小川三左衛門のハルモニアのスーツ

 オレは大黒剣に跨り走り始める。城の兵の人達は何か分からず、何故か拝んでくる人も居たけど。


 「西はどこまで進んでいるの?」


 「はっ。草を使い確認したところ、安城の方は少数。やはり西尾辺りは相当な数です。それと北の上野城から不穏な動きがあります」


 「確か酒井忠次さんの叔父でしたよね?なんでも今まで独立を維持していたけど、松平様がこれからは認めないからと?一揆とは別な感じ?」


 「何人もの僧が、上野城に出入りしてるのを確認できております。そして、岡崎に向かって来そうであります」


 「なんとかこの人には死なずに居てもらいたいね」


 それからオレは皆に作戦を伝える。杉谷隊は安城方面で一揆を待ち構えて、指揮官を狙うように言い、接近戦はしないように言った。もしもの事があれば駄目だからだ。


 「危なくなれば、芳兵衛さんが作った煙幕玉で逃げるように!もし織田領に向かっても、咎めはオレだけに済むようにするから!」


 「はっ。命に代えましても」


 「いや、だから命は賭けなくていいから!安全第一!戦は帰るまでが戦だから!命令です!死んだら許さないですからね!鞠ちゃんは念の為、杉谷隊に加わって」


 「はっ。ありがとうございます!肝に銘じておきます」


 「残りは上野城方面に向かうよ。琴ちゃん以外の衛生班は岡崎で治療の準備を!」


 「はっ!」


 それから出発したオレ達は15分程走った所で、木刀っぽい物や薙刀を持った僧兵など、30人程の集団に出会う。


 「門徒達よ!得体の知れぬ者に裁きを!作物が育たない、病気に罹る、戦になる元凶は目の前の奴ぞ!」


 「なんちゅう理論だよ。悪いのは全部オレ達のせいってか!?」


 「お前達は仏を知らぬ愚か者ではあるまい?武器を捨てて、その珍しい乗り物を拙僧にお渡しなさい。さすれば極楽に導かれますよ」


 「一応言っておくがオレ達は──」


 パンッ!!!!


 「目標命中。狂ってる敵を排除しました」


 うん。またオレの話してる途中で隼人君が敵を撃ったね。せめてオレが話し終えるまで待ってほしかったな!?


 「見事。けどこれからは一応オレが話してる時は待ってほしかったかも」


 「はっ。申し訳ありません。あの愚僧が舐めた事を言ったもので頭に血が上りました。大黒剣を寄越せとはちゃんちゃら可笑しな話です」


 それだけで瞬殺してしまうの!?寡黙でポーカーフェイスな隼人君は今怒ってるの!?オレもこれから、彼の逆鱗に触れないように気を付けよう。気付けば風穴が空いてるかもしれない・・・。


 「お前達の相手はワシだッッッ!!!農民共ッ!!ワシを狙え!!我が君に一歩も近付かさんぞ!!!さぁ!来い!!!」


 「ヒィィィィィィィィ!」「お、おいらは仕方なく加わっただけで」「領主について行けと言われただけで・・・」


 「「「わぁぁぁぁぁぁ────!!」」」


 「おっ、おい!待て!逃げるな!ワシはここぞ!!武器を持って戦えッ!!!」

 

 うん。いつもの小川さんだ。そりゃハルモニアのスーツだっけ?気付けば小川さん専用になってる全身真っ黒の西洋の十字軍が装備してるような鎧を着れば逃げるよ。武器は未来のゲームに出てくるような三国志の呂布が装備してるような方天戟だろ?そりゃ無理だわ。オレでも逃げるわ。


 「わ、我が君!どうもこの一揆は外れですな?さっ、次に向かいましょうぞ!」


 「外れではないけどね。まあ小川さん、これからもお願いしますね」


 その後は少し走ればまた少人数の一揆と出会い隼人君の狙撃で頭を撃ち抜く、小川さんが前に出て名乗りを上げる、農民は武器を捨てて逃げるの繰り返しだった。


 「おい!ワシはここぞ!!!ワシの首が欲しくないのかッ!?戦えッ!!!ワシがこの一揆の原因ぞ!!!」


 「おっ、鬼だ!!」「あんな奴が飢饉の原因ならいつも飢饉でいい!」「た、助けてぇぇ──!」


 小川さん?凄いぞ!!飢饉と小川さんなら飢饉の方が良いと言われてるぞ!?凄いオーラだな!?オレには真似できないよ!


 「まっ、待て!違うんだ!本当はワシのせいじゃないんだ!だから掛かってきてくれ・・・。ワシはここぞ・・・」


 「小川さん!戦わずして勝つ!最高の結果じゃないですか!」


 「我が君!違うんです!これは何かの間違いでございます!一揆がこんなに生温い事はないのです!」


 「小川殿?流石ではございませんか!剣城様も大変喜ばれていますぞ!」


 「金剛は黙っておれ!これは我が君にワシの有能さを見せる機会なのじゃ!前回も関何某の兵も逃げて戦にすらならなんだ!今回はと意気込んでおったのに、この様な・・・・」


 「大丈夫です!ちゃんと見てますよ!ただ生温いのはオレも思います。まぁ、逃げる時の口振りは皆、従わされてとか無理矢理とか言ってたから、本物の信徒ではないのでしょう」


 「ぐぬぬぬ・・・!一揆共・・・!今に見ておれ!!目に物見せてやる!!!」


 いや、今でさえ恐れられてるのにどうすんだよ!?


 

 「剣城様、あれが上野城です」


 「小っさ!!!あれが城!?関さんの城の方がデカくない!?しかも夜なのに農民も城の人も元気だね」


 「ぷぷぷ!いやこれは失礼。一応あれも城でございます」


 お菊さんが笑うところ初めて見たよ。お菊さんでも小さいらしいな。外に500人くらいかな?並んでるな。酒井忠尚さんだったっけな。


 『剣城様。聞こえますか?』


 「うん?杉谷さん。どうしたの?」


 『僧侶を7人程始末しましたが農民とは違う武家らしき輩も多数こちらに来ております。保てないやもしれませぬ』


 

 「小倅ではないが怪しい奴だッ!我が上野城まで来るとはいい度胸だ!だが小倅に上野を任す訳にはいかん!全軍!突撃ッッ!!!」


 「やばいやばい!展開早過ぎだよ!」


 『すいません!こちらの事はなんとかします!剣城様!相手の声が聞こえました!!ご武運を!!』


 「いや危なくなればすぐに逃げて下さい!通信終わり」

 

 「隼人隊!あの小川さんみたいな爺さん以外を撃って下さい!小川さんは・・・お好きにどうぞ・・・」


 「任されたしッッッ!!!!!己らッ!!!よくも逃げ回りやがってッッ!!!!」


 ブゥン!ブゥン!ブゥン!ブゥン!ブゥン!ドガッ!!


 うん。小川隊は大丈夫そうだ。


 「剣城様、親父が申し訳ない」


 「喜八郎さんでしたよね?三左衛門さんには助かってますよ。焙烙玉はありったけ使います。隼人隊の狙撃でまばらになった相手に一撃離脱!弾込め中に隼人隊の残りが焙烙玉を放ち、同じように一撃離脱をお願いします!」


 「畏まりました。腕が鳴りますな!」


 うん。やはり親子だな。


 人数差はあるけど、これだけ飛び道具があれば大丈夫な筈だ。相手の矢はだいぶ手前に落ちてるし。そもそも夜に真っ暗で命中させられる訳ない。近付かれれば離れるといいし。よし!素人ながら何とか出来てるぞ!









 〜安城 とある藪の中〜


 「善住坊?大丈夫か!?」


 パンッ!


 「ぐぅわっ!」


 「誰ぞ敵が隠れておる!頭を低く探せッ!!」


 「なんとしても保て!殿は危なければ逃げろと言われたが我らに退路は無い!ここを突破されれば那古屋まで目と鼻の先だ!」


 「だがあの旗印はどこの家だ?こんな所で一夜を明かす気か!?」


 パンッ!


 「足利二つ引き・・・。三河守護の吉良の氏族だろう。西条吉良と東条吉良が、どちらが正当性があるとか争っておる。お前は最近銃ばかりで、情勢の事は弛んでおるのではないのか!?」


 パンッ!


 「済まぬ。剣城様がお出ししてくれる飯が美味くて、惚けておったのは間違いない」


 パンッ!


 「あそこだ!あの藪の中だ!!」


 「クッ・・・。ばれた!場所変えだ!我らは10にも満たない!これからは離れて狙うぞ!的を絞らせるな!」


 「杉谷様?剣城様は危なくなれば逃げろとおっしゃいました。命令違反ですか?」


 「剣城様子飼いの鞠殿か・・・。鞠殿も分かっているであろう?ここを抜けられれば那古屋まですぐだ」


 「いや、確認したまでです。勿論、私も逃げませんよ。織田に一揆が向かえば、この状況なら佐久間様は喜んで剣城様を批判しそうですね。西条吉良とか東条吉良とかどうでもいいです。剣城様の邪魔する者は皆敵です。杉谷様?少しお下がりを」


 忘れていた・・・。剣城様子飼いの直属の者の中で一番の戦好きは・・・鈴殿でも金剛でもないこの鞠殿だった・・・。


 「風は無風!夜だから見えないわね・・・・喰らいなさい!(パリンッ!)」


 モクモクモクモクモク


 「うっ!」「いぎが・・・」「ぐるじぃ・・・」「おい!お前達だいじょ・・・息が・・・」


 「おい!どこだ!?どうしたんだ!?敵は!?名門吉良を再興する事を忘れたのか!?」


 「鞠殿?あれは・・・」


 「あれは以前、剣城様が掃除用に出していただいた厠を掃除する液と、布などに付着した血や落ちない汚れを白くしてくれる液を、混ぜただけの物です。致死性はありませんがこんな無風な中、あの液体付近に居続けると息が出来なく、死ぬかもしれませんが」


 「そんな簡単な物なのか?」


 「この二つの液を混ぜるだけですよ。互いに混ぜるな危険と書いてあるでしょう?こちらがアルカリ性でこちらが酸性で混ぜると塩素ガスと言って──」


 「いや鞠殿?よく分かった。いや某は分からんが、頼むぞ」


 「はっ。敵を殲滅してやりましょう!剣城様の名を轟かせるのです!」


 いや、敵を殲滅すれば名は轟かないのではなかろうか。あまりに敵が惨すぎる為、落ち着いて考えてしまうな。

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