慶次の言霊

 「芝田隊!前田慶次参上!!皆の者ッッ!!ノア嬢に続けッッッ!!!!!城方と一揆の間に割り込めッッ!!」


 「慶次様ぁぁ・・・・」


 クッ・・・。こんな時に美味しいところを慶次さんが・・・。お菊さんもまた目がハートに・・・。けどマジで助かった。


 「己らッ!!我らの殿に何をしたッ!!」


 「お前達の相手は我らだ!!!」


 "キャハッ♪ 来ちゃったぁ♪ 剣城っち♪"


 いや、ノア嬢さん!?マジで先頭で一番に突撃してくるんだが!?しかも迷わずオレの方に・・・・。


 ドンッ!ブチャッ!バシンッ!ゴリッ!


 うん。馬を奪おうとする目が狂ったままの農民を、ノア嬢が攻撃してるんだが!?聞きたくない音が鳴ってるんだが!?


 そのまま農民を齧ったり、蹴りを入れたりして返り血が付着したまま、オレの方へ向かってきた。


 「ストップ!ストップ!ノア!ストップ!!!」


 ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ。


 "キャハッ♪会いたかったよ♪寂しかった?♪ねぇ!?寂しかった?♪"


 "分かった!分かったから!ありがとう!助かったから強噛みやめてくれ!血が付いてしまうじゃないか!?"


 "キャハッ♪剣城っち♪臭い!"


 いや、ノア嬢の涎の方が臭いんだけど!!!!


 「剣城様!ご無事でしょうか!?」


 「野田さん!助かりました!申し訳ございません!!ゆきさんをすいません・・・。怪我させてしまいました!後で必ず治しますので!!!」


 オレは元日本一と定評のある、ジャンピング土下座で野田さんに謝罪したが、笑いながら許してくれた。


 「剣城様をお守りした勲章でございます。ゆきを褒めてやって下さい」


 「よぉ!剣城!」


 「慶次さん!助かりました!」


 「ふん!気概は良かったんだがな?剣城はもう少し'潮目'を覚えた方が良いな」


 「潮目?」


 「まぁまた清洲に戻りゃ教えるさ!めがほんだったか?借りるぞ?」


 「農民共!聞けッ!我ら本隊が到着したということは、貴様らは既に死んだも同然!今一度向かう先を考えろ!このお方!芝田剣城様は弱者も見捨てんお方だ!」


 慶次さんは叫んだ。味方のオレでも聞き入ってしまうような声で。本物の言霊で。


 「今お主らが奪い合っておる物は、芝田剣城様が出した物だろう!奪うだけじゃ変わらない!それを自分達で作ろうと思わぬか!?それだけじゃない!この方はお主らの為、米を持ってくるよう俺達に指示を出した!無償でだ!」


 カラン……カラン……。


 あれ!?武器捨ててる農民が居るぞ!?慶次さん!やったか!?あっ!?あれは荷車か!?


 「これだ!とりあえず10俵持ってきておる!これからまだまだ持ってくる予定だ!奪われ奪い返すのは終いだ!」


 「聞くなッ!耳を貸すな!彼奴らはそう言ってお前ら農民を使い潰すだけだ!奴の言う事を聞くと地獄へ落ちるぞ!!」


 「そうだ!そうだ!その後、法外な銭を要求されるだけだぞ!!惑わされるな!」


 パンッ!パンッ!


 「ヒィィィ!おい!門徒共!拙僧を守れ!さもないと地獄へ落ちる──」


 パンッ!


 杉谷さんの腕もかなりだな。全部ヘッドショットだ。


 「見てみろ!クソ坊主共はお主らを守るどころか、盾にしてるではないかッ!今ここで決めろッ!武器を持ってる奴は容赦なく・・・・殺すぞッッッ!!死ねば極楽?馬鹿抜かせ!乱暴狼藉した己らが、極楽に行ける筈がなかろう!そもそも人間はたんぱく質で作られてるだけだぞ!!!それでも極楽に行けると抜かす奴が居るならこの俺、前田慶次が極楽への道を用意してやるッ!!」


 いや、慶次さんもある程度勉強したんだろう。けどタンパク質は、農民達は分からないんじゃないのか!?


 「もうやめだ!」「嫌だ!死にたくねー!」「あの美味いやつをまた食うんだ!」「オラはおっかさんに食わしてやりたかっただけなんだ!」


 「破戒僧共ッ!!お前らは許さんぞ!皆の者!坊主を捕縛しろッ!!一番多く捕縛した者にこの芝田剣城様直々に、極楽な食い物を腹一杯出してくれるぞ!!!」


 「「「「「オォォォ────ッッッ!!」」」」


 いや慶次さん!?何勝手に約束してんの!?別にいいけど先に言ってくれよ!?一揆側は勝負ありだな。慶次さん流石だ。高級シャンパン、ドンペリでも渡してあげよう。


 「剣城?言霊とはこういう風に使うのだ。相手の立場より上から物を言い、徐々に目線を下げ自分の方へ誘導するんだ。時に脅しを入れながらな」


 「流石ですね。オレはまだまだでした」


 「仲間を見捨てなかったのは、部隊としては褒められたものではない。剣城は総大将だ。剣城が居れば隊は残る。だが剣城が居ないと、俺達はまた草に戻るか野垂れ死ぬだけだ。だが・・・仲間を見捨てなかった事、感謝する」


 なんだろうな。また信長さんや家康さん、秀吉さんとは違う嬉しさがあるな。オレもこう思われる人になりたい。そう思った。




 「クッ・・・!一揆が止まっただと!?挟み撃ちの作戦が・・・。坊主頼みの作戦は甘かったか・・・」


 「吉良殿?ご安心を。彼奴らの装備を見て念には念を、と策を用意しております。もう暫くすれば桜井の方から援軍が参ります」


 「誰だ!?誰が来るのだ!?」


 「朝岡殿だ。何でも小倅に、あの織田の兵達のせいで暇を出されたそうだ。浅原、伊奈の軍も合流する手筈となっておる」


 「ふん!重畳重畳!では我らが負ける道理は無いと?」


 「当たり前でしょう。新手と言っても100も満たしておらんではないですか。見た事ない体躯の馬が居りますし、種子島も中々に揃えておるようですが、弾は高価ですからな。現にあまり撃ってこなかったでしょう」


 「だがまだ隠しておるやもしれぬぞ?」


 「いや、あの体が吹き飛ばされるカラクリは分からぬし、頭上を超えた銃なる物も距離こそ脅威ではあったが、人を殺めるものではない。あの追い詰められた時にあれということは、弾が無いのでしょう。だが念には念を込めて援軍を待ちましょう」


 「酒井殿に任す。ふははは!今に見ておれ!あの偽物の三河守を追い出せば、酒井殿のこの上野城には一切の自由を認めると約束するぞ」


 「はっ。お頼み申す」




 「では、ここで全軍の指揮権を剣城に返すぞ!」


 「え?別に慶次さんに任すよ?」


 「駄目だ!これは剣城じゃないと駄目なんだ!」


 「・・・分かったよ。指揮権貰いました。とりあえず皆さん助かりました!城方は退いています!後追い無用!まずは剛力君!簡易的な陣を!衛生班は急いでゆきさんを!他は一揆の人達に米を分けて!」


 「てか慶次さん!?あの村、ガラ空きにして大丈夫なの!?」


 「それなんだがな・・・・」


 何かあるのかな?


 「藤吉郎のおっちゃんが来てな。勝手に軍を動かす事は出来ぬが、一揆を甘く見るなと言ってな。今は藤吉郎のおっちゃんが村を警備してくれている」


 「げっ!また借りが出来てしまったじゃん!」


 「あっ、いやすまぬ。実は約束してしまった事があるんだ・・・。これはまたな?追々な?」


 「今なら許すから言って下さい!」


 「ウィスキー20本、新式銃の横流し、岐阜城の改修に組入れる事だ・・・」


 いや、ウィスキーとか城の改修は、どうにか木下さんにも参加してもらおうとは思ったけど、新式銃の横流しって・・・。信長さんにバレるとヤバいやつじゃね!?これは直接オレがお断り入れるか。


 「分かったよ。後は帰った時にオレが直接話すから」


 「すまぬ。藤吉郎のおっちゃんはしつこくてな」

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