みんなから信長に贈り物

 正直、屠殺は阿鼻叫喚だった。そりゃ肉をいただく訳だが、ノア嬢がわざわざ翻訳するからだ。オレが強目に止めてくれ!と言ってから静かになったが。


 ノア嬢的には『弱い生き物が悪い。弱い生き物は食べられる運命だ。嫌なら戦え!』と、そりゃ当たり前?な事を牛さんに言っていた。手前勝手な事だが、金輪際オレはノア嬢を連れて、屠殺現場は見ないようにしようと決めた。


 そして切り分けられた牛さんの半身・・・。ありがたくキッチンペーパーと、ぴっとぴったり美味しさを包んでくれるシートにグルグル巻きにして、小泉さん達にドンペリの冷蔵庫に運んでもらった。


 「うむ。この肉は脂がよく乗って美味そうだ!剣城君から頂いたこの黒い汁に漬けて、焼いて食べようか!」


 「焼肉のタレですね。かなり米に合いますよ!」


 「そうそう。まさかこんなに2、3日で稲穂の山を見るとは、おいは猛烈に感動しておる!」


 「火山灰だろうが何だろうが、肥料を撒けば大概育つかと思います」


 「ありがとう。父御は忙しい身だからおいが薩摩を代表して礼を言う。本当にありがとう」


 義弘さんから丁寧な礼を言われ、やはり戦では怖い人達だけど礼儀を重んじる人なんだ、と実感する。


 高山城を見回ったり、肝付良兼さんが戻ってくると同時に、元配下の人達もオレに挨拶に来たりと、あっという間に6日が過ぎた。連日の宴でオレはヘトヘトだ。


 竹中さん1人は毎回喜んで酒を飲んでるし、慶次さんはウコンを常備して飲み歩きをしている。高山城下は、志布志のような感じではない。


 いや所々、明の物だろうと思う作り物?とか置き物?服なんかも売ってる人が居るけど、往来の人は少ない。これもどうにかしないといけない事だ。


 オレは高山城の良兼さんの私室に向かう。元城主の息子だが、今は名目上は良兼さんが城主。だが実質オレが、仮城主になってるような状態だ。


 「失礼します」


 「おっ!よ、良い!良いぞ!」


 尾張に帰る前に挨拶をと思ったが、こいつ・・・。


 「おい!朝っぱらから何やってんだよ!!!」


 良兼さんは朝っぱらから、若い女の子にマッサージをされていた。誰が女を与えたんだよ!と問いたい。オレですらされた事ないのに!クソがッ!!!


 「お!?剣城殿か!?いやぁ〜、配下の野田殿は僕の事よく分かってるねぇ〜!」


 「は!?野田さんが女を与えたの!?」


 「はっ。剣城様、少しお耳を・・・」


 野田さんが言ったのは、『変にオレ達がやる事に口出しされるよりかは、こうやって町女に銭を与えて黙らせておく方が、やりやすいだろう』と。仮にこの事を信長さんが許したとして、この男を信長さんが認めるかと言えば『認めないだろう』と。


 けど折角貰ったこの地の、元領主と嫡男を殺したり飼い殺しにすれば心象が悪くなり、逆にここを織田の地にするのは難しいだろう、との事だ。


 「剣城様は島津殿を大変気に入っておられるが、某は特別な感情はございません。あわよくば、島津も剣城様が平らげればよろしいかと」


 「それはダメだよ。そりゃ信長さんの統一で、九州はややこしくなるかもしれないけど、オレは島津と戦いたくない。野田さん達がオレの事考えてくれるのは嬉しいけど、今のは聞かなかった事にする」


 「はっ。申し訳ありません」


 「良兼さん?オレ達は一度戻るから遊び惚けるだけじゃなく、たまには城下の視察や、民草の声を聞き、できる事はしてあげるように。道の整備や、城に上がるまでの道の雑草や木を切ったり、やる事は多いですよ?」


 「そ、そんな事すれば敵に攻められてしまうじゃないか!?」


 「いや、攻められないから。そもそもここを攻められるまで誰かに押し込められてたら、既に詰みだから。毎回、獣道とも言えるか分からない道を上がるのは、しんどいんです!」


 「剣城様?今回は某が残りましょう」


 「構わないのですか?」


 野田さんが気を利かせて、居残り組に志願してくれた。本来は帰りたいだろうけど、誰かはやはり残しておかないといけないからな。個人的には、杉谷さんに残ってもらおうかと思ったけど。


 「1ヶ月以内に迎えを出します。残ってる銭、物資は全て置いていきます。やれる事・・・任せますね」


 「御意」


 「一蔵!剣城様からの信頼を損なうなよ!」


 「黙れ!伝七郎の方こそちゃんと剣城様を守れよ!」


 野田さんは野田さんでまだ何か考えてそうだけど、とりあえずはここは野田さんに任そう。


 島津さんに付けてもらった兵の人達を使い、船に残しておいた数々のレトルト食品、お菓子、武器なんかを城の蔵に運びだした。


 「兵の皆さん!ありがとうございました!オレ達は一度国に戻るから、この野田一蔵さん!この方がオレの名代だから、この人に確認してもらいたい事とかあれば言うように!」


 「「「「はっ!」」」」


 やはり非常に統率が取れている薩摩兵の人達だ。


 「よし!さっ!帰ろう!朱華さん?準備いいですか?」


 「ハオユー!あれを!船はあんたに任すからね!」


 「お任せあれ」


 何か木箱を持って乗り込んでいるけど、信長さんに渡す物かな?まあいいや。


 義弘さんの小舟で乗り込み、船のエンジンを掛ける。


 「剣城君!道中気を付けてな!」


 「はい!ありがとうございます!貴久様にもよろしくお伝え下さい!」


 「船の後方にある部屋に、織田殿への贈り物を入れてある。渡してほしい」


 「え!?聞いてないですよ?まあ分かりました!お渡ししておきます!では!!!」


 「うむ。これより我等、長年争っていた飫肥城の領有に、雌雄を決する事と相成った。次に剣城君が来る時には、日向国南部まで支配地が増えている事であろう」


 「という事は・・・本格的に伊東とも戦うのですか?」


 「そういうことになる。父御は剣城君がもたらした『この勢いを止めるのは勿体ない』と言っている。安心してくれ。配下の野田殿は使うつもりはない!高山には一切の被害が無いように致す。多少の銃は使わせてもらうがな」


 本当に戦闘民族だわ。いっつも戦ってるじゃん!?


 「分かりました。くれぐれも死なないように!」


 オレはさすがに何回も戦闘に参加したくない為、深く聞かないようにした。


 そして、バタバタしていたが錨を上げて出航を開始した。まあ運転は自動で、尚且つ3時間後には到着だからな。最短で1時間ではあるが、贈り物の整理なんかもしなくちゃいけないしな。


 「鈴ちゃん、鞠ちゃん、集合!!薩摩ではよく頑張ってくれました!何か欲しい物ある?」


 「はい!はい!私はイチゴ大福がいっぱい食べたいです!それにプリンにミルフィーユに、飲むヨーグルトも欲しいです!」


 「ははは!見事に甘い物だらけだな!了解!鞠ちゃんは?」


 「私はよく斬れるコンバットナイフが欲しいです。それに許しが得られるならば・・・剣城様がお持ちの銃と似た物が欲しいです」


 「え!?女の子が欲しがる物じゃなくない!?ナイフに銃って!?」


 「がははは!我が君は分かっておりませんな?島津の負傷兵を治しながらもこの鞠は肝付の雑兵ですが30は討ちましたからな!戦う衛生兵とは鞠の事ですな!?がははは!」


 嘘!?鞠ちゃんそんなに奮戦してたの!?何も聞いてないよ!?


 頑張ったんならしょうがないけど、ハンドガン的な物なんか売ってるのか!?オレは久しぶりにタブレットを開き、Garden of Edenを調べる。まずは鈴ちゃんの好物だ。


 《栃木県の苺を丸々使った大福》¥700


 効能・・・・神界でも人気が高い栃木県産の苺を使った大福。識者の間ではこの大福の右に出る物なし!とまで言われている逸品。


 《パッチンプリン》¥190


 効能・・・・キャップ後ろの棒を折り逆さにすると、ぷるんと皿に盛り付ける事のできるプリン。大人から子供まで、天使から悪魔まで、女神から魔王まで、幼少期には必ず口にした事のあるプリン。


 《(株)天照物産のミルフィーユケーキ×10》¥30000


 効能・・・・神界、天界にて数多くのスイーツを手掛ける、天照物産のミルフィーユケーキ。天照物産の会長、天照大神(あまてらすおおみかみ)本人が監修した至高のミルフィーユ。一口食べるとヘヴンを味わえる。



 おいおい!?久しぶりにスイーツ見たけどまた凄いのがあるな!?天照物産って・・・1個3000円もするミルフィーユとか初めて見たぞ!?気になったからオレも買ってしまったけど、高過ぎだろ!?


 「とりあえず鈴ちゃん!これ渡しておくから!味わって食べるのだぞ!?このミルフィーユ、クッソ高いんだぞ!?」


 「ありがとうございます!!!うぅ〜〜ん!!これです!これ・・・はぁ〜・・・ほっぺがとろける・・・もう・・・だめ・・・あぁん・・・」


 いやいや。ミルフィーユ食べて鈴ちゃん、速攻で顔赤らめてるんだが!?


 「そんなに美味いならワシも食べようかのう」


 バチンッ!!


 「だめ!爺は食べてはだめ!これは全部私のよ!」


 「いやそんな、10個程あるのなら一つくらい・・・」


 「だめったらだめ!」


 いやいや鈴ちゃん!?なんならオレも食べようと思って、多めに買ったんだけど・・・。言える雰囲気じゃないな。後で1人で買って食べてみようか。


 「い、い、今のは何なのだ!?何でいきなり物が現れるのだ!?」


 「おい!明の女!これは考えてはいけないのだ。考えるな!感じろ!」

 

 流石、隼人君!オレの考えを分かっている。


 よし、次は鞠ちゃんのだな。

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