始まったビンゴゲーム
そのままペットケージを持ち、登城する。まぁなんと人の多い事・・・。去年にも増して多い。
「うむ!剣城殿!あけましておめでとう!」
「松平様!いや・・・今は徳川様に変わったのですよね。すいません!あけましておめでとうございます!」
そう。この人も上洛戦に辺り、見事お役御免をした後、正式に従五位下 三河守に叙位任官され、徳川へと名字を正式に変更したのだそうだ。まぁ、元々三河を掌握した時に自ら領地では『徳川だ!』と言っていたらしく、何も問題は無かったそうだ。
それと同時に今川との関係を完全に断ち切る為に、名前も家康に変えたと・・・。晴れてここでオレがよく聞いた、未来でも歴史を知らない人でも、名前くらい知っていると思う徳川家康の誕生である。
「なんの!なんの!剣城殿の事は友と思っている!好きなように呼んでくれて良い!なんせあの一揆の折には、随分と助けてもらったからな!それにかつてないくらいに三河が潤っている!」
そりゃそうだろう。美濃、尾張の次に今は三河が潤っている筈だ。綿花始め、ウナギの養殖、牡蠣の養殖、三河湾産のハマグリを織田家が高値で購入しているから、かなり潤っているだろう。まぁ教えているのは吉蔵さんの配下の人達だけど。
三河との貿易紛いのような事もかなり盛んだ。それプラス、その養殖類を薩摩にまで輸出してもらっている。この三国に関してはかつての甲相駿三国同盟なんかより、強固だろうと思う。
「我が名は誇り高き黒妖犬ジェファーソン。其方から天麩羅の匂いがする。俺も天麩羅を所望致す」
「ぬぉ!?なんと!?喋る犬か!珍しいな!今年のびんごげえむの景品か!?」
いやいや、あんたも驚かないのかよ!?
「あけましておめでとう!」「うむ!今年も期待しているぞ!」
「丹羽様!森様!あけましておめでとうございます!」
「先程、その犬が喋るところを見た。喋る犬とは珍しいな。暇潰しに良さそうだ」
いや、森さんも・・・いや、もう何も言う事は無いな。
「へぇ〜伊右衛門さん凄いな。去年のお膳とは大違いだ」
「確かに去年とは大違いですね。ほほほ。おっとこりゃ失礼。あけましておめでとうございますですね」
「あっ、半兵衛さん。お久しぶりです!」
「中々、お呼ばれしていただけませんからね。美濃の地元にて、数々の戦略的な事を考えに考えていたのですがね」
「いや、すいません!上洛戦の時は坂井様やあの例の三人衆の他、森様や池田様と皆が手伝ってくれた為、半兵衛さんを呼ぶような苦戦はしなかったのです。次は必ず呼びますし、色々これからはお願いしたい事もありますので!」
「ほほほ。ならば良しとしましょうか」
薩摩の人と飲み比べして以来、半兵衛さんは全く活躍の場が無い。例の上洛の時も呼ぼうかと思ったが、あれよあれよとさっさと出陣してしまったしな。
信長さんの言う通り、この人を遊ばせておくのは勿体無い。戦になれば本当に頼りになる人だからな。まぁ、最初は敵だったけど。
今年のお膳は、一目で分かる豪華さだ。伊勢海老のクリーム煮、海鮮巻き寿司、色々な魚の舟盛り、そして何故かこんな日にまであるカレー。恐らく伝兵衛さん辺りが育てたであろう、鳥の唐揚げ、焼き鳥と、正月には全く似合わないメニューの数々だ。
それでも皆は慣れたものだ。物珍しく色々聞こえるが、味は間違いなく今の日本では1番だろう。なんならこの時代の世界で、1番豪華で贅沢な正月を過ごしているのが、岐阜城に来ている人達だろうと思う。
「剣城殿!あけましておめでとうございます!今年のお膳の出来映えは如何ですかな!?」
「伊右衛門さん!あけましておめでとうございます!去年と見違えるようですね!どれもこれも美味しそうです!」
「織田家 料理ご意見番の剣城殿から合格が貰えますか。良かった!良かった!実はお館様にも何を作るとは、言っていなかったのです!では、自分はまだ他の人の分も並べないといけない故・・・御免」
伊右衛門さんに言われて思い出した事・・・そういえば、最初は料理ご意見番だったんだなと。
直近の人達、顔見知りの人達にとりあえずの挨拶を済ませて、名前がある所に座る。うん。間違いなく信長さんに1番近い席だ。対面は森さん。つまり・・・かなり信頼してもらっているということだな。
ちなみに松永ボンバーマンや、いつかの堺の今井さんなんかも来ている。確か史実では堺の経済力を手に入れる為に、堺を欲したんだっけ?けど今や、総合力では堺に未だ負けてはいると思うけど、それも今年一年・・・特に明の朱華さん辺りが戻って来て、船の往来が盛んになれば、堺の経済力なんて直ぐに抜いてしまうだろう。
お膳と名札が配られ、ガヤガヤしながらも皆、着席する。小窓から少し見える本丸の空き地には、未だ途切れる事のない人の列が見える。恐らく信長さんへの挨拶だろうと思うけど、面倒臭そうだな。けど、誰も彼もその土地の有力者や豪族なんだろうな。
「静粛に!お館様の御成〜り〜」
遠藤さんの掛け声で信長さんの登場だ。ちなみに、この大広間にはポータブル電源と、ハロゲンヒーターをかなり設置している為、暖かい。この部屋だけ夏のようだ。外の待たされている人が可哀想に思う。
「うむ。よくぞ今年も参ってくれた。腹が減ってはなんとやら。まずは食事と酒を堪能してくれ」
武家社会の厳しい所の一つ・・・信長さんが『堪能してくれ』と言った言葉を、鵜呑みにしてはいけない。まずは信長さんが手を付けたメニューから食べるのが、マナーだそうだ。去年は気にせずオレは食べていたけど、それなりに目上の人にも名前を覚えられるようになった今、オレも気を付けるようにしている。オレは早く伊勢海老のクリーム煮を食べたいのに・・・。
「うむ!初めて見た物だが、今年も剣城が監督したのか?」
「いえ。今年は何も御膳に関しては口出ししておりません。伊右衛門様が考え抜いた結果にございます」
皆の前じゃなければ、こんな言葉なんかも使わない。
「で、あるか。皆も作法を気にせず食べても良い」
この2回目の掛け声があってから、初めて好きなように食べられるのだ。実に面倒な武家社会だ。
「いただきまーす!美味ッ!!!」
「(ハスッハスッハスッハスッ)・・・うむ!謹賀のカレーは格別である!」
信長さんは未だカレーが好きらしい。マジでそろそろ飽きてほしいと思う。
「今井!どうじゃ!織田印のカレーは。堺ではこのような食い物なんか無いだろう?うん?そろそろ織田と協力体制を取った方が、利口だとワシは思うのだがな」
突如始まった信長さんの言葉の威圧・・・。各々は、隣の人達と少し談笑しながら食べ始めたというのに、急に静かになる。オレの隣は柴田さんな訳だが・・・。目を閉じてゆっくり黙食している。飛鳥井さんの元で何を学んだかは分からないけど、以前までは見た目から分かる猛将に思えたが、今や所作一つにしても洗練された武将のように見える。
「そ、そうですな・・・ワテも織田印と呼ばれるカレーは初めて食べますな」
「このまま放っておいても、堺はジリ貧なだけではないのか?織田に降った方がお主等の為だと思うのだがな」
「納屋衆、天王寺屋と早急に協議致します故・・・今暫しお待ちを。必ず良い返事を出せるかと・・・」
「ふん。尾張から堺まで一大貿易が出来ると、面白くなると思わぬか?皆の者も聞け!今年の方針は決まっている。先頭に座っている者達は知っているだろうが、今年は表立ってはこちらからは仕掛けぬ。まずは蓄える時期だ。先も言ったように三河、尾張、近江、伊勢、京、堺、薩摩を結び一大経済・・・貿易を行う!日の本の銭を尾張に集めよ!さすれば人も自然と集まる!」
「「「「オォ────ッ!!」」」」
「剣城ッ!!後は貴様が言え!」
は!?何でまたオレなんだよ!?全く聞いていないんだが!?
「はい!えっと・・・」
「貴様はまたか!?情けない声を出すな!仮想敵は朝倉だ、と何回も申したであろうが!」
いや、朝倉の事は何回も何回も聞いたけどよ・・・朝倉の関係者は居ないけど、浅井家の人達が居るんだぞ!?構わないのか!?
「よっ!料理ご意見番!かましてやれ!」
クッ・・・木下さんまで・・・仕事の時覚えてろよ!
「えぇ〜・・・紹介に預かりました芝田剣城でございます。皆々様におかれましては・・・」
「能書きは良い!早う話せ!」
「ゴホンッ・・・浅井家の方々は、聞こえが悪く感じるかとは思いますが、ご了承を。まず現在、織田家では老若男女、身分関係なく人の移住を許可しています。まぁ、素性の怪しい人物なんかは滝川様からの、厳しい取り調べがございますが、まぁ、まず住む事には反対しません」
「その人ばかり集めて何をしようというのだ?確かに清洲の城下は人が溢れ返っているように見えたが・・・」
「確か・・・神戸さんでしたよね?北伊勢の?よく見ていますね。正に、まずは清洲の村にて織田家の暮らし方を学んでもらい、沢彦和尚を筆頭に楷書文字を習ってもらい、簡単な算術なんかも"無料"で学んでもらっています」
「そんな事をしてどうするのだ?」
「え?どうするも何も普通に暮らしてもらいますよ。ずっと清洲近くの村ではありませんが、美濃、尾張はどんどん民家の建設が進んでいますからね。人が集まれば物が溢れる。物を溢れさせるには人が居る。つまりそこが栄えてくる訳です。そうなれば銭も集まり活気が出て、更に貧しい地域の方々はこちらに集まる。織田家と懇意にしてる地域からの人は、取るつもりはありませんし、技術提供しています。ね?徳川様。浅井様」
「あぁ。誠にその通りである。三河は剣城殿の発案の綿花を始め、今や治安もかなり良くなってきておる。あの三河に移住したいという者も居ると聞いている。相模から流れてくる者も居るくらいだ」
それは初耳だ。北条もそれなりに良い治世だとは聞くけど、どうだろう。
「続けますね。何も戦だけが戦争じゃないんです。この近辺で尾張国に負けていない場所はどこか。北ノ京と呼ばれる越前です。先の上洛にて朝倉家は一時、将軍を預かる大役を果たしてくれましたが、その後はどうでしょうか。将軍を警護する兵は1人足りとも居ません。今は京は、将軍の私兵、織田、徳川、浅井、毛利、上杉、島津の兵を選抜し、守りを固めています。朝倉家にも打診したのですが、無視されている状況です」
「ふん。大方、当初は面倒見ていたのは朝倉家だが、将軍になれた後の感状一つ無かったから、拗ねているのだろう」
ここで信長さんが然もありん事を言う。まぁ前置きはここまでだ。ここからが本番だ。
「まぁ、その事はさておき・・・北ノ京と呼ばれる所には京の戦乱から逃れた、または逃れる為に相当な公家や公卿が居る、と聞いています。その人達を、まずは尾張に来てみたいと思わせる政策です。下々の民が自分達より贅沢な生活をしている、と聞けばどう思うか。私が公家なら、迷わず自分の目で尾張を見てみたいと思いますね。それで、できるならここで暮らしたいと。そうなれば織田家とすれば最大級にもてなすでしょう。そうして、民も公家やなんかも居なくなると、朝倉家はどうなるでしょう?」
「剣城。踏み込み過ぎじゃ」
いやいや、信長さんよ!?あんたが言えって言ったんじゃん!?だからこれでもか!?ってくらい分かりやすく皆に言ってたのに・・・けど・・・皆、箸が止まり、口が開いている・・・。あの松永ボンバーマンですら、ストップしているわ。
「皆の者も驚いていよう。ワシも此奴がこんなにも成長しているのかと、驚いているくらいだ。だが、此奴ですら普段はのらりくらりしているが、芯を持っている。明確にワシの突き進む道を誠に分かっておるのは、剣城だけじゃ。ワシも今までは、兵と兵をぶつけるのみが戦だと思っておった。だがそれは違う。まずは経済で戦を仕掛け、他国に攻める時は相手が疲弊してからじゃ。この事を此奴は経済戦争と言った。無駄に兵を減らさず他国を呑み込める」
「織田殿!?長政様と約束されているのではないのでしょうか!?我等、浅井家は父祖の代から朝倉家と・・・」
「何じゃ?別に攻め込むつもりは無いぞ?仮想敵は朝倉と申したが、これからも理由なく越前を攻めるつもりは無い。だが、北ノ京と呼ばれる越前だ。さぞ煌びやかなのだろう。そこに負けまいと尾張を発展させるのじゃ。それで越前の民やなんかが、尾張に来るのを追い返す事なぞ出来ぬであろう?」
まぁ、言い返せないだろうな。経済戦争なんてこの時代では意味不明だろう。信長さんもなんとなくだろうしな。別に朝倉も織田家のように、民草を厚遇すればいいだけだ。食い物や物なんかも言われれば輸出してもいい。ただ・・・値段はそれ相応に貰うつもりだけど。
「・・・・・・・」
「皆も全ては分からぬであろう。斯くいうワシもだ。まぁ小難しい事ばかりではなく、今日は謹賀だ。食べて飲んで英気を養え。この後は此奴の毎年恒例のびんごげえむが始まる」
飯に関しては概ね・・・いや、かなり好評だった。オレも既に痩せ型とまではいかないにしろ、ポッチャリ体型だったのが、今や普通体型にまで落ち着いた。徳川さんも、去年のダイエット器具を使っているのかは分からないが、去年よりスリムになっている気がする。
それでも、今年はオレも徳川さんも綺麗に平らげてしまった。それ程までに美味しかった。特に伊勢海老のクリーム煮だ。出来る事なら滝川さんにお願いして、少々値段が高くなってもいいから、屋台でこれを作る人が居てほしいと思うくらいだ。
「剣城!皆も飯を食べ、ほろ酔いになってきている!酔い潰れる前に始めろ!」
「はい!」
信長さんの号令にて恒例のビンゴゲームが始まる。遠藤さんにお願いして、景品とガラガラとビンゴの紙を準備してもらう。
ジェファーソンはお利口さんにしているみたいだ。別室にてケージで待機してもらっていた訳だが・・・。
「うむ!遠藤とやら・・・中々に良い手捌きだった!今まで俺を撫でた人間では、指折りに入るくらいに上手だった!また今度、触らせてやろうぞ!」
「剣城殿!このジェファーソン殿は賢いですね!殺伐とした日常を癒される気がしましたよ!」
「そ、そうですか・・・オレからすれば、何で犬がこんなに偉そうなのかと思いますが・・・」
「なぬ!?我こそは誇り高き黒妖犬のジェファーソン様だ!全然偉そうではない!寧ろ偉いのだ!喋る犬なんて見た事ないだろう!?人間の言う事を聞く犬なんて居ないであろう!?よって、俺は賢くて偉いのだ!」
言う事は本当に偉そうだけど、確かに喋る犬なんて居ないし、色々言ってはいるが、大人しくしてくれてるしな。さて・・・農業神様がまた手を加えるかは分からないけど、誰に当たるのかな。
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