1563年 将軍宣下
「ほう?なんぞ秘密の部屋か。入り口が一つしか無く、棚を動かしたり畳を剥がして入る部屋だな。つまり・・・ここがどん詰まりって事だな」
「お察しの通りです。ここは秘密の部屋です。そして、入り口が一つではなく、そこの飛鳥井様の掛け軸の裏に秘密経路があります。出口は京の、とある家になります」
「して、その意味は?」
「それは・・・信長様が思っている通りにございます。来たる時に、この経路が重要になるかと」
「ふん。だが、将軍がこの部屋に気付き、掛け軸の裏を見るとどう思うのだ?」
「それは、これをこのようにすると・・・」
オレは剛力君に教えられた通り、出口に板を重ねる。本来はこれで四隅に軽く釘を打ち付けるだけだ。張り付けた板も薄いから蹴破ろうとすれば簡単だ。
「うむ。確かにこれなら分からんな」
「はい。ですが、そもそもこの部屋に辿り着くのも至難かと」
「そうだな。後で剛力に褒美を出そう。よくぞ1日でここまで作ったものよ」
「はっ。オレからも労っておきます」
「うむ。これから忙しくなるぞ。将軍の出迎え、内裏に参内し、京に置く人物も決めないといけない。松永も面会を求めて来ておる」
「確かに忙しそうですね。オレはこの後はどうすればよろしいですか?治安の方はかなり良くなってきています」
「貴様を遊ばしておくのは馬鹿のする事だ。暫しこれからワシの元に居るようにしろ」
いや、全然遊ばせてもらってた方がいいんだけど。
「いや〜、苦しゅうないぞ!信長殿!!いや、それだけではない!御父上殿じゃ!」
「ははは。某の方が年下でございますれば。父上なぞとは」
あの信長さんですらタジタジとなっている。史実で信長さんの事を『父上』と言ってたのは、本当の事なんだな。
将軍は武衛陣に到着するや否や、まず見た事のない装備に感激していた。そりゃそうだ。装備的には恐らく明治時代くらいの、装備をしているからな。
「うむ。予は気分が良い!ここを誰ぞ案内致せ!」
「では・・・この武衛陣を改修した総奉行の、剣城に案内させましょう」
「ほぅ?お主はいつぞやのか?予は男より、女に案内してもらいたい。お主の配下に居たであろう?すずという女子が居たよのう?」
「はぁ〜。すずちゃん?お願いできる?」
「畏まりました」
この間から、すずちゃんには申し訳ない。将軍はすずちゃんを覚えてしまったからな。
ここ2週間ほど、将軍と信長さんは色々と話し合っている。飛鳥井さん、山科さんも同席している。すぐに内裏に・・・って事にもいかず、色々な手続きがあるみたいで、暫く待ちぼうけな感じだ。オレ達は、武衛陣から少し離れた何も無い所のゲルテントにて待機している。
信長さんは・・・。
「清水寺で寝泊まりしても良いぞ。ワシはあのつまらん和歌や蹴鞠に毎日付き合わないと、将軍の機嫌を損ねてしまうからな」
と、心にも無い事を言っているが、それでも文句も言わずに、毎日毎日付き合ってるみたいだ。
京の治安もかなり良くなってきている。極刑にしてる人が殆どだから、自然と悪さをする人は居なくなる。慶次さんにその辺は任せているが、かれこれ・・・。
「う〜ん。多分、500人以上は斬首したと思うぞ?」
と、軽く言っていた。まず、そんなに犯罪者が居た事に驚いた。
一方、野田さん達に任せている戦禍に巻き込まれ、家が無くなったり壊れていた人には、剛力君の弟子の人達と、京の大工経験者の人を日雇いという形に、集合住宅的な長屋を新設し、まずはそこで生活をしてもらっている。
ただ、単に施しをするだけなら金さえあれば誰でもできる。だが、それだけでは今後がどうしても良くならない事は、目に見えている。仕事をしてもらわなければいけない。その仕事の斡旋として、街路の整備にこの人達を3日に一度休み、というシフト制にして働いてもらっている。
給料は1日一万円。今や、織田家では新通貨の円が主流になりつつあり、給金もこの円で支払われているが、織田親族衆並に給金を貰っているあの池田さんですら、1ヶ月の給金を1日で計算すると20万円だ。
徐々にだが、美濃、尾張だけじゃなく、近江の方にまで円が浸透しつつあるが、物の価値として、岐阜城周辺では飯屋で腹一杯食べても200円が精々いいところ。そんな中、1日一万円の給料ならば文句は出ないだろう。
京で元々、商いをしていた人達には岐阜から沢彦和尚を招聘し、無料で講義を行っている。機に敏い商人の人達は、この新円がこれから主流になると思ってか、かなり真剣に色々問答しているらしい。実はこの沢彦和尚こそ、織田家随一の高給取りだ。1ヶ月の給金は100万円。
沢彦さんの人柄込みの給金だ。織田家に1ヶ月に入ってくるお金は5000万以上ある、とオレは思う。その額からすれば微々たるものだろう。だが何故、沢彦さんだけこんなに給金が多いのか。
「剣城殿。あそこに恵まれない子達が居ます。拙僧が面倒みましょう」
「あの方はいつかの戦禍に巻き込まれたに違いないでしょう。拙僧が面倒みましょう」
と、このように貧しい人や困った人、家が無い人など見掛けるとすぐに助けてしまう、優しい人だから。信長さんの一声で高給取りとなっている。まぁ、そのお金の殆どを他人の為に使っているのは、誰が見ても分かるから武士の人達も何も文句を言わない。寧ろ、オレですら少し寄付しようか、と思うくらいだ。
1563年が終わりに近付いた12月13日・・・。突如、時代は動く。
「剣城殿。お館様がお呼びです。島津殿も正装に着替えてお越し下さい」
「遠藤さん。こんにちわ。分かりました。伺います」
オレは、義弘さん、新納さん、小川さん、鞠ちゃん達でババ抜きをしていた。遠藤さんの顔付きで察しが付く。
「我が君!やっとですな!」
「えぇ。今か今かと思っていたし、なんなら年明けになるのか、と思っていたくらいです。行ってきます」
「剣城様!頑張って下さい!」
「いやいや、鞠ちゃん!?主役は将軍だからね!?オレはお供物みたいなもんだよ」
冗談を言いながら、隣のゲルテントにて、どこからともなく現れたミヤビちゃんに、着替えを手伝ってもらう。衣装は袴に似た服装で、直垂(ひたたれ)というらしく、この時代でのスーツみたいな服装らしい。ちなみに、岐阜の未亡人の人達に作ってもらった、あのアースガルドかどっかの、例の喋る蜘蛛さんの糸で作ってくれたものだ。
義弘さんにも、信長さんにも渡してある。信長さんの方は、織田木瓜紋の金刺繍が施されている、マジでカッコいいやつだ。義弘さんの方は、丸に鍵十字紋。うん。オレだけ家紋無しだ。
「ふふふ。剣城様!男前ですよ!」
「はは。お世辞でも嬉しいよ」
「いえいえ!世辞なんかじゃありません!心から思っていますよ!」
「そっか。ありがとうね。じゃあ、ミヤビちゃん。行ってくるよ」
織田、島津、浅井、上杉、徳川、毛利と選抜された兵での行進だ。オレも今日は大黒剣ではなく、ノア嬢に騎乗している。
(キャハッ♪剣城っち♪今日はカッコいいね!甘えさせてあげよっか!?)
(いやいや!ノア!今日は勘弁してくれ!今日は本当に大事な日なんだ!)
(分かってるよ!農業神様から電話が入ったんだから!)
いやいや、ノア嬢さんよ!?どこにその電話があるんだよ!?どうやって受け応えしたんだよ!?
そんな疑問を思いつつも、京都御所に到着・・・。正式名称は、土御門東洞院殿だったっけ。
ってか、ここは何て言えばいいのか・・・。まぁ酷い。武衛陣から少し北にある寺?のような建物が帝が座す御所だったのかと思う。いや、オレもここの存在は知っていた。それなりに京で生活していたからだ。治安警備していて何度もここを通ったし。だが、てっきりただの大きい寺か、何かだと思っていた。
はっきり言って・・・朽ちかけている。建物もボロボロだし、汚れも酷い。
「ほっほっほっ。よくぞ参られました。こちらへ」
飛鳥井さんも、見た事のないような服装でオレ達を出迎えた。信長さんは変わらず。義弘さんも変わらず。長政さんは緊張している。毛利家の代表と上杉家の代表の人は・・・誰かは分からないが無表情。家康さんは・・・。
コクコク・・。
何故かオレの方を向いて軽く頷いている。どういう意味だ!?
どこをどう見ても現在の御所とは程遠い。確か史実でも、信長さんと未来の秀吉さんが大改修を行ったっけ。これは早急にどうにかしてあげないと、可哀想だ。お金が無い・・・。ってレベルじゃない。壁なんかも一部破損してるままだし。
そして、ここで2年くらい前だったっけ?に一目だけオレも会った、ボンバーマン。史実名は松永久秀が、立派な馬に乗り現れた。
オレは軽く松永に会釈して、さり気なく農業神様から半ば無理矢理(!?)購入させられた物を取り出し、信長さんが書いた手紙及び目録を持ち、皆と奥の間に入った。
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