないでしょう」


 「誠な・・・。大きくなったな。義継」


 「叔父上・・・」


 「案ずるな。くれぐれもお主を死なせたりせぬ。将軍さえ捕縛できれば、後の事はワシ等に任せておけば良い。政(まつりごと)は追々、学んでいけば良い」


 「ありがとうございます。では、手前も前に出ます。手前の指揮で大筒を撃って下さい。それで敵が静まったら狩り時です。坂井殿の首と剣城殿の首が取れれば、敵の勢いは止まります」


 「うむ。分かった」


 上洛戦の時に坂井隊、美濃三人衆、剣城隊の活躍は知っている。坂井殿と美濃三人衆と呼ばれる、安藤隊、氏家隊、稲葉隊の突進力を利用した神速の行軍にて、敵を屠ってきた。未知の剣城殿の武器をも俺は把握している。


 ただ一つ誤算があるとすれば・・・。あの旗印は九枚笹。竹中家の家紋・・・。今孔明と名高い竹中殿を俺は知らない。この狭い場所でも完璧な陣形、統率の取れた隊・・・。

 少し歪ではあるが、幕府軍だろうと思われる男が率いる小さな集団。5丁程しか見えないが、鉄砲で確実に敵を倒していっている。あの男も確か美濃の者だったか。竹中家も美濃・・・。


 今は考えても仕方がない。確実に剣城殿を屠るという事だ。


 「長槍隊を出せ!槍襖にて敵を近付けさせるな!鉛甲冑装備の者を前に出せ!敵の狙撃も来るぞ!大筒の準備を急がせろ!あの先頭を潰せ!あれなる者が坂井隊の大将だ!」


 「御報告申し上げます!!」


 「うむ」


 「敵の勢い激しく、押されていましたが、人数差もあり止まりました!敵の狙撃で微々たる被害は出ていますが、殿の言われた通り、前側だけ鉛鎧を装備させた者は、全員無事でございます」


 「そうか。今少し時間があれば、もっと装備できる者が居ただろう。下がれ」


 ふっ。国友印があるとはいえど、鉛は貫通しないと。卑怯と言われようと、一度でも俺を信用した剣城殿の落ち度だ。夢幻兵器もここではそうは効果が無いだろう。密集さえしなければどうという事はない。



 〜隼人隊〜


 「隼人様。敵は鎧に何か仕込んでいるようで、貫通しません!」


 「う〜ん。そのようだな。距離を稼ぐ戦ではないなら、あの重たい装備でも有りという事か。敵は我等の事を知っているからな」


 「え!?褒めてどうするのですか!?」


 「クックックッ。全員があの着込みを装備している訳ではないだろう?お前達の緊急用の焙烙玉を渡せ」


 「焙烙玉ですか?確かに密集した敵には有効ですが、こうも乱戦になっている中、投げ込むのは味方にも・・・」


 「つべこべ言うな。早く寄越せ。慶次様が直に出られる。押され気味で、敵に勝機をあの方が手渡す筈がない。慶次様が出られたら焙烙玉で道を作るのだ。中陣の敵をお前達は狙撃せよ。今のところ敵の弓矢は効果が無い。これもあの糸子殿が作られた着込みのお陰だ」


 「はっ!」





 「さて・・・嫌な時間だな。足が止まり、いくら装備が良いといっても、こうも敵さんと数の差があれば、あの坂井隊も苦戦するか。剣城?そろそろ俺は出るぞ。この嫌な流れを断ち切ってくる」


 「了解です。気を付けて下さい」


 「任せとけって!お前が三好を討つまで敵を撹乱してやるさ。それに今回は昔、お前から貰った皆朱槍を持って来ているんだ」


 「あっ、神槍ロンギヌスね。地走りだっけ?民家はあまり壊さないようにね。住民にも剛力君にも怒られるかもしれないから」


 「その辺も大丈夫だ。俺はセンスがあるからな!訓練しなくてもそれくらい出来るんだぜ!はっはっはっ!じゃあな!大将。頼んだぞ。奉行衆ッ!!待たせたな!これより我等は先陣を追い越して、敵の中陣を叩くッ!前も横も後ろも敵だらけの場所に自ら飛び込み、剣城に道を作る!お前達は映えある将軍の兵だ!見事、大役を果たしてみせよ!」


 「「「「オォ────ッ!!!!」」」」


 オレは知っている。この人は人の居ない所で並々ならぬ訓練、修練をしている事を。けどそれは敢えて言わない。装備だけ煌びやかで、実戦で邪魔だろ!?って思う物が付いてある甲冑を装備している、奉行衆の兵達。恐らくどこぞの良い血筋関係の人だろう。

 それをこうも士気を高くさせ、相手に華を持たせる口上。この人も竹中半兵衛さんと同じ本物だ。


 「前田隊ッ!!突撃ッ!!剛力!道を開けろ!奉行衆!ただただ俺の背中を追い掛けて来い!」




 「ふぅ〜。流石、慶次さんだな。いつもカッコイイな」


 「がははは!慶次坊なんかより、我が君の方が男前ですぞ!」


 「うむ。俺もそう思います」


 「少し見ない間に、青木さんも小川病が移ったのかな?」


 「ひ、酷いですぞ!我が君!ワシは本心ですぞ!」


 「ふふ。冗談だよ。少し待ってて。すぐ戻るから」


 オレは正門の方へと向かう。坂井隊が頑張っているからか、敵の攻撃は届いて来ない。


 「剛力君。お疲れ」


 「剣城様!」


 「今回は指示しなくても、上手く出来ているようだね。流石だよ」


 「勿体ない御言葉です」


 「剛力隊は今やどこへでも引っ張りだこだからな。鞠ちゃん?」


 「はっ!」


 「さっき雑賀孫一って人達捕縛したんだけど、1人怪我してるから治してあげてよ。この戦が終われば聞きたい事があるしさ」


 「治す・・・のですか?」


 「あ、あぁ。うん。実は雑賀孫一ってのは、雑賀の頭領が名乗る名前なんだ。例えあの人を倒しても次の雑賀孫一が生まれるし、傭兵軍団だからね。敵に回すなら本当に根斬りにしないと、後々面倒になるよ」


 「ならば、私と凛が今の内に雑賀を潰しましょうか?号令をくれれば7日で・・・」


 「ストップ!!!誰も根斬りにしないから!」


 忘れていたよ。鈴ちゃんも大概だけど、鞠ちゃん、凛ちゃんも好戦的だったよな。これが衛生班なんだから笑える。


 「そうですか・・・」


 「だからそこ!残念そうにしない!で、その横の女性は?」


 「あっ、この人はお清さんっていう夜伽衆の1人なんです!」


 「よ、夜伽衆の1人だと!?そんな部署があるのか!?」


 「ありますよ!私は手を出されていませんが、このお清さんは夜伽衆の中でも・・・その下の身分ですので・・・。将軍が下々の方と、交わった事実が無いよう消されそうでしたので、私が保護しました」


 「ちょ、ちょっと鞠ちゃん!」


 「へぇ〜。そうなんだ。こんにちわ。お清さん。鞠ちゃんの上司の剣城と申します。あんなヘッポコ将軍に消されるなんて可哀想だ。良ければ岐阜に来る?あぁ、ごめん。美濃に来る?」


 「え!?」


 「いや、だから美濃に来る?貴方の考えでは、美濃は田舎としか思わないかもしれないけど、まぁまぁ発展してるよ?出身がどこかは知らないけど、貴方の出生していた所より発展してるって、保証するよ?飯も美味いし、酒も美味いし、仕事も選ぶ程あるよ?当面の生活が成り立つまで、鞠ちゃんに着いていてもいいし。友達もできるんじゃない?オレの配下にも女性が多いんだ」


 「ねっ!言ったでしょ!?剣城様は優しいんだよ!けど、間違っても剣城様を惑わさないようにね?優しいからって惑わしてたら、ゆきって奥さんが居るんだけど、半殺しにされるよ!」


 いや、何ちゅう事を言うんだよ・・・。ゆきさんは優しいぞ!?


 それに将軍と穴・・・兄弟は嫌・・・ではないな。よく見ればお清さんは普通に可愛いぞ!?


 「つ・る・ぎ・さ・ま!」


 「おっと・・・鞠ちゃん!これは違うぞ!ゴホンッ。まっ、よく考えてよ。本当に消されるなら、着いてくる考えしか思い浮かばないとは、思うけどね。じゃあオレもそろそろ出るから、鞠ちゃんはここをよろしく。凛ちゃんは念の為に連れて行くから」


 「了解しました!御武運を!凛!皆をよろしくね!」


 「・・・分かっている」


 「もう!相変わらず寡黙ね。あっ、怪我しても今度は自分から治さないように、お願いしますね!ちゃんと診察しますので!凛も致命傷じゃない限りは、剣城様を私に診させてよね!」


 「・・・・・分かった」「・・・・・・」


 「剣城様!返事は!?」


 「・・・・分かった」


 クッ・・・。三好の兵より鞠ちゃんが怖いぜ。



 

 「エイサーッ!!」「うぉりゃっ!!」「ぬぉぉ!!!」


 ゴンッ ドゴンッ ドガッ!!


 パンッ  パンッ  パンッ  パンッ


 「やっぱ戦だな」


 「そりゃそうですよ。三好からすれば進退を賭けた戦ですからな。ですが、よくも考えた物ですな。剛力が捕らえた者の装備を見ましたが、鉛らしき物を誂えた甲冑です」


 「ふぅ〜ん。これがか・・・。だから隼人君達の狙撃が効果が薄いのか。ってか重っ!!」


 「えぇ。これでは満足に動けないでしょう。ですが、移動をあまりしなくても良い戦ならこれはこれで有りかと」


 確かに鉄砲相手ならば、これはこれで有りかもしれない。しかも刃も通さないからな。三好が考えつくなら、他の家も考えるかもしれないから、これは今後は考えないといけない。


 「がははは!我が君!ワシの方天戟なら、このような鎧だろうが甲冑だろうが、無問題ですぞ!!」


 ドゴンッ!!


 「いやいや、それは筆頭家老様しか思わないから。皆が方天戟なんて使えないよ・・・あっ・・・これは・・・道が・・・。見える!皆ッ!!待たせました!!道が出来ました!坂井様が穴を作り、半兵衛さんが道を切り開き、慶次さんが届かせた敵本陣への道!!行くぞ!!」


 "キャハッ♪剣城っち!今度こそあーしが守るよ"


 "ノア。頼むぞ。敵陣を突っ切るぞ"


 「木脇様。先頭よろしくお願いします」


 「畏まりました。島津兵児ッ!!出番だ!おいどん等は剣城様の魁ぞ!抜けッ!!!疾く疾くと本陣へ進め!出撃ッ!!」


 「芝田隊ッ!!島津隊に続けッ!!突撃ッ!!!」


 「あぁ・・・光悦・・・蕩けそうだよ・・・」


 坂井さんの大軍を恐れない勇気、半兵衛さんの敵の一手二手先を読む軍略、慶次さんの鬼神の如き働き、島津隊の士気の高さ、初めて会うオレに全幅の信頼を寄せて、死をも恐れぬ魁・・・。


 「敵を殺す」


 「がははは!我が君も猛ってきましたか!我が君より与えられし、選ばれた者しか装備できぬ成長する大盾。我が君の成長する剣と良い勝負ですな!我が君への攻撃はワシが引き受ける!青木!お前は露払いを!我が君を疲れさせるな!望月頭領は常に我が君の横に!」


 「おうよッ!!」 「当たり前だ!」


 完全にオレは充てられている。客観的にオレは自分でも分かる。もう何度目かの戦だ。人を殺す戦・・・。

 戦は嫌いだと思っているが、オレに従ってくれる後ろの皆を見ると、どことなく湧いてくる高揚感。金剛君は心配そうに東門の方から見ている。剛力君はオレが翔ける時に頭を下げる。鞠ちゃんはグーを突き出し喜んでいる。


 この感じ・・・嫌いじゃない。

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る