2ヶ月の成長

 季節は8月・・・真夏だ。オレ達が薩摩から帰って来てから、既に2ヶ月経っている。この2ヶ月の間に色々新しい事を始めた。


 まず義弘さん達。薩摩の人達の家だが佐久間さんが監督で、岡部さんがオレの家に負けず劣らずな家を建てている。


 義弘さんはこの2ヶ月でかなり学んだみたいで、オレの家の敷地内に設置している射撃訓練場を度々訪れて、国友大筒銃MK-2と銘打っている、口径の大きい銃を毎日撃っている。


 座学の方は沢彦さんの学校で老若男女、岐阜の領民に混じって学んでいるそうだ。特に信長さんの強権にて制定した、12進法やメートル法を完全に覚えたようだ。


 一方で、新納さんに関してはクールな宿老って感じかと思いきや、甲賀隊の若い子達に混じって1番撃ち込んでいる。


 「剣城殿!!薩摩の鍛治師が作った鉄砲より真っ直ぐ飛び、この銃は楽しいですな!!」


 と、楽しみながら射撃演習をしている。


 国友親子が作った新しい船の数々・・・試作や小型船なんかも含めて、かなりの数が出来上がっている。ちなみに朱華さん達だが、那古屋で働く班と芳兵衛君の下で働いている班とで、分かれているみたいだ。


 例の船・・・そうだ。スターリングエンジンの船を、朱華さん達に渡す事になっている。歯車を使いスクリューを逆回転させる事で、バックも可能な船との事。オレも那古屋の海で確認している。見た目は現代で走っていても遜色のない船だ。


 船全体にFRPを塗り一際大きく頑丈な船だ。


 一応受け渡しは済んでいる。信長さんの許可も貰っている。だが朱華さん達、明の人達は織田軍の名のある将専用の船を見たい、との事。信長さんの旗艦、オレの1番攻撃艦や、森さんの2番攻撃艦などだ。


 ただこのまま別れるのではなく、どうも信長さんと朱華さんはオレも聞いていない事など、色々密約をしてるみたいだ。それが何故分かるかと言うと一度、明に戻った後も薩摩や日向に戻るのではなく、ここ那古屋に戻ると言っていたからだ。


 そして義秋さんを迎える準備だ。友達感覚で来ていいよ!とかはならなく、家から調度品、召使いの人まで、身元がはっきりしてる人を選ばないといけないとか、食材、着る服やらスケジュールなど、色々決まり事があるみたいだ。普通の行軍とは違い、装飾の多い装備をして煌びやかに見せないといけないとか、まぁかなり面倒臭い。


 「まぁ本音ではそう思っても、間違っても足利様の前では言うんじゃないぞ?」


 「当たり前です!森様の前だから愚痴ってしまってるだけですよ。すいません」


 「うむ。まぁワシの前では好き勝手言ってもいいが、気を付けよ」


 「はい!それでですが、どうしてもオレの配下の人達を使おうとすれば、異質に見えてしまいます。ですので、良ければ森様を義秋様のお側に置く事を、許していただきたいのですが・・・」


 オレの直属の人達・・・金剛君や剛力君はまだいい。小川さんなんか間違いなく、ハルモニアのスーツ?を着るだろう。小泉さんなんかも小川さんに負けじと、チェーンメイルだっけ?なんか変な名前の西洋の甲冑を、最近は装備しているし・・・。


 「それは構わないが警備隊長は剣城、お主なのだぞ?」


 「ありがとうございます!オレは別に隊長になりたかった訳ではなかったのですが、信長さんが決めてしまいましたので・・・」


 「恐らくそろそろ、次の段階を考えているのではないか?剣城の配下はワシ等よりは幾分頭数は少ないが、戦闘力ならば織田軍随一だからな」


 確かに装備や肉体的にも生え抜きの集団だよな。小川さんなんかも70も近いのにシックスパックだもんな。


 「ありがとうございます。褒めてもらい嬉しいです。では、近衛って言っていいかは分かりませんが、1番近い警備は森様の配下でお願いします。身の回りの世話はオレの配下の女の子達に、してもらうように致しますので」


 「うむ。相分かった」


 これが佐久間さんならブチギレ案件だろうな。何でワシがお前の言う事を聞かねばならぬのだ!!ってな。森さんはいつ見ても優しい。分からない事も、聞けば何でも教えてくれるしな。



 出迎えする為と、お迎えに行く軍の選抜を考えている。8月2日の今は夜の19時だ。恒例の家の人、皆で食べる夕食だ。


 今日の夜ご飯担当は未亡人の、おせんさんだ。未亡人アルバイトのおばちゃんの1人で、メニューはキムチ鍋だ。暑い日に辛い物を食べようと小川さんのリクエストだったが、オレが出したキムチ鍋の素で作ってくれた鍋だ。まぁ味は普通に美味い。


 それに暑いと言ってもオレは然程だ。ゴッドファーザーが作ってくれた体だからか適温だ。さすがに日中の外は暑く感じるけど。家はエアコンガンガンの部屋だから涼しいのだ。


 その涼しい部屋の中の夜ご飯の途中に、小見様が色々アドバイスをくれた。


 「何を悩んでおるのです?この家もこの近くに居る皆も、あの武勇の誉れ高い森殿も、全部此度は剣城殿が差配するのですよ?剣城殿は自分の思う配置に人を置けばよい」


 「いや、まぁそうなんですが・・・。やはり森様や木下様など目上の方ですので、気が引けるというか・・・」


 「それこそ気を遣い過ぎですよ?婿殿が剣城殿をお決めになったのでしょう?足利様を・・・将軍様をお出迎えできる程の男は剣城殿しかいない、と考えての事でしょう。自信を持ちなさい」


 この小見様の『自信を持ちなさい』。この言葉で吹っ切れた。


 オレは何をウジウジしてるんだか。別に毛色の違う兵隊が居てもいいじゃないか!別に身分を気にしなくていいじゃないか!オレだって元は褌男だったんだ!それが2年掛けてここまで来た!


 ゆきさんと式こそ挙げてないが結婚もできた!まぁこれも祝言すらまだだが。


 とにかく、身分で人を配置するのではなく、信頼のある人を配置すればいいんだよ!



 それから更に7日後・・・少数精鋭で向かう事とした。日数やら行軍予定やら全てをオレに任す、と信長さんに言われたのだ。ここまで何もかもオレに任せられたのは、初めての事だ。


 森様からおよそ3000名。木下さんから1000名。甲賀隊の動ける人全軍・・・合計4532名だ。


 何故こんなに正確なのかというと、できる男の金剛君が出仕表を作ってくれて、オレが確認したからだ。


 綿密な計画を立て、浅井さんも入れた壮大な計画の第一歩・・・一乗谷から敦賀までは、朝倉軍が面倒見てくれる事になっている。敦賀から長浜まで浅井軍。長浜からここ岐阜城までがオレ達となっている。


 そして、暫く岐阜を堪能した後に・・・織田軍を旗印に徳川軍、浅井軍、六角軍、北畠軍を引き連れ上洛する手筈となってはいるが、これはまだ先の事だ。岐阜に連れて来た。じゃあ来週上洛します!とはいかないのだ。


 色々形式なんかもあるみたいで、京の公家や公卿との連絡、元足利義輝の軍も同道しなくてはいけないらしい。そして、現在京都を牛耳っている三好も、どうにかしないといけない。


 この三好に関しては、とりあえずは信長さんに任せている。ちなみに、ボンバーマンさんは既に文は出してるそうだ。意外にも松永さんもやり手みたいで、それなりに京では権力があるそうだ。これは飛鳥井さんからオレ宛の手紙で知った事だ。


 まぁ楷書体を覚えたと言っても、手紙の後半は興奮しながら書いたのか、ミミズの張った字になっていて、ゆきさんに読んでもらったのだが。


 まぁとにかく壮大な織田軍の今後が決まる作戦だ。それをオレが始める事となる。


 1563年8月9日 岐阜城 城下 大時計の時刻で午前7時・・・織田家当主 織田信長が考える壮大な日の本を統べる飛躍の一歩を、元褌一丁から始まったオレが踏み出す。


 「森様!木下様!これより・・・長浜に向かいます!オレに力を貸して下さい!!」


 「よいよい。そう気張らなくとも皆、お主に着いて行く」


 「そうじゃぞ!森殿の言う通りだ!まさかワシがお前の背中を見る事になろうとは、夢にも思わなんだ。だが嫌な気分ではない!剣城!見事ワシを動かしてみよ!」


 オレに付けてくれた人がこの2人で良かった。信長さんの優しさだろうな。


 「織田軍総勢4532名の皆さん!歴史に残る行軍となるでしょう!初めてオレを見る人、以前見た事ある人も居るでしょう!オレは元は何も無い男でした!けど今はこんな風に皆を纏められる地位まで来ました!」


 カッコつけて鼓舞するかのように、例の拡声器で挨拶をしている。そしてこの時に、オレは絶対に言おうと思っていた事があるのだ。


 「剣城!長い!早うせい!」


 チッ。木下さんめが!せっかち過ぎだろ!?今いい気分なんだよ!


 「(スゥ〜〜〜)・・・・生に果てあれど名に果てはなし!」


 決まった・・・これをずぅ〜〜〜っと言いたかったんだ!


 「剣城や?我らは戦に行くのか?」


 「え!?」


 「いや確かに戦時のような口上だな?」


 マジか・・・確かに警護任務だから間違えたか!?恥ずかしいじゃねーか!?


 「将軍出迎えの軍、副将の森可成だ!己等ッッ!!!歴史に名を残せッッ!!!!」


 「「「「オォォォォ─────!!!」」」」


 クッ・・・森さん!!美味しいところ全部持っていきやがったな!?兵もすっごい雄叫びなんだが!?

 

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