古の時代の忍者

 「ってか金剛君?見た事ない人も多いけど誰なの?甲賀隊と同じ戦闘服着てるけど?」


 「あぁ〜、あれは忘年会で集まっていた、各々の親族衆の方達ですよ。さすがに、御老体の方は遠慮してもらおうと思いましたが、なにやら忘年会で飯を食べ、栄養ドリンクを飲んだ後に力が漲ってきたようで、此度の話が出た折に『是非、恩返ししたい』と申してきましたので、後方の軍に後備えとして配置しました」


 「いやいや、忘年会で来た人を戦になんて連れて行けないだろ!?直ぐに任を解除してあげて!あの人達にはオレ達が帰るまで、岐阜でゆっくりしてもらっていいから!」


 「ゴホンッ・・・失礼を」


 「うをっ!?ビックリした!」


 「申し訳ございませぬ。いや、私は元甲賀の上忍の野田権之助と申します」


 「野田・・・まさか!?野田一蔵さんの親類ですか!?」


 「如何にも。一蔵は甥でございます。いつもお世話になっておりまする。この通り・・・見た目は少々草臥れておりまするが、剣城様の飯を食べて、栄養ドリンクなる物を頂戴してから、身体が軽くなりまして」


 「そうでございます。あ、手前も元甲賀上忍の小泉六之助と申しまする」


 「小泉伝七郎さんの関係者ですか!?」


 「そこの野田のハナタレと同じく、伝七郎は甥でございます。是非、我々も使っていただきたく・・・」


 「なっ!?こら!小泉の阿保が!何がハナタレか!お前こそ昔は蛇如きに驚いて、ションベン漏らしていただろうが!」


 「ほぅ?その歳になっても俺に勝てると申すのか?あん?」


 あ。うん。間違いなく親族だ。見紛う事なき親族だ。けど、見た目では明らかに80歳近くじゃね!?小川さんより年上ぽいんだが!?けど、動きが金剛君より凄まじいんだけど!?


 「あ、剣城様。あの御老体2人は実は俺の先生でもありまして。甲賀瞬脚の使い手の2人でして・・・」


 瞬脚・・・甲賀の人達が使う、音も姿も見えない移動術のあれか!?ヤバ過ぎだろ!?しかも金剛君の先生だと!?


 「いや・・・失礼致しました。六角家に忠誠を誓っておりましたが、かつてから・・・先日のような忘年会?などは開いてもらった事なく、尚且つ、日頃から山間の甲賀村に絶え間なく、色々と食べ物を運んで来ていただいて、いつか生きている間に貴方様に御挨拶をしたい、と思っていたのです」


 「いやいや・・・そんな大した者ではないです。オレに付き従ってくれた甲賀隊の人達には、オレが感謝してもしきれないくらいです」


 「そういう言葉も、六角からは頂いた事はございませんでした。我等は草。表舞台に立つ事が許されぬ存在。その甲賀忍びがこんなにも・・・是非、此度の三好討伐は我等も使っていただきたい!いやなに・・・もし討死しようが生い先短い爺です!剣城様は何も考えなく──」


 「はい!それは止めようか。小川さんや甥の小泉さん、野田さんにも、口酸っぱく何回もオレは言ってる事なんだ。いやまぁ、オレは城持ちではないんだけど、城を枕にとか玉砕覚悟とか、オレは嫌いなんだ。美味しい物を食べて『死ぬ時は畳の上で往生を』を、信条としているんです」


 「「・・・・・・」」


 この2人と問答していると、気付けば皆から大注目だ。しかもよく見ると、涙を流している人までいる。別に大した事は言っていない。オレが死ぬのが、そこら辺の地面や戦で死にたくないから皆に・・・。

 

 『死ぬのは畳の上で美味しい物食べて死にたい』


 と、昔から何度も言ってたらこうなっただけだ。


 ポンポン


 「まぁ、野田のとっつぁんと小泉のとっつぁんの、思う事は分かる。剣城。お前に恩を感じて・・・まぁ、タイミングだったか?まぁ、そのタイミング良く皆が揃ったのだ。連れてってやれ。そこら辺の足軽なんかよりよっぽど働くぞ」


 「慶次さん・・・」


 「「剣城様」」


 「小泉さんに野田さん・・・」


 「確かに叔父御は歳は食ってはいるが、昔は素手で熊を倒していたのです」


 はぁ!?素手で熊!?いやいや、可笑しいだろ!?


 「我等からもお願い致します」


 「ワッチからもお願い致す!」


 いやいや、最後の婆ちゃんは誰だよ!?


 「剣城。侮るなよ?あの婆ちゃんはな・・・」


 「お黙りぇゃぁ〜〜〜」


 ゴツンッ


 「痛ぇ〜・・・こういう風に俺でも反応できないくらいに動くんだ。多分、瞬脚だけなら甲賀随一じゃないか?」


 いやいや、婆ちゃん凄過ぎだろ!?しかも細っい枝で慶次さんを叩いたぞ!?


 「分かりました。オレが出来る限り貴方達を守ります。ですので、これはオレからの命令です。死ぬ事は許しません!」


 「ありがとうございます!必ずや一騎当千の働きをば」


 「まだまだ若人には負けんぞ!」


 「ふふふ・・・約、半世紀振りに我が右手を解き放つ時が来たか」


 いや、また可笑しな人まで居るんだが!?それに、バリバリ前戦で戦いたそうな人達ばかりなんだけど!?


 それからオレは、坂井さんや美濃三人衆の到着を待った。30分もしない内に集まり始めた。



 「フッフッ・・・テスッテスッ・・・。皆さん!正月早々に申し訳ないです!先に懸念していた事が起こってしまいました。三好の馬鹿は本当に浅井、上杉、島津、徳川、毛利、そして・・・織田家に喧嘩を売ってきました!」


 「がははは!我が君!ここは神速の芝田軍を見せ付けてやりましょうぞ!」


 「そうだ!このオレの横に居る、芝田家 筆頭家老の小川三左衛門が言うように、今回は急ぎます!浅井様にも連絡致しました!関ヶ原を抜け、長浜から琵琶湖を通って京に向かいます!」


 今までなら自称筆頭家老と笑っていたが、気付けば名実共に小川さんが家老だ!と周知の事実になってきているから、最近は言いたいように言わせる事にした。まぁ別に不都合がある訳ではないからな。


 「ほっほっほっ。此度は私も参戦致しますからね」


 「俺はコレとゆっくりしたかったのに、三好の馬鹿が横槍を入れてきた訳だ」


 「手前は新作の、パエリヤを考案していたところだというのに。車裂きの刑にしてやりたいですな」


 いやいや、大野さん怖ぇ〜よ!?車裂きの刑って何だよ!?


 


 〜坂井政尚視点〜


 こ、この者達は何なのだ!?皆、一様に黒い戦闘服・・・しかも見た目は御老体ばかりなのに、皆が皆、顔付きが違う・・・。あっ・・・あの方はまさか・・・昔、爺から聞いた事がある。


 『甲賀には沈黙の処刑人、串刺し女、宵闇の処刑人、骨砕き男が居ると言われている・・・他にもワシが知らぬ渾名を持った者も居るだろう。その者達は、甲賀上忍とも伊賀上忍とも言われている。もしその者に気付いたら素早く逃げなさい』


 あの短槍の婆さんの身のこなし・・・そして何の武器か分からないが、金槌を大きくしたような武器・・・顔まで黒く化粧した爺・・・間違いなく昔、爺が言っていた者達だ。


 「坂井様!明けましておめでとう御座います。新年早々にこんな形で呼んでしまい、申し訳ありません。ただ、どうしても坂井様を頼りにしてる自分が居まして。ハイ」


 「いえ。剣城様の配下の方達には優秀な方が多いですし、某なんぞそこら辺に生えている苔の筵のような・・・」


 「なーに言ってるんですか!坂井様が在っての美濃三人衆でもあるのですよ!ははは!」


 「いや、本当に剣城殿は俺を買い被り過ぎです。それと、妻に先程何やら届けていただいたようで・・・中身は聞いておりませんが、ありがとうございます」


 「あっ、あれですか。なんか、化粧水とか乳液や洗い流さないトリートメントに凝っている、と伺いましてね。新年早々に家の主である坂井様をお借りする訳ですから、せめて奥様には贅沢してもらおうと思い、私が勝手に選びました。癖毛も気にしておられたようですので、充電式のストレートヘアアイロンも、説明書と一緒に入れておりますので。ここだけの話・・・あのストレートアイロン9万円もしたんですよ?坂井様の働きに期待していますね!」


 きゅ、きゅ、9万円!?大判が9枚もする物を入れてくれていたと!?これは大事だ・・・。俺の一月の給料が大判19枚だから・・・約半分もする物なのか!?そもそも、すとれえとへああいろんとは何なのだ!?





 パカラ パカラ パカラ

 

 『ノア。新年早々から悪いね』


 『キャハッ♪農業神様から電話があったの!剣城っち♪を活躍させるようにって!あーしも頑張るんだよ♪』


 『で、電話だと!?その電話とはどこにあるんだ!?どうやって話すの!?』


 『キャハッ♪ ひ・み・つ』


 クッ・・・ノアはノアで相変わらずか・・・。


 ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ


 『痛い!痛い!何でここで甘噛みするんだよ!?これから行軍なんだぞ!?」


 『キャハッ♪』


 いや、キャハッ♪じゃねーし!相変わらず口は臭いし。


 『分かった分かったから!この戦が終われば、神界の天照物産のプレミアムチモシーあげるから!』


 『分かったよん♪ちなみにさっきの甘噛みはマーキングだよん♪これでどこに居ても、あーしは剣城っち♪の場所が分かるんだからねぇ〜!』


 ストーカーかよ!?怖ぇ〜よ!


 いや、だけど・・・ノアがここまで言うって事は、本当にマズイのか!?




 「ほっほっほっ。相変わらず相思相愛ですな」


 「半兵衛さん。これは断じて違うんです!いや、そんな事より作戦はどんな感じですか?」


 オレがそう問い掛けた時は、既に関ヶ原を抜けかけていた頃だ。皆、並の体力じゃない為、本当に周りから見れば神速の如きスピードだ。


 「それにしても、このブーツとやらは素晴らしいですね。雪に滑らず濡れないので、凍傷の心配もしなくて良い。それに家老殿の倅殿が作られた綿のジャケットなる物・・・これもまた暖かい・・・。いや失礼。作戦も何も、どうも解せない事がありましてね」


 「解せない事ですか?」


 「えぇ。まさか二度にも渡り、将軍を襲うなどとは・・・それに、先の上洛の折に国友大筒の威力は知っている筈。それも含めて、6家が守る将軍に攻撃を仕掛けるという事は、6家と戦になっても良いと考えがあっての事。3万で仕掛けてくるだけでは足りない。後詰めが1万は居ると思った方が良い。かつては、畿内を思うままに掌握した三好ですからね。先代の長慶殿が亡くなり家督を継いだのが義継。先の上洛でこちら側に立った訳ですが・・・個の強い一族衆を纏め切れなかったのか。はたまた・・・」


 確かに普通に考えてあり得ない。


 「勝て・・・ますよね?」


 「どうでしょうね。剣城殿の思う、死者を出さずにというのは、今回は難しいやもしれませんね。何か向こうも考えがあるのか・・・。とりあえず私が考えた作戦を言いましょう。三好の事を考えても、結論は出ないでしょうからね。あっ、此度は褒賞は甘い物で良いですよ。酒の飲み過ぎで最近、二日酔いが多くてですね」


 「飲み過ぎですね。まぁ覚えておきますよ。走りながら作戦の概要を教えて下さい」

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