緊張の糸が切れた芳兵衛
芳兵衛君の説明は、やたらコアな話をしてオレは正直、全部は分かっていない。要はカムシャフトをレバー、一つで変更してスクリューを逆回転させるとの事。
多分未来の船も、似たような感じにしてるのじゃないだろうか。
「それともう一つ。試作すらまだですが電気なる物は何かと、分かってきたような気がします。このタービンエンジンの回転を利用した発電機を、直近で開発したいと思っております」
「確かに回転運動によって電気は生まれるけど・・・コイルやらなんやらはどうするの?磁石も作らないといけないよね!?」
「はい。俺の頭の中では構想が出来上がっていますが、なにぶん下の者達は分かっておらぬ様子で、まずは分かってもらわない事には始まりません」
確か『年単位掛かってもいいから』とダム作りの時に言ったと思うが、もう試作手前まできているのか!?本当にすげぇ〜や。
「鉱石から銅やアルミニウムの抽出とかで、要る物があれば言って下さい。芳兵衛さんには何でも出しましょう」
「ならば・・・プレス圧縮機、粉砕機、工業用コンパウンド、採掘機などあれば今後捗ります!!」
確かに何でも出すとは言ったが、マジで遠慮なしだな!?そもそもそんなに大型機械売ってるのか!?
「明日までに何とかしておきましょう・・・」
「国友様!!ボイラーの火焚き完璧です!間も無く始動します!」
国友衆の1人がそう言うと、静かだった船内がたちまちに煩くなった。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ
「剣城さん!?剣城さんが居た未来に一歩近付いたと思います!これより2番艦の発進致します!」
「近付いたと言うより・・・ほぼそうじゃないかな!?」
「ありがとうございます。自分は既に分かっていますが、皆で乗るのは初めての為、緊張しております!」
芳兵衛君がそう言うと、オレが出した石炭をワッサワッサ国友衆の人達が、船尾にあるボイラー室に放り込んでいる。
一つ思うのがこれ・・・物凄く燃費悪いんじゃない!?
「九鬼様!徐々にレバーを上げて下さい!」
「分かった。おっ!!動いておるのか!?」
「剣城さん?これは油圧により加速レバーを取り付けております。油圧の油は例の書物に書かれていた生石灰と、この石炭の油と、ゴムの木の樹脂を混合させ、使っております」
「そ、そうか。凄いね!」
「それと、レバーを上げるとボイラーからタービンに向かう蓋が開く、仕組みにしております。それにより蒸気が上がり燃焼速度を早め、スピードが出るようにしております。まだまだ効率が悪く無駄も多いですが、最初にしては中々良く出来たと自負しております」
「確かに失敗なく、これを作れたのは大きいと思う」
「いえ、失敗だらけでした。父上始め、岡部様や九鬼様にもかなり迷惑を掛けました。模型を作り、船の形やバランスを考えるよう、やっとここまで漕ぎつけました。人も相当な数を使ったと思います。剣城さんから見て、これは大殿に見せても良いと思いますか!?」
「そりゃ勿論!今すぐにでも見せていいかと思いますよ!」
「良かった・・・良かった・・・」
バタン
「ちょ!芳兵衛さん!?だ、誰か!!」
「剣城様?芳兵衛殿は寝る間も惜しんで、毎日毎日頑張っておられました。緊張の糸が切れたのでしょう。休ませてあげましょう」
「金剛君は見てたの?」
「はっ。何回も何回も睡眠を削った作業は効率が悪い、と申しましたが『後少し』と言っておられました」
芳兵衛君の頭の中がどうなっているかは分からない。ただ一つ言える事は、信長さんの領土の人の中で1番未来に近い人だとは分かる。
目を覚ましたら休ませてあげよう。
「(チッ)こんな船一つ造ったくらいでヘバリやがって!ただ・・・よくやった!芳兵衛よ!国友の名を継ぐのはお前だ!」
倒れた芳兵衛君を優しく船内に連れて行き、国友親子をそっとしながら、オレは再び船外に出た。速度はそこまで早くはないが、確実に走っている。
岡部さんは無言だが顔が柔らかい。九鬼さんは緊張の面持ちで操舵している。作業員の人は黒くなりながら汗だくで、石炭をボイラーに放り込んでいる。
時代を先取りした船。織田水軍、織田水運業の要となるだろう。南蛮や明にも未だ登場していない船。これを有効活用するように考えないと・・・。
1時間程走らせた後に陸に戻る。まずは試運転との事で馴らしくらいだ。九鬼さん達はこの後、残りの船なんかも運転するとの事。運転だけではなく、武装の方なんかも試すとの事で、オレは武装に関しては見るつもりはないので、お暇する事にした。
「岡部様、国友さん!これからもどんどん色々作っていって下さい!」
「言われなくともな。それにしても剣城が考えた焼き鳥が最近では楽しみでな?1本200円と安価だからな」
国友さんがそう言ったのは言葉の意味のまま。この那古屋では今や作業員達で溢れ返っている。その作業員達の憩いの場なんかを作る為、比較的簡単に生産数が伸ばしやすかった、鳥を使っての飯屋・・・焼き鳥屋さんだ。
森さん筆頭に醤油なんかは一つのブランドとして、岐阜では出回っている。ラベルなんかはオレが考えた。その名も織田印の森醤油だ。この醤油を使い、酒、砂糖、ここ那古屋で取れた外道の魚を出汁にした物を混ぜ、作るタレに漬け込み、出店のように焼いているのだ。
ただ、いかんせん酒に関してはオレが出すしかない為、缶ビールはかなりストックしている。というか、蔵4つ程ビールで埋め尽くしている。皆、毎日飲むからすぐに無くなるのだ。
「薩摩に行く前に少し金剛に言ってただけですが、まさか短期間でここまで発展しているとは、思いませんでした」
ジュゥ〜〜〜〜〜〜
確かに香ばしい焦がし醤油の匂いがしている。
ちなみにだが露店の人達は、那古屋に元々住んでいた人達を使っているとの事。金剛君が料理の事を教え、清洲の村の人達と折り合いをつけ、当初は支払い方などを金剛君が教えながら始めたとの事。
今は各々達で商いしていると。養鶏場の飼料なんかもクズ野菜始め、米を乾燥させた物や、ペレット飼料などを与えているとの事。その養鶏場も今や10棟程稼働しているみたいで、後で視察しなくてはいけない。
他にもたこ焼き屋や、ここ那古屋で獲れた獲物ではなく、ビンゴゲームの景品の土管のお陰で伊勢の海が豊漁らしく、飛脚に運ばせ値段は一つ5000円と高いが、伊勢海老のバター焼き屋なんかもある。これが意外にも好評らしい。
滝川さんにもちゃんと利が出てるようで、なによりだ。
「うっ、(ハムハム)・・・・たまらんな!!」
「ははは!確かに焼き鳥そのものですね!岡部さん!ご馳走様です!」
「次は金剛が以前言っていた、おこのみやきなる物も食べてみたい!考えてくれ!」
「お好み焼きですね?分かりました!粉物料理なので多分すぐに成り手は居ますよ!信長様にも視察するように言っておきます!大成功だと!では私はまだ行く所ありますので、後はよろしくお願い致します!」
この日は回る所が多い為、大黒剣に乗り足早に清洲の裁縫工場に向かう。ちなみにだが、ドックから離れた所に塩屋さん達に任せている、製塩加工場を作っている。ここで作った塩は岐阜、美濃、北伊勢、三河の方にまで大膳君配下の人達の行商人が、売りに行っている。
塩屋さん本人は、甲斐の方まで本人自らが出張っているらしい。武田とは会った事ないけど塩に喜んでいる筈だろう。徐々に織田の物が無くては、立ち行きできなくなるくらいまで侵食すれば、御の字だな。
さて次は蜘蛛の糸子さんに名前変更したんだっけ?会いに行かないと・・・。
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