結果オーライ

 事前にオレは信長さんから命令を受けている。


 『その都度、ワシも貴様の後を追う。ワシが京に赴く時には、小石も無いようにしてもらいたいものだな』


 と、言われているのだ。つまり、三好をお前が先に駆逐しておけ!という事だとオレは認識している。現に、オレに錚々たる兵を貸してもらっているからだ。


 足軽から小荷駄隊まで、士気はかなり上々だと思う。まぁ、小荷駄隊に関しては相当数の甲賀隊が入っている、というのもあるだろうが。


 「あ、坂井さん!おはようございます!そろそろ準備、お願いします!」


 「うむ。剣城!ワシの第三陣の森隊と蜂屋隊は準備できたぞ!」


 「流石、森様!最後に出陣なのに、1番早く準備が終わったのですね!」


 「順番は関係ない!要は気の持ちようだ。お?坂井殿は武者震いか!そうか!そうか!今こそ坂井殿の武勇を見せる時よのう!ははは!」


 「皆早いな。森殿、蜂屋殿、剣城!坂井!おはよう!柴田隊、いつでも出陣できるぞ!」


 「いやぁ〜、待たせた!申し訳ない!安藤隊、いつでも行けますぞ!」


 「稲葉隊もいつでも!」 「氏家隊もいつでも!」


 


 ど、どどど、どうしようか!?まだ心の準備が出来てないのだが!?そもそも先程まで、森殿しか準備できていなかったじゃないか!?それが剣城殿がおはようと挨拶をすれば、何故皆、時を同じく準備完了になるんだよ!?


 うわ・・・足軽から伍長まで、何から何まで精悍な顔付きになってやがる・・・。


 「さぁ!坂井様!ここは一発素晴らしいのお願いしますね!」


 「うむ!そうだ!此度の第一陣ほぼ全員が揃っておる!滾る言葉、頼むぞ!ははは!」


 「我が君!これを!」


 「おぉ!小川さん流石!忘れてたよ!ありがとう!」


 「御意」


 「はい!坂井様!拡声器です!ここを押して喋って下さい!雷のような声で話せるので後方まで聞こえますよ!んじゃ!頼みますね!あ!言い終わったら、さっきの小川さんに渡しておいて下さいね!」


 何が何やらよく分からん・・・。いつからこうなった・・・?


 俺は美濃に生まれ、豪族のままそこそこの畑とそこそこの者を纏め、たまに小競り合いに呼ばれ、年老いてそこで人生が終わると思っておったのに・・・。


 「お!ここへ来ても坂井は武者震いか!美濃におった頃とは大違いよのう!そう思わぬか?安藤よ!」


 「確かに見間違えたぞ!ははは!」


 ック・・・美濃のおっさん3人は、こんな集合してる時にまで俺を馬鹿にしやがって!なんならこの3人の大将が俺なら、構わず突撃させてやろうか!?あん!?


 カチッ

 

 《ったく!なんで!なんで!なんで!俺がこんな役回りをしなくてはならないのだ!そもそもの三好が、さっさと阿波でも播磨でもどこへでも退けば、いいではないかッ!!》


 「「「「ウォォォォォォ────!!!」」」」


 あれ?どうなって・・・あぁ!もうどうとでもなれ!


 《全て三好のせいだ!三好に連なる家臣全部許さぬぞ!全軍!出撃!!!》


 「「「「「オォォォォ─────!!!」」」」」


 

 「金剛君?剛力君?坂井さんの激って凄いよね!?三好を罵る言葉だけで、あんなに士気が上がってるよ!」


 「はっ!あれは中々かと・・・剣城様と歳も近いようですし、これからも仲良くなっておく方が良いかと」


 「ま、まぁこの戦が終われば飯でも誘ってみるよ」


 「つ、剣城殿!如何でしたか!?」


 「いや、最高の激でした!では武運長久を!すぐに柴田隊、森隊、蜂屋隊と続きますので、先陣をお頼み申し上げます」


 「は、はぁ!任されたし」


 何が何やら分からないが、何故か上手くいったようだ・・・。後はこの我が儘三人衆を上手く指揮して、石成何某を討ち取るだけと・・・これが上手くいけば、また美濃に戻り畑でも耕し、静かな生活が戻る筈・・・。


 「よし!第一陣!早掛け!突撃ッッ!!!」


 って・・・剣城殿!?いきなり早掛けですとぉぉぉ!?


 「坂井殿!号令を!!」


 「と、突撃ッッ!!!!!」


 あぁもう!心の準備もできていないっていうのに!!後は勢いに任せてしまえ!死んだら死んだ時だ!!

 



 「おぉ!!あの坂井隊の攻めの速さは見習わねばならぬな!剣城!ワシもそろそろ出ても良いか!?」


 「柴田様!?早すぎじゃないですか!?まだ2分と経ってないすよ!?」


 「いや、あのままなら美濃衆と坂井殿に手柄を取られてしまう!頼む!」


 「あぁ〜、まぁ分かりました!じゃあよろしくお願いします!第二陣!突撃ッッ!!!!」


 「剣城?もう柴田も出したのか?」


 「あっ、森様。はい!柴田様が手柄が残らぬと言ってきたので許可だしました。まずかったですか?」


 「手柄か・・・確かにこのままなら、毛程も手柄なぞ残らぬであろうな。ワシも何かしら手柄を立てぬと、お館様に叱られてしまうな。のう?そう思わぬか?蜂屋殿?」


 「うむ。ワシも黒母衣衆の1人・・・そのワシが何も手柄が無いとは、恥どころではない。剣城殿!頼もう!」


 「分かりました!まぁ敵もそんな大軍じゃないですし、出ましょうか!第3陣!突撃ッッ!!!」


 「よし!!剣城!お主は後からゆっくり参れ!お主の甲賀隊を使うと皆が不満だらけになるぞ?ははは!森隊ッッ!!ワシの背を着いて参れ!ただ前を向き堂々と敵を屠れ!」


 「「「「オォォォォ─────!!!」」」」


 いやいや森さんの隊は士気高いな!?しかもまた名言が出たぞ!いつかオレも言ってみたい言葉リストに入れておこう!


 「我が君?本当にワシ等は出ないので?」


 「小川さんはそんなに出たいのですか?」


 「いやそりゃ〜、剣城様の武ここにあり!と見せつけたい所存です」


 「う〜ん。なら、討ち取るのは手柄を横取りするようになるから、足留めくらいならいいかな?柴田様や森様、蜂屋様には何もしたらダメですよ?手柄を取りやがってと後で言われたくないので!坂井様が相対してる敵ならいいかな?あの人も苦労した人ぽいし、名のある武将が敵に居るかは分からないけど、首はあればあるだけ喜ぶでしょう」


 「ではワシも出ていいので!?」


 「まぁいいですよ。ただ、くれぐれも首は坂井様に討たせるように!」


 「おい!小川!ずるいぞ!剣城様!?俺もよろしいですか!?」


 「言うと思いましたよ。小川さん、小泉さんは坂井様を援護。杉谷さんは小川さん、小泉さんを鉄砲で援護して下さい。くれぐれも誤射しないように!」


 「はっ!」

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