動き出す巨人達

 オレがビンゴの景品を運ぶ為、隣の部屋に入ってゴソゴソしていると、ミヤビちゃんが現れた。


 「剣城様。急に申し訳ありません。鞠先輩から文が届きました」


 「マジか。中身は読んだ?」


 「はい。至急との事で、検めさせてもらいました。結論から言うと・・・三好が不穏な動きをしていると・・・」


 それから少しだけ話を聞いた。なんでも、ファッキンサノバ義昭は、上洛の折に世話になった本圀寺の住職を労おうと、1月1日に向かったらしい。甲賀の人達が作り、大膳君が運んだお餅やカブ、大根、砂糖、酒などを持ってだ。


 どうもそれらを・・・、


 『この品々は予が御父 信長公より持ってこさせた物だ!其方等に振る舞ってやろう!』


 と、声高々に偉そうに恩着せがましく口上し、喧伝していたそうだ。正月は入り用だし、あんなパーな人だが一応将軍でもあり、公家でもある人だからそれなりの量を用意したが、それが仇となった訳だ。


 武衛陣から本圀寺まで、馬で速駆けだろうが輿に乗って行こうが、半日もあれば着く距離だ。あれ程、『武衛陣から出るな』と言ったのに将軍は・・・。


 「将軍は正に天下の将軍でございます。これは拙僧の娘にございます。是非、今晩に御寵愛くださいませ」


 「う、うむ!良い心掛けである!」


 「上様!?あれ程、織田殿が『武衛陣から出るな』と言われておりましたのに、帰られないのですか!?」


 「明智か。もう一度予の事を申してみよ」


 「え?上様・・・でしょうか?」


 「うむ。そうだ。予は将軍である!其方は何者だ?将軍に意見を言える立場なのか?武衛陣も中々に凄い。将軍御所だ。と間違いなく思う所だ。だが、予が寝泊まりする場所の事を、御所と指すのではないのか?そもそも三好は尻尾巻いて逃げたのであろう?何も問題ないではないか。分かったなら下がれ」


 「・・・御意」


 本圀寺の住職に言われ、泊まる事となったらしい。が、明らかに民に紛れた三好方の間者が多数、慌ただしく動き始めたらしい。同じ様な仕事をしてる者同士だから、何となく分かるそうだ。


 


 「ってか、鞠ちゃんもよくアクションカメラで、こんなに撮れたもんだな」


 「測量?をする時に重宝してるみたいで、懐に入れていたそうです。取り急ぎこの件はここまでです。まだ表立っては動いてないようですが、聞いた限りでは鞠先輩は『何か起こりそう』と伝えてくれればいい、と言っていたそうです」


 「うん。ありがとう。恐らく信長様も少しは把握してると思うから大丈夫だよ。鞠ちゃんにくれぐれも単独で行動しないように、と伝えておいてくれる?」


 「了解です」


 さて・・・背後関係は分からないが、間違いなく本圀寺の変は起こる事が確定だな。まぁ、今はビンゴを終わらせよう。




 ガランガランガラン


 「28!次は28です!」


 「チッ。次だ!次を回せ!」


 「び、びんご・・・でございまする・・・」


 今年も始まったビンゴゲーム。昨年も居た人は慣れたものだろう。初めての参加組の人も、ルールを知ってる人に聞きながら進めたが、これまたビンゴ成立者が中々出なかった。 信長さんも少しイライラしながらも進めていった訳だが、こんな中、1番に空いた人・・・。


 「チッ。びんごげえむの決まり事だからな。こればかりはワシでも変えてはならぬからな。サル!見事だ!好きなのを選べ!遠慮するでない!」


 そう。木下さんだ。まさかのここへ来て、史実の天下人の豪運発揮か!?と思う。確か去年も1番はこの人だったような気がする。


 「で、では・・・あ、いや前を失礼・・・っと・・・これに致しまする!」


 どうも今年は、去年のような盛り上がりが少ないように思う。それはやはり初めての顔の人が多いのと、さっきの信長さんの言葉のせいだろう。少し萎縮してるように思うけど、木下さんは今年は遠慮しないようだ。


 「うむ。俺は黒妖犬のジェファーソンである!俺を選ぶとは其方は見る目がある!日に一回の毛繕い、日に5回の飯、あとは可愛い女を所望致す」


 「お、お館様!この犬を希望致しまする!」


 「ふん。なんぞ犬畜生の癖に、偉そうな口上の犬だとは思っていた。良きに計らえ!そんな偉そうな犬なんぞ要らぬ!」


 まさかの喋る犬を信長さんは拒否した。いや、寧ろ皆は何で喋る犬に耐性があるのだ!?松永ボンバーマンも軽く頷いているだけなんだが!?


 「ぬぁ!?俺は本当に偉いのだぞ!?」


 「ほぅ?犬っころがワシに問答致すか・・・これもまた一興だのう?」


 信長さんは試すようにと言うか、いつものオーラを発した。


 「クゥ〜ン・・・」


 「クハハハハハ!面白き犬だのう!サル!見事、育ててみせよ!喋る犬なんぞそうは居るまい!剣城!次じゃ!」


 何か知らないけど、信長さんはこれはこれでいいみたいだ。ジェファーソンも信長さんのオーラには、負けたみたいだ。


 「ゴホンッ・・・次に参ります!次は・・・」






 「濃姫様!頑張り下さい!」


 「ふぬぬ・・・」


 「オギャァー オギャァー」


 「帰蝶!産まれたぞぇ!女子(おなご)じゃ!」


 「母上・・・妾は・・・疲れました」


 「濃姫様。無事に女の子が産まれました。今、目方に乗せますので・・・3200g・・・平均より、やや大きい子です!きっと濃姫様に似て元気な姫になりますよ!」


 「フゥ〜 フゥ〜・・・琴も言う様になったのう・・・よくぞ付き合ってくれた。寝たままで悪いが感謝するぞぇ。殿に報告を・・・」


 「いけません!私が報告しに行きますので、濃姫様はお休み下さい!すず!?すず〜!!?」


 「はーい!ここに!」


 「大殿と剣城様達に、元気な女の子が産まれたと報告してきて!」


 「了解」


 「小見様。よろしいでしょうか?」


 「どうしたの?」


 「剣城様からで、産まれた子に巻くタオルになります。なんでも、強力な護符が縫い込まれているようで、悪病なんかに罹らないそうです。後は濃姫様にはこちらを・・・特別な栄養ドリンクだそうで、《リンカーネーション》と呼ぶドリンクだそうです。産後間もない母体にしか効果が無いそうですが、飲めば瞬時に体力が戻るそうです」


 「ほんにあの人は・・・いや・・・妾の事を思ってか。頂こう」

 




 「次!2番です!」


 「びんごじゃ!!ワシじゃ!」


 「お館様!おめでとうございます!!」


 「いや〜、流石お館様です!!」


 「ふん。ワシはこの南蛮のマントとやらを貰おうか!」


 「どうぞ。説明によると火に耐性があるとからしいです」


 「ふん。そんな事はどうでもよい」


 バサーッ


 「どうじゃ!似合っておるか?」


 「よっ!お館様!似合っておりますよ!」


 皆のヨイショヨイショで、少し機嫌が良くなる信長さん。例のマントが良かったらしい。口では気にしていないような素振りだが、絶対にこの人は本当に火に耐性があるのか、後で試す筈だ。


 「お館様ッッ!!!」


 「何じゃ?」


 「さんふじんか病院から、火急の知らせにございまする・・・子供が無事に産まれました!濃姫様に似た姫でございます!」


 「で、あるか。皆の者も聞いたであろう。帰蝶が身籠っていたがどうやら、姫のようじゃ!ワシは今から見てこよう。皆の者はそのまま楽しんでいろ」


 とうとう産まれたのか。しかも女の子か。まぁ、世継ぎで争いそうにないから良かった・・・のかな?オレも後で抱っこくらいさせてもらおうかな。


 「とりあえず・・・続けますね!次は58番!」








 〜躑躅ヶ崎館〜


 「お館様のお顔を拝謁賜り、今年も去年よりやる気に満ちてきます」


 「そういうのは止めよ。こんなにも贅沢するのは一年で一度、謹賀の時のみだ。皆の者も遠慮せず飲んで、食べて良い。ゴホッ ゴホッ」


 「「「「お館様!?」」」」


 「咽せただけじゃ。騒ぐな」


 「このところ、空咳が多い様に見えまするが・・・お加減が優れないので?」


 「ふん。咽せただけと申したであろうが」


 「そうだ!山県は適当な事を抜かすな!お館様が病なんぞ罹る筈がなかろう!」


 「某は心配しているだけである。ところで・・・このように、贅沢な御膳は初めて拝見致しまするが、これも明の飯なので?」


 「これは真田が懇意にしている尾張商人の・・・名は何と申したかのう?」


 「塩屋でございます」


 「うむ。その塩屋何某から、謹賀だからとわざわざ海の魚や貝を、特別に真田が仕入れたのだ。海が近くにあるとは良いのう」


 「え!?では、今年は・・・」


 「そう急くな。まずは食べようではないか。皆の者も無礼講じゃ。まずは滅多に食べれぬ鯛を食べようぞ」


 「「「「はっ!」」」」





 〜春日山城〜


 「ほぅ?これに見えるのが南蛮の酒なのか」


 「えぇ。芝田何某の配下の者が言うには、こちらが・・うおつか?なるものだそうで、こちらが・・・」


 「直江殿。ウォッカだ。して、こちらがラム酒と申す物だそうで、どちらも酒精が強いそうで、殿の好みに合うかと」


 「南蛮の言葉は難しいよのう。政綱も勉の立つ者だがまだまだのようだな」


 「申し訳ございませぬ」


 「良い。して、上洛の折に管領の言質は取れなんだそうだな?」


 「その件も申し訳ございませぬ」


 「怒っている訳ではない。それにしても織田からよく、物が流れてくるようになったな」


 「はい。急に美濃、尾張が活気で満ち溢れているようにございます」


 「軒猿等が言うには、甲賀の乱波者が表に出て活躍してるようだ。しかもその乱波者の頭領が、この酒類を流しているそうだな」


 「はい。芝田何某ですな。気になりますか?」


 「将軍に挨拶せねばならぬであろう。少数だが、将軍の近衛に兵を割いて良かったわ。武田は我との戦にて傷が深かったようで、此度の上洛戦には一兵も出しておらぬようだしな。差が付いてしまったな」


 「そんな事言いながらも、楽しそうではないですね」


 「ふん。我が宿敵と言えるのは武田だけだ。雪解けを待って出稼ぎでもしてみぬか?うん?武田と織田は敵対はしていないだろうが、同盟も結んでいない。浅井と朝倉は何かしらあるだろうが、織田と朝倉は武田と同じで、同盟まではしていないであろう。直江は織田がこれからも大きくなると、踏んでいるのだろう?」


 「何でもお見通しで・・・。これは某の一個人の意見ですが、織田より物が流れて来て今や民にまで、それは普及しつつありまする。あの布団なる物が大量に流れて来てから、去年に関しては数人しか凍死者が出ませんでした。冬にも米を売りに来る次第で・・・これは誠に脅威かと」


 「そうだな。本拠にはもっと蓄えがあるのだろう。我が越後も青苧や直江津、柏崎の湊がある。お主が先代の頃より進言してくれたお陰だ」


 「勿体ない御言葉です」


 ゴグッ ゴグッ


 「うむ。悔しいくらいに美味い」


 「・・・・出稼ぎも良いかとは思いますが、あの芝田何某は某の言葉闘いにも、乗ってきませんでした。余程、余裕なのか。はたまた・・・鈍いか・・・。これ程の物を作り、もしかすると敵対するかもしれぬ他国に、物を流してくるとは普通では考えられませぬ」


 「よせ。ワシは会った事がないから分からぬが、その芝田は越後の冬の厳しさを知り、この布団なる物を、大量に送って来てくれているのであろう?だから、ワシは法外な値でも酒を買っているのだ。義理には義理で返す。だが・・・上杉をも飲み込んでくるというのなら抵抗せねばなるまい。(ゴグッ)・・・直江も柿崎も飲んでみろ」


 「「いただきます」」


 「クゥ〜・・・確かに酒精が強いですね」


 「柿崎は弱いな。ワシはまだ強くても良いくらいだ。まずは情報だ。軒猿に伝え、尾張、美濃ではなく芝田を調べるように伝えろ。箕輪の長野に渡りを取れ。長野の元家臣に真田が居たであろう。真田にも織田からの物が流れていると聞く。越後や甲斐なら織田が物を売る理由がある。だが、信濃のような田舎にそんな魅力は無い。何故か調べよ」


 「はっ!」

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