いざ薩摩へ

 あれよあれよと着々と事が進む。例の船は信長さんから合格を貰い量産体制に入る。まずは既に古くなってしまった、スターリングエンジンの方の船だ。これは浅井家に売る事になっている。


 「まずはこの、すたーりんぐなんたらと呼ばれる船を、普通に造れるように致せ!芳兵衛!よくやった!今後もより一層励め!」


 と信長さんの号令にて進められる。民間船、軍船とで分けるようだ。もっと技術としても昇華しないと、明の朱華さんにも売れないだろう。


 それから5日程は色々な所を回った。濃姫さんにも、信長さん付きで様子を見させてもらう。琴ちゃんが万事上手くしていた。お腹も誰が見ても大きくなり、悪阻も治ってきたそうな。


 「妾は織田家に恥じぬやや子を産む故に、其方も務めを果たせ」


 と、なんと返していいか分からない言葉なんかも、言われたりした。お土産は天界?神界?で有名な(株)天照物産にて、識者が絶賛するベビーベッドや、乳母役?の人が楽に授乳できる抱っこ紐など他にも念の為、粉ミルクや哺乳瓶など色々プレゼントした。全て説明書付きだ。


 そして約束の日・・・信長さんは例の皆が造った船で行きたかったそうだが、九鬼さんがまだ外洋航行は慣れていない為、今回はドンペリにて出航する事になった。


 顔触れはオレを始め、小川さん、慶次さん、小泉さん。利家さん、佐々さん、遠藤さん、信長さんだ。後は30名程、河尻さん筆頭に黒母衣衆の人達も居る。


 「うむ!奇妙!可成!留守は任せたぞ!」


 「「はっ!お気を付けて」」


 奇妙君を森さんに任せ、大量のお金、布団、服、食物や、その食物の苗や種を持ち、薩摩に向かう。勿論まだまだ人気な刀や槍、最早岐阜では古い規格となった火縄銃なんかも、大量に乗せてある。


 操縦は信長さんだが自動操縦にしている為、正直する事は無い。ちなみに時間は最短の45分にしている。未来の最新鋭フェリーでも、愛知から鹿児島45分は有り得ないだろう。だが農業神様監修のドンペリは可能だ。


 「良い!非常に良いぞ!」


 「はっ。皆、船内で休んで居ますが直に到着致します。停泊は志布志と呼ばれる所に設定しています」


 「うん?貴様の城ではないのか?」


 「いえ、島津貴・・・・島津義弘様・・・私を友と言って下さる貴久様の息子ですが、その方が次来られる時は是非志布志に、とおっしゃっていただきました」


 「ほう。来客用の城や接待用の城という訳か。良かろう!まずはその志布志と言う場所だな」


 正直、何故志布志なのかは分からない。ただ先週の去り際に『次回も志布志に来てくれ!』と言われたからだ。オレはまたあの温泉が入れるなら喜んでだが。


 ただ少し話してただけでもう到着だ。ここで驚いた事は出迎えが完璧である。具体的に、次いつ来るとは言ってなかったが完璧だと思う。


 「うん?もう到着したのか?」


 「はい。あの山に見えるのが志布志の城にございます」


 「見える!見えるぞ!ほうほう。内城と外城を繋いでおるのか!中々見ぬ城ではないか!」


 いや、速攻双眼鏡で覗いているんだが!?


 「剣城君!久方ぶりである!」


 「あっ!義弘さん!お久しぶりです!オレの主を連れて参りました!」


 「うむ!きっかり7日後である!少し待ってくれ!」


 義弘さんがそう言うと、数々の小舟がやって来てドンペリの左右に止め、真ん中に竹?か何かは分からないが、不安定ながらも桟橋をドンペリの下まで伸ばしてくれた。


 「御苦労!尾張、美濃 織田信長であるッ!!」


 信長さんの一言。大きな声ではないがカッコイイ・・・それしか思い浮かばない。オレもどこか領地を貰って言ってみたい言葉だ。最悪、四国でもいいんだけど早く領地が欲しい。讃岐の芝田剣城である!とか言ってみたい。


 「皆の者!橋を揺らすな!」


 義弘さんの号令で、左右の船から水夫の人達が船を縄で固定し始める。それを横目に見ながらオレ達はさっさと降りる。桟橋とは思えないくらい揺れが少なかった。どういう風にしてるのだろうか!?


 ドフッ


 「おう!おう!剣城君!会いたかったぞ!」


 急に義弘さんにハグされた。そんな趣味は無いんだが!?


 すると馬を降りた状態で島津家 重鎮達の登場である。明らかにオレの時と違うのが分かる。貴久さん自身が出向いて来ているのだからな。


 「よく参った。薩摩 島津貴久である。長旅の疲れをまずは癒していただきたい。志布志の城の温泉を紹介致そう」


 「うむ。相すまぬ。何よりの馳走である!供の者も構わないか?」


 「よろしいでしょう。皆で過ごして下され」


 貴久さんがそう言うと人数分の輿が運ばれて来た。今回はノア嬢や信長さん愛馬の小雲雀号も、連れて来てないからな。輿嫌いの信長さんだが、さすがに相手の好意を無下に出来ず渋々乗り込んだ。


 その乗り込む直前、耳打ちされた。


 「中々に手強そうな男だ」


 見えないところで既に駆け引きが始まっているのか!?


 

 程なくして志布志に到着して、今度は歳久さんからの挨拶である。


 「志布志城 城主 島津歳久でございます」


 「尾張、美濃 織田信長である。手厚い歓迎痛み入る」


 ちなみにだが、今回持ってきた品は島津さんの兵に、持って来てもらう事になっている。船の警備もまたまた島津さん達だ。さすがに今回は大丈夫だろう。


 もう一つ・・・留守番を志願してくれた野田さんは、今回で出張は終わる予定だ。この1週間で何が出来るか聞いても何も出来てないだろうが、ちゃんと褒美として岐阜に戻ればGarden of Edenで、好きな物を買ってあげる予定だ。


 「まずは・・・御当主自ら志布志の湯を堪能して欲しい。そして警備に抜かりはない。安心していただきたい」


 「うむ。では先にいただこう。此奴は共に入っても?」


 いやいや、何でオレを指名すんだよ!?1人で入ればいいじゃないか!?オレが心休まらないんだが!?


 「どうぞ。お気に入りは寝床まで一緒にですからな。おいどんも若い時は遊んだものです」


 いや貴久さんまで禁断の男遊びか!?武士の嗜みってやつか!?いやいや!オレは勘弁していただきたい!


 オレは半泣きで信長さんの方を見たが一言・・・。


 「ワシにも好みはある。貴様は願い下げじゃ」


 いや、それはそれで辛いんすけど!?

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