天麩羅の夢

 段々、夜が明けてきたな。オレの作戦はバッチリ嵌まり酒井忠尚さんの兵は、散発的な突撃だけで城の中に籠もってしまった。


 「敵が城の中に戻ったようだね。皆、怪我とか無いですか!?」


 「生温いですな。中途半端な突撃を繰り返すだけで」


 「そりゃ突撃しても騎乗武将は狙撃され、先頭の何人かも撃たれるから士気も落ちるよね」


 「剣城様。お疲れ様です」


 「うん。ありがとう、お菊さん。特に危ない事は無かったけど。剛力君?・・・ごめん。剛力君は呼んでなかったんだった。見張り何人か付けて残りは休憩!さすがに小さいけどこの30人弱で城攻めは無理!」


 「がははは!ワシなら行けますぞ!」


 いやそれは小川さんだけだから。いや待てよ?ワンチャン例の臼砲で・・・まあ。無理だな。


 《大型ゲルテント×2》¥200000


効能・・・・多人数のキャンプにもってこいのテント。有識者の間では、ライバルに差を付けるテントと言えばこれ、とまで言われている。


 《水2ℓ×50》¥5000


 《240匁タオル×100》¥10000


 

 うん。有識者で話題の、モンゴルの遊牧民が使いそうなゲルテントだけど、その有識者とは誰ぞ!?


 「テント張って休憩します!飯は缶飯で堪えて下さい!1人2本〜3本の水とタオル2枚〜3枚用意してるから、各自、汚れや汗など拭いて軽く寝るように!」


 「剣城様。よろしいでしょうか」


 「うん?お菊さん、どうしたの?」


 「今から剣城様はお休みになられる!入ってくるな!」


 いや、眠くはないんだけど・・・。


 「剣城様?私は戦や一揆の経験はありませんが、あの上野城の兵達は何かおかしいです。意味も無い突撃、散髪的な突撃・・・。その割に最後の方は雑兵しか死んでいません。何かこう・・・誰かを待っている様な・・・」


 オレより戦に詳しいお菊さんが言うんだから、何かありそうだな。


 「援軍?的な感じかな?」


 「そこは分かりませんが・・・」


 「まあけど危なくなれば引くつもりだし、杉谷さんからも何も連絡ないから大丈夫でしょう。金剛君?入って来て。杉谷さんに連絡して状況を」


 「今しがた連絡入りました。鞠のお陰で余裕だそうです」


 「え!?余裕とな!?」


 「はっ。なんでも塩素ガスなる物を使って足止めしておったところ、明るくなり始めた頃には敵は引いたと。東条吉良の者とも言うておりました」


 「了解。中々休めないと思うけど休むように伝えてくれる?」


 「はっ」


 東条吉良・・・東条吉良・・・誰だ!?知らんな。まぁでもこのくらいなら何とかなりそうだな。家康さんの場所は西尾方面だから、こんな余裕な事はないだろうな。安心したら眠くなってきたな。少し寝よう。


 「お菊さん?少し寝るから皆も休憩して寝るように。何かあれば起こしてくれる?」


 「はっ。了解致しました」


 

 パチパチパチパチパチパチ。


 あぁ。美味そうだ。あれは天麩羅か?海老天か?まだ海老天はこの時代で食べてないな・・・。うん!?この時代!?誰が作ってくれてるかは分からないけど、オレに出してくれるのか!?目の前に出してくれたという事は、食べていいんだよな!?'剣…' '剣城…' '剣城様!' 誰だ?どこからオレが呼ばれるような・・・。


 「剣城様!起きて下さい!」


 「うん!?天麩羅は!?」


 「何言ってるんですか!?敵方、武家らしき者が多数!城に合流しております!」


 「何だって!?」


 クソっ!人が天麩羅を食べるいい夢を見てたのに・・・!帰ったらすぐに天麩羅食べてやる!


 「双眼鏡です。どうぞ」


 いやこれはやべーわ。城の反対側からかなりの数が来てるんだけど・・・。引き際かな・・・。


 「剣城様っ!後ろから一揆です!」


 「え!?やばい!挟まれる!テントはそのままでいいから逃げるよ!金剛君!杉谷さんにも城まで戻るように言って!」


 いや後ろもまだ距離はあるけど、双眼鏡で確認すると・・・あの目・・・次は本物だ。目が逝ってる奴らばかりだ・・・。


 「城門から城の兵も多数っ!!」


 「皆の者!剣城様を守れ!退きながら戦うぞ!全員退却は間に合わん!小川様!殿(しんがり)よろしいでしょうか!?」


 「がははは!菊!いい判断だ!お前は我が君を岡崎まで連れていけ!ワシは城の兵と一揆勢を引き付けておこう!」


 考えろ考えろ。このまま小川さんを見殺しにするのか!?そんな事できる訳ない!また同じ事を繰り返すのか!?絶対死なせないぞ!オレは静かにトマホークmk-2神様ver.を取り出す。


 「剣城様、早く!大黒剣ならまだ抜けられます!」


 「いやお菊さん、無理だ。双眼鏡で見てみて。一揆に関しては隊列のクソもないけど、オレ達を囲むように向かって来ているでしょう?僧ばかり倒してたのが仇になってしまったと思う」


 「ど、どういう意味でしょうか!?」


 「農民達は1人も殺さずに放置してたでしょう?あの農民を、保護しないといけなかったのを忘れてたんだよ。あの農民が上宮寺だっけ?その方角に逃げてたでしょう?だから破戒僧が農民を盾にして、囲むように来たのだと思う」


 「分析は見事ですが今は──」


 「もう逃げないよ。小川さんだろうが誰だろうが、身近な人は絶対失いたくないから。オレが仮に死んでも皆が生きてたらそれでいい」


 「・・・・・畏まりました。金剛!作戦変更だ!この場所にて迎え撃つ!イージスのシールドを盾としろ!ピンクのイージスは剣城様の方に!城側の指揮は金剛!一揆側は私が指揮を取る!」


 「我が君!ワシの為に勿体ない!ワシは死にませぬっ!!」


 「ははは!その言葉聞き飽きました!皆そう言って軽く命投げだしますからね!信用できませんよ!」


 狂った敵が迫って来てるのにオレは落ち着いていられた。明らかな人数差、客観的に見れば負け確定レベルだし。

一揆側は200人くらいな。


 城側はまだ分からないけど・・・。こっちは30人か。爆竹で怯んでくれればいいけど。焙烙玉はまだ50はある。ピンクのイージスの衝撃波は3回・・・。やるぞ!


 「隼人君!これを!国友さんの臼砲!使えるか分からないし弾も5発程しかないけど、タイミングよく使って!!殊の外(ことのほか)、命中精度悪いみたいだから隼人君の経験で、斜角とかお願い!」


 「御意」

 

 「さあさあ!あの者達を殺せば死後極楽は間違いないですぞ!そしてあの者の装備を献上するのです!」


 「奴こそ皆の不幸の元凶だ!」


 「お前達の娘を売れと拙僧に武力で言われ、防げなかったのは拙僧の落ち度!だが拙僧は民の、其方達の味方だ!今こそ同胞を殺した彼奴らを殺せ!武家が奪った我らの物を取り返せ!」


 おいおい!オレは何もしてねーぞ!?本当に全ての悪行はオレのせいかよ!?


 「娘を返せ!!」「オラの米を返せ!」「気に入らんと家を壊した恨み忘れておらぬぞ!!」「年貢を取り過ぎだ!!」


 「剣城様!耳を貸してはなりません!」


 「おい!貴様らの中に昨夜生きて帰った奴も居るだろう!ワシ達がお前ら農民を殺したか!?殺したのは生臭坊主だけだ!それで生臭坊主はお主らを前に出し、自分は後ろの安全な所にいるだけだろう!考えてみろ!」


 「うるせー!」「米を渡せ!!」


 小川さんの声も狂ってる奴には芯に響かないよな。


 「小川さん、下がって下さい。もういいですよ。ただの農民を殺すのは本当は辛いですが、頭の狂った普通に考えれば分かる事すら出来ない人は、助けても意味が無いです」


 オレは間違った選択だとは分かってる。本当は昨日逃した農民達に飴玉の一つでも渡せば、こんな事にならなかったかもしれないが、この地に来た最初の事を思いだし渡さなかった。


 兵士ならしょうがないが、兵士でもないただの農民をオレが・・・・。


 パスッパスッパスッパスッパスッ。


 突出して小川さんに近付いていた5人を、オレは躊躇なく撃った。


 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!


 「お菊さん!ナイスタイミングの爆竹!」


 オレはタブレットのボックスから以前、中伊勢で使ったメガホンを取り出した。


 「聞けッ!!!本来オレはあんた達弱者は倒したくない!昨夜逃げた者がいるだろう!オレはあんた達全員を腹いっぱい食わせ、病気の者は無償で治せる薬を持っている!」


 「上人!?あの声は!?」


 「聞くな!!まやかしだ!!」


 「門徒達!足を止めるな!手を止めるな!仏敵だ!倒せ!」


 「お前達こそ黙れッ!!お前達は民を盾に安全な所から指揮して、金を巻き上げ、何かあれば脅して奪いつくしているのではないのか!?三河、松平家康様は民の貴方達を危惧しておられる!」


 よし!一応足は止まったな。オレは急いで買い物だ。


 《○まい棒各種味の詰め合わせ×500》¥6000


効能・・・・全年代子供の遠足時に必ず持ってくる者がいると言われている某社スナック菓子。


 クッ・・・・オレがいなくなった間にオレの好きな菓子○まい棒は12円に値上がりしてしまったのか・・・。


 「皆の者、見よ!!この様に袋を開け中身を食べてみよ!あっ、この味知らないぞ!?リッチめんたいこ味だと!?」


 「剣城様!?スイッチが入ってます!!」


 「(ガリッ!ガリッ!)美味っ!?これ美味っ!これを皆に渡す!受け取れッッ!!!!」


 「「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」


 「おい!お前達!あんな物食べるな!あんな見た事ない物は毒だ!!」


  「突撃ッッッ!!!吉良家の再興だぁぁぁ!!」


 クソ!このタイミングで城の方か!?しかも吉良の再興だと!?誰だよ!?あっちは本物の兵だから、遠慮はしなくていいよな!?


 「美味い!」「何か知らんがかなり美味いぞ!」「食べた事ない味だぞ!!」「一つずつ味が違うのか!?」


 「こら待て!それを食べると極楽に行けぬぞ!?良いのか!?」


 「オラは今これを食べてる方が極楽だぁ〜」


 「農民達ッッ!!よーく考えろ!ここで武器を捨てれば、後でそれと同じ物を腹一杯食わせてやる!勿論、無償でだ!」


 「お菊さん!一揆の方お願い!残りの缶飯も食べさせていいから、挟み撃ちにだけならないように!オレは金剛君の城側に向かいます!あっちは目的があり、こんなもんじゃ止まりません!」


 「はっ。何としてでも」


 何とか一揆は一旦は止まったけど・・・。○まい棒様々だ。某社の祠でも作ろうか!?


 「金剛君、隼人君、お待たせ!」


 「見事です。狂った者を止めたのは流石でございます」


 「うん。あの菓子のお陰だよ。隼人隊!撃てるだけ撃って!こっちは遠慮しなくて良い!」


 「はっ」


 パンパンパンパンパンパンパンパンパンパン!


 パスッパスッパスッパスッパスッパスッパスッパスッパスッパスッ。


 「ヤバっ!20秒経ったか!?隼人君、悪い!少し撃てなくなった!」


 「申し訳ありません。我らも昨夜から弾の方が・・・」


 「焙烙玉に切り替えて!肉薄されないように!!各自、火を点けて投げ込んで!!」


 「衝撃波ッッ!!!」


 ドォォォォォ──────ン


 「なっ何だ!?」「吹き飛ばされる!?」「近付けないぞ!?」


 よし。最初の突撃は防げたか!?


 「隼人隊ッ!焙烙玉!投擲ッッ!!!」


 ドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッ!


 「怯むな!怯むな!見た事ない装備だが広忠様の小倅の隊の筈だ!奴を倒せ!!」


 まだ止まらんか!?クソッ!!後2回の衝撃波か・・・。


 「隼人隊!小川隊!下がって下さい!衝撃波!」


 ドォォォォォ──────ン!


 「おい!あれは何なんだ!?」「体が勝手にさっきから」


 「近付けば飛ばされてしまうぞ!?」


 「怯むな!怯むな!!松平に勝てば褒美は思いのままぞ!進めッ!」


 殺傷能力が無いのが仇となったか・・・。突撃は止まるけど後一回・・・。


 「もう一回衝撃波出します!下がって!!」


 ドォォォォォ──────ン!


 早々に使い切ってしまった・・・。


 「剣城様!臼砲撃ちます!!」


 ヒュ────ン!ドォォォォォ──────ン!


 おいおいおい!?突撃してる人飛び越えて、後ろの馬に乗ってる人の付近に落ちたんだが!?


 



 「剣城様!!すいません!農民は農民で菓子の奪い合いが起こってます!!」


 「これはオラのだ!!」「いやワシのだ!!」


 ヤバいヤバい!オレの考えは甘かったか・・・。かなり城方の兵は減らしたけど多勢に無勢・・・。接近戦なら瞬殺されてしまうぞ・・・。もう衝撃波も残ってないし・・・。臼砲は飛び過ぎるし・・・。


 「隼人隊!銃を捨て抜剣ッ!剣城様を守れ!防御円陣!」


 「がははは!城方も中々やるではないか!我が君には届かせぬぞ!!」


 「変な甲冑の奴が居るぞ!奴を狙え!強弓だ!強弓を使え!!」


 ビュ────────ン!


 敵が矢を放った瞬間が、オレはやけにスローモーションのように見えた。


 「小川さんッッ!!!!!」


 「グハッ・・・・。チッ・・・。肋骨をやられたか・・・」


 え!?あんなクッソでかい矢直撃して貫通してないんですか!?


 「がははは!この剣城様が出したハルモニアのスーツ!そう易々と突破できると思うな!!!うぅりやぁぁ!!!」


 ドンッ!ドンッ!ドンッ!ガギッ!ゴンッ!


 いや肋骨折れた人の動きじゃねーだろ!?明らかに武器の音じゃないんだけど!?





 「女だ!女が居るぞッッ!!!」「女を狙え!」


 クソ!今度は一揆側か!?農民共が!!奪い合いの次は女かよ!?オレのお菊さんには指一本触れさせないぞ!!


 「キャッ!!」


 グサッ。


 俺が振り向いた瞬間。ゆきさんの足に農民の男が持ってる、錆びた日本刀が突き刺さるのが見えた。


 「ゆきさんッッッ!!!」


 「そーれッ!俺が先だ!」


 「よーし!そうだそうだ!女は犯していいからな!」


 「ゆきッ!?」


 「だ、大丈夫!足を刺されただけだから!なんのこれしき・・・」


 「お前の相手はオラだべ!!早く股さ開け」


 「寄るなッ!」


 「いてッ!!このアマ!指を食いちぎりやがっただ!」


 「ゆきさんッ!?お前ら!!辞めろッッッ!!!」


 「いい匂いだべ」「脱がせば同じじゃ!」


 こんな所で狂った農民に、ゆきさんを強姦させられるかッッ!まだ撃てないのか!?


 「背高い女さ!動くな!気持ち良くしてやるからな!!」


 「離れろッッ!!!」


 「痛ッ!もう良いべ!死んでから犯しても同じだべ!」


 狂ったあの臭そうな農民・・・。間に合わん・・。いや待てよ?確かトマホークmk-2は・・・信用した者1人には使えるって・・・。


 「ゆきさぁぁぁんッッ!!!受け取って相手に向かって指の取手を引いてくれぇぇぇ!!!!」


 「つ、つ、剣城様の装備を!?私の事は放っておいて──」


 「受け取れぇぇぇぇぇ!!!!」


 【認識しました。接続完了しました。二人のカップリング許可。トマホークmk-2神様ver所有者。芝田剣城・伴ゆき】


 ゆきさんが受け取ると、空から無機質な声が聞こえた。


 「なっ、何だ!?」「空から声が!?」「ば、罰が当たる!!!」


 「こっ、こら門徒達!怯むな!!空耳だ!殺れ!犯せ!奪え!」


 パスッパスッパスッパスッパスッパスッパスッパスッパスッパスッ。


 ゆきさんは、オレから受け取ったトマホークmk-2神様ver.で、すかさずお菊さんとゆきさんに群がっていた、獣の様な目の男を10人殺した。


 クソ坊主が!女を犯せとはどういう事だよ!全員殺す・・・。ゆきさんを怪我させたな・・・。


 「申し訳ございません!剣城様の大切な武器を・・・」


 「剣城様・・・。申し訳ございません・・・」


 「ゆきさん!お菊さん!ごめん!後で絶対治すから後ろに下がって!」


 パンっ!……パンッパンッパンッ!


 『剣城様!聞こえますッ!?無事ですか!?』


 「剣城様!杉谷殿からです!」


 『俺も居るぜッ!!すぐ道を切り開いてやるからそれまで保てよ!!』


 「慶次さん何で・・・?けど・・・助かりました・・・」


 『はっはは!戦はまだまだだな!小泉隊ッ!斉射!!撃てッ!!』


 トランシーバー越しで聞こえた声だが、あまりの大きな声で、本当の声も150メートルは離れているだろうが、慶次さんの声は真横にいるかのように聞こえた。あれが本当の言霊なんだろうか・・・。


慶次さん・・・。ありがとう・・・。


 

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