ドロドロな背後関係

 半兵衛さんが立てた作戦はこうだ。


 オレ達が琵琶湖から船で京に入る。そして全軍にて本圀寺へと雪崩れ込む訳だが、京は隘路が多く、大量の兵を分散させてでしか展開できない。だが、それはこちらからすると好都合。


 「敵と斬り結ぶ訳ではなく、坂井殿や美濃三人衆を先頭に一気に進むのみ。そして古の時代に生きた忍びの方達に、奮戦してもらいましょうか」


 「え!?あのお爺ちゃんお婆ちゃん達ですか!?それは流石に許可できませんよ」


 「何を言っているのか?だからいいのですよ。敵は爺や婆なんかを気にしないでしょう?我等が表で騒ぎ立て乱戦に持ち込む。そしてここで隘路が役に立つ。四方八方から、剣城殿が渡した無音武器にて、指揮官級だけを倒し離脱を繰り返す。敵はどこから攻撃されたか分からず、たちまち大混乱となるでしょう」


 半兵衛さんの立てた作戦は忍び・・・まぁ、あの野田さんや小泉さん達の叔父さん・・・かつて六角家で活躍した、お爺ちゃんお婆ちゃん達を戦わせる作戦だ。


 戦力差の大きい今回では、普通の正面からの作戦ではダメだ。けどそれでもそれなりに、装備は持って来てはいるんだけど・・・。これも半兵衛さんが懸念していた。


 「多分、剣城殿は此度も国友大筒で蹴散らし、散会した兵に銃撃し、斬り結べば良いと考えていたでしょう。けれど今回ばかりは無理ですな。何度も言う隘路のせいです」


 「確かに・・・。本圀寺の門を潜れば即座に防衛として使えるけど、あんな道なんかに配置してブッパでもしようもんなら、京の住民から非難轟々ですし、効果も薄いですね。敵も密集さえしなければ、どうとでもなりますからね」


 「これは私の考えですが、恐らく若い義継では三好宗家を纏めきれなかったのでしょう。特に松永殿がお館様に降った今、三好家がかつての栄光を取り戻すには、今しかありませんでしたからね。だから、この一戦に三好家の存続を賭けた戦を仕掛けたのだろう、と私は考えます」


 「そんなに権力が欲しいものですかね?」


 「三好宗渭・・・先代の長慶には、6年程前に帰順したとは言われているが、元は相当仲が悪かったと聞いている。宗渭の父は元管領の細川晴元の下で、かなりの権力を有していましたからね。子の宗渭も権力を欲するのは当たり前か」


 「そこら辺はドロドロの世界ですよね」


 史実とどこが変わったか分からないし、どうなっているかは把握し切れていないが、京の政争は本当にドロドロして難しい。


 琵琶湖を渡り、大津に入るとそこには避難民で溢れていた。ここ大津では浅井家、織田家で大津宿場町を形成しつつあった訳だが、今回はそれが役に立った。

 未だ建物だけだが、織田家からは剛力君配下の人達が建築途中だった訳だ。オレが指示した訳でもないのに、避難して来た民の人達を建物の中に入れて、保護してあげてるみたいだ。


 「剣城様!申し訳ございません!新築途中の宿になる予定の建物に、都の避難民を入れてしまいました!勝手をして申し訳ありません。切腹しろと申されるなら、この場で果たします!」


 いや、だから何でそんな死にたがりなんだよ!?何で『切腹』と言ってるのに、喜んで言ってるんだよ!?


 「ゴホンッ!君は剛力君配下の・・・」


 「はっ。剛力様 支配内、タケノコ山村 五郎兵衛の子の八郎兵衛と申します!」


 うん。相変わらず名前が強烈だ。五郎兵衛さんの子なのに八郎兵衛って言うんだな。もうヤジロベーでいいんじゃないか、とすら思う。


 「そうか。剛力君は最後方の船便で来ている。指示していないのによく働いてくれた!全て片付いたら直々に褒美を取らせるよ。君はオレの考えている事が分かっているようだ」


 「はっ!ありがたき幸せ!手前はこれからどうすれば!?都は三好の兵で溢れています」


 「う〜ん。とりあえず、甲賀隊が渡りきるまで待たせてもらう。長浜の丹羽様の船乗りの人にも、引き継ぎしないといけないし」


 「はっ。1番大きな建物は空けております。どうぞこちらへ」


 このヤジロベー・・・じゃなく八郎兵衛君は中々気の利く子だ。


 案内された建物の造りは、木造二階建ての建物だが、大きさがオレの家くらいに大きい。ここはVIPの人専用にでも、剛力君がしようと思ったのかな?


 「お武家様!!お助け下さい!折角、建てて下さった家が・・・家が・・・」


 「御婦人!家がどうされましたか?」


 「剛力様に建てていただいた家を、兵隊がいきなり来て燃やしてしまいまして・・・」


 「はぁ!?燃やしてって・・・金剛君!」


 「オェェェェ〜〜・・・は、はぁぃ〜。金剛はここに・・・」


 「あっ、ごめん。確か船酔いに弱かったんだよね。酔い止め渡すの忘れてたよ。配下の人に言って、偵察してきてくれる?くれぐれも偵察だけに徹するように!」


 「ずびばぜん!がじごまりばじだ!」


 「鈴ちゃん!奏ちゃん!ここにゲルテントで野戦病院を!避難民を見てあげて!」


 「「はっ!!」」


 「ほっほっほっ。相変わらず手際がよろしいですな」


 「半兵衛さんも笑い事じゃないですよ!火攻めされてる感じじゃないですか!信長様なら分からないでもないけど、三好が!あの三好が火攻めですよ!?」


 「まぁまぁ。私の弟にも今しがた斥候を頼みました。まずは状況を整理しましょうか」


 

 30分程待機していると、竹中さんの弟の重矩さんと金剛君が、ほぼ同時に戻って来た。


 「剣城様、兄者。ただ今戻りました」


 「お帰り。ご苦労様。どうだったですか?」


 「道中に金剛殿と鉢合わせし、某は本陣を偵察し、金剛殿は本圀寺の方を回ってもらいました。まず、三好本陣は東福寺にあります。そして、敵の主力は再建したばかりの泉涌寺に詰めているように思います」


 「次は私の方の報告を。本圀寺の門は硬く閉ざされ、奮戦してるように思います。ただ、時間の問題かと・・・。本圀寺側から鉄砲の音が聞こえておりました」


 「読めましたな」


 「え!?半兵衛さんはこれだけで分かったのですか!?」


 「えぇ。泉涌寺は南北朝時代には、歴代の帝の葬儀を執り行う神聖な場所。朝廷が無い袖振りながらもやっと再建できたという所へ、またもや戦乱に巻き込む。つまり三好は将軍のみならず、帝をも手中に・・・朝廷をも手中に治めようとしているのかと。恐らく将軍を捕縛した後、我等が奪還に来たとしても三好は帝、朝廷、将軍と手中に治めている。勅使を出し停戦させる。それをされると逆賊は我等になる」


 「三好を直接見てないから分からないですけど、信長様のように、そんな頭のキレる人達なのですか?」


 「宗渭ならば分からなくともない。権謀術数が渦巻く都を先代の時から経験している。三好が挽回するには今しか無いですからな。それに・・・三好長逸はどこに居るか。この者は松永殿と頗る仲が悪い。あわよくば・・・この戦乱途中に大和をも切り取るつもりか。ならばこの大軍でも納得できる。いや・・・弱いか。交友関係を調べると、筒井家と懇意にしていた筈・・・筒井順慶・・・去年に松永殿に攻められ、居城の筒井城を追われて且つ、家臣の箸尾高春、高田当次郎等が離反している」


 いやいや、この人どうしたんだ!?ここへ来て名軍師か!?薩摩では酔い田んぼで『乱戦は苦手ですぅ〜』なんか言いながら、ちゃっかり前陣に入って肉弾戦してる人だぞ!?


 「半兵衛さんがここまで考えるのは、珍しいですね」


 「ここ最近の戦は様変わりしましたからね。策を弄せずとも国友大筒、剣城殿の無音超武器を持った甲賀衆、遠距離からは真っ直ぐに飛ぶ鉄砲とその名手が居ましたから、私の出る幕は無かったですからね。けど、此度は中々ですな。さて・・・私の考えた策を、剣城殿は採用してくれるみたいですので、始めましょうか。早く本圀寺に合流しないとですな」


 「そうですね。腐っても将軍ですからね」


 「ほっほっほっ。坂井殿、前田殿。今から言う事をお聞きなさい」


 竹中半兵衛・・・史実では秀吉の元で名軍師だった。だがオレが現れた事により、オレの与力となり、この世界線では中々活躍の場が見えなかった為、オレですら侮っていた。 

 この人は本物だ。背後関係や力関係なんかも事前に分析している・・・。オレも兵器や甲賀衆の人達だけに頼る訳じゃなく、今後はちゃんと気を付けようと思った。

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