本物の官位

 「ふ、ふむ。ふむ。ではこれが新しき銭の円とよぶやつか。美濃や尾張の民は、既にこの円が主流になっていると」


 「はっ。誠、勝手に新しき銭を作り、流通させて申し訳ないと思います。ですが、新たに日の本は日の本の銭を流通させねば、明の鐚銭を駆逐できません。物の価値の値段が定まらず、銭により値段を変えなくてはなりませぬ」


 「た、民草はそのような事をしているのか?」


 いやいや、帝は本当にそんな事も知らないのかよ!?


 「剣城!教えてさしあげよ」


 はい。また面倒な説明はオレに振るんですね。


 「簡単に言いますと、この銭とこの銭が従来の銭です。こちらは擦り減って薄いですよね?主上様がもし、何か売るような物があれば、支払いはどちらの銭がよろしいですか?」


 「うむ。それは綺麗な銭の方が好ましい」


 「はい。それは下々の皆も同じでございます。ただ、銭は銭ですのでこのような粗悪な銭でも・・・例えば、私の刀が良質な銭2枚の価値だとします。だけど、買う相手は粗悪な銭しか持ち合わせていない。なら、私は売値を10枚にすると言います」


 「待て。待て。そんなに差が出るのはおかしいのではないのか!?」


 「そう思いますよね。けど、これが当たり前に今までは行われていました。時にこの支払いで血が流れる事もありました。これを是正する為に、新しき銭の円を作った次第でございます」


 うん。血が流れたかどうかは大袈裟だな。ただオレがタイムスリップした直後に、市で問答が起こっていたのは知っている。


 「ほっほっほっ。織田殿よ。勝手に通貨を発行するのは重罪ですよ」


 ここで、わざとらしく口を挟んだのは飛鳥井さんだ。


 「はっ。如何様にも罰は受けます。ただ、我が領民の民は混乱なく、適正な価格で商いが盛んに行われているのも事実です」


 「ふむふむ。銭を作るのはそれなりに元手が要る、と聞きますからな。ですな?二条殿?」


 「う、うむ・・・」


 二条は信長さんからあまり好かれていない。だが、飛鳥井さんが同席を許しているというのは、そういう事なんだろうな。腐っても関白。飛鳥井さんより格上だ。


 まぁ、陣営に迎えいれたいという事か。


 「なんと・・・銭を作るのにも銭がかかるのか・・・」


 帝は帝でこんな感じだ。常識から外れ過ぎている。まぁ仕方のない事かもしれないけど。


 「ふむ。主上様。ここは織田殿に銭の事は任せてもよろしいかと、麿は思います。銭を作るのにかかる銭も、織田殿は全て織田家で賄うと伺っております」


 「そうか。ならば朕は何も言うまい。良きに計らえ」


 案外あっさり決まった。だが、ここで二条が口を挟む。


 「では通貨発行は織田家に任せましょう。義昭公と連携を取りなさい。そして、其方には官位を受けていただきたい」


 多分、オレなら・・・。


 「やったぁ〜!従四位下くらいくれるんですか!?」


 と、喜ぶだろうが、それは朝廷より下を意味する事になるのだろう。確か史実でも、信長さんは頑なに当初は官位を断っていた筈だ。だが・・・。


 「ははは。御冗談を」


 飛鳥井さんも信長さんも、いきなりの事で驚いているのを見て、二条からのいきなりの提案なんだな、と分かる。


 「ほほほ。冗談なんかじゃありませんよ?織田殿。足利家 第一の男が無官ではいけないではありませぬか?ならば、朝廷が織田殿に対して報える事は官位・・・ではございませぬか?」


 「うむ。朕も誠にそう思う。織田殿。朕の願い、受け入れてはくれないか?」


 これはアレだ。アレ。一応、以前にオレも信長さんも官位は貰ったけど、あれは体裁的のようなものだ。だが、今回は朝廷から直々の・・・本物のやつだ。


 この時代は主君が家臣に言い渡し、然も当たり前のように・・・。


 「やぁーやぁー、我こそは従四位下〜守の・・・」


 とか、平気で言う時代だが、今回のはマジのマジだ。


 「はい。このまま断り続けるのもよろしくないでしょう。受け入れましょう」


 信長さんも何か一瞬で考えていたようだが、すぐに受け入れた。まぁ、断る道理も無いとは思うけど。


 「うむ。では・・・其方はこれから従四位上 左近衛権中将に任命致す」


 「さ、左近衛権中将ですか!?」


 あの信長さんがこの狼狽え様だ。相当なんだろう。けど、確か史実でも似たような官位は貰ってた記憶がある。


 「ほっほっほっ。将軍は、従四位上 左近衛中将に昇叙されました。名実共に幕府の御供衆の一家ですな。織田信長公。後は、将軍と朝廷とでしておきましょう。この京の守りはお任せ致しますよ」


 二条のしてやったり顔だ。他にも何か企んでいそうだ。御供衆とか、明らかに足利の格下に見ていると、今後どうなるか知らないぞ?二条晴良さんよ。


 「はっ。謹んで拝命いたしました」


 「うむ。これからも朕を・・・引いては足利幕府を補佐し、日の本の事を考えて給れ」


 ワンチャン、オレも官位貰えないかと思ったが、オレには無いようだ。



 

 「ったく・・・飛鳥井卿がもっと力を付けてくれぬから、こうなるのだ!」


 「ほっほっほっ。まぁ関白殿にはしてやられましたな。麿も世俗を一度は離れた身。それからすぐに従一位 権大納言にまでこの1年で戻れた事も、お考え下され」


 「ふん。まぁ単なる愚痴である。許せ。あぁ、もう!京に残す人選をせねばならぬ!剣城!たこ焼きを作れ!甘いたこ焼きだ!」


 「・・・・・・・」


 「剣城!剣城ッッ!!!」


 ゴツン!


 「痛っ!!あっ!す、すいません!」


 「何を惚けておる!人の話はちゃんと聞かんか!」


 「は、はい!」


 オレ達はとある場所にいる。それは・・・本能寺だ。オレが居た時代の史実で、信長さんが亡くなる場所だ。オレはその事を考え、色々見ていた。それからの拳骨だ。


 「たこ焼きを作ってこい!すぐにだ!」


 「はい!」


 オレは急いでこの大きな寺の炊事場へと向かう。


 「ミヤビちゃん。居る?」


 「は〜い!ここに居ますよ〜!ポータブル電源とたこ焼き機です!小麦粉に、那古屋の出汁昆布で〜す」


 「ふふ。ありがとうね。ミヤビちゃんは女版、金剛君みたいだ」


 「クスッ!お褒めの言葉と受け取りますね!それで・・・さっきは何をお考えだったのですか?」


 「うん?いやいや、何でもないよ。初めて本能寺を見たから圧倒されてただけだよ」


 「そうですか?清水の寺の方が大きいですし、ここをそんなに驚きますか?そりゃ、法華宗の総本山ではありますが」


 確かにここ本能寺は、信長さんが来るような場所には思えない。僧侶の人達の雰囲気はこの時代らしからぬ、本来のお坊さんのような感じではあるけど・・・。


 それに、さすがに本能寺の変を伝えるのは早い。ってか、そもそも本当に起こるのか分からないし、そもそもの犯人と言われている、明智光秀も織田家と関わりはあるだろうけど、今は将軍付きの小物より少し上くらいだしな。


 まぁ本当にそのような感じになれば甲賀衆の皆には伝えよう。そして、変ではなく、乱で終わらせるようにしよう。


 確か農業神様もゴッドファーザーも、歴史が変わっても修正力が働くって言ってたしな。似た様な事は起こるかもしれない。


 「まぁ、ミヤビちゃん達、甲賀衆にはいずれ伝える事があるかもしれないけど、それは今じゃない。その時がくればオレは土下座してお願いするよ。さっ、せっかく準備してくれたし、焼こうか!」


 「・・・・・・・・・」


 


 「遅い!」


 「すいません!これでも急いだ方です!」


 「(チッ)早う持って来い!おい!砂糖は入れたか!?」


 「はい。甘めにしております」


 たこ焼きは普通のたこ焼きだ。だが、一つずつに砂糖を入れた甘いたこ焼きだ。オレは勘弁したいやつだ。ってか、このままなら本能寺の変?乱?を迎える前に、信長さんは糖尿病になってしまいそうだ。今度注意しないといけないな。


 「(ハフッ ハフッ)うむ。中々に美味い!飛鳥井卿も食って下さい」


 「ふむ。面白い物ですな。いただきましょう・・・ぬっ・・・なっ、何でおじゃるか!?これは!?この黒い汁が絶妙でおじゃる!」


 「織田印のソースですよ。森様監修で醤油、砂糖、トマト、大蒜、林檎、塩、水、酒を煮詰めて、程よい瀞みが出れば完成です。好きな人は醤油みたいに何でもつける方も居ますよ」


 「うむ!これは美味い!これを京にも流してはくれぬか!?」


 「ははは。いいですよ。最近出来た物ですので、次の贈り物の便に入れておきますね」


 「ふん。飛鳥井卿にはかなりの物を贈っている。もそっと力を付けていただきたいものですな」


 「ほっほっほっ。これはまた手厳しい」


 「うむ。美味かった!だが、今少し甘くても良い。次からはもっと甘く作れ!もう少しで歳末だ!岐阜へ帰るぞ」


 「え!?帰るのですか!?」


 「なんじゃ?貴様は京で歳跨ぎするのか?ならば勝手にするが良い!だが、年明け2日の謹賀の儀には来いよ?フッハッハッハッ!」


 信長さん曰く・・・本来は京で年越しをする予定だったらしいが、二条にしてやられて悔しいから意趣返しだそうで、帰る事にしたそうだ。


 「官位は受けてやるんだから、面倒な手続きやその他は朝廷がやれば良い」


 このように、マジで悔しさ満点の言葉を吐いていた。後は京都に残す人だが・・・これは史実通りとなった。


 「村井!剣城から警備を引き継ぎ、お主が京の治安を守れ!ある程度の事は任せる!」


 「そ、某で構いませんか!?」


 「ふん。お主は不器用だが、失敗をしない奴だ!期待している!いつも通りのお主で良い!」


 「はっ!勿体ない御言葉です!お役目、果たしてみせます!」


 「ほ、ほんに御父、信長殿は帰られるのか!?もそっとゆっくりしていても・・・」


 「はは。将軍が居れば、京は安泰です。一応は静謐となりました。岐阜でする仕事もございますからな」


 「う、うむ。予は将軍だからな」


 やっぱこの将軍はダメだ。


 「将軍も京の民達を見ましょう。剣城の配下の者が最速で復興をさせております。後は将軍が鼓舞すれば、もっと良い結果となるでしょう」


 これは信長さんのリップサービス的な言葉だと思う。というか、そうだ。現に、甲賀衆は誰1人として将軍を敬っていない。


 だが、この信長さんの言葉のせいで義昭が調子に乗り、魔改造した武衛陣に居れば良かったのに、無駄な事が起こってしまう。これはまだ少しだけ先の話だ。


 「よし!帰るぞ!」


 「「「「「「はっ!!!」」」」」」


 ここで、一応の義昭を擁しての上洛。そして、義昭の将軍宣下は無事に終わった。


 「鞠ちゃん。将軍はあんなだけど大丈夫?欲しい物があれば言ってほしい」


 「お任せ下さい。将軍には触らせていませんよ!」


 将軍付きの側女になった鞠ちゃんと少し話したが、少し京被れになってるような気がした。

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