探り合い

 その後オレ達、諸大名は・・・ってか、オレは大名ではないけど、皆は義昭さん以外、鶴の間という部屋に連れて行かれた。


 簡素ではあるが、御膳が並べられてある。


 「武家の方々は好き好きに、京料理を御堪能いただきたい」


 案内役の公家の人が言う事だけ言うと、口元を隠してソソクサと去って行った。明らかにオレ達を見下した目のような気がした。


 「いやぁ〜、つつがなく儀も終わりましたなぁ〜」


 「ふん。たぬきは寝ておっただろうが」


 「義兄上殿も退屈そうに見えましたぞ!?」


 「まぁ確かに退屈ではあった。あんなに頭を下げたのは久しぶりじゃ。島津殿もやっとですな」


 「うむ。おいは本拠が薩摩と遠いからな。中々、中央には顔を出せんし、この京料理なんかも中々食べられないからな。それに探題の件もある。これから薩摩兵児は忙しくなるからな」


 信長さん始め、浅井さん達や皆が少し話し始めた。


 ボンバーマンの人の交友関係は知らないけど、普通に話の中に入ったりしている。静かなのは毛利家の人達だ。まぁ、知り合いなんかも居ないだろうし、仕方ないだろう。


 そんな中、上杉家の人がオレに話し掛けてきた。


 「其方が・・・あの剣城殿ですか。その名は予々聞いております」


 「え!?えっと・・・上杉家の・・・」


 「越後 上洛衆の代表の直江景綱と申しまする」


 うわ・・・。上杉家の大物中の大物だ。


 「いえいえ、こちらこそ上洛に協力していただき感謝しております」


 「なんの。なんの。関東執事である上杉家が参内するのは、当たり前でございますれば」


 なんだろう。軽くジャブを打たれた感じだ。関東執事とは要は関東管領の事だろう。将軍が変わっても上杉家の関東管領は変わらない、と言いたいのか。


 「その事は将軍にお任せしておりますので、私の方からはなんとも・・・」


 「ふふ。御冗談を。剣城殿が暗躍してる事くらい分かっておりますよ。島津殿の九州探題の件、然り。是非、執事の件は上杉家のままに。それと、我が殿も貴方と会えるのを楽しみにしていますよ。上質な酒に甘くない澄み酒、金色の酒、果物の酒にと、越後は酒に困らなくなりましたからな」


 いやいや、塩屋さんが行商をしてるけど酒ばかりかよ!?オレは謙信なんかに会いたくないぞ!?


 「まぁまぁ。当家の家臣をあまり虐めないでいただきたいですな」


 「申し訳ございませぬ。そんなつもりは毛頭ありませんでした」


 「ふん。直江景綱殿。其方の名こそ轟いておりますな。奉行職、内政、外交、軍事面と、凡ゆる場面に其方の名前が上がっていると聞く」


 「ははは。御冗談を」


 ヤバイ・・・。バチバチしてきたぞ!?


 「まぁまぁ。そんな話なんかより、京料理を堪能しようではございませんか」


 「う、うむ。確かにそうですな。今後とも良き間柄でいたいですな。織田殿」


 「そうですな。上杉家の直江殿」


 家康さんの一声でとりあえずは収まった。


 史実では信長さんも、上杉家との決戦を避けていたと思うけど、この世界線では『戦っても良いぞ?圧勝してやる』と、言っているような気がした。



 それから、誰からともなく料理に手をつけ食べ始めるが、まぁなんと味の薄いこと・・・。今では、現代の調味料が溢れている岐阜と比べると味気ない。というか、濃くもなけりゃ塩味しか無いようなものだ。


 それなりに京都にも醤油、魚醤、出汁醤油、味醂、砂糖と、まぁかなりの量を売っているつもりだが、足りていないのか。それとも、オレの政策・・・まずは下々の民からというので、上の人には行き届いていないだけか。


 「剣城。これは何だ。食った気にならん」


 「信長様・・・偉そうに言うつもりはありませんが、オレもです・・・」


 「これは今一度、考えねばなるまい。風呂も恋しい、飯も恋しい」


 あぁ〜あ・・・。贅沢を覚えてしまったからな・・・。


 家康さんなんかは笑顔で食べているし、浅井家の人も朝倉家も毛利家の人も、不満は無さそうなのに。


 「失礼します。織田家の方々はこちらへ。帝の準備が済みました」


 これまた公家らしき人から声が掛かった。後程、呼ばれるとは言っていたが、本当にすぐだったな。まだ食べ掛けだけど未練も無いし、信長さんに関しては、3口くらいしか食べていないし。


 案内された部屋は【殿上人の間】と、木札がある所だった。名前からして仰々しい部屋だ。そして、そこには御簾があり、静かに帝・・・正親町天皇が居た。


 信長さんに習い、オレも静かに頭を下げて部屋に入る。


 「苦しゅうない。楽にしなさい」


 これまた、この言葉を鵜呑みにして本当に楽にしてはならない。本当に形式が多くてうんざりだ。


 「はっ。我等が帝様の御前に――」


 「そういうのは良い。今は非公式である。朕は色々と話が聞きたい」


 オレと信長さん。飛鳥井さんと二条さん、帝が居るだけだ。オレは飛鳥井さんの方へ向くと軽く頷いた。


 これは・・・本当に普通に話していいのだろうか。未だ顔は見えないけど。


 「ゴホンッ・・・。では、某が。横に居るのは織田家 家臣の芝田剣城でございます。この所、帝様の御食事に変わった事はございませぬか?その変わった物は、全て織田家から流れてきておりまする。この剣城を通してです」


 こんな時の信長さんの喋り方はピカイチだ。どこで習ったんだ!?と言いたくなるような丁寧な言葉だ。


 「確かに・・・飛鳥井から度々話を聞いておる。其方は朝廷を憂い、逼迫した財政を立て直してくれていると」


 「はっ。帝様が居ての日の本でございますれば。まずは日々の糧からと思いましておりまする。ただ・・・状況が状況なようで・・・直ちに御所の修繕も、全て織田家が持ちまして直そうと、思っている次第にございます」


 「誠、織田殿は・・・いや何でもない。其方の心意気が朕は素直に嬉しい。幾度となく京は戦乱に巻き込まれ、民草が被害を被っている。その度に朕は祈りを捧げて参った。だが変わる事はなかった」


 「「・・・・・・」」


 「ついぞや、征夷大将軍である義輝公までも亡き者となってしまわれた。彼の者を失った事は誠に惜しい。三好が居た頃は朕はお飾りだ。行動を制され、幽閉に近い思いだった。それでも朕は民草の為、祈った。此度の足利義昭公は其方から見て、乱世を鎮められる者か?」


 いやいや、話が重いんだが!?確かに、本当に民の事を思ってるのは分かるけど、さっき宣下させた義昭じゃなく、何で信長さんにそんな事聞くんだよ!?帝が既に足利を見放しているようじゃない!?


 「その様に思われるのも無理もありません。手前が粉骨砕身、将軍を支えまする。その中で、何か失敗があり、取り返しの付かない事があれば・・・」


 「その先は言わなくとも良い。また朕の嫌いな血が流れる」


 本当に争いが嫌いな人なんだな。顔は見えないままだけど、話の抑揚とかだけで演技じゃないのが分かる。


 「出過ぎた事を。お赦しを」


 「構わんよ。先も言ったが、ここは非公式の場である。二条、飛鳥井も聞かなかった事に」


 「「はっ」」


 「ふむ。まずは・・・この南蛮とやらの帽子や服を教えてほしい。其方は剣城と申したな?贈り物を素直に嬉しく思う」


 いやいや、帝からも名前呼びかよ!?


 「はっ。異国の事を知ってもらおうかと、色々と準備致しました。そして今一つ、お渡しする物がございます」


 そうだ。この前、農業神様に言われた、十束剣だ。


 オレは懐から出すように収納から取り出した。一応、刃物だからゆっくり取り出す。害があると思われてもいけないからだ。


 「飛鳥井様。これを帝様に」


 「ほっほっほっ。これは目録にも無かった物でおじゃるな」


 「はい。個人的にお渡ししたい物です」


 飛鳥井さんに渡すと、小声で御簾に向かって話している。そして、それを受け取ったあと帝が・・・、


 バサッ


 「「方仁様!?」」


 なんと、御簾から飛び出してきた。飛鳥井さんと二条さんがかなり焦っている。オレもビックリして尻餅を付いた。信長さんは目を瞑っているだけだ。


 「其方!これを何と心得ている!?」


 「え!?あっ・・・」


 久しぶりに吃ってしまった。


 「剣城も中々ではないか。帝様を思い、古事記に出てくる天津神が持つ神剣を、模して作ったか」


 へ!?オレは農業神様に『これを渡せば喜ばれるんだなぁ』って言われただけなんだけど!?古事記に出てくるの!?


 「これと同じ物を朕も持っている・・・ヴゥォェァー」


 いやいや、なんちゅう泣き方だよ!?ってか泣く様な事なのかよ!?


 それから、帝の語りが始まった。まぁ古事記に出てくる十束剣・・・。それはそれで一つずつ名前があるそうだが、オレが渡した剣が始まりの剣とも言われている形だそうだ。


 ちなみに代表的な一振りが彼の有名な草薙剣・・・まぁ三種の神器の一つだ。


 オレが渡した剣は、伊邪那岐神が振るった剣だと言われているそうな。かつての天皇の方達・・・つまり、正親町天皇の先祖が命令して作らせようとしたが、二振りと作れなかった剣。材質も鉄や銅なんかではなく、何で出来ているかも分からない。かといって、錆びたりもしない剣らしい。


 なんとなくだが、分かる気がする。初代の天皇辺りの事は知らないが、農業神様が話してたくらいだ。ミスリルとかヒヒイロカネとか、そんな材質なんかじゃないかと思う。


 「十束剣・・・別名、天之尾羽張・・・ですな」


 「其方は朕の事を敬ってくれると申すか・・・。皆が朕に対して銭を出すのは、官位を授かりたいだけかと・・・ヴゥォェァー」


 オレは全く意味が分からない。この剣がそんなに凄いのか!?偽物どころか、農業神様が渡してくれた物だから、本物のような気がする。『これをどこで手に入れた!?』なんて聞かれても答えられないぞ!?


 「まぁ、我が家臣が作った物です。良ければ納めて下さい。それに、この剣で民を潤わす事はできません。織田家は先にも言った通り、帝を御守りし、早急にここをどうにかします」


 「グスン・・・。朕は其方を頼もしく思う。朕に出来る事があるならば何でも言って給れ」


 「では早速・・・我が領内では新しい銭を作りました」


 いやいや、おいおい。信長さんよ?切り替えが早いな!?帝はまだ何かの余韻に浸っている感じだぞ!?

 


 

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