明の人達との信頼

 〜ここは高山城から更に山中に入ったとある所〜


 「野田様!これ程までに樫の木やクヌギが要るのですか!?いや、別にチェーンソーなる物があれば、木を切るのは楽ですが・・・」


 「うむ。木炭もそれなりに必要だが、白炭が大切なのだ!この書物によると200〜300度で普通の炭を作った後、空気を入れ出来る限り温度を上げるのだ!1000度あれば出来るらしい!間違えても構わん!これは本国でも秘中の秘ぞ!」


 「普通の炭とどう違うので?」


 「急速に灰や砂で冷ます事により、燃焼時間が普通の炭より高いのだ!今頃、剣城様があの明の女に船を説明しているところだと思う」


 「その船の燃料に使われるので?」


 「馬鹿か!こんな物でエンジンなるものは動かん!ここは剣城様専用の武器開発場所だ!大殿にも島津の殿にも内緒なのだぞ!貴様等の装備もここで作るのだ!その為の鈩もこれから作るのだ!」


 「す、すいません!が、頑張ります!」


 「よし。失敗しても構わん!最初から成功ばかりでは応用が利かないからな。失敗すれば何が原因で失敗したかを追求し、ものにせよ!伝七郎にも引き継ぎ致す故、貴様等は高山武器開発を成功させよ!」


 「「「はっ!」」」





 〜那古屋1番ドック〜


 「はぇ〜!!スターリングエンジンか!燃料は──」


 「はい。俺が説明します。燃料はとりあえず剣城様が出した石炭で動かします。まだカムシャフトやギアの事などが成熟していない為、芳兵衛殿が試行錯誤しておりますので、まずはこの船を朱華殿にお渡しする事に」


 「整備とかはどうするの?」


 「それが恐らくさっき話し合われた事にて・・・」


 「あぁ〜。オレの軍として正式に入るから面倒見ろ、という事かな?」


 「はっ。九鬼様との折り合いもありますが、概ねその通りでございますれば」


 剛力君はそれらしき言葉並べて言っているけど、恐らくギアもカムシャフト?も可変系の事も、やろうと思えばできた筈。


 それをまだ成熟していないと言っているが、その実は恐らく、明に技術を流出させない為だろう。今のところ全員、明の人は従ってはくれているが分からないからな。


 そこまで深い付き合いしていないし。


 「とりあえずエンジンの事は分かったよ。兵装は?」


 「右舷、左舷に直射砲4門ずつ装備、船首に160度回転し、口径の大きい直射砲を1門装備しております」


 おいおい!えらい豪華な装備をつけたな!?大丈夫か!?


 「まあまあ豪華装備だな」


 「はい。製作者は加藤様とその一門衆です。今や国友印の武器は値が張りますからね?そこは朱華殿も了承済みです。だから・・・10発程撃てば砲身が砕けてしまうやもしれません」


 また上手い事したもんだ。絶対にわざと、不純物を入れた大砲を装備してるんだろう。何かの形で朱華さん達が裏切っても、この砲が味方に向いても大丈夫なように、保険か・・・。


 いつからこんな風に剛力君はなったんだ?まるで野田さんみたいだな。


 それに国友印・・・神様印みたいだな。謂わばブランド的な感じかな?


 「まぁ剛力君がいいなら許可するよ」


 「はっ。ありがとうございまする。して、支払いの方なのですが──」


 「そうそう!支払いなんだけど今更銭なんて嬉しくないだろう?だから何で支払おうかと迷っていたんだよ。だから単刀直入に聞くけど希望はないかい?」


 う〜ん。正直欲しい物はない。お金も蔵に山程ある。ネットスーパーの方もかなりチャージしてあるけど・・・あっ!それなら骨董品なんかどうだろう!?


 ダマスカス鋼なんかはイラン・・・今はペルシャかな?あそこ産だったと思う!シャムを経由して明に流れているんじゃないか!?


 それに前に義弘さんに見せてもらった曜変天目!あれらも明ならまだ残存しているんじゃないかな!?


 「曜変天目とかダマスカス鋼とか分かりますか?」


 「え!?だますかすなんとかってのは分からないけど、曜変天目ってあの不吉な色合いの焼き物の事?」


 「そう!そう!多分それです!あれが欲しい!」


 「えぇ・・・あんな物でいいのかい?いや、だますなんとかは確約できないけど、どんな物だい?旧知の明の者に聞けば分かるかどうか・・・一体それは何だい?」


 「ダマスカス鋼・・・包丁や剣でいいのかな?その刀身の部分に独特な紋様が描かれてある刃物です!ペルシャにあるかと思うのです」


 「知らないねぇ〜。またペルシャとは・・・う〜ん。探してみよう。ただ、あたいが直接行けないから、日が掛かりそうなんだけど・・・」


 この言い方は直接行けば、すぐに手に入れられるという事か!?別に行ってもらってもいいんだが、剛力君が首を横に振っているけど・・・。


 「別にいいですよ。直接行けば見つけられるんでしょ?」


 「ちょ、剣城様!?」


 オレはいつかの信長さんが手で制したやつを、剛力君にした。我ながら格好いいと思う。


 「へぇ〜?剣城の旦那はあたい達を信用すると?」


 「まぁこのまま支払いせず、オレの目に入らなければ、この船はただで貰ったようなものですよね?まぁそれができればですがね」


 「というと?」


 「いやいや、そのままの意味ですよ。朱華さん?貴方は損得で動いているでしょう?そりゃあ自国で商いする事の方がいいだろうけど、そんな事すれば二度と日の本に来れないですからね」


 「まぁ我が国の方が優れている!と言いたいところだけど、寧波の都市よりここの方が人こそ少ないけど、物が溢れている」


 「実際にオレは見てないから分からないけど、負けてないと思う。オレだけではないけど、皆が頑張ってくれてますからね。そのオレ達を裏切って帰って来ない・・・って事にはなってほしくないですね?全部言わなくても分かりますよね?もし帰って来なければ・・・地の果てまで追いかけたりはしませんが、オレの目や耳に動向が聞こえれば沈めますよ」


 怖や怖や・・・。やっぱ剣城様だ。普段は温厚にて怒る事なんかしないお方・・・されど一度敵と見做した者には容赦がない。これはこの朱華達、明人を試しておられるのか・・・。


 我等のような信頼関係を築いていない者達だ。銭だけでの関係に近い明の者達を逆手に取り、銭の支払いをするのか確認すると・・・。


 「怖い事言うね?あたい達はそこらへんの明人じゃない!約束は守る!それにあたい達はもうあんたの下なんだから!」


 「おい!朱華!仮にも家臣になるならば言葉遣いに気をつけろ」


 「いや、剛力君。構わないよ。外国の言葉をここまで流暢に話す事が凄い。あまりそこは気にしないからいいよ」


 「はっ」


 「まぁとにかく、朱華さん達には期待してますよ。特に曜変天目!これに期待しています」


 曜変天目・・・今現在はお金には困っていないけど、以前信長さんに自慢されたからな。今度はオレが自慢して、農業神様に買い取ってもらおう。億円レベルじゃないかな!?


 「では、剣城様?決定で構いませんか?」


 「うん!いいよ!」


 「朱華!決定だ!」


 バンッ バンッ


 いやいや、剛力君よ!?そのハンコの押し方カッコいいな!?大きく手を振るのか!?クッソ!オレが手で制したのが古く感じるじゃないか!



 「剣城殿〜!!ここにおられましたか!?」


 「あれ!?遠藤さん!?そんな息切らしてどうしたのですか?」


 「あっ、いえ。申し訳ない。商談中だったか!?」


 「いやいや構いませんよ。朱華さん?後は剛力君に任すからちゃんと聞いて、適当に出港していいですからね?道中、気を付けて!」


 「いや・・・どうも将軍が剣城殿の配下の女を所望して・・・」


 「は!?誰!?誰をですか!?」


 「鞠を連れて来いとの事で・・・」


 「オレが行きましょう。遠藤さん!すいません!帰りますよ!」


 


 「将軍って言やぁ〜、日の本を名目上統べている足利なんとかって男だろう?」


 「そうだ。まぁ剣城様はあまり気に入っておらんようだがな。おい!ここに名前を書いてくれ」


 「ふぅ〜ん。どこの統治者も実力が無い者は色欲に負ける者なんだな。よし!これでいいか?」


 「うむ。これで正式にこの船はお前達の物だ。兵装や弾は最低限積んである。無くなれば今後は銭で購入してくれ。この辺一帯で売ってある。どれも規格は同じに作っているから、同じ所から購入するのではなく、色々な所から購入してほしい」


 「何でだ?」


 「工房には大小ある。女手だけの工房もある。だがどうしても、多少の差異がある。実害は無いが、噂が噂を呼びここの工房はダメだと噂が立てば、そこの工房は使えなくなる」


 「ふ〜ん。分かった。極力色々な所から購入する事にするさ。それで私達が目当ての物を持って帰れば、正式に尾張に住めるのか?」


 「それは大殿次第だ。剣城様が口添えしてくれよう」


 「分かった。あんたはあまり私達の事、気に入っていないようだけど、あまり目の敵にしないでおくれ。部下も頑張って日の本の人間になろうと努力している」


 「・・・・・これが俺の任務だ。俺が信じられるようにしてくれ。あと・・・これを渡しておく。ペルシャや明がどういう所か分からん。それにお前達が明でどういう立場かも分からんが、味方が多い事はないだろう?」


 「これは・・・火縄・・・いや違う・・・これはあんた等が使っている鉄砲!?」


 「そうだ。何か争いに巻き込まれ死なれれば俺達は丸損だ。死ぬなよ?」


 「ふん。いい男じゃないか。剛力?あたいが個人的に何かあんたにも土産を持ってこよう」


 「抜かせ!じゃあ俺は違う仕事に行くぞ」

 

 

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