足利家の常識

 「とまぁ、隙あらばすぐに女に手を出そうとする人でしたよ」


 モグモグ


 「確かにあれは、武家の頂点に立つ男ではございませんな。あっ!小見殿!それはワシの沢庵・・・」


 「三左衛門殿は塩分を控えなさい!」


 モグモグ


 「いや、ワシは・・・」


 「そうですよ!爺は歳も歳なんですから塩分控えないと、早死にしてしまいますよ!筆頭家老なんでしょ!?」


 「ゆき・・お前までなんという・・・」


 「小川さん?一応、オレの奥方になるんですよ!?」


 「い、いや我が君!すいません!!」


 「まぁ、好きな物食べてストレス無く過ごすのがいいですけど、塩分、糖分の摂り過ぎは良くないですよ!とりあえず、オレはあの人が苦手です」


 「苦手と言っても足利の血が流れている方・・・。あの人を筆頭に、今は武家が成り立っているのですよ」


 小見さんが言った事はこの時代では当たり前の事だ。腐っても足利家。征夷大将軍は足利家の為にあるような役職だ。


 だが、その常識もあと少しすれば覆る。


 「まぁ、ワシはこの乱世も一つに纏められぬ征夷大将軍なんぞ、甚だ疑問ですな。ぬぉっ!?ゆき!それはワシのちりめん味噌・・・」


 「筆頭家老なんでしょ!?こんな物ばかり食べては駄目です!いつか私と剣城様の、やや子を抱きたいんでしょ!?」


 やや子・・・子供だよな。確かに小川さんが教育係に・・・。


 「いや、小見殿まで漬け物だけではなく、醤油まで取り上げるのですか!?」


 「健康第一!年老いた妾達は塩辛い物は控えましょう。ですよね?剣城殿?」


 「ははは!小川さん!今日は我慢しましょう!」


 「我が君まで・・・1日の楽しみが・・・」


 そういえばそろそろ、濃姫さんのお腹も大きくなってきた頃かな?予定は10月くらいだとは思うけど。琴ちゃんにでも今度聞いてみよう。



 暫くはオレはする事がない。まぁする事がないと言えば嘘になるが、急いでする事はない。上洛に向けてではあるが、今度は本当の意味で準備がある。


 三好を京から追い出す為だ。だが、追い出す為と言っても、戦乱続きの京で大攻勢を仕掛け、領民達の家を壊したり、信長さんお得意の魔法『ヒゼメニシロ』は、言わせたくない。


 隙あらばすぐに『燃やしてしまえ!』や『灰塵にしろ!』と、言ってしまう人だからな。


 「剣城君!どこへ行くのだ?」


 「あっ、義弘さん!こんにちわ!別に特段どこか行くつもりはありません。まぁ視察?みたいな感じですよ!岐阜は慣れましたか?」


 「いやはや、南蛮のような様相だな?まぁおいは南蛮を見た事はないが」


 「多分、南蛮より数倍岐阜の方がいい所だと思いますよ」


 「うむ。おいもそうだと思う」


 「島津のお殿様!採れたての大根できむちを作りました!味見を!」


 「うむ!今行く!まぁおいはこんな感じだ!下々の民の暮らしを観察するついでに、色々な家に泊まらせてもらっているのだ!一宿一飯の恩義だな!」


 「そうなんですね。他の方は身分とか言う人が多いのに」


 「おいはそんなつまらん事は好かん!国とは民だ!民が元気じゃないと国は栄えん!ここは薩摩より民が生き生きとしている!」


 島津さんも慣れたようだな。側近の新納さんも心なしか、薩摩の時より表情が柔らかくなったように思う。



 「お疲れ〜!芳兵衛さん!やってますか?」


 「おぉ〜!剣城さん!こんにちわ!警備大将お疲れ様でした!」


 「ありがとうございます。金剛君から聞いたのですが、朱華さんの船が出来上がったとか?」


 「そうです!那古屋の1番ドックで製作に入り、出来上がっております!お館様から許可もいただきました!」


 「へぇ〜!なら後はオレの許可待ちって感じですか?」


 「そうです!ただ、明の人達はここがかなり気に入ったみたいですよ?那古屋に家まで建てて『領民になりたい』と、言ってる奴も居るみたいですよ?」


 「領民って・・・朱華さんが許さないでしょう!?」


 「それが・・・あの女頭領もその件で相談があると言ってましたよ?まぁ、何となく察しは付きますけど」


 芳兵衛君の察している事とオレが察している事は多分、同じだと思う。まぁ本人に聞いてみるか。


 

 オレはそのままの足で那古屋に向かった。久しぶりに大黒剣に乗ってだ。ノア嬢でも良かったが、児玉何某さんと戯れていたから、そっと離れたのだ。


 例の1番ドックにはすぐに到着した。道も舗装が進んで走りやすい。人力車やゴムタイヤを装着した荷車を引いてる人も多い。


 「あら?剛力君、今日はここに居たんだ?」


 「剣城様、お疲れ様です。視察ですか?」


 「うん?いやいや、明に売る船の最終許可を出さないと、朱華さん達は帰れないんだよね?その許可を出しに来たんだよ」


 「そうでしたか。いや、てっきり剣城様は忙しいかと思い、俺が色々纏めて紙にスペックを書いて、ハンコだけ押してもらおうかと思ってたのですが、その手間が省けました」


 やはりデキる男、剛力君だ。どこぞの大膳君とは大違いだ。


 「ハンコ持ってきてないから、剛力君が押しておいていいよ」


 「いや、それはいけません!ちゃんと剣城様に──」


 「オレは剛力君を信用してるし、剛力君がいいと思うならそれでいいんだよ。責任はオレが取るから!それより、朱華さんはどこに──」


 「あら?久しぶりだね〜」


 倉庫で剛力君と話していると、少し日焼けした朱華さんが現れた。


 ズボンを履いているが、太ももまで裾を捲り内ももまで見えている。正直エロい。


 「お久しぶりです。なんでも、オレに相談があるとか?」


 「少し俺は外します。外で待っています」


 やはりここでもデキる男の剛力君だ。


 「ここまで良くしてもらって、更にお願いするのは図々しいとは思うけど、単刀直入に・・・。あたい達を正式にあんたの麾下にしてもらいたい!」


 「は!?オレの家臣って事!?」


 「そうさ!島津のおとっつぁんの倅も居るんだろう?」


 「義弘さんの事?」


 「そうさ!別にあたい達は誰かの下につく事はないけどさ?島津のおとっつぁんには世話になったからね。けど、それとは別。まず薩摩との定期船にはあたい達を使ってほしい。あたいはできればあんたに使ってもらいたい」


 確かに水夫が多いのは嬉しいけど・・・。


 「けど、確か明のなんとかって人とケリつけたいとか、なんとか言ってなかった!?」


 「その件はすぐにと言う訳ではない。ここであたいはあたいで力をつけて、明を見返したい。信じてもらえないだろうか?」


 「その明を見返す事にオレを・・・織田を踏み台にすると?」


 「いやぁ〜、日の本の言葉は難しい。聞こえ方は悪いかもしれない。だが決して利用しようとは思わない。必ずあんたと織田様に利を生み出してみせる!」


 何だろう。損得だけの関係に聞こえるけど・・・。


 まぁこれはこれでいいかな。信頼は徐々に・・・。


 そしてその後、剛力君と朱華さんとオレでドックに向かったが・・・。


 「あ、うん。見るだけで分かるやつだ」


 「はい。我々の旗艦よりかは幾分型遅れになりますが、それでも現行の明の船や南蛮の船より確実に、いい装備でしょう」


 剛力君がドヤ顔でオレに説明してくれた船・・・船底にでっかいスクリューが装備されてんだけど!?

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