鳥丸文麿に似た剣城

 夜まで大変だった。例の双六だ。和歌を作れとか短歌とか。それで例の模型?を自分の色を点灯させるだけだけど、賭ける物が無いと面白くないとの事で、二人ともあまりお金が無いみたいで、烏帽子を賭けるとか脇差し賭けるとか言い出した為、賭けは無しで遊ぶ事にした。


 「うん?もう陽が沈んだと・・・いや、熱中し過ぎたみたいだ」


 「うむ。確かにな。芝田殿?その数々の短歌は受け取りなさい。然程も価値なんかはございませんが飛鳥井家は代々、和歌と蹴鞠の師範家でしてな」


 え!?そうなの!?そんなに凄い人だったの!?


 「ありがとうございます。勉強の為、色々見させてもらいますね」


 「明日にはお礼に蹴鞠をお教え致しましょう」


 「蹴鞠ですか!私もリフティングには自信があるのですよ!あっ、いえ何でもございません。すいません」


 「り、りふてぃんぐとは!?まさか芝田殿も公家でしたか!?相模で公家と言えば・・・鳥丸文麿殿と・・・そう言えばお顔も背丈も似ておられる・・・」


 いやいや鳥丸文麿って誰だよ!?そんな人知らないし、顔がオレと似てるってどんだけだよ!?


 「いやいや、全然公家なんかではありません!さっきのは気にしないで下さい!」


 「いやいや、そうもいかん。蹴鞠師範家として知らぬ技があるのならば、是非に知りたい!昔・・・相模に赴いた折に西堂丸、松千代丸に蹴鞠を伝授した折に、鳥丸殿は剣術指南役として北条に雇われており、色々話はしたがまさか縁戚とは・・・」


 いや、勝手に話作るなよ!?本当にそんな人、知らないぞ!?


 「すいません。その鳥丸という方は知りませんし、全く血縁者でもありません。この事はまた言いますので、本当に私は公家ではありませんので」


 「そうか。明日・・・芝田殿のりふてぃんぐとやらを見せて下され!」


 「は、はぁ〜・・・」


 蹴鞠ならサッカーのリフティングと似てるか、と思って声にしてしまったがミスったな・・・。そもそも鳥丸って誰なんだ!?


 「えっと、鳥丸様というのはどんな方ですか?」


 「鳥丸文麿殿は・・・」


 教えてくれたのは普段はなよなよした人だが、公家には珍しく剣豪と言われるくらい、剣に達者な人らしい。礼儀正しく、京に居る公家達は金を借りてまで女遊びや遊興に耽っているが、この人は禁欲的な人なそうな。


 「凄くできた公家さんですね」


 「まあ、麿も暫く会ってはいないが今はいずこに居られるか・・・だが本当に似ている・・」



 トントントン


 「夕餉の御用意ができました。こちらへ運びます」


 「うむ!やっとですかな?楽しみですな!ほほほ」


 とりあえずやっと夜飯か。この短歌や和歌は後で信長さんに見せて、要らないと言われれば鑑定で見てみようかな!?


 「ほほほ!なんと!なんと!?織田殿自らがお運び致しておるではないか!!!?」


 「このくらいは自分でもやります」


 嘘付け!いっつも遠藤さんが運んでるだろ!?


 「ここに本善料理を並べましょう。いやいや、京や越前で美食を尽くした物を食べ慣れておる御二方は、こんな田舎尾張が真似して作った本善料理なんぞ、食べれたものではないでしょうが、まずは・・・」


 「本膳料理とな?ほほほ。楽しみにしておりますよ」


 結局ここでも飯で探り合いか。めんどくせーな。


 並べられたのはオレですら見た事ない盛り付けの、the和食!って感じのメニューだ。ちゃんとお膳に分けられている。


 「一の膳。本汁は椎茸の味噌焼き、膾(なます)はキュウリとサバの酢の物、坪はカボチャの煮物、香の物は大根の甘酢漬け、カブの醤油漬け、ナスの味噌漬け。以上を一の膳と致します。全て・・・尾張、岐阜産でございます」


 「「・・・・・・・・・」」


 出された料理は全て、オレが以前に教えた物ばかりだ。伊右衛門さんがオレが教えた料理を更に改良し、今や自分の料理にしている・・・。流石、本職の人だ。


 「続いてニの膳。ニの汁はアサリのお吸い物、平は我が'尾張'で先日より畜産を始めたブランド鳥、那古屋コーチンの焼き鳥、猪口はほうれん草のおひたし」


 「こ、こんなに食べきれんぞ!?織田殿?もう良い!」


 「そうはいけませんな?まずはワシの領にて育てられておる物を見てもらわないと。続いて三の膳。三の汁は味噌汁、なまものには鮭とマグロの刺身、小附は豆腐の梅干し和え」


 「凄い・・・京の料理人が作るより素晴らしい・・・」


 「飛鳥井殿?落ち着き下さい。まだ四の膳が残っております。四の膳は鯛の白がま焼き。食べる前に卵白で固めた塩をこの木槌で割り、お食べ下さい。五の膳。台引に関してはお帰りになる前にお渡し致します。以上を以て京をも超える本膳料理と相成りましょう」


 「素晴らしい!!!ではここは麿達も形式に則り食しましょう」


 え!?食べ方に形式なんかあるの!?オレそんなの知らないよ!?


 二人はオレを気にせず食べ始めたが、完全に出遅れた・・・。


 無言・・・ひたすら無言なんだが!?オレが作った訳ではないけど、何か言う事あるのじゃないの!?


 「剣城?貴様は本物の本膳料理は初めてであったな?食べ方も本来はあるのだ」


 オレが食べられずにいると、信長さんが耳打ちして教えてくれた。


・客の正面に本膳、下座に二の膳が並べ終わると食事の始まり

・食事中は蓋は膳のわき下に置く

・飯茶碗を持って一口食べたら、汁椀に変えて一口飲むという動作を3回繰り返す

・まんべんなく平、膾の料理に一通り箸を付ける

・箸で取りにくいときは、食器を手に持つ

・皿から皿への移り箸はタブー

・姿焼きの魚の場合は骨を取り分け、裏返しにしない。

・飯は一口残して湯漬けにして、香の物と一緒に食べる。

・食事の終わりには食器に蓋をする

・菓子は懐紙にとり、楊枝で切り分けて食べる

・食事中は談笑しない。会話は食事が終わってから


 簡潔に教えてもらった訳だがめんどくせ〜!!食べやすいように食べた方がいいじゃん!!が、オレの素直な感想だ。


 だが二人の公家を見て思う事は、一つ一つの所作が洗練されている気はする。


 パンッ パンッ


 「クハハハハハ!流石!偉そうに言う訳ではございませんが、動きに無駄が無い!礼儀には礼儀で返すお方達と確と分かりました。このままでは此奴が飯にありつけぬし、中々に込み入った話もできないでしょう。崩させてもらっても?」


 「やはり・・・麿達は特に飯の拘りは言わなかったですからな?なのに本膳料理と来ましたから、身構えてしまいましたな。のう?飛鳥井殿?」


 「うむ。麿達を試されておるのか、と勘繰ってしまいましたぞ?」


 「いや失礼。先程このような文が届きましてな?御二方、どうぞ」


 うん?誰かから手紙が来たのか?


 「何だと!?」


 「これは・・・」


 「そうですな。前関白の二条殿から。義親公を次の将軍に据えようと、今関白の近衛前久公も動き出したみたいですな?」


 「ぐぬぬ、な・・・」


 「まっ、時勢というのは致し方ありませんな」


 おいおい!?信長さんよ!?なに興味なくマグロの刺身なんか食べてるんだよ!?


 「お、織田殿!!」


 「何ですかな?」


 「事は急を要する!先の言った事を至急──」


 「ふん。そうやって公家が上から物を言い、我ら武家を従えさせようとする。素直に聞くとお思いか?この事象を止められぬのは、その二条や御二方のせいではございませぬか?」


 「な、何を──」「山科殿!黙らっしゃい!」


 「うむ。飛鳥井殿は分かってきておりますな?」


 「権謀術数の世界の京に居ましたからな?帝から将軍宣下が無ければ征夷大将軍にはなれぬ。それを麿達でどうにかしろと?」


 「ははは!話が早い!」


 いやいや、オレは全くついていけねーんだけど!?全っ然話を遅くしてくれてもいいすよ!?


 「それをするならば今後、織田殿は?」


 「その先を聞きたければどんな事があろうと、織田に味方すると言うのであれば教えましょう。飛鳥井家100年の栄華を約束致しましょう。まあワシの優秀な間者のお陰で今、近衛前久公は越前に居るらしいですな」


 「越前・・・」


 「何回も言いますが今日、明日には動かないでしょう。ワシならば!ワシならば動けますがな?のう?剣城?」


 「え!?あ、はい!ここからすぐに京まで行こうと思えば行けます」


 「それはどうやってだ!?」


 「まあ、そう急かしなさんな。そろそろ酒の一つも入れた方が話しやすいでしょう。我が家臣で酒が強いのが居るのです。呼んでも?」


 「・・・うむ」


 「勝家!山科殿と飲んでさしあげよ!剣城!貴様は飛鳥井殿に飯の説明をしてさしあげよ!飛鳥井殿にカレーを食べさせてさしあげよ!」


 いやいや、ここでカレーかよ!?ってかこの人まだ食べる気なの!?相当食べてるよ!?




 ※鳥丸文麿


・官職は近衛少将で、略して「少将」と呼ばれる。官位を中に入れて「烏丸少将文麿」


・普段はなよなよとしたいかにも公家らしい言動だが、武芸を卑しい物と捉える公家には珍しく剣豪と呼ばれる程の腕の持ち主。


・一説によると、ネットの某巨大チャンネルの『画像も貼らずに』でお馴染みの元ネタとも言われている。

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