武家の頭領 足利義昭
「帝の御成〜」
どこぞの公家か公卿が掛け声をした後、すぐに御簾の裏に誰かが来たのが分かった。オレ達全員、頭を下げている。先頭に義昭。それから更に一段、下がって、織田家、島津家、浅井家、徳川家と続く。
「して、何用か」
飛鳥井さんの慣れない冷たい声から始まる。だが、これは事前に決めていた事らしい。形式的な事らしい。
「ゴホンッ・・・・此度は、武家の頭領である手前、足利義昭に征夷大将軍の任をお任せいただきたく」
「其の方は、京に参ってから治安警備や、貧しい者にも施しをしている、と聞いておじゃるが?」
「はっ。手前の一存で、この横に並ぶ諸将の家々の者達と協議した結果、始めた次第にございますれば。民草の事を帝様が強く嘆いておられるとお聞きして、勝手をしてしまいました」
「ふむ。ふむ」
よく言うぜ。義昭さんよ?治安警備も、施しも全部オレがやってるんだけどな。なんなら、あんたは下々の民を嫌ってるじゃん!
と、心の中では思うが、これも形式的な事だから仕方がないと思う。それから大変だ。話し出したら止まらない義昭の無双だ。
やれ、民草の為だとか、疲弊した京を潤わし、それを日の本に波及させるとか、地方の戦乱を正すとか・・・。いや、もうね・・・綺麗事を抜かし過ぎだ。オレより、夢想しているね。
この時代は己が1番。隣の村で野菜や米がたくさん収穫できれば、盗みに行くのが当たり前な時代だ。義昭の考えは、まず無理。
「ハァー」
うん。うん。オレの後ろに居る、松永ボンバーマンも溜め息してるわ。
「うむ。では、其方を征夷大将軍に補任致す」
「はっ。謹んで拝任致します」
やっと終わった。オレ達はずっと頭を下げたままだった。
ちなみにこれまで帝は一言も発していない。御簾の向こうの顔も分からないままだ。
「では、これより皆々様より頂いた、格別の贈り物の目録を読むでおじゃる。まず、織田家からは――」
確かにオレ以外からも色々、荷車に乗せて物が搬入されているのを確認した。まぁ要は帝への贈り物も、ここで一緒に終わらせようというやつだ。
ちなみに、織田家の贈り物の殆どがオレからだ。いつかの、なりきりオーディンハットのレプリカも、南蛮の帽子という事で贈り物の中に入れてある。
農業神様からオレへのヴァルハラのお土産だったが、正直オレは被る機会が無いから要らない。
「おぉ〜・・・これは素晴らしい・・・」
御簾の向こうから初めて帝の声が微かに聞こえた。どうやら農業神様から、半ば無理矢理買わされた着物が気に入ったようだ。
他の家の人達はお金が殆どのようだ。オレは岐阜で生産している各種果物類なんかも、多数入れてある。特にイチゴなんかは場所によっては、踏み潰してしまう勢いで成長しているからな。
「飛鳥井。これは何だ?」
帝が更に声を発した。どうやらオーディンハットのレプリカが、気になっているようだ。
「ほっほっほっ。それは織田殿からの贈り物の一つで、南蛮の帽子なる物でごじゃりまする」
「朕は贅沢をとは言わずただただ、世の安寧を願っていた。それは今も変わらず」
何か急に語り出したんだが!?
「其の方!名は何と申す?」
ちなみに、ここで嬉し気に・・・、
『はっ!織田軍 芝田剣城です!』
なんて答えようもんなら、『無礼者!誰が直答してよいと言った!?』と、なるらしい。事前に飛鳥井さんにも言われた事だ。
帝は急に話し掛けてくる事がある、と聞いたからこれは予習済みだ。オレの親ではないが、オレの上司で、社長で、会長で、総長でもある信長さんを差し置いて、オレに向かって聞いてくるという事は・・・多分、贈り物はオレからだと、飛鳥井さんが言っているのだろうと思う。
「ほっほっほっ。芝田殿。直答をしても良いでおじゃるよ」
オレが黙っていると、飛鳥井さんから助け舟だ。
「はっ。織田軍 芝田剣城と申します」
「後程、皆に感状を書きたいと思う。して、この帽子なる物はこうやって被るのものか?」
オレは平伏しているが、これまたここで頭を上げるのはダメなんだそうだ。ちゃんと許可を得てからじゃないと、何もしていけないそうだ。なんと面倒臭い。
「芝田殿。頭を上げなさい。帝がお聞きになっていますよ」
今度は誰か分からない人が、オレに助け舟を出してくれた。
信長さんも、浅井さんも皆、頭を下げたままだからこのまま話を進めにくい。義昭に関しては主役の筈なのに、オレに名指しされた事が気に入らないのか、プルプルしてるのが分かる。
「はっ。もし気になるようでしたら・・・後程、贈り物に入ってある物の説明を致しますが、よろしいでしょうか。他にもここに入りきらない物を、外の荷車にお持ちしております」
「朕は籠の中の鳥と同じじゃ。だが、南蛮の事を聞いてみたいとも思う。後で時間を作って給れ」
「ほっほっほっ。帝は随分と其方の事が気に入ったようでおじゃるな。では後程、迎えを出しましょう。この後の事は足利将軍にお任せ致しましょう」
なんか、最後は適当に終わった感が否めない。
※宣下の儀式とか作法が分からなかったので、簡単にここは終わらせます。
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