安芸への訪問 後
村上武吉・・・。本当の事だろうが、さすが自ら水軍の大将というだけある。ガラの悪い浅黒い男達が居る中を武吉が操船する小舟ってほどではないが、この時代ではかなり大きめの船に乗り、激流の中、能島へと向かう。
元居た時代ならここから、しまなみ海道が見えていただろう。その横の伯方島も大きく見える。現在の四国、愛媛の今治市になる所も見える。
史実で、後に築城の名手となる藤堂高虎が城を築城する所だ。ちなみに、ドンペリの留守役は、密かに乗っていた隼人君だ。上手い事隠れていたようだけど、見習いの護衛の子達と乗っていたことくらい分かる。
まぁ武吉が気付いていたからオレも知ったか振りをしただけなんだけど。
「おい!村上!もう少し揺れはどうにかならんのか!」
「あぁん?これでも今は満潮だから1番揺れが少ないくらいだ!」
「そーだ!そーだ!父上の操船は1番なんだ!」
羽柴さんはオレが出したドンペリや、国友さんや芳兵衛君がお遊びで作った喫水が深い船にしか乗った事がないからなのか、はたまた琵琶湖の小舟にしか乗った事ないからなのか、安宅船のような船は揺れが酷く感じるらしい。
「まぁ、陸のお武家様は船に弱いってことですな。干潮時はこれより更に揺れるし、船酔いもするも思う」
「な、なんじゃと!?おのれ・・・」
「羽柴様。本当です。瀬戸内の海は浅い所が多いので、干潮時は渦のような潮になります。そこらへんの船乗りくらいでは島まで辿り着けないかもしれません」
「うん!?そうなのか?あの、那古屋の吉蔵達もか?」
「それはどうか分からないですが、本当に難しいと思いますよ。まぁ、エンジンが完璧に作れ、船の漕ぎ手がなくなれば変わりますけどね」
オレはわざとらしく、分からない単語と分かる単語を入れて話した。エンジンはまぁ、分からないだろう。だが、漕ぎ手というのは分かるだろう。現に、左右に4人ずつ居るからな。
こういう話し方も気が付けば普通に出てき出した。まぁ戦国に慣れてきたって事だろう。信長さんのような威圧を使った駆け引きはまだまだだが、自分ではなく、織田家を如何に大きく見せるかという話し方は今後も必要だろう。
「ふん。俺にかかれば造作もない。潮と潮がぶつかる所こそ腕の見せ所だ。1人軟弱者が居るようだな。立ち振る舞いからして、中々の武者のように見えたが勘違いか?」
「グヘェ〜・・・」
「こ、金剛君ッ!!情けないぞ!!あれだけで船酔いするのかぁ!!?走るか!?えぇ!?ランニングするのか!?」
「つ、剣城様・・・申し訳ありません。船酔いを克服するよう・・・訓練しておきまする・・・」
相変わらず金剛君は船酔いに弱い。まぁ仕方がないか。
到着した能島は小さな島だ。すぐ後ろに鵜島がある。泳いで渡れそうな距離だ。だが、ここは来てオレは初めて感動した事があった。
「嘘!?島全体が城!?マジで!?」
「なんじゃ?剣城はこれにそんなに驚くのか?」
羽柴さんがオレに問いかけてはきたが、作りは外見では、2年程前の徳川さんの岡崎の城に似た感じだ。 だが、凄いと思うのは本当の意味で島全体が城なのだ。
海から見ればそうは思わなかったが、これも何気にこの時代では素晴らしい、竹で作った桟橋まであるのだ。
ってか、徳川さん元気にしてるかな?まぁまた今度、一揆の時に入ったサウナにでも入らせてもらおうかな。
「出丸に、更に区切って・・・三の丸、二の丸・・・で、あの小高い上にあるのが本丸ですか?この小さい島によくぞここまで作り込めましたね?さすがですよ!」
オレは心から褒めた。これは素晴らしい。
「ふん。そんなに褒めても何も出ないぜ?だが、自分の城を褒められて悪い気はしない。おい!元(はじめ)!警護衆に言って、魚を獲って来い!」
「ふん。そこらの魚なら伊勢や那古屋で食べ慣れておるわ」
「羽柴様!瀬戸の魚も美味いって有名ですよ?特に鯛なんかは那古屋や伊勢にも負けていないと思います」
「ほぅ?知った風に言うではないか。それに、あんたはやけに俺達を高く評価しているようだな?そちらの羽柴って大名よりな。こんな奴ばかりだから、俺は独立を保っているのだ。海賊というだけで、下に見て偉そうに命令してくる」
武吉が言う大名とは毛利家の誰かなのだろう。今回は羽柴さんがオレと一緒に居るけど、これが信長さんならまた違う結果になったかもしれない。
羽柴さんも史実の天下人のオーラは持っているけど、信長さんのような人を惹きつけるカリスマは感じない。だから、本当の意味でただの偉そうな言葉に聞こえるのだろうな。
船着場で、少し話したあと本丸へ向かう。が・・・
「(ヘェ〜 ヘェ〜)おいおい。このくらいで息切れか?あんたは本当に先の戦で働いたのか?」
「武吉。そう言ってやるな。織田家の中でも此奴は体力がないことで有名なのだ」
「何で道の一つくらい作らないんですか!?崖登ってるだけじゃん!」
「あん?こんなところ、瀬戸の俺の配下なら爺さん婆さんだって登れるぞ?」
はい。村上の人達を舐めてました。ってか、戦国の人を舐めてました。やっぱこの時代の人は健脚過ぎるわ。
剛力君に押してもらい、金剛君に引っ張られながらなんとか本丸に到着。うん?朱華さんはって?この人はハオユーって人におんぶされながら登っていた。
ハオユーって人は・・・、
「あ、姐御!膝がガクガクします・・・(パチンッ!)うひっ!」
「誰が休んでいいと言った!歩け!」
「も、もう一発お願いします!(ドガッ)うひゃっ!」
「気持ち悪い声を出すな!」
「はっ!喜んで!」
と、変態だ。ドMだ。叩かれ、蹴られた後に、何故かオレの方へ向いてドヤ顔をかましてきたのだが、意味が分からない。オレはドMではない。
本丸の中は・・・まぁ普通だ。悪い言い方をすれば殺風景。物がないから広くは見える。
「うむ。楽にしてくれ。武家のしきたりやなんかは知らん。俺は武家ではないからな。とりあえず、今できる最大のもてなしをしよう」
武吉は荒々しく言うと、立派な鯛を使った飯を持ってきた。見た感じ・・・、
「鯛飯!?」
「うん?なんだ。知っておるのか。陸の奴等は魚は生では食べないと思ったのだがな」
美濃ではまぁまぁ値段は高いけど、鯛飯屋もありはする。できた瞬間から老舗感がある六代目 鯛提灯屋だっけ?あそこの源太郎さんが作る鯛飯は美味かったな。いや、違う違う。今はそこじゃない!
「(ハムッ ハムッ)え!?美味っ!少し柑橘の風味がある!みかん・・・ですか!?」
「ふん。鋭いな。それに毒を盛っているやもとは疑っていないようだな。あぁ。羽柴様だったっけ?安心してくれ。毒なんか盛っていない。まぁ食べてくれ」
口調は・・・まぁ、こんなものだろう。羽柴さんはどうかは知らないけどオレは気にしない。そして2人の子供だ。父親である武吉の横に座っている。口を挟むことなく静かに黙食している。船の上とは大違いだ。
「ふぅ〜。美味かったな。剣城さんよ。あんたは食べ慣れている感じがするが、那古屋だったか?そこでもこういうのは食べられているのか?」
「呼び捨てでいいですよ。で、先の質問に答えるなら是です。他にも天麩羅やら蒲鉾とか色々と魚は食べられていますよ。ちなみに、今度、海の魚の刺身が食べられる状態で那古屋から甲斐にまで運ぶ事がありましてね。海を知る村上様ならそれがどれだけ難しいかお分かりになるのでは?」
「よせ。俺は口は悪いかも知れないが、無礼者ではない。そっちも武吉と呼んでいい。で、刺身をか?塩漬け・・・ではないな。塩抜きしないと食えたもんじゃねぇ〜。それに甲斐とはどこだ?どれだけ遠いのだ?」
まぁ分からないよな。
「海から歩いて5日くらいでしょうか。武田家にですよ。先日、少しやり取りしてお互いの地に人を住ませて、交流会と言えばいいでしょうか。まぁ仲良くしましょうという政策です」
「わっはっはっ!5日か!まぁ無理だな。冬場でも腐ってしまう」
「まぁ近江でも伊勢でも最初はそんな反応でしたよ。皆が。それが出来るからするんですけどね。それと・・・大膳君!君はいつまで食べているんだ!お代わりまでしてもらって恥ずかしくないのか!!ランニングか!?えぇ!?走るのか!?」
「も、申し訳ございません!あまりにも美味くて・・・」
「ったく・・・柴田様や丹羽様が居たら切腹させられていた所だぞ!まぁ良い。懐に入っている板チョコを出しなさい!」
「えぇ!?何でそれを!?」
「ばか者!君の主はオレだ!それくらい知っている!早く!」
「・・・・どうぞ」
「そんな顔するな!帰ったら新しいスーパー超ビッグチョコをあげるから!」
大膳め・・・チョコレートくらいで躊躇しやがって。
「あんたと、その者等は、およそ主従関係ではないみたいだな。で、その箱がなんかなのか?」
「えぇまぁ。色々とありましてね。こんなですけど、皆オレなんかより優秀で働く男ですよ。この子は大膳って名なのですが、ここから泳いで帰れと言えば喜んで泳いで帰るような男ですよ。な?大膳君?」
「え!?さすがにそれは無理すよ!?あんな海で泳ぐなんて金剛のようなバカのすることですよ!?」
「はぁ?大膳?誰がバカだって!?」
「はい。ストップ。それ以上するなら二度とオヤツはあげないから」
「「・・・・」」
「変わった男だな・・・で、その糞のような物はなんなのだ?まさか食えというのでは・・・なぁ!?おい!羽柴の武家さんよ!?この者は正気なのか!?糞を食ったぞ!?」
「まぁ村上よ。貴様も食べてみよ。これはちょこれいとという、美濃や尾張では童でも食べている菓子ぞ。至高の味だと保証致す」
「はぁ!?菓子だと!?」「はいはい!元ちゃんだっけ?食べてみる?甘くて美味しいよ?君は景親君だっけ?食べてみな!飛ぶぞ!」
「おい!子供達に勝手に・・・」
「村上!座れ。これは糞でもない。かかおという豆から作られるのだ。西は大隅にある高山城にて名産品として作っているのだ」
「ち、父上!」「親父!!これは美味い!甘い!こんな物初めて食べた!!」
「剣城。下がっていろ。ここからはワシが話す」
羽柴さんは先程の雰囲気から真面目モード・・・戦国武将モードに変わり、話し出した。
「まぁそれを貴様が食おうが食わまいがどちらでも良い。じゃが、先の京の防衛戦にて毛利家の熊谷何某と剣城は随分と仲が良くなったようでな。その毛利家に織田の物資を買ってもらおうと、ここ瀬戸の海に入ったのじゃ」
「・・・・(パキッ)ぬっ・・・これは・・・」
「ふん。甘いだろう?今生味わった事なぞないだろう?続けるぞ。貴様は独立しているから毛利家に義理立てする必要はない。ましてや、織田家とは縁すらない状態だ。別に我等の船を襲って海賊行為をするのも自由だ。
じゃが、それをすれば剣城の言葉を借りるなら歴史から村上水軍は消える。これはワシも約束してやろう。毛利家からも兵が出るやもしれんな。なんせ、西国にはない武器もワシは売ろうと思っているからな」
「・・・・・・」
え!?そうなの!?確かに売る物は信長さんからもオレに一任されてはいるけど、羽柴さんは武器も売るつもりなのか!?
「じゃが、尾張や美濃から安芸は遠いからな。貴様等の仕事も奪うつもりもワシ等はないのだ。海運の仕事もしているだろう?大坂に出向いたくらいだ。三好の水軍より強いって事なんだろう?この話を噛みたいというならば、下に付けとは言わんが艘別銭と津料は我等から取るな。まぁそんな物を取らなくても今までの倍の銭は動く事業ぞ。
安芸への海からの荷は大坂にてお主等に引き渡そう。それより先は毛利家と貴様等で取り決めをすれば良い。更に・・・」
「更に?なんだ?」
「更にそれより販路を広げたければ其方等がすれば良い。ワシ等はその先は預かり知らぬ。九州にでも行けば更に儲けるのではないのか?織田家は島津家と仲良くしているからな。九州で商いはできないからな」
っぱ、羽柴さんはすげーわ。安芸だけじゃなく先を見てるわ。オレは平和主義だし、史実より織田家は平和路線かもしれないが、それでも今は戦国時代。下剋上当たり前の時代だ。笑顔で背中を刺されても文句は言えない時代だ。
それは島津家にも言える。義弘さんとは親友に近いし、思いたくないが、もし、お家の考えで織田家を滅ぼすといえば従わないといけないのが今の時代だ。
その事を踏まえて、味方ではないが、島津が織田家と不和になっても一枚緩衝材として手元に置いておきたいのが村上だ。で、この話をして、仮に村上が織田家側に少し靡いたとしたら島津家には関わらないだろう。
なら、九州で販路を広げるなら豊後の大友か、筑前の龍造寺だ。そこに荷物を流す。だが、義弘さんは九州を一つにしたいと言っていた。現に探題もファッキンサノバ義昭から許可貰えていたし。
この3家が争えば争う程物が売れる。織田家、引いては物流を担う羽柴さんが儲ける。島津家から文句を言われても、『え?織田家は毛利家に荷物を売ってるだけですけど?』って言える。本当に狡いやり方だ。
まぁ、これが史実での天下人になる秘訣なのだろう。オレはそこまで深く考えれないし、やろうと思えない。まぁオレはよくて、市長クラスになれればいいところだな。
「もし仮に我等がその話を呑んだとして・・・阿波はどうするのだ?此度は水軍が出払っていたから素通りできたが、毎度は難しいぞ?」
「世は乱世。自分で切り開いてみてはどうだ?あぁ。もし織田家の力を貸してほしいのなら正式に下に付く事だな。三好?阿波?残念だが、剣城は悉く三好を潰したからな。阿波では今頃てんやわんやだろう。
毛利家、家中では今の内に掻っ攫う事を話しているやもしれんな。毛利家は伊予にも手を出しているだろう?まずは四国の足掛かりに阿波を・・・なんてな」
まぁ、これも羽柴さんの野望だろうな。確かに今の内この誰が三好の頭になるか決めかねている間に奪ってしまえばいいのだろう。信長さんもそう思っているはず。だがそれを敢えてしないという事はオレには考えも及ばないなにかがあるのだろうな。羽柴さんもその事は言っていないし。
「一つ聞きたいのだが、あんた等は俺達とどうしたいのだ?」
「だからそれは最初に言ったであろう?今日は安芸に行商をしに来たと。陸からではなく海からだがね。別に村上や毛利と何かしに来た訳ではない。船の中に荷は積んでいる。それを売りに来ただけだ」
「その荷という物を売るには座代もいるし、それらはどうするのだ?」
「さぁ?此度は儲けるつもりで来ていないからのう。今さら鐚銭貰った所でなんの役にも立たん」
まぁ本来は船の航路を見てもらうつもりだっただけだし、本当に今日は荷物もそんなに積んでいないし、織田家を知ってもらうためにただ同然に流すつもりだったんだよな。
「剣城。交代じゃ。(この男に荷をただで渡せ。お館様にはワシから言っておく)」
羽柴さんから初めて見るくらい真面目な口調で耳打ちをしてきた。武吉に対して確信的な何かがあるのだろう。これは断れない。
「ここからはオレが。今日は荷は少ないですが、持って来た全てをあなた方に流しましょう。えぇ。銭はいいですよ。強いて言うなら本場の鯛飯を食べさせていただいたお礼ということで。市に流してもいいですし、毛利家に献上してもいいですよ。それに形として、大判50枚。50万円を今回限り通行料として渡しておきましょう」
「はぁ?ごじゅうまんえん!?それに荷をただで渡すとな!?」
「えぇ。お金は畿内ではこれが主流となっております。あなたも水軍の大将ならばオレ達の荷にどれだけの価値があるか分かると思いますよ。織田家との縁をこのまま無下にするのか、仲良くするか、敵対するか。それはあなた次第。お金の価値は毛利家の熊谷様にでもお聞きください。それでどのくらいの価値か分かるはずです。では本日の所は帰ります」
「ま、待て!色々聞きたい事がある!よければ今宵は城で・・・」
「あぁ、悪いのですが、こう見えて忙しいのです。予定では日帰りの予定ですし、オレの殿にもちゃんと伝えないといけませんからね」
「分かる!分かっている!だが、短期間で何もかもは・・・」
「いやいや、直ぐに決めなくていいですよ。また近い内に伺いますので、毛利家とゆっくり話して決めてください」
何故オレがこうも強引に話を終わらせようとしているかというと、羽柴さんが、『疑問に全て答えるな。疑心を残して去れ』と再び耳打ちしてきたからだ。
こういう駆け引きが苦手なオレは学んでいかないといけないからな。
「相分かった。船まで送ろう。次に参る時はこの旗印を掲げてくれ。これは一族にしか渡していない旗印だ。これを掲げていれば誰も手出しはしない」
なんか知らないけど旗貰った件について。これを売ればまぁまぁな値段になるんじゃない!?と思うがさすがにね。
最後は足早だが、また息切れしながら崖を降りて船に戻り、大膳君が荷を水軍の人達に渡して帰ることとなった。
荷物を積む前の確認でも・・・、
「こ、こ、これが砂糖なのか!?こんな砂糖見たのは初めてだ!武吉親分!これをいただいても・・」
「【スパコンッ)馬鹿野郎!サメの餌にしてやろうか!?あん!?」
「武吉兄貴!濁りのない酒ですぜ!さっそく飲みやしょう!」
「(スパコンッ)オメェ〜もサメの餌になるのか!?あん!?」
配下の人はまんま海賊って感じの人だと分かった。
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