間話 飛鳥井の知略

 「失礼するでおじゃる」


 「お!?これはこれは・・・今出川殿ではごじゃりませぬか?」


 「ほほほ。飛鳥井殿も御機嫌麗しゅう。実は頼みがごじゃりましてな?麿は知っておるとは思うが父の後を継ぎたかったが・・・まあ今は目立たないようにしているのでおじゃるが・・・」


 「ほほほ。大炊御門殿や右大臣の花山院殿の家や荘園に、お邪魔しておるそうじゃな?」


 「これはこれはお恥ずかしい限りで・・・・妻が甲斐に戻りにくいですからな」


 「今出川殿が恥を捨てて麿に物申すとは・・・何か困窮しておじゃるか?まあ良いでおじゃる!少しばかりだが用立てよう。時に・・・これをたまには今出川殿から皆に振る舞ってあげなさい」


 「これは何でおじゃるか?」


 「これは美濃・・・岐阜、尾張で作られている澄み酒と尾張梅酒、ちよこれいと、かんとりーままと呼ばれるくっきーでおじゃる!一つここでどうでおじゃるか?このくっきーなる物は至高ぞ?」


 「これは・・・おっと・・・失礼するでおじゃる・・・」


 ほほほ。さぁ食べてしまいなさい。困窮している公家連中に差し入れをし、麿が少し裕福に見せれば、蟻の如く麿を頼ってくるであろう。直に帝の耳にも入り麿が呼ばれ、麿に出所を聞かれ、どこ産か誰が作ったか聞かれるであろう。


 そして麿が織田殿と剣城殿を教え、売り込む。帝に岐阜や尾張の民草の生活を聞き、ここ京との差を感じ嘆くであろう。だがそれで良い。織田殿を呼び出し謁見させ帝の権力ここにあり!織田と共にあり!といい宣伝になる。


 


 「これはその・・・物凄く・・・」


 ポンポン


 「今出川公よ。貴公の苦労は分からぬがこれは麿から贈り物じゃ。南蛮の言葉ではプレゼントと言うらしい。直に麿が懇意にしておる、とある武家から、お召しなんかも届けてくれる手筈になっておる。貴公にも回すように手配しよう」


 「いやしかし・・・銭が──」


 「言うたであろう?プレゼントだと。お返しは考えなくとも良い。貴公の知り合いで苦労してる者にも労いなさい」


 「飛鳥井殿・・・申し訳ない・・・(グスンッ)」


 まあ、今出川公の気持ちも分からなくもないな。父上の後を継ぎ、左大臣にもなれた男であろう。だが時期が悪かったな。


 トントントン


 「来客中ぞ!」


 「すいません。甘露寺様がお見えになられております」


 「うむ。別室に案内しなさい。今出川公。落ち着けば帰りなさい。麿は失礼致す」


 「申し訳ないでおじゃる・・・」



 「これはこれは甘露寺殿?どうしたでおじゃるか?」


 「いやぁ〜邪魔したのは他でもない!先日の澄み酒は見事でおじゃる!」


 「ほほほ。良き哉」


 「またあれを譲ってくれないか、と思いましてな?ほほほ」


 「まさか!?甘露寺殿がお譲り願うとは・・・あれはとある、麿が懇意にしている武家から、麿の銭で購入した物・・・。先日のはお土産ですからな・・・」


 「まあ、そう言わずにな!?麿達の仲であろう?」


 「では・・・九条殿が居るであろう?今は摂津で寂しい生活をしていると聞く。貴公なら分かるであろう?これを届けてくれないか?」


 「ほうほう。中央に戻らすつもりですかな?」


 勘が鋭いな。だがまだ種明かしするのは早い。


 「いやいや。いくら出家したとはいえ、九条殿は元関白・・・。そのお方が、粗末な庵に住んでおられるのは良くない」


 「ほほほ。今はこのくらいにしておこう。是非に一度その武家を、麿にも紹介していただきたい!」


 やりにくい男だ。知っている筈だろう?敢えて聞かず、美味しいところだけ吸うつもりか。この男にも働いてもらわねばならぬ。

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