慎重な安芸の大将
〜能島城〜
「父上!さっきの甘いちよこれいとなる物は毛利家の人にも高く売れます!」
「親父。俺も元と同じ意見で、本願寺に流しても、かなり吹っかけても売れると思う!」
「(プカー)ふん。おめぇ〜達は甘いな。まず、本当に数刻であの陸のような船で帰っちまった。で、あまり話さなかったが、明の女もあれは本物だろう。随分とあの男を尊敬しているように見えた。
で、織田と銭の事だけで誼を持つのも悪くはない。悪くはないが・・・・う〜ん。確かにこの荷は初見の物ばかりだ。食べ物が多い。腐らせるには勿体無いからな。明日一番に毛利家にでも持って行こうか」
「おーい!武吉!南蛮やらの船が来たそうだがどこに居るのだ!?」
「おやおや・・・これはこれは輝元様ではありませんか。ここに勝手に来られては叔父上様達に俺が叱られてしまいます」
「許せ!叔父上には俺から言っておく!で、明の者達はどこだ?」
「あぁ、先程居た者の事でしたら、織田家の者ですよ。確かに明の女も居ましたけど。本日は何用で?」
「なーんだ。織田か。だが一度俺も会ってみたかった。で、何しに織田が来てたのだ?ちなみに俺はでかい船というのを見てみたかっただけだ!周防がきな臭くなっているのだ!叔父上達は皆、軍備を進めていてな。但馬の方では大内やら尼子の残党達が活動していると、草から報告があった」
「二方面作戦ですか」
「おう!お祖父様は、大友と連動していると言っていた!
「左様ですか。なら、こんな所に来ている場合ではないのでは?ですが・・・ちょうど良い所です。よければ元就様にお伝えしたき儀がございますれば。ご一緒に吉田郡山城にお供させていただければ・・・」
「うむ!相分かった!だが、その前に武吉!お主が作る鯛飯が食いたい!作ってたもれ!それを食べてから出発じゃ!それにしても・・・景親!元!今日は静かではないか!何かあったのか?」
「輝元様には教えませーん!」
「うん?何かあるのだな?教えよ!」
「ははは。子供の戯言ですよ。元、景親。俺は輝元様と元就様にお会い致す。部屋に下がっていなさい。いいな?下がりなさい」
〜吉田郡山城〜
「お祖父様!武吉が話があるって言うから連れて来たぞ!」
「こら!輝元!もそっと当主らしくしろ!武吉か。こんな夕刻にどうしたのだ?誰ぞ!一室設けてやれ。武吉、今日は泊まっていけ。お主から話があるというのは珍しい」
「御大将様。息災なようで。あ、これはよければ能島で取れた野菜です。少ないですが、土産と思いまして」
「うむ。ありがたく頂く。まぁなんだ。酒と餅でも食べようぞ。それにしても本当に珍しいではないのか?後ろの荷はなんだ?」
「ゴホンッ・・・」
「・・・・輝元。下がりなさい。口羽も下がれ」
「お人払い申し訳ありませぬ。難しい仕掛けは俺は分かりませんので、単刀直入に。この荷は織田家からでございます。上質な塩、砂糖、見た事のない雅な椀や、ビードロの湯呑み、干し肉や、何で出来ているか分からない食い物が入っている物が多数。後は酒やじゅうす?という飲み物だそうです。全てに説明の紙まで入ってありまする」
「織田家か・・・。う〜む。で、これは毛利家にと渡して来たのか?」
「いえ。当初は市に流す予定だったそうです。が、色々とあり、俺に渡され、後は御大将に渡そうが市に流そうが、配下に褒美として渡そうが好きにして良いと言われましてございます」
「だが・・・お主は毛利家に持って来た・・・ということだな?誠、其方を海賊にしておくのはおしいよのう。織田は何故、このような事をしてくるのかのう」
「これは、織田家の芝田剣城なる男と羽柴藤吉郎なる男・・・後は明の女からだそうで」
「やはり織田は明と繋がりが大きいか。先の乱の折に熊谷から聞いてはいる。明をも凌ぎ、南蛮をも凌駕する大砲をも織田家は生産しているとな。で、物珍しい食い物や、砂糖を贅沢に使った甘味なども下々の民に流しているそうだな。その全てに先の剣城という男は絡んでいる。
で、お主は何を甘言されたのだ?」
「はは。全て御見通しのようで・・・。織田家は毛利家と友好路線のようで。まずは商いしたいように見えます。大坂まで織田家が荷を運び、そこからは我が水軍を使い、安芸に荷を運ぶようにと。別に織田家に入らなくて良いそうで。それを自領で消費しても良いし、他国に売っても文句は言わないそうです」
「阿波の海はどうするのだ?織田家が面倒見てくれるのか?そもそもそんな上手い話は有り得ない。何か秘密が隠されている。うん?大坂と言ったか?」
「え?あ、はっ。大坂まで織田家が荷を運ぶと。なにか?」
「いや。阿波の三好の事は何も言っておらなんだか?」
「あれだけ三好を木っ端微塵にしたのに何も言ってませんでした。案外、織田家も精一杯だったのでは?羽柴という男は、阿波を今攻めれば楽々やもと言っていましたが」
「見え透いた罠だ。そこら辺の野良大名なら喜んで攻め、平定してしまうだろう。だが、阿波を平定してどうする。織田は大坂を手中に治めるつもりだ。あの巨大な家に『今』まともに相対するのはマズイ。すぐに飲み込まれてしまう。
しかも、剣城という男は薩摩の島津と盟友と呼ばれるくらいの仲ではないか。薩摩領内に剣城という男の城もあると聞いている。どうしたものかのう・・・」
「俺は難しい事は分かりませぬが、剣城という男はそう難しい仕掛けをするような男には見えませんでしぞ?ここは、まずは毛利家としても商い程度に留めてはいかがですか?荷を運ぶのは我が村上水軍が責任を持ちましょう。
徐々に俺の方も織田水軍がどのような物か見てみましょう。そもそものあのデカい陸のような船相手では手も足もでません。まぁ、戦えというならば・・・損害覚悟であの一隻だけなら落とさない事もないでしょうがね」
「ワシは見ていないが、かなり大きい船だったそうだな。漕ぎ手も見えないのに、かなりの速さで帰ったそうだな」
「訳の分からない言葉で言っておりました。えんじん?と言っていた気が・・・。聞いたところとて、教えるようには思えませんので敢えて聞きませんでした」
「そうか。大坂を押さえるか・・・。本願寺をどうすのだろな。納屋衆等もただで大坂は明け渡さないだろう。三好が一つにならぬよう阿波は毛利家が好きにして良いと言っているようだな。その間に織田は大坂を押さえる腹積りか。まずは家臣の意見も聞かねばなるまい。それに返礼もせねば礼に欠ける。熊谷を呼べ!」
〜ドンペリ船中〜
「ふぅ〜。まったく肝が縮んだではないか!村上の後ろには毛利が控えておるというのに・・・」
「だから羽柴様は考え過ぎですって!何かあっても熊谷さんって人が知り合いだから大丈夫だったのですよ!ってか、阿波の事を言ってましたが、何故織田家が阿波に攻めないのですか?」
「ぷっ。これだから剣城は素人なのだ!考えてみろ。本願寺は大名の手を嫌っておるし、手を出されないと思っている。何か不満があるとすぐに民を陽動してすぐに一揆を起こさせるからな。だから、お館様も坊主達には寛大な態度で接している。
だが、これで阿波を織田家が取ってみろ。伊勢は既に織田家の物に近い。いや、ほぼ織田家の領だ。大和は松永弾正が居る。これで一本の道が繋がっておるのは分かるよのう?
で、飛び越えて阿波を取れば本願寺は面白くないだろう。大坂での実入りが少なくなる事を意味している。大坂での商人の座代が織田家に入る事になるからな。そうなれば不満が出てくる。それに阿波なんぞ田舎も田舎。割が合わん」
「そんな簡単な事なのですか?」
「あのな・・・。まぁ仮に阿波をワシと剣城が治めて良いと言われたとする。伊予、土佐、安芸と控えている。その中で、阿波を平定せねばならぬのだぞ?三好の毛色が濃い阿波ならばあんな小さな領土でも1年以上は掛かる。
ワシが毛利ならそのゴタゴタしてる間に土佐や伊予の大名か豪族かは知らぬが支援して更に混乱させて織田家を浪費させてやるだろう」
「(パチパチパチパチ)さすが羽柴様ですね!やっぱ戦国大名ですよ!」
「馬鹿にしておるのか!?」
「はいはい!ちょっと待っておくれ!これからアタイはこの羽柴の殿様とさっきの所に商いに行けばいいのかい?」
「えぇ、まぁ、多分そうなるかなと思います。毛利元就・・・かなり優秀な人だと聞いているから、あの荷の可能性は感じてくれるだろうと思います。まず間違いなく、『舐めているのか!?』なんて言わないとは思います。
そうですね・・・まぁ伊勢湾でもできない事はないのですが、長い目で見るなら牡蠣とか養殖を教え、他にも海産物を育ててもらいたいすね。それらを織田家が買うと」
「(ペチン)他国を潤わせてどうするのだ!」
「痛っ!いや、信長様がどういう考えになるかは分からないですが、毛利家は結束が強いですからね。島津家並に。直ぐではないでしょうが、織田家の下に付かないというならいつかは戦になるでしょう?その時までには銭で動く日の本にしてもらいたいですよね。
安芸の主要収入源を2、3くらい教え、その収入で国が動くくらいにさせれば楽々内乱でも起こせそうかとオレは思っているのですけどね」
「は?」
「小早川隆景、吉川元春。この二人は特に戦になるなら要注意な人ですよ。まぁ、長い目で見ればですけどね」
「ハァー。1番恐ろしいのはお主じゃな。笑顔で手を取るように見えて腹の内は反対の事も考えるとはな」
「こんな考えになってきたのはごく最近ですよ。島津家とだって、もしかしすればの事も考えてはいますよ?とりあえず帰ってこれましたね」
「ありゃ?剣城様〜!どこか遊びに行っていたので?」
船の中で羽柴さんと話していると早々と那古屋に到着した。出迎えは吉蔵さんだった。
「いやいや、遊びではなく安芸って所に行っていたのです!悪い。金剛君?ドンペリは任せるよ。芳兵衛君達と連携して、商いの船を朱華さんと羽柴様の隊の人に見繕ってあげて!あっ!林様と布施様にも連携してほしい!もう怒られたくないからね!」
「御意」
「お、おい!剣城!?どこへ行くのだ?」
「あ、少し城へと思いまして!羽柴様!あんな感じで荷物を運ぶように部隊に行ってください!偶には徳川様の静岡・・・じゃなかった、浜松とか岡崎の方にも行ってあげてください!天麩羅とか好物みたいですよ!」
「なんじゃ!さっさと行ってしまいよって」
「ふふふ。で、羽柴の殿様?アタイはどうすればいいのかしら?」
「羽柴殿!あまり明女とイチャイチャすれば我が君に言いつけますぞ!がっはっはっ!では御免!」
「お主は剣城の家老であろうが!まったく!朱華。ワシの弟を呼ぶ。後は川並衆等を物流の長にする予定だ。今宵、顔合わせさせよう。お主も配下を連れて参れ」
「はいさ!」
〜岐阜城〜
「相変わらず貴様は先触れというのをしない男だな。まぁ良い。岐阜サウナにて整えていたところだ。
で、なんじゃ?」
「サウナ中にすいません。まずは・・・安芸の方へと視察?に伺いました。海賊で有名な村上水軍の長、村上能島武吉って方とお会いしました」
「・・・また勝手をしよってからに。で、収穫は?」
「海賊と侮ることなかれ・・・って感じですか。後ろには毛利家が居ます。荷物は当たり障りのないように、砂糖、塩、酒、湯呑み、乾き物など簡単な物にしました。まずはこれで良いかと」
「うむ。手荒な事はするな。まずは織田家の物を溢れさせよ。格安にな。お主にも伝える事がある。平手の出立が決まった。7日後じゃ。武田から使者が到着と同時にこちらを立たせる。貴様も一度行って来い。で、信玄坊のぴくちゃーを撮影して来い」
いやいや、何でピクチャーなんだ!?写真でよくないか!?
「写真ですね。武田は平和路線は無理な感じですか?」
「今は貴様の考えで良いが、遠からず武田とは争う事となろう。上杉や北条と戦でもするのではないのか。その為の同盟であろう。軍目付くらい出せれば良いのだかな」
「それをオレがどうにかしろって事ですか?」
「クッハッハッハッ!よく分かって来ているではないか!その為に貴様を甲斐への使者に入れたのだ!滞在は14日程。その間に甲斐を調べ、重要拠点はぴくちゃーを撮影せよ。信玄坊の信用を勝ち取り、武田の戦に目付を出せるくらいにせよ」
「また無理難題を・・・」
「ふん。何度も言うがワシはできると思う事をできると思う者にしか言わん。ワシの見立てではこのくらい貴様なら朝飯前だろう。偶に癪に障る物言いはあるが貴様は概ね憎めない性格だ。それは貴様の長所である!サルも権六も五郎左もツネも持っておらん。天性の物ぞ。
驕り昂る事はなく、かといって媚び諂うのとも違う。敢えて言おう。もし武田が何かの手違いで貴様を手討ちにしたならばワシは全力で武田を滅ぼしてやる。帝、足利、朝廷?誰にでも頭を下げてワシが生きている間に必ず信玄の首を貴様に送ってやろう。励め!」
まーたいつかの言葉だ。これも何度も思う。この言葉が麻薬のように癖になるんだよな。正直、これがカリスマたる所以なんだと思う。羽柴さん、徳川さんと史実では天下人は居るけど、あ!後は少しの間だけど明智さん。他の人にはない物を信長さんは持っている。やっぱこの人が一番だ。
「おっと・・・。忘れておったわ。今日はもう遅い。夕餉を食べて帰れ。今日はワシが監修したニンニク増し増しのカレーぞ!」
またカレーかよ!?マジでいつになったら飽きるんだよ・・・。お!?いい所に・・・
「遠藤さん!お疲れ様・・あ、あれ!?」
「おい!遠藤!貴様も味見致・・」「本日、某は腹痛にて休もうかと思っておりまする御免!」
「チッ。情けない。彼奴には二度と食わせてやらん」
遠藤さんは被せるように言い、小姓とはあるまじき言葉を言い去っていった。だが、去る時にオレの方を向いて手を合わせて口パクで『すいません』と言っているのが分かった。その意味は直ぐに分かった。
「(コトン)どうじゃ!特別にワシが貴様の分をよそってやった!たんと食え!遠慮はいらんぞ!」
「信長様・・・ニンニク増し増しって・・・」
「うむ!貴様のには特別に5片入れてやった!これを食えば力が出るのだ!」
肉も一応入ってはいるが、ニンニクしか見えないレベルのカレーだ。恐らく、これを作っている間に遠藤さんは食べさせまくられたのだろう・・・。
これは今日はゆきさんとキスできないかも・・・。
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