織田家の道筋

 この岐阜に向かう道筋は今後、織田が絶対に途絶えさせる事をしてはならない道だ。日の本を統べる京に向かう道・・・。まぁ今は東に進んでいるから逆だが。


 見るからにダメな人と分かる足利義秋・・・恐らく少しすれば義昭と改名するだろう。


 その義秋を連れて信長さんが上洛・・・その上洛に伴い、北畠、六角、浅井、朝倉で上洛する手筈となっているが・・・多分六角は史実通り敵対するだろう。北畠はオレが現れ、滝川さんの元、あのなんとかという土管のお陰で、今や海産物が余剰に取れているから、伊勢は潤っている筈だ。


 だからか・・・六角は手紙を無視しているが北畠はまさかの・・・。


 「では、我が君は北畠如きを陣営に迎え入れると?」


 「いやいや、小川さん!?如きって言葉悪すぎでしょ!?名門ですよね!?北畠家って!?」


 「まぁ伊勢国司ですからな。それなりにプライドなるものはあるでしょうが、まさか降るのではなく順応するだけとは、先が見えてない愚か者とワシは思いますが」


 「まあそれなりにプライドはあるでしょう。滝川さんの手腕で神戸家と工藤家でしたっけ?あそこの2家も味方になってくれたし、無駄な争いをしない選択するのは中々ですよ」


 「まぁ確かにそうですが、北伊勢を我が君が屈服させた折に、北畠も織田の軍門に降るべきだった、とワシは思いますがね」


 「爺!声を静かに!将軍が起きればどうするのですか!」


 「なっ!おい!鞠!その言い草は何だ!我が君も言うて下され!筆頭家老のワシを女が馬鹿にするのですぞ!?」


 「ははは!それでこそ小川さんですよ!これからも頼みますよ!筆頭家老!」


 この筆頭家老・・・特段オレは誰がなろうが気にしない。むしろ、小川さんが最近では常に一緒に居るから、金剛君や剛力君より小川さんに正式になってもらったのだ。


 家老とは何か・・・要は家臣の纏め役及び直轄地の政治などを行える程の、権限がある者の事らしい。これは自称、軍師の竹中さんに教えてもらった事だ。


 「まぁ、剣城殿の家は他所とは毛色が違い過ぎですからね?まぁ、本人がなりたがってるのなら、任命すればいいのでは?小川殿は剣城殿に心酔してるようですし。あっ、私は参謀として、内から外から剣城家を支えましょう!」


 と、竹中さんも要望を出して来たので、オレの家では家老が小川さん。甲賀隊隊長は慶次さん。部隊長は望月さんになってもらっている。まぁ特段、今までと変わった事は無いが。



 3時間も走るとようやく織田家の・・・剛力君が作った家々が並ぶ所に入った。森さんや木下さんの隊の人達も、一糸乱れない行軍だった為、オレは練度の高さに驚いた。時刻は夕方だ。


 本来なら一泊しないといけないだろう。だが、直轄の軍の人達は農業神様の恩恵で、スーパー兵士になっているから疲れ知らずだ。オレ?オレはノア嬢のお陰で何もしていないから疲れていない。


 手筈通り、岐阜の信長さんの手の届く場所に来たら、義弘さんも合流しての凱旋ならぬ着陣?になる筈だが・・・。


 「剣城君、御苦労!将軍は中かな?」


 「それが・・・」


 「なんと!?寝ておると!?」


 「寝てるというか、眠ってもらったと言えばいいですかね・・・。だからとりあえず目を覚ましてから挨拶、ということでいいですか?」


 「まぁとやかく言っても仕方がない。剣城君に任そう」


 新納さんや義弘さんもここ1番だからか、国友さんや加藤さんに頼み込んで作ってもらった、ガラスをプレスして砕いてゴムの木から採取した樹脂に絡めた、ガラス繊維甲冑を着ての出迎えだが、肝心の義秋さんは未だ眠っている。


 「鈴ちゃん?そろそろ起きてもらわないと、折角皆、領民にも道端に並んでもらうように言ったのに、意味が無くなってしまうよ・・」


 「すいません!将軍様!起きて下さい!岐阜に到着ですよ!」

 

 「う、うにゃ」


 チッ。気持ち悪い声出しやがって。オレの配下に手を出しやがって!

 

 「将軍様!岐阜に到着致しました!」


 「い、いかん!予とした事が眠っておったか。うん?そちは誰だ?」


 「薩摩守護 島津貴久が次男 島津義久でございます」


 「うん?薩摩?何故、薩摩の者がここに居る?」


 「将軍様、私が説明しましょう。実は薩摩と尾張は友好関係を築いているのです。互いが互いの領土に人を交換して、薩摩の事や尾張の事を学び、貿易し、時に損得だけではない友好関係を築いています」


 まぁ、話大きく盛った訳だが。まだそんなに交易すらしてない。だが、もう間も無く今言った事を行うようになるだろう。


 「ふん」


 感じ悪っ!鼻で返事するなよ!?


 「岐阜での将軍様の警護は、薩摩と尾張の兵にて行います」


 「見事、予を守ってみせよ!予は足利幕府 第15代 征夷大将軍になる足利義秋ぞ!」


 いやいや、何勝手に宣言してるんだよ!?まだ帝から勅命されてないだろ!?調子乗ってるとは正にこの事だな。


 更にこの人はもっと調子に乗った。沿道というか、道に配置した岐阜、美濃、尾張、三河、甲賀から集めたアルバイトの人達に手を振っている。まずはオレ達が通れば頭を下げて、馬車が通り過ぎれば歓声を上がるように指示を出していたのだが・・・。


 「うむ!うむ!苦しゅうないぞ!予が足利義秋ぞ!」


 「キャァ〜!将軍様!!!」「将軍様!ばんざーい!!」


 「「「ばんざ───い!!」」」


 誰もそこまで言えとは言っていないが、気付けば『ばんざーい!』の声に、岐阜の町が包まれていた。


 「予が見事、この乱世を鎮めてみせる!」


 残念。義秋さん?この日本を統べるのは信長さんただ1人だけだ。あの人ほど革新的な人はいない。あの人ほど合理的な人もいない。あの人ほど、感情を出すのが下手くそで情に厚い人はいない!オレは信長さんの天下を見たいんだ!



 「如何でしたかな?将軍!」


 「おぉ!!信長殿ではないか!!!」


 「配下が不手際をしなかったですかな?まぁまずは我が城へお越し下さい。今宵は手前が考案した、尾張かれーと岐阜かれーをお出ししましょうぞ。酒も女もお楽しみ下さい」


 「むほほ!!さすが織田殿は分かっておる!浅井のような世間知らずの若い者は、予を軽んじておるような振る舞いだったからな!おっと・・・今のは聞かなかった事にしてくれ」


 「皆の者!今のは聞いてないな?将軍はお疲れじゃ!」


 ハイ出たよ。また信長さんの魔法の言葉・・・『キカナカッタコトニシロ』だ。


 ちなみにだがアルバイトをしてくれた人達は、極力貧しい人達を選別してある。吉蔵さんが海から船で三河船を出して、送迎してくれたのだ。


 後は野府の方や那古屋の方まで、各地の未亡人や畑を耕せない人達だ。オレが1日10万円という超超破格な給料を提示したから、倍率は1000倍を超えていたらしい。まぁ詳しい計算は金剛君にお願いしたから、分かってはいないけど。


 そんなに給料出しても、蔵のお金は全然減っていない。ちなみに、岐阜城詰めの足軽頭の人達の給料が10万円だ。これがどのくらい破格なバイト代かと分かるだろう。


 

 「ふぅ〜・・・やっと終わったか。よーし!皆の者!解散!!」


 「お疲れ様でした。木下様、森様、ありがとうございました」


 「うむ。ようやっと出迎えができた。見事な采配だったぞ?剣城!」


 「ははは。森様、お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます。後で、お酒でもお持ちしますね」


 「おっ!流石、警備隊長だ!楽しみにしているぞ!よし!最後の声掛けだ!剣城!最後くらいちゃんと締めろよ!」


 「分かりました・・・皆さん!此度もありがとうございました!無事、何事も無く将軍をお迎えできました!次は上洛になります!また連絡致しますのでよろしくお願いします!特別俸給です!私の配下の金剛、剛力、隼人の元へ並んで来て下さい!」


 「「「「「ウォォォォォォ────ッ!!!」」」」」


 「何じゃ?特別俸給なんぞ聞いておらんぞ?」


 「木下様!これはオレが考えたものですよ。今回来てくれた人達は精鋭の人達でしょう。けど、身入りの無い任務なんてつまらないでしょう?あの将軍が褒美なんかくれる訳ないですし。だからオレから渡すのですよ。酒やお菓子と少しの銭ですよ。木下様には山先25年のウイスキーを用意していますよ」


 「おぉ!流石、隊長!次も頼むぞ!こらぁ〜、貴様等、ワシが先だ!!」


 相変わらず、木下さんは山先のウイスキーが好きなんだな。

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