安芸への訪問 中
「とまぁ、このナビに出ている形が日の本の地形でですね、こうやって指でスライドさせて、主にここが安芸というところです。えぇ。ここにセットして開始を押すと、後は自動で航行してくれるのです!うん?あ、これは刻を表す単位です。時間は1番左が最短です」
「え?どういう仕組みかって!?」
「羽柴様!考えてはダメなのです!感じるのです!うん!?冗談ではなく真面目にどうなっているのかって!?それを朱華さんが聞く?ふぅ〜ん」
「それは御公儀の秘密ってやつでさぁ〜!使える物、使える者は何でも使うのがオレっす」
まぁ乗り込んでから大変だ。色々な質問攻めだからな。確かに那古屋からどうやって10分〜15分で安芸に到着するんだよ!?って思うだろう。いや、オレも未だに思う。けど、農業神様から購入し、そういう仕様なんだから仕方がない。
動力の事も色々聞かれたが、分からん!だが、分からない振りをするのではなく、然も知ってるかのように見せるのが出来る男の嗜みだ。まぁ、ゴリ押しっちゅうやつだ。
「ねぇ〜?剣城の旦那!この船をアタイ等にくれるのかぃ!?」
「いやいや、誰があげるって言ったのですか!?これは織田家でも主力!特にオレ専用だから!朱華さん達の船は芳兵衛君達が新造してくれてるからそっち!石炭を燃料に使う、漕ぎ手がいらないやつだから!」
何を言ってくるのか。しかも色仕掛けとは朱華さんも中々やるじゃないか。中国美人とはよく言ったものだ。だが、このオレがハニートラップ如きに引っかかるわけはない。ゆきさんという素晴らしいワイフが居るからな。
「ムホッ!ムホホッ!良い!うむ!朱華!任せておけ!ワシが剣城にいつかこの船をお主等に下賜するように言っておいてやる!時に、暫し船室に二人で行こうではないか!」
いやいや羽柴さんが引っかかるのかよ!?
「まぁ一つだけ言うとすれば、この金色?七色?に光る、ヒヒイロカネって鉱石が燃料とだけ教えておきましょう。で、右舷、左舷には水鉄砲と名の水球を撃つ武器もあります。まぁとりあえずはこのくらいかな?さて・・・行きましょうか」
オレは最短の時間でナビをセットする。言っても、ギリギリの海域までしか行けないし、マジで海賊が居るかもしれないからな。
この船の凄い所は、水圧が掛かっているだろうが、現代の車のように抵抗なく走るところだ。で、かなりのスピードが出ているが、まったく揺れを感じない。 購入した時に言われた中で、農業神様曰く・・・
「ジャイロシステムを搭載したんだなぁ」
と、船でジャイロシステムが関係あるのかよ!?と思う事を言っていた。
羽柴さんや、朱華さん、ディンさん、後は・・・筆頭家老さんは以前も乗った事あるはずなのに初見のように驚いてやがる。ハオユー?って明の船員は放心状態のような感じだ。
ナビで、現在の大阪を抜け、小豆島から更に瀬戸内海側に入った所で、小舟が行き来している事が増えた。
気持ち良いくらいに皆が避けてくれる。その一団の中で1番大きい船から旗を振っているのが見えた。
「おい、剣城!勝手に他の領海に侵入したのだぞ!?お館様に知られれば切腹ものだぞ!?どうするんだ!?」
「え?いやいや、大丈夫っすよ。毎回オレはこんな感じっすよ?金剛君?運転を手動に変えて止まろうか。で、剛力君?双眼鏡で見た感じでは旗印は?」
「はっ。◯に上という文字です。申し訳ありません。西国の事はあまり分かりません。どこぞの家中かは・・・」
「あ、大丈夫。それが村上水軍の旗印だよ」
「なんじゃ!剣城!知ってるならそう言え!」
「え!?知らないっすよ?ただ、あの旗印がどこの人かって知ってるだけですよ?」
「は!?どうするのじゃ!相手からすれば勝手に入り込んで来たように見られるのだぞ!?あぁ!もう!海の装備なんかワシゃ〜持って来てないぞ!?」
「羽柴様は焦り過ぎです!落ち着きましょう!確か、村上水軍は独立はしているけど、ほぼ毛利家の傘下のような感じです。なんとかなりますよ。それにこちらは攻撃してないのに、向こうから仕掛けてくるならオレも黙ってはいないので大丈夫ですよ」
島津家の時は正直少し焦っていたが、それに比べたら・・・ね。あのバトルジャンキーとは違うんだから話くらいできるだろう。
金剛君の手動の運転で、航行できるギリギリの所で止まる。地図では現在の西条を超え、今治に入ったとこくらいだ。大小様々な島が並んでいる。
「そ、そ、そこの船!何者かッ!!」
「フッ フッ テスッ テスッ。急な来訪・・・」
オレが拡声器にて自己紹介をしようとしたところで、自称・・・じゃなかった。名実共に、筆頭家老になった小川さんが被せるような形でもう一つの拡声器で叫び出した。
「控えろ!下郎どもッ!!このお方は織田家 当主 従四位上 左近衛権中将 織田信長様直属 料理御意見番 芝田剣城様の船ぞ!且つ、ここには今や飛ぶ鳥落とす勢いで、織田家 物流外務大臣を拝命した羽柴藤吉郎様も乗船しているのだぞ!分かったならすぐに小舟を回せ!」
もうね。開いた口が塞がらない。小川さんはドヤ顔どころじゃないし、剛力君や金剛君なんて目を瞑り頷いているし、羽柴さんは・・・
「カッカッカッカッ!筆頭家老!よくぞ先の口上を言った!じゃが、ワシが1番じゃないのが惜しいのう」
羽柴さんは何故か有頂天になっているし。
ストンッ
「よっこいせっと・・・。邪魔するよ。あぁ〜、俺はここの海域で活動している村上武吉ってものだ。それにしてもなんだぁ!?この船は!?俺じゃなければ鉤爪で登れやしないぞ?」
「なっ!?鉤爪で登ってきただと!?羽柴様!剣城様!お下がりください!」
「いや、剛力君。大丈夫だ。オレが知ってる限りでは粗暴なイメージがあるけど、教養のある人だったって記憶がある」
「え?なんだ?俺の事知っているのか?あぁ〜。その物騒な物は納めてくれ。戦う気なんてないさ。あんた達だろう?畿内で最有力大名ってのは?毛利のお殿さんも一目も二目も置いているってな。先の将軍をお守りした乱で働いた者から聞いたんだ。なんせ、大坂まで迎えに行ったのは俺なんだからよ」
村上武吉・・・戦国時代で海賊として1番有名な人じゃないだろうか。オレも某ネットページでこの人の記事を見た事がある。だからなのか・・・なんとなく親近感がある。
「オレが芝田剣城です。この度は勝手に通ってすいません」
「ほぅ?初めから上から物を言うようなら考えが変わっていたが、あんたは違うようだな?甲賀出身の者を率い、公家や京の有力者、更に東の守護大名や近江の浅井家とまで繋がりがある芝田剣城さんよ。で、護衛もかなり居るみたいだな。だが若い」
「その前にこちらは名乗ったのじゃ。そちらも名乗るのが礼儀ではないのか?」
「うむ。確かにそうだな。いやすまん。能島 村上水軍大将 能島城主 村上能島武吉だ」
やっぱりこの人がそうなんだな。ってか、何でこの人がそこまでオレの事知ってんの!?それにここぞという時に羽柴さんの口上。初めてこの人がカッコいいと思ったわ。
「ふははは!そんな奇怪な顔をするでない!噂で聞いているだけだ!よければゆっくり話さないか?うん?噂によると、見えないところから物が出るとか、鮭とか酒も無限に出せるって聞いているぞ?」
「親父ぃぃ〜!!!」
「父上ぇ〜!」
「あぁ〜、許せ。俺の息子達だ」
オレが訝しんでいると、10代の若い二人が鉤爪で登って来た。まぁ1人はどう見ても男だ。だがもう1人が・・・
「お前!なんだ!その目は!俺は男だぞ!!」
若干、出会った頃の、お市さんのような雰囲気のようだ。男だぞ!と言っているが、間違いなく女の子だ。いやぁ〜、オレじゃなきゃ見逃しちゃうね!
けど、男の振りをする理由があるのだろう。優しいオレはそこはつっ込まない。
「男なんだね!そっか!分かったよ!けど、よく登って来れたね!せっかく来たんだから、手土産の一つでも・・・」
「ふははは!隠し立てしても仕方あるまい!こっちら景親で、こっちは元(はじめ)だ。まぁこのようにしちゃいるが、娘だ」
「父上!俺は男だ!!元吉だ!!」
え!?嘘!?あの元吉が女なの!?
「まぁなんだ・・・城へ来い。いくら巨大な船、巨大な大名の家臣だろうと、瀬戸の海をただで通すような事はさせない。争うつもりはないが、お前達も分かってもらいたいんだが」
「ほぅ?なにを偉・・・」
「羽柴様。ここはオレに任せてくれるって言いましたよね。村上様。能島城まで着いて行きましょう。メンツの話とかもあるでしょう。オレ達は無理押しするような者ではありませんので。ただ、気付いているかもしれませんが、二つ返事で初対面の貴方方の本拠に数人で参るって意味を承知しておいてくださいね。
オレ達を害そうと動くなら歴史から村上水軍かなにかは知りませんが無くなると心得てくださいね」
「ほぅ?中々の口上だな。我等を消すという事か?その少人数でか?それができるのか?能島、因島、来島、沖島、鹿島、傘下ではないが伊予、野忽那、中島、興居島、由利と俺が一声掛ければ毛利の兵にも負けないくらい集められるのだが?」
オレも少し戦国時代風に脅し口調を使った・・・というか、普通に出たのだが、さすが村上水軍大将。引かないらしい。しかも、毛利に負けないくらいの兵を持ってるらしい。良い事が聞けた。
「ゴホンッ。カッコいい海の男は嫌いじゃないわ。あ、申し遅れたけど、アタイは朱華。こっちはディン、ハオユー。見ての通り明の人間だよ。もし、剣城の旦那に何かしたらアタイも黙っちゃいないよ?村上水軍?どこの海の大将かしら?もしこの船や剣城の旦那や、羽柴の殿様にもしもの事があればアタイが持てる全てを使い、日の本に居る明国の船全てを使い、村上に関わる全てを消滅させるわ」
あぁもう!オレのカッコつけた戦国時代風の口上が台無しじゃないか!朱華さんの口上の方がカッコいいんだが!?
「み、明だと!?」
ほら。明らかに狼狽えているじゃん。やっぱこの時代の明というブランドは凄いよな。
「えぇ。その意味が分かっていらっしゃらなくて?明国のアタイが剣城の旦那と慕っているという事はそういうことさね」
「クッ・・・。とりあえず城まで来てもらう。俺の操船する小舟に乗れ。留守役を残しても良い。お前達が居る間は配下にも手出しさせない」
朱華さんも朱華さんだわ。なんだよ!?らっしゃらなくて?って。どこぞの貴族の話し方かよ!?
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