ここでもカレーですか・・・

 「何と自分は矮小な人間か・・・。京で、一乗谷で、贅の限りを尽くした飯を食べてきたと自負している。だが!!だが見た目はお世辞にも良いとは言えない、このかれーなる物・・・今世最高の飯なり!」


 いやいやカレー如きになんて言葉使ってんだよ!?ただのバーモントカレーだぞ!?


 「ほほほ。飯になると飛鳥井殿は変わりますな?だがしかしこれはかなり、いと美味し。見た目はアレに見えるがなんとも言えぬ味・・・どうやって作っておるのか・・・」


 「うむ。だいぶ美味くはなってきておるが、剣城が作るカレーには程遠いな。山科殿?飛鳥井殿?このカレーには幾つもの食材が入っております。それらが全て調和されて、更なるカレーへと昇華するのです」


 いやいや、信長さんも未だにカレーの哲学を言ってんのかよ!?大概そろそろ飽きたんじゃないの!?オレはもう飽きてるよ!?


 「デザートをお待ちしました!お館様の好物、イチゴのケーキと飛鳥井様、山科様にはプリンをお待ちしました。匙にて掬って食べて下さい」


 「ほう?デザートは大野が作ったのか?」


 「はっ。渾身の出来だと自負しております」


 デザートは大野さんが作ったのか。山科さん達のあの料理は、大野さんも手伝って作ったのかな?


 「う〜ん・・・なんとまろやかな・・・」


 「ほほほ。ほっぺがとろけそうですな・・・」


 気持ち悪い声出すなよ!!?たかだか普通のプリンだろ・・・。


 「美味い・・・大野さん!このプリンめっちゃ美味いんすけど!!!オレが世界一大好きな、グ○コのプッチ○プリンより美味いすよ!」


 オレが最大級の賛辞を送ったが、大野さんは軽く笑みを浮かべ頷くだけだった。なんだよ!?あれは!?めちゃくちゃカッコいいじゃないか!!!オレも今度、無言の頷き使ってみよう!!


 「ほ〜う?大野!中々やるではないか!生クリームが甘過ぎず丁度良い!遠藤!!こーひーを持て!!ミルクたっぷりのやつだ!!山科殿、飛鳥井殿にもお待ちしてさしあげろ!」


 「は、はい!!」


 慌てて遠藤さんがコーヒーを3つ持って来て飲み始めた。やはり苦いみたいであまり好みの顔にはなっていなかったが、コーヒーの後に酒を出し柴田さんと飲み始めたが、酒は・・・・うん。大絶賛だ。


 「ほっ、ほほほ!これじゃこれ!これを楽しみにしておったのじゃ!なんと神々しいまでの酒よ・・・」


 「そうじゃそうじゃ!どこにもこの澄み酒に敵う酒は無いのじゃ!誠、従一位のような輝き・・う〜ん・・・」


 従一位のような輝きって何ぞ!?酒にすら官位があるのか!?


 「それは中々に酒精が強い酒でしてな。浴びる程用意はしてあります。ゆるりとこの勝家とお飲み下さい。我らはあまり酒は強い方でありませんでな?おい、剣城!退席するぞ」


 「これ程の酒を造る生産者が酒を飲めぬとは傑作!織田殿!芝田殿!感謝致す。さっ!柴田殿、飲みましょう!!」


 確かにオレも酒は飲むけど、柴田さん程は飲めないからな。信長さんに促され退席して、信長さんの自室に呼ばれた。


 「貴様はよくやっている。勝家にも手柄を渡してやれ」


 「え!?いや別に私はそんな事は・・・」


 「だが初日にして公家の魂胆が見えた。次はどう搦手を使ってくるかだ。親父の時代の話を二人は出して来た。奇しくもあの二人は、ワシが生まれる前に尾張に来た公家だ。分かるな?」


 「あの二人だけの考えではないと?」


 「うむ。ワシは二条、勧修寺辺りがあの二人を使っていると見ている」


 名字だけはオレでも聞いた事のある人達だ。公家というか公卿だよな?


 「朝廷の意思があると思う感じですか?」


 「うむ。余程に正親町天皇は困窮しているのであろうな。表向きはな」


 「表向きですか?」


 「うむ。山科、飛鳥井は本当に帝を思っての行動であろう。だが文を寄越した二条なんかは帝の事は書かれていなく、次の征夷大将軍の事だけだった。そもそも何故、京に居る二条が山科、飛鳥井が岐阜に来る事を知っている?おかしいではないか」


 「確かに・・・」


 「私腹を肥やす為に山科の行動力、交友の広さを使い、武家から銭を吸い上げる魂胆であろうよ。その見返りとして飛鳥井の習字、蹴鞠、和歌、茶道、短歌などを教えるとの事だろうよ」


 「そんな見返りで動く訳ないでしょ!?」


 「それが京に憧れを持つ田舎者が多いのが事実だ。たぬきなんかはこの話がくれば飛びつくであろうな?かく言うワシも茶道に関しては少し興味が湧いている」


 いや信長さんの茶道は全力で止めないといけない!名物狩りとか始まってしまうぞ!?


 「結局のところは信長様はどうしたいのですか?」


 「朝倉の名前で義秋を奉じて上洛する。だが公家の言いなりにはならぬ。国力を一乗谷より強くし、朝倉を飲み込んでやるつもりだ」


 戦争ではなく経済で飲み込むか。悪くないと思う。


 「明らかに国力差が付き、織田に公家が集まる感じにするつもりですか?」


 「後はそこまで考えておる。朝倉を取り込めば六角、畠山なんかは目じゃない。まずはあの二人をできるだけ歓待する。足の軽い山科が良い宣伝をしてくれるであろうよ」


 「分かりました。いつ帰るか分かりませんができるだけ贅を凝らした飯、物をあの二人に用意致します」


 「うむ。それと帝に献金をする。織田からと芝田剣城、お主の名からだ。まずは名を覚えてもらう」


 「分かりました。用意しておきます。それと飛鳥井様からいただいた和歌や短歌などは・・・」


 「貴様に詠まれた物であろう?貰っておけ!」


 「はい。ありがとうございます」


 

 それから1週間は大変だった。尾張に行き例の村を見せたり、飛鳥井さんは日々食べる飯の具材を調べるとの事で畑を回ったり、山科さんは双六や酒を飲んだり、警備役の慶次さんなんかも、気付けば山科さんの友達かのように飲んでいたりと。


 肝心の柴田さんなんだが、確かに酒はあの日から飲んでいるそうだが、山科さんは酔えば和歌を作る癖があるらしく、柴田さんに五七五七七の極意と言わんばかりに、稽古されているそうな。オレじゃなくて良かったよ。


 オレは飛鳥井さんに日々蹴鞠の極意を聞いている。蹴鞠・・・ただのリフティングっぽく思っていたが、細かいルールがありオレは辟易としている。


 右脚で蹴る、膝を曲げずに蹴る、上半身は動かさない、鞠庭に背を向けるなどだ。


 城の飛鳥井さんの部屋の庭、季節外れの梅の花咲く庭の出来事だ。


 「そうそう!身体の中心を捉えるのだ!違う!身体が曲がっておる!!」


 簡単そうに見えて意外に難しい。専用の靴なんかもあるらしく、特別に飛鳥井さんと足のサイズが一緒で借りてやっているが、やりにくい。


 「あ、飛鳥井様!今日はこの辺で勘弁して下さい!」


 「なんと情けない!蹴鞠の道に終わりはないと心得よ!」


 いやオレは別に極めるつもりないんだけど!?


 オレは季節は冬に近い秋、11月に差し掛かる時だと言うのに汗をかいた為、例の軍配旗を団扇代わりに仰いでいると、飛鳥井さんに声を掛けられた。


 「それは武家が戦で使うものではないか?なんて書いてあるのだ?」


 「え?これですか?梵字なので自分も意味分からないのですが、風林火山とかじゃないすかね?」


 「少し見せてくれぬか?昔、京に居た頃に仏法の教えの書を見た事があってな?」


 「梵字が分かるのですか!?さすが公家ですね!私も意味が分からなくて気になっていたのですよ!何て書いてあります!?」


 「・・・我思う ゆえに我あり?どういう意味ですかな?」


 はぁ〜!?なんでそんな事書いているんだよ!?農業神様!?何故にそのような意味の軍配旗売ってるんだよ!?


 「それは・・・・飛鳥井様?考えてはいけません!感じるのです!我思う ゆえに我あり!」


 「お、おう・・・そうなのか・・我思う ゆえに我あり。詳しく意味が分からないがこれを考えるのも一興・・・うむ」


 オレも意味分からねーよ!?こんな感じで日々が過ぎていった。

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