甘党な農業神の眷族

 城持ちの話が無くなった夜、オレは悔しさのあまり一人で寿司を食べようと、ジオラマの家に篭もりっきりで夜になった。


 あぁ〜・・・。最近上手く行き過ぎてたし、これが本当だよな。けど、慕ってくれる人も増えたし綺麗な年下の女の子が将来の嫁だし、これで満足しないと農業神様に怒られるかな。


 「剣城様、よろしいでしょうか?」


 「大野さん?訪ねてくるの珍しいですね。どうしました?」


 「いえ、中伊勢の鳥を使い、この書物に書かれている焼き鳥という物を作ったのですが、御賞味していただければと・・・」


 「あっ、食べるの忘れてたよ。丁度お腹空いてたからいただきます」


 「え!?美味ッ!!何これ!?凄く美味いんだけど!?」


 「はっ。ありがとうございまする。この鳥はこの村で育てておる個体より、些か脂が多いように思います。違う種類なので?」


 「いや、それは分からないけどこれは有りです!なんなら焼き鳥屋さんでもしてほしいくらいですよ!太助さんに聞いて安定供給できるか聞いてくれます?」


 「はっ」

 

 これ昔、名古屋で食べた名古屋コーチンのような肉だな!?けどこの時代に名古屋コーチンの種なんか居ないよな!?


 「新たに来る甲賀の人達を飯屋に何人か任命するので、焼き鳥屋、居酒屋とか色々作りましょう!とりあえず暫定でこの鳥は那古屋コーチンに決定!」


 「何がなんやら分かりませんがやりましょう!那古屋コーチンですね。皆に伝えておきます。それと・・・剣城様はもし住む所が無くとも、我らの殿です。これは今後どんな風になろうと変わりません。此度の城の件は残念ですが織田の大殿も、いずれ剣城様に報いてくれる筈です」


 「はは!ありがとうございます。なんか色々考えてたのが馬鹿らしいですね。元気出して頑張りますよ!」


 「はっ」



 よし!飯屋はこれで大丈夫として、次は綿花の方だけど安定供給しだしたら、未亡人や女性の仕事にしようか。縫い物をしてもらえれば布団の完成だな。


 服の方はどうなったか気になり、タブレットを起動させるとヘルプが点滅していたので、タップしてみる。


〜時間が止まる〜


 「毎度ありがとうございます。本日は注文されてました芸術神様の服をご用意致しました。これだけのご注文、更に女性の結婚式という事で芸術神様も、大変喜んでおられました」


 「いやいやこちらこそありがと──」


 「ちょっと放しなさい!後光フラッシュ!」


 「げ、芸術神様!!!い、今はおいが会話中でごんす!!!」


 「堅い事言わないでね?人間?いつもありがとうね?眷族の子も初めての特別注文で凄く喜んでたわよ?だからサービスで普段着と呼ばれる、貴方の居る世界に似合った服600着って言われたけど、サービスで以前と同じ真っ黒の仕事服も600着用意したわよ?」


 いや、最早サービスの域を超えてるんだが!?そりゃ嬉しいけども!!


 「芸術神様お久しぶりです。無理な注文なのにこんなに早くありがとうございます。それにサービスまで・・・」


 「いいのよいいのよ?私の宮殿の倉庫も貴方だけで1割も片付いたのよ?これからも、よ・ろ・し・く・ね♪」


 あぁ〜、なんて綺麗でいい匂いのする女性なんだ・・・。


 「後光フラッシュ!!!」


 「うっ、うわっ!!!」


 「あら?ごめんなさいね?不純な目で見ないでね?ウエディングドレスなんだけど、貴方の部下の子達でも分かるように、説明書も入れてるからちゃんと読んでね?」


 一瞬でやましい気持ちが無くなったぜ。ある意味、癖になるな。


 「ありがとうございます!これ良ければどうぞ。ウエディングケーキの土台部分を練習で作りました。シフォンケーキみたいな感じですが、これはこれで美味かったです」


 「あら?優しいのね?地球産の甘味は美味しいからね?これはいただくわよ?じゃあまたね?」


 あぁ・・・。おいのしふぉんけーきとやらが・・・・。


 「何てお呼びすれば良いか分かりませんが、貴方様もこんなに早くありがとうございます。これどうぞ。芸術神様と同じ物ですが食べてみて下さい」


 「こっ、こっ、これをおいにくれるのでやんすか!?おっと・・・これは失礼。これを私にいただけると?」


 「はい。そのつもりで多めに練習して作りました。ついでに他の欲しい物も買いますのでいいですか?」


 「ありがとーございま───す!!!」


 なんだ!?また、いきなり居酒屋みたいなノリか!?


 「えっと・・・ポータブル電源とイルミネーションをどのくらいだろう・・・。それと生クリームに卵はあるから・・・ヘラに──」


 「暫しお待ちを!!ホログラム見て参ります!」


 「お待たせ致しました!確認したところ、貴方様の居る世界の尾張国から近江国まで点灯させたいと!?それとケーキ作りでございますね!?私にお任せあれ!」


 「ホイホイホイの・・ハッ!!」


 ここは農業神様と同じなんだな。


 「まずポータブル電源ですが、既存の物を少し改造しました」


 《神様印ポータブル電源》¥200000


効能・・・・ポータブル電源の悩み、総ワット数を無限にした物。その分消費も早い。延長コードから延長コードを繋げても問題ない。


 

 「おっ!?かなりいいですね!ただ消費がどのくらいなのかと・・・。ソーラーパネルで充電でき、一晩ですが点灯できますか?」


 「大丈夫です。イルミネーションは1000球でも60W程でございます。更にこのイルミネーションを・・・ホイホイホイのハッ!」



 《神様印イルミネーション1000球》¥8000


効能・・・・夜道を照らす明り。灯りとも言う。エーテルに微弱な電流を流すと綺麗な色に発光する。電流を流す力により色が変色していく。何本でも連結可。



 「いや、これまたチートなイルミネーションですね!?買います!買いますけど近江まで何本くらい要るのでしょうか!?」


 「全道点灯となりますとかなりになりますので・・・。貴方様の距離計算すると、100キロ近くなるのではないでしょうか?」


 「あぁ・・・。100キロか・・・。さすがに全部は無理か・・・」


 はっ!これはおいが試されているのか!?ここで今一度おいの力を見せると、更にお供え物がいただけるのでは!?


 「ホイホイホイの・・・ハァァァァ!!!!」


 おっ!?いつもより掛け声が強くないか!?


 「これなんか如何でしょうか!?」



 《神様印改イルミネーションMK-2》ASK


効能・・・・農業神眷族が改造したイルミネーション。エーテルの伸びる性質を利用したイルミネーション。長さは30センチから30キロまで伸ばせる。※色は2色に限定される。


 

 「ハァー、ハァー。いや失礼。久しく力を使ってなく少々疲れまして・・。ははは」


 「いやありがとうございます!こんなイルミネーション初めて見ました!ただ値段の方が・・・」


 「これは私が作った物なので値段が無いのですよ」


 この神は決して自分では語らないけど、戦神様なんだよな!?待てよ!?農業神様と戦神様は同列なのか!?効能でも農業神の眷族が改造したと書いているが・・・。

想像した戦神様は大柄なイメージだけど、強さを内に秘めるのだな!?


 なんか欲しそうな目をしているが、戦神様が喜びそうな物なんかもう無いぞ!?いや事実は小説よりも奇なり。見た目で判断するのが間違ってるんだ!


 イメージでは酒や肉が好きそうだが案外甘い物が好きなのかも!?確かお供え物しか食べられないと言ってたよな!?地球では戦神様とか聞いた事ないし、お供え物渡した時かなり喜んでたから、普段はあまりお供え物が少ないんだろう。


 「食べ物でもないですが、先日お茶を飲む機会がありまして、抹茶バニラです。自分用でしたし、収納すればその時間が遅くなる性質を利用して入れた物ですが・・・」


 「おっ!!おぉぉぉぉ!!これをおいに!?良いのか!?良いのですな!!!いただきますぞ!!!」


 いや疑問で聞いて来て勝手に納得してるんだが!?まぁ渡すつもりで出したからいいけど。


 「抹茶バニラなる物・・・。今いただいても?いや聞くのはやめましょう。いただきもうす」


 「ゴクッ・・・。甘───い♪美味いッ!!!」


 戦神様!!?なんだなんだ!?戦神様には見えない表情だな!?いや騙されるな!!調子に乗ると殺られてしまう!!


 「お口に合ったようで良かったです!それで値段の方は・・・・」


 「ゴホンッ・・・。先のイルミネーションは2セットもあれば充分でしょう。1万円で如何でしょう?」


 「やっす!!!買います!!!ありがとうございます!!」


 「それと残りのケーキ作りならぬ、甘味作りに必要な道具は私がサービス致しましょう。これからも励んで甘味作りに精を出して下さい。あっ!味見はいつでも歓迎いたしますよ?」


 これが戦神様なのか・・・?柴田さんみたいにかなりの甘い物好きか!?騙されるなッ!!!


 「そうですね・・・。貴方様の抹茶バニラが気に入りました。もう一つ礼をしましょう。貴方が居る世界で、頑張れば作れそうな食材の素となる物などを」


 「ありがとうございます!でもそんな悪いですよ?」


 「まぁお聞きなさい。説明と共に入れておきましょう。例えば乳牛・・・ホルスタイン種の生体や寒さに強いバニラの苗やカカオの苗などを・・・ただし!それらを使い何か出来れば是非お供え物を・・・」


 結局まんま柴田さん達と同じ甘い物好きかよ!?全部甘味に使う物じゃん!?


 でも確かバニラもカカオも日本ではハウスじゃないと難しかった記憶がある。


 これはラッキーだな。チョコレートも供給できるし、凍らせる事が出来れば牛乳に砂糖、バニラ・・アイスも・・・。いや氷は難しいな。いや待てよ?硝石と水で氷が出来ると昔、理科の授業で聞いた事ある様な気が・・・これも要実験だな。


 いや、けどマジで牛くれるの!?大丈夫なのか!?


 「では楽しみにしていますよ?支払いはクレジットから引いておきますので。毎度ありがとうございました」


 「ありがとうございました!」


 あの有無を言わさない感じ・・・。あれが戦神様か!?



 オレは夜に一人で外に出た。うん。さすがに牛が可哀想だからだ。これから牛乳をお願いするからストレスを与えず優しく育てよう。


 とりあえず厩舎が無いからノアの家にお願いしてみるか?


 "ノア?夜遅くにごめん。お願いがあるんだけどいいかな?"


 "キャハッ♪剣城っち♪夜這いかにゃ!?受け止めてあげるよ♪"


 いやオレはそんな趣味はねーっす・・・。


 "いや、冗談じゃなくとある牛を戦神様から貰ったんだ。今特別に収納されてるけど、早く出してあげようかと思ってね?とりあえずここに一晩出してもいい?"


 "キャハッ♪剣城っちは本当に戦神様と友達なんだね♪オッケー♪"


 「よし!出でよ!ホルスタイン!!」


 「モー」


 うん。普通だ。オレは少し期待し過ぎてたようだ。戦神様だからてっきり戦う牛かと思ったのだが!?


 「¥>$!?♂=♀◎♭♯♪☆・・・」


 「√∩∇♭Ⅰ∑∈∟〓Å∨#Ⅲ≠▼∴▽&⊥¢£⊥仝!!!」


 「■%≡∀Ⅰ〇∝∞∇#♪⊂⊥⌘‡§£∪-」


 なんかノアと牛が話してるんだが!?何言ってるんだ!?


 "キャハッ♪ねぇ剣城っち♪あーしこの子気に入った!眷族にしていい?"


 いやいやいや同族以外でも眷族にできるの!?ノア嬢はスーパー神馬っすね!?


 "う、うん。大丈夫だよ。ちなみにその子は食べるつもりないから。牛乳が欲しいだけだから"


 "オッケー♪"


 "拙者、フェアリーバース生まれ、名前を児玉六八兵衛義時直隆と申します。我が主君、芝田剣城っち様の配下に加えていただき誠に・・誠にッ!!ありがとうございます"


 いや牛まで喋れるの!?しかもそのクソ長い名前は何だよ!?誰が付けたんだよ!?めっちゃ日本名みたいだな!?しかもオレの名前間違えてるぞ!?


 "最早、馬も喋るし剣も喋るから驚きませんがよろしくね。牛乳が欲しいんです。明日から人間が取りに来てもいいですか?"


 "いつか拙者に男前な旦那を用意していただけると、乳の出が良くなり申す。牛だけにモ────す・・・なんちゃって"


 "キャハッ♪面白〜い♪ねぇ!?剣城っち♪聞いた!?ねぇ!?聞いた!?この児玉六八兵衛義時直隆のギャグ面白かったね♪"



 オレは酷い何かを見たのだろうか・・・。昨今の牛はギャグまで言うのだろうか・・・。しかもあの男みたいな和名でメスですか・・・そりゃ乳が出るならメスな筈だが・・・。


 それにノア嬢的にはあれが面白いらしい。名前もフルネームで覚えてる事が素直に凄いと思う。最早オレよりノア嬢の方が出来がいいんじゃないだろうか。


 ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ。


 "そんなに乳が飲みたいならあーしも出るよ!飲ませてあげよっか♪"


 あぁ〜・・・一気に動物園だ・・・。明日は大変だ。

 

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