見れば分かるダメな人

 オレ達一行は長浜に向かっている。去年、撤廃させた不破の関所を通り、関ヶ原を抜け長浜に入る。


 ここまで来れば浅井さんの兵達が居る。ところどころにある民家の人達も、オレ達を見ているのが分かる。この気分は気持ちいい。


 「がははは!我が君!腕が鳴りますな!」


 「いやいや、戦じゃないんですけど!?」


 「いや。ワンチャン、将軍を狙う不届き者が居るやもしれませぬぞ!?」


 いや、爺さんがワンチャンとか使うなよ!?むしろ不届き者が現れるのを、待っているかのようじゃないか!?


 「織田軍 芝田剣城様 森可成様 木下藤吉郎様とお見受け致しまする。某、浅井家 直臣 雨森清貞と申します」


 「はい。私が芝田剣城です」


 「将軍は長浜の仮御所にて休憩してもらっております。案内致します。こちらへ」


 案内された場所は、長浜より南の中山道 柏原という所だった。ここは宿屋が多く並んでいる場所だ。飛脚の人が夕方や遅くなった時、関ヶ原や伊吹山越えが時間的に難しくなった時に、一泊する所だ。


 そして、その中に一際異彩を解き放っている豪華な建物・・・。剛力君が作った、オレが農業神様にお願いして作ってもらった、金の色紙だけ入った物を購入し、貼り付けた後、表面にも糊付けし雨にも強くした金の家だ。


 ちなみに、これだけの為に金の色紙500枚程使ったそうだ。剛力君には落ち着けばちゃんと、お礼しようと思う。この功績は浅井さんに手渡してあげたしな。


 その金の家に近付くと、これでもか!?ってくらい、浅井さんの兵隊が家を囲んでいた。


 「織田軍 警備大将 芝田剣城です!」


 「浅井軍 警備頭 宮部継潤です」


 「早速ですが引き継ぎをしたいのですが・・・。宮部様?お顔が優れないようですが?」


 「いえ、何でもありません!気のせいです」


 いや、明らかに目の下のクマが凄いんだが!?


 「金剛君?栄養ドリンクを渡してあげて!」


 「はっ。剣城様の家臣 金剛です。どうぞこれを。体が楽になりまする」


 「御配慮、痛み入る・・・(ゴグッ ゴグッ)」


 「どうです?楽になりましたか?睡眠はしっかり取らないといけませんよ?心配なら岐阜に来れば病院で──」


 「いや、大変楽になりました。むしろ以前より調子も良くなりました。はぁ〜・・・」


 「どうされたか?」


 「貴方様は武勇の誉れ高い、織田軍随一の森様ではございませんか?」


 「如何にも・・・某が森可成である」


 「おぉ〜!噂は予々・・・いや、すいません。失礼を言った。正直、将軍の御相手は少々骨が折れました・・・。後はよろしく、お願い御頼み申す」


 ポン ポン


 「浅井殿にも我が殿にも其方の事は伝えておく。大変よくやったとな。ご苦労!剣城!行こう」


 いや、やっぱ警備大将は森さんの方がいいと思うんだけど!?それに骨が折れたって・・・我が儘なのか!?


 「何じゃ!この飯は!?越前ではエビや魚の刺身が食べれておった!だがこの混ぜご飯とは何ぞ!?愚弄しておるのか!?」


 「そう言われましても・・・火の通ったものじゃないと、将軍様のお体に何かあるといけないものでして・・・」


 「予はそんなヤワではない!酒は!?酒は無いのか!?」


 あぁ〜分かってしまった。実際にはまだ将軍じゃないのに気分を良くしてもらう為、信長さんが皆に将軍と呼ぶように通達して、それが徹底されてるから有頂天になり、調子に乗ってるんだな。


 この手のタイプはオレは嫌いだ。あれと相対してるのは三田村さんかな?可哀想に・・・。


 「失礼します。遅れましてすいません。織田軍 警備大将 芝田つ──」


 「遅い!予をいつまで待たせる気だ!飯は美味く作れない出さない、待たせる!お前達はこれが何ということか分かっておるのか!?ん?」


 ここで機転を利かせたのは木下さんだ。


 「織田軍の木下藤吉郎です。将軍におかれまして天上人、武家の頂点になるお方・・・。もしもの事があればこの事に関係した皆が、天の大罪人になってしまいます。もう暫しの我慢をお願い致します」


 「う、うむ。木下か。うぬはよく分かっておる。こら!浅井の!木下殿の言う通りじゃった!許せ!見事、予が上洛すれば此度の事に褒美を出そうぞ!約束する!」


 なんだ世間知らずか。と、思うが以前のオレならここで終わりだろうが、今なら分かる。この義秋さん・・・流されやすい馬鹿だ。


 「ふん。他愛ない。この手の者はワシに任せろ」


 小声で木下さんがオレに言ってくれた。けどマジで助かった。オレはこの手のタイプは本当に苦手だ。ちなみに今の出来事だが、森さんも木下さんを労っていた。一目で森さんも義秋さんを察したのだろう。


 これから岐阜に向かう訳だが、馬車は同じだが、馬車を引く馬は織田家の馬になる。それは勿論・・・。


 "キャハッ♪剣城っち♪大切な人なんだよね!"


 "そうなんだ。ノアには悪いけど頑張ってくれるかな?"


 "オッケー♪凄く速く、かなり速く、めっちゃ速く、瞬足、豪速、どのスピードがいい?"


 いやいや、ノア嬢さんや!?何でどのスピードも速くってつくんだい!?最後の瞬足と豪速とは何が違うんだい!?


 "いや、速くなくていいから!普通にお願い!間違えるとオレが怒られるから!!"


 "キャハッ♪了解!"


 「将軍様、お待たせ致しました。馬を交代できましたので出発できます」


 馬車の中には鈴ちゃん、鞠ちゃんに相手をお願いしている。何かイヤらしい事をしてくれば、ラベンダーの香りの神様印のアロマを渡しているから、眠ってもらう手筈になっている。


 オレの配下の、しかも年端のいかない女の子を、簡単に抱けると思うなよ!?


 「ふん。遅いな。もっとキビキビ動け!よし!予は織田に向かう!進軍開始じゃ!うん?ほほほ。良い女子じゃ!もそっと近う寄りなさい」


 いやいや、何であんたが音頭取ってんだよ!?しかも進軍って失礼すぎじゃないか!?


 「鈴ちゃん、鞠ちゃん、お願いね」


 「「はっ!」」


 オレが馬車を操縦しているから、何かあればいくら将軍とてオレは許すつもりはない。だがそんな心配はどこへやらだ。


 出発して間も無く、後ろからイヤらしい声が聞こえたのだ。だが、鈴ちゃんが上手く誘導して眠ったみたいだ。


 「将軍様はお疲れの様子・・・そのお疲れを私が癒す事ができれば・・・」


 「むほほほ!構わぬ!予が召物を脱がしてやろう!ほれ!女!お主は誇るがよい!将軍に抱かれた女だ・・・と・・・(グガーッ)」


 トントントン


 「はいはいどうした?早速眠ってもらったの?」


 「剣城様、すいません。気持ち悪い手付きで股に手を入れてきたので、眠ってもらいました」


 「は!?ま、ま、股に手、手をだと!?鈴ちゃんのか!?」


 「あ、いえ、右手は私で左手は鞠に・・・」


 クッ・・・両手に華とはこの事か!?羨ま・・・けしからん!!!


 「剣城様もそんなに気になるなら、夜に呼ばれるなら向かいますよ?あっ、ゆきには上手く言って下さいね?」


 ぐぬぬぬ・・・試練か!?これは試練なのか!?


 「私も・・・剣城様となら・・・」


 「ぬぅぉぉぉぉ〜〜〜!!!二人ともストップ!!オレを惑わさないでくれ!!!」


 「クスッ。冗談ですよ?そんな事すればゆきに殺されてしまいますよ」


 "キャハッ♪剣城っちはそんなに女に飢えてるんだ?あーしが相手してあげよっか?"


 ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ


 「痛い痛い!ノア!やめてくれ!」


 「何じゃ?剣城!馬と戯れるのは後にせい!」


 「木下様!違うのです!これは違うのです!」


 「ははは!人馬一体とはこの事だな!剣城の馬と剣城は相思相愛じゃな!」


 「森様までなんて事言うんですか!?」


 "キャハッ♪また夜にね!!"


 いやいや、何を夜にするんだよ!?夜は普通に寝るんだよ!!

 

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