ブラック企業戦士

 「お久しぶりでーす。やってますか?」


 「おっ!剣城様!おかえりなさいませ!おーい、皆!剣城様が参られたぞ!作業止め!!」


 喜左衛門さんがそう言うと、女の人達が手を止めてオレの方にわちゃわちゃ来る。


 「剣城様!部屋着をお作りしました!」「剣城様!これが戦闘服にございます!」「こちらはすーつと呼ばれる物を作りました!」


 と色々な服を作ったらしく、小一時間は着せ替え人形のようにされた。しかも試着室なんかではなく、おばちゃん達はあれよあれよとこの場で脱がして、着させてくるのだ。恥ずかしいったりゃありゃしない。


 「ストップ!ストップ!皆さん、これは着させてもらいますので!ありがとうございます!」


 「やだわ?剣城様から合格いただいたわよ!!!」


 「良かったわ!これから量産できるわね!」


 「喜左衛門さん!?どういう意味です!?」


 「いやぁ〜、御婦人方は剣城様から合格を貰えないと『下町の者にまで売り出せない』と言ってましてな?これで、このジャージやポンチョ、セーターなんかを量産できます」


 「別に許可なんか要らなかったんだけど?まあいいや。これからは皆さん、好きな物作って下さい!絨毯とかあればオレは喜ぶかな!?」


 「「「「絨毯?」」」」


 皆が口揃えて聞いてきた。目が少し怖い。


 「喜左衛門さんは知ってますよね!?後はお願い致します!それと糸子さん居ます?」


 「あぁ、くぅ〜ちゃんですね?くぅ〜ちゃん!剣城様がお呼びですぞ!」


 いやいや、喜左衛門さんはくぅ〜ちゃんって呼んでるのかよ!?


 「はうっ・・・剣城様お久しぶりでございます!!わっちは寝起きでして、こんな恥ずかしい格好で申し訳ありません!!」


 うん。蜘蛛の寝起きかどうかはオレには分からない。前となんら変わってないように思う。


 「えっと糸子さん?ここで働くのは大丈夫かな?楽しい?」


 「はい!こんな毎日が楽しいのは初めてにございます!わっちが人間様に認められるのがこんなに嬉しいとは・・・・」


 「そ、そうか。それは良かった。もう少しすれば薬局なんかも作りたいから、薬作れるんだよね!?その監督をしてもらいたいんだけど、いいかな?新たに人をつけて、調合や植物から採取する物とか、後の世にも残るようにしたいんだ」


 「はい!喜んで♪」


 はぁ〜。未来のブラック企業戦士みたいだ。働かせ過ぎだろうか?正直オレが出した薬だけでもいいが、それは今しか使えないからな。薬学も発展させないと、病院も各地に建設できないしな。



 オレは牧場に来ている。屠殺場には足を運べないが、児玉なんとかさんって牛と話している。


 "デュフ・・・デュフフフフフ・・・。剣城っち♪様はご機嫌良いようで!"


 "いや、久しぶりに会って笑われるのはいい気分じゃないぞ?いやそれより、ミルクがかなり出回りだしたのだが大丈夫かな、と思ってね?普通は妊娠期じゃないとミルクって出ないだろ?"


 "某をその辺の野良牛と比べないでいただきたい。我こそはフェアリーバースの児玉六八兵衛義時直隆!いつ如何なる時だって乳を出せる!"


 "あっ、そうすか。すいません、ありがとうございます。多分もう少しすれば食用になる牛さんも来ると思うから・・・その・・・上手くやっていけるかな?"


 "お任せ下さい!某、こう見えてフェアリーバースでセカンドオピニオンの資格を、持っておるのです"


 いや、牛が何の資格持ってんだよ!?


 "分かった。ならその時はよろしく頼みます"


 "某に全てお任せ頂きたいと申しておきます。牛だけにモーして・・・デュフ・・・デュフフフフ"


 つまらんギャグには何も答えず、話を終わりにした。牛の世話係の大野さん支配内の・・・名前は忘れたが、オレがこの牛と話が出来る人と信じきった目をしている・・・。まあ、本当に会話しているんだが。


 そして最後は信長さんだ。本当は濃姫さんのところにも行きたいが、男が入っていい雰囲気じゃないからな。


 岐阜城に戻り、いつものように遠藤さんに案内され待たされる。程なくして、手に木箱を携えて現れた。


 「誠、面倒事を増やす奴じゃ!考える事が山程ある!まあだが、この土産は良い!見てみろ!」


 「はい。えっと・・・湯呑み?茶杓に湯釜・・・ですよね!?」


 「ほう?茶を飲むとは聞いてないが知っておったか。これは良い!特にこの湯呑み・・・良いと思わぬか!?それにどこにでもありそうなこの湯釜だ!黒の焼き物に金の龍が描かれておる!誰が作ったのか気になるではないか!」


 「確か島津貴久様の嫡男の義久様が『明で龍とは権力者の象徴と言われている。織田殿とは会った事ないが、この湯釜が似合うと分かる』と申しておりました」


 「ははは!中々面白そうな男ではないか。だが・・・ワシにも面子がある!貰ってばかりではいかぬであろう。貴様がどれ程の活躍を薩摩でしたかは分からぬ。だが・・・貴様はワシの家臣、ワシのものだ!」


 かなり嬉しい事、言ってくれるじゃん!


 「ありがとうございます」


 「うむ。考えたのだがな・・・」


 やはり城を貰うのはまずいみたいだ。そもそも政略的にもあまりにも遠い場所だし、管理する人が居ないから城を返却すると。ただ、そうすれば相手を無下にし、かなり失礼に当たるそうだ。そこで信長さんが一計を考えたみたいだ。


 オレが貰った城を貰うのではなく、売った事にするのだそうだ。新しく作ったお金でだ。


 「島津当主は我が領の物を気に入っていたのだな?」


 「はい。中々米が育たないらしく、白米に喜ばれていました。たちまちに例の肥料にて育てましたが、範囲は目の届くまでにしております。『少量でもいいから肥料を売ってほしい』と言われております」


 「それだけか?」


 「いえ。他にも布団に感動されておりました。後はやはり酒でしたね」


 「うむ。なら5000万円程渡しておけばよいであろう。その銭を使い、尾張、岐阜、美濃の物を買うようにさせようか。ワシが薩摩に赴き、岐阜に戻れば帝と謁見する。そしてこの円を周知の事実と認めさせる」


 「大丈夫ですか?」


 「飛鳥井が京に。山科は各地を奔走しておるそうだ。まあ山科に関しては金の無心が、ちと多い気がするがな。甲斐では碁石金と呼ばれる物が流行っておるらしいな。ほれ」


 コロン コロン


 「これが甲州金ですか!?初めて見ました!」


 「未来ではそう呼ぶのか。だがよく見なくとも鋳造の甘さが際立つであろう。我が領の職人共の方が腕がある」


 確かに信長さんの言う通りかと。綺麗な円形ではなく歪な形のもある。


 「確かにそうですね」


 「うむ。信濃の豪族に海の魚を売る代わりに、この金で支払いさせておる。両替もな。国友の支配内の者に再鋳造させ、円に作り変えさせておるのだ。どちらの銭が帝に認められ、勝つかは見物だな」


 信長さん渾身のドヤ顔である。そんなの織田が勝つに決まってるだろ!?しかも既に根回しもしてるんだろ!?


 「見えない経済戦争ですね。甲斐にはそんな他国に売る物は無いでしょう。勝ち戦でしょうね」


 「ふん。本物の戦も戦う前に勝負を付ける。これが鉄則ぞ。覚えておけ。この本質を今分かっておる者は、可成とサルくらいだ」


 へぇ〜。意外にも既に未来の秀吉さんの評価は高いんだな。


 「はい。覚えておきます。それと・・・船が完成致しました。試運転も行いまして問題ないかと思います」


 「出来たか!!!ワシ自ら鼓舞した事業だ!遠藤ッッ!!那古屋に向かう!小雲雀を回せ!」


 「は、はい!」


 え!?もう夕方近いよ!?今から乗るのか!?


 「何をしておる!?貴様も行くぞ!元は貴様の配下の仕事だろうが!胸張って誇れ!そして手厚く労ってやるのが上に立つ者の仕事ぞ!」


 明らかにオレに対して、色々諭すような物の言い方になってるよな。いよいよオレの地元での城持ちの話も近いのかな!?


 そんな事を思いながら暗くなる前に那古屋に到着し、演習を終えた九鬼さん達は焼き鳥や、オレが去年作り方教えたみかん酒やリンゴ酒片手に飲んでいたが、そんな空気が吹き飛び真っ暗に汚れた水夫の人達も、もう一仕事である。


 操縦?勿論、信長さんだ。九鬼さんと国友親子、岡部さん達も慌てて乗り移り、操縦の仕方や蒸気タービンの事なんか言っていたが『ワシは分かっておる!』との一喝だった。


 絶対にこれだけは言える。分かってないだろ!?と・・・。

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