今年のビンゴ景品目玉の黒妖犬とは

 どれどれ・・・。


 《黒妖犬》


 神界ではヘルハウンドと呼ばれる犬。人間界では燃えるような赤い目と評されるが、実は妖精種に区分される。実に従順で賢い犬種。ペットに良し、相棒に良し、飼い主と決めた主人には逆らわない。


 「いやいや、これまた凄い生き物だな!?どうせあれだろ!?この犬も喋るやつだろ!?」


 「(クスッ)剣城様、また糸子ちゃんのような蜘蛛ですか?」


 「いや、ゆきさん!蜘蛛じゃなく犬だよ!しかも地獄の番犬と呼ばれるヤバい犬だよ!」


 「まぁ!?大丈夫なのですか!?」


 「農業神様の事だから、大丈夫だとは思うし、説明にも従順って書かれてあるからね」


 オレは、ゆきさんとインベントリーを見ている。まぁタブレットはオレしか見えないから、オレは口頭で説明しているだけだ。


 その農業神様が用意してくれた、今年のビンゴの景品の数々・・・やはり1番は先に言った黒妖犬こと・・・ヘルハウンドだろう。

 次は・・・。


 《サラマンダーマント》


 神界のオリンポス山に生息する、脱皮したサラマンダーの革を使ったマント。このマントを装備すると、火傷や火に耐性を持つようになる。


 《ヘカテーの杖レプリカ》


 大地の母神ヘカテーが、幼少期の時に持っていた木の枝。ヘカテーのマナに染められた枝が杖へと変身し、強大な力を発揮する杖のレプリカ。物理攻撃up。


 《豊穣神の弁当箱》


 豊穣神が作った弁当箱。この弁当箱に入れた食物は腐らない。


 

 おいおい・・・神界のアイテムのバーゲンセールか!?ヘカテーの杖とか、おもいっきり魔法とか使えそうなのに、物理攻撃がupするのかよ!?


 サラマンダーマントとか信長さん専用じゃね!?いや、なんなら信長さんが火攻め大好きだから、違うか!?


 

 「とりあえず・・・黒妖犬だけ出してあげようか」


 「そうですね!檻とか要らないですかね?」


 「う〜ん。まぁ、大丈夫じゃないかな?」


 オレはインベントリーに入っている、黒妖犬という項目をタップする。するといつもの『黒妖犬は一度出すと収納できません。それでも出しますか? はい・いいえ』と出るが、気にせず、はいをタップする。


 シュ〜〜〜〜〜〜〜〜


 いつかのノア嬢が出て来たように、煙がオレの部屋を覆い、目の前にドーベルマンのような犬が現れた。うん。目が確かに真っ赤だ。


 「君が黒妖犬なのか!?名前は何て言うんだい?」


 種類は黒妖犬、またの名をヘルハウンドと禍々しい感じがするが、本当に目が赤いドーベルマンにしか見えない。オレはノア嬢も例の乳牛の児玉なんとかさんも、糸子ちゃんも喋るから、この黒妖犬も喋るだろうと思い問い掛ける。


 「ワンっ!!ワンっ!!」


 「いやいや、お前は喋らないのかよ!?」


 「まぁ!?見た事がない犬ですね!剣城様!この犬は南蛮の犬なのですか!?」


 「クゥ〜ン」


 ゆきさんが、犬目線にしゃがみ込み頭を触る。するとこの犬・・・じゃなかった黒妖犬は、犬の筈なのにニヤっとした顔のように見えた。しかも寂しそうな鳴き声までしやがる。


 「おい!犬!今の顔は何だ!」


 「ワンっ!ワンっ!」


 「剣城様!何て事言うのですか!?犬ちゃんが可哀想じゃないですか!?」


 「クゥ~ン・・・」


 「え!?ってか、お前は本当に話せないのか!?ノア嬢とかも話してるんだぞ!?」


 「喋れるに決まっているだろう。貴様を揶揄っただけだ。フハハハハッ!俺は誇り高き黒妖犬のジェファーソンだ!人間!頭が高い!平伏しろ!」


 此奴は何なんだ!?従順?賢い?ペットに良い?相棒に良い?全部嘘じゃねーか!?この偉そうな犬は何だ!?


 「頭が高いのですね・・・じぇふあそん様。これでよろしいですか?」


 「おっ、おぉ〜、俺は女には優しいのだ!其方は平伏しなくても良い!さっきのように、もそっと頭を撫でてくれても良いぞ!?」


 「剣城様!このワンちゃん可愛いですよ!」


 ゆきさん・・・騙されてるぞ、其奴に・・・。


 オレが呆れていると、これまた絶妙なタイミングで禍々しい人?が現れた。戦神様だ。


 「ガハハハ!久しぶりである!人間よ!今日は毎月一度の、サブスクリプション武器の配達である!此度は吾輩自らの配達だ!なんでも・・・ビンゴゲームをするのだろう?(チラッ)ならば景品が必要であろう?(チラッ)吾輩は人間界の事にも詳しいのだ!(チラッ)こんな気の利く吾輩に御礼があっても良いよな?(チラッチラッ)」


 ハイ。出たよ。甘味の強要。いやまぁ、確かに戦神様の武器は凄いけど・・・。


 「いつもありがとうございます。年末に作った、チョコレートラスクです!チョコはここ、岐阜のハウスで作った物を使用しています!良ければどうぞ」


 「おぉ〜!これじゃ!これ!お主の心意気をドワーフ共にも見習わせたいものよ!うん?何じゃ?この犬っころは?」


 「せ、戦神様ッッッ!!!!我が名はジェファーソン!誇り高き黒妖犬のジェファーソンです!」


 「ほぅ?ヘカテーの所のヘルハウンドか。懐かしいな。人間界に居るという事は、我が盟友に暇を貰ったのだな。この人間の剣城と申す男は我が盟友、及び吾輩も目を掛けている。しっかりと励むと良い!(バリッバリッ)・・・うむ!美味い!だが、いま少し甘くとも良いと思うぞ!精進致せ!ではまた来月にな?フハハハハ!!」


 いやいや、どんだけ甘党なんだよ!?信長さんより甘党じゃね!?しかも、あの偉そうなジェファーソンが頭下げてるぞ!?何でオレには偉そうなんだよ!?


 「おい!犬!何でオレには偉そうにして、戦神様にはあんなにヘコヘコしてるんだよ!?」


 「ふん。当たり前だ。俺は長い物には巻かれるタイプだ。こう見えても命は惜しいのでな?戦神様に楯突いて、生き延びられる保証も自信も無い。よって無益。俺の心情は女に囲まれて自由奔放に生きて、美味い物を食べて頭を撫でられたい。強い物には媚びて長生きし、いつかは芸術神様のペットになりたい」


 スパコンッ!


 オレは気付けば、卑怯で全然誇り高くもない黒妖犬を、便所スリッパで叩いた。


 「痛っ!何だ!?何をする!?俺は誇り高き黒妖犬のジェファーソン様だぞ!?」


 「なーにが誇り高きだ!とりあえず、農業神様からお前を貰ったんだ!ビンゴの景品だぞ!分かったか!?」


 「ふん!こればかりは農業神様との約束だからな。だが、変な主人ならば言う事なんて聞かないからな!覚悟しておけ!」


 「あっ、ちなみにだけど、戦神様も一目置いている人間の男が2人居るんだ。オレの上司でもあるんだけど。その2人に当たらないように、祈った方がいいんじゃないか?」


 その2人とは森さんと柴田さんだ。確か稽古付けてもらってたよな。


 「なっ!?まさか・・・うむ。とりあえず・・・剣城様と言ったか!?俺は女を希望する!女の主人ならば何でも言う事を聞く!」


 「そんな事は確約できない。ってか、お前は何が出来るんだ?神界ではヘルハウンドと呼ばれているんだろう?口から火を出したり、犬の眷族を使役したりするのか?」


 「そんな事できる訳ないだろう?人間には俺はヘルハウンドと、カッコイイ名を付けられては居るが、神界でも人間界でも見た目通りの犬だぞ?お主は犬の俺に何を求めているのだ?誠の主人のヘカテー様ならいざ知らず、普通に考えて犬にできる訳ないだろう?」

 

 クッ・・・。農業神様!?何故にこんな駄犬をオレに渡したんですか!?普通に会話できるから、何か特殊能力があるかと思ったじゃないですか!!




 1月2日。早朝から、遠藤さんが家にやって来てからの登城である。とりあえずジェファーソンは、持ち運びできるペットケージを購入して、入ってもらった。

 他の景品類は荷車に乗せて、城詰めの兵の人に運んでもらう事となった。


 「剣城殿!あけましておめでとうございます!」


 「遠藤さん!おめでとうございます!」


 「今年のびんごげえむの景品も、また変わった物ばかりなのでは!?」


 「えぇ。一番の目玉はやはり、この犬ですかね。なんと話ができるんですよ!名前はジェファーソンと言うんです!ジェファーソン!挨拶してくれ!オレが仕えている1番偉い人の部下の方だ」


 「我が名はジェファーソン。誇り高き黒妖犬。よしなに頼む」


 「へぇ〜!喋る犬ですか?去年の蜘蛛ちゃんも凄かったですが、この犬も話ができるのですね!いやぁ〜、俺に当たるといいんですが」


 いや、最早、喋る事に疑問を持たないんだな。オレならビックリすると思うんだけどな。

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