いきなりパパに!?

 「信長様。ビンゴゲームは滞りなく終わりました。入ってもよろしいでしょうか?」


 「構わぬ。入れ」


 オレは濃姫様専用の、産婦人科とは名ばかりの家に来た。城から1番近い小さな建物だが、24時間20人の警護が約10ヶ月程居た所だ。


 ちなみに、ビンゴゲームの方はヘカテーの杖のれぷりか?は、半兵衛さんの物となった。そして、戦神様からの武器の数々、芸術神様の色々な服類などは今井さんや、誰だか分からない豪族?のような人に当たったようだ。まぁ、謹賀の儀に呼ばれるくらいだから、どこぞの有力者なのだろう。


 「失礼します」


 「どうじゃ。帰蝶に似て中々に愛いであろう?」


 信長さんは、子供には興味が無いような人とばかり思ったが、そんな事はない。普通に現代のパパのように、普段は部下には絶対に見せない様な顔付きで、器用にも抱っこしている。


 「剣城ぇ〜。此度は誠に造作を掛けた。りんかあねえしゃんなる飲み物、やや子の巻きタオルなる物も平に謝する」


 「いえ。自分が出来る事なら何でもおっしゃって下さい」


 濃姫さんは、子供が宿ってから暫く会ってなかったが、随分と性格が丸くなったようだ。子供ができるとこんなにも変わるものなのか・・・。


 「ふん。丁度良い。剣城。貴様も抱いてみろ。ワシと帰蝶の娘だ。落とすでないぞ?」


 いやいやいや・・・無理無理無理!


 「ちょ、ちょ、信長様!?ま、待って下さい!!」


 「つべこべ言うな!親族衆でもない貴様に『抱かせてやる』と言っているのだ!」


 何故かこの言葉が案外嬉しく思った。


 「オギャァー オギャァー」


 「クハハハハハ!貴様は嫌だと娘も言っているな!そうだな・・・。名はサナギに致そうか!」


 いやいや、サナギ・・・蛹だろ!?確かこの時代は子供でも早死する子が多く、大名は情が沸かないように変な名前を付ける事が多い、と記憶があるが、特にこの信長さん・・・この人が1番変なあだ名や名前を付ける事が、多かったよな!?

 オレが居るなら、簡単に病気やなんかで死なせないし、なんならオレのバックにはなんといっても、偉大な偉大な農業神様が居るから、こんな変な名前はやめさせないと可哀想だ。




 〜神界モニタールーム〜


 「農業神様ッッッ!!!!農業神様の神格メーターが一段と上がりましたッッ!!!」


 「嬉しいんだなぁ。我が兄弟にはまた御礼をしないといけないんだなぁ」


 「まさか!?また顕現なさるのですか!?」


 「しないんだなぁ。これから300周期の我が兄弟の活躍は見物なんだぁ〜」


 「おい!顕現は無し!繰り返す!顕現は無し!このまま待機だ!」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 「信長様!その名前は些か・・・少し読みを変えて、ナギサなんて如何でしょうか!?」


 「ほぅ?貴様が名付けになると申すか。帰蝶はどうだ?」


 「はい。殿の御心のままに」


 「ふん。では、ナギサにしようか。義母殿もよろしいですか?」


 「婿殿の思うままに。ただ、願わくば降城したとはいえ、傅役は是非私に・・・」


 「義母殿はそれで構わないので?」


 「えぇ。剣城殿に助けられた命。幾分かは伸びたかと思います。なんなら最近は1番調子が良いくらい、身体が動いています。私も沢彦殿の塾に通い、楷書、算術を学び、姫としての教養は勿論。和歌に横笛、琵琶なんかも私が教えられます。所作は言わずもがな」


 「で、ありますか。ならば傅役は義母殿にお願い致しましょう。乳母は紅葉が適任かと」


 「森様の親族衆の方ですか。ならば問題はないでしょう。ではそのように」


 なんか知らないけど、凄い事がここで簡単に決められている気がする・・・。


 「おい!剣城!貴様は今年1年で過去に比類無いくらいに、内政で活躍してみせろ。譜代からの者も外様の者も、文句が言えないくらいの活躍をだ!見事約束が果たされたならば、ワシも貴様との約束を果たしてやる!」


 「え!?活躍ですか!?約束とは!?」


 「とぼけるな!城が欲しいのであろう?どの城かはワシもまだ決めてはいないが、その城にこのナギサを移す!ワシと正室の帰蝶との娘だ!後に貴様とゆきの元に養女に出す」


 は!?意味が分からないんだが!?


 「養女ですか!?」


 「そうじゃ!それで貴様も晴れて親族衆になる!」


 マジかよ・・・。自分の子供も・・・と思っていた時に子持ちになるのかよ!?ゆきさんは何て思うのか・・・。


 「なんぞ、妾と殿の子に不安かぇ?」


 「い、いえ!私如きがそんな・・・と思っていました」


 「貴様だからだ!名付けも貴様だ。帰蝶は中々子を宿せなかった。だが、貴様の薬を飲み直ぐに子を宿した。それに今は義母殿も貴様の家の支配内だ。謂わば、親族衆と同格である!これでワシの娘が貴様の所へ行けば、名実共に貴様も織田家の一員だ!それに貴様とゆきと義母殿に任せておけば、ワシは安心する」


 「か、過分な御言葉ありがとうございます。ですが、他の方は納得するでしょうか!?」


 「だからじゃ!だから、貴様には『この一年で比類無いくらいに活躍せよ』と申したのだ!佐久間等をも黙らせるくらいに活躍せよ!」


 「は、はい!」


 ドン ドン ドン ドン


 「お館様!!!」


 「遠藤ッ!!ここがどこか分かっての事か!?何じゃ!」


 「京に居る、村井様より早馬が来ました!三好が阿波より攻め上がってきました!至急援軍をと申しておりますッッ!!!」


 いつにも増して遠藤さんが慌てて言っている。オレは、事前に鞠ちゃんに聞いていたからそうでもない。寧ろ、かつては京都を支配していた筈なのに、オレが上洛した時に、あんなにも建物も人もグズグズで放置している三好には、この世からログアウトしてもらいたい。そのチャンスが来たと思うくらいだ。個人的には完全に駆逐してもいいかとすら思う。

 まぁ信長さんも想定内だ・・・ろう?え!?


 「なにッ!?何故もっと早くに言わんのだ!敵の数は!?将軍の兵の数は!?場所は!?」


 いやいや、想定内じゃないんすか!?少し前のあの自信アリな顔は何だったんだよ!?


 「はっ!敵は3万!味方は、幕府奉行衆及び浅井、徳川、島津、上杉、毛利の警護兵、国衆2000です!」


 「チッ。剣城!直ぐに京に参る!三好の馬鹿は本気で6家に喧嘩を売るつもりだ!」


 「さ、3万ですか!?」


 オレはこの出来事をなんとなくだが覚えている。確か史実なら1万くらいの兵力だった筈・・・。また歴史が変わったのか!?3万なら・・・三好の本拠の阿波と確か・・・摂津だったか・・・の総動員じゃないのか!?


 「チッ。少しは大人しくしておけばよいものを。三好がちょっかい出してくるとは予想はしていたが、想定外の兵力だ。将軍には丁度良い箔の付く相手だとは思ったが、三好を見誤った。遠藤!出来る限り兵を集めよ!直ぐに京に参る!剣城!貴様の軍が先駆けだ!速さが勝負!直ぐに行け!」


 「ふふ・・・」


 「何で笑っている!将軍が討たれるとワシの天下布武が潰れる。引いては貴様の城もなんだぞ!」


 「いや、すいません。『戦はしない』と言っても、敵は待ってくれないものだな、と思いまして。それに信長様に先駆けを言われるのが、嬉しく思っただけです。必ず将軍をお助け致します。では、直ぐに出陣致しますので、信長様もお気を付けて」


 「ふん。抜かせ!突出し過ぎるなよ。少し蹴散らした後は奉行衆と合流し、本圀寺を死守しろ。ワシが駆け付け乱戦になったところで、お前達と挟み撃ちに致す。合図は竹中に聞け!」


 普通に考えて、3万の敵に立ち向かうなんて阿保のする事だ。だがやはりこの時代に慣れたせいか、普通に勝てるビジョンしか思い浮かばない。楽観する訳ではないが、甲賀隊の器用さと、坂井さんと、美濃三人衆の突破力があれば、どんな敵にも勝てる気がする。



 〜美濃 穗積村 坂井邸〜


 「父上!もう食べられません!」


 「そうか。なら明日にでも食べると良い。お前達も無理して食わなくとも、明日にしたらどうだ?あ!?貴様という奴は・・・」


 「殿っ!!!この、ちよこれいとなる物は蕩けるような甘さですよ!美味い!!何個でも食べれてしまいまする!!」


 「馬鹿野郎!それは先の上洛戦の折に剣城殿が何も望まぬ俺にと、頂いた贈り物なんだぞ!?あの稲葉殿達より俺の方が多く貰っているというのに・・・もう残り数個ではないか!?」


 「ふふふ。あなた。そう正月から怒らないように致しなさい。剣城殿は今や美濃、尾張で知らぬ人がいないくらいのお方です。そのお方と、あなたは深い誼が出来たのでしょう?またご縁があれば頂けますよ」


 「い、いや、美咲・・・違うのだ。俺はこの村で畑を耕して、お前達を食わせてやれれば良いのだ」


 「ふふふ。ご謙遜を。あの美濃の三人様も褒めておられたではないですか。大殿からの感状も貰ったのですよ?少しは誇っては如何ですか?」


 何故だ・・・?剣城殿と知り合ってから、俺の思う事と逆ばかりになってしまう。妻の美咲にだって本当の事を言ったのに・・・。


 『俺は怖くて逃げ出したかった。だが、森様や柴田様が後方から駆け付けたから、逃げ出せず、ただがむしゃらに敵を斬り付けていただけなのだ』


 『けど、逃げ出さずに手柄を立てられたのでしょう?大殿様の感状は家宝に致しましょう!それにあの剣城様からこんなにも頂き物を!?この魔法のお水は肌艶が良くなるお水ですよね!?濃姫様やお市様が使っていると噂の物ですよね!?欲しかったのよ、これ!城下の商店に並んでいるけど、一つ3000円もするから買えなかったのよ』


 誠に出来た妻だ。俺が贅沢をしないから、倹約家となってくれて・・・いやいや、そんな事ではない。何故、美咲まで俺を買い被るのだ!?


 こんな一幕があった。今もそうだ。勘違いしている・・・。


 「坂井様!おられますか!?」


 「うん?あの声は・・・」


 「おい!今は正月だぞ?何の用だ!ここは美濃 穗積村の坂井政尚様の家だ!」


 ゴツンッ


 「馬鹿野郎!剣城殿の右腕の金剛殿だ!金剛殿、すまぬ!家の者には後でキツく言っておく!許してくれ!」


 「あ、いや、某は気に致しませぬ。先触れを出さなかったこちらの落ち度。それに正月というのも誠。こちらこそ失礼致しました。あっ、どうも奥方様ですか?えぇ。はい。剣城様から、正月早々に申し訳ないからと・・・これを預かっております。暫し坂井様をお借りしても?」


 うん?俺が呼ばれているのか?城には呼ばれていないが?それにしても金剛殿は生まれさえ良ければ、どこぞの一国の姫を貰ってもおかしくないくらいの男前だな。美咲の目も暫し、俺ですら見ていない目をしている・・・。

 それにあのまた、だんぼおるとやらの箱に何か入っているのか?剣城殿の所は・・・いやいや、こんな小さな嫉妬を起こすようではいかん!


 「城には呼ばれていないが何用か?」


 「何を言っておられるのですか?戦です!我が殿の、剣城様がまたもや先駆けです!その先陣は是非、坂井様にと言われておられます。此度は芝田軍、全軍での出陣となります。ご用意をよろしくお願い致します」


 「ぜ、全軍!?しかも先陣ですとぉぉぉ!?何故!?何故俺なのだ!?剣城殿の中に前田殿や竹中殿も居るではないか!?」


 「え!?あぁ、あの御二人も来ますよ!坂井様が使って良いと言われておられましたよ!斯くいう、某も慶次殿の与力になりますので。なんでも、竹中様も坂井様の突進力を使った作戦を、考えておられるみたいです。では・・・手前は稲葉様や安藤様、氏家様をお呼びする任がございます故・・・御免!あ、準備が出来ましたら、外に手前の配下の自転車隊が待機しておりますので、配下の方をお乗せ下さい」

 

 何故だ!?何故こうも皆、俺を買い被るのだ!やっと落ち着いたかと思ったらまた戦なのか!?しかも芝田軍の全軍だと!?敵は誰だ!?場所は!?


 「殿!戦ですか!?どうぞ!いつでも行けるように準備しておきました!また土産が貰えるならアッシは、ちよこれいとなる物をお願いします!殿?」


 「ぐぬぬぬ・・・何で正月くらいゆっくりできないのだ!!また戦だと!?ふざけるな!!」


 「おぉ〜!奥方様!殿が猛っておられまする!此度も御活躍、間違い無しでございます!」


 「あなた・・・ちゃんと剣城様の言う事を聞くのよ?いつものようにしていればあなたなら大丈夫。武運長久を。私はこの箱を確認しますね」


 何故だ・・・。何かがおかしい・・・。

 

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