普通が一番

 「うむ。皆の者。御苦労だ!歳末にて皆の家も入り用であろう。後程、城に来い。足軽から組頭まで、ぼおなすという物をやろう」


 「「「「ウォォォォォォ────!!」」」」


 帰りは何も無く、関ヶ原を超えた宿場町で一泊し、帰郷した。ただ一つ違う事とすれば、松永ボンバーマンが織田家の中に入っている事だ。


 聞けば、正式に織田の軍門に降ったそうだ。それで謹賀の挨拶を兼ねて、オレ達と一緒に岐阜に向かっているそうだ。


 柴田さんは、飛鳥井さん付きの公家を学ぶという任が解かれ、帰りは一緒だった。後は数名、剛力君配下の人達が居残り組は京に残り、村井さんの指示の元、最初の様なスピードはないまでも、他所よりは確実に早いスピードで、京都の町を復興させるとのこと。


 そして今・・・。


 「やっと帰ってこれたよ」


 「(クァ〜)確かにちょっと疲れたな。剣城。俺も今日はコレの所に行くから、何かあれば愛洲に言伝てしてくれ」


 「はいはい。慶次さんはまた女ね。遊び過ぎないようにね。甲賀隊の皆も特別支給だ。後でオレの家に来るように!」


 「「「「オォ────!!」」」」


 年末だからな。家を空けての遠征だったから、懐が寂しくないようにしてあげないとな。


 「あんた!!」 「清二郎!!」 「権助!!」


 「おう!帰ったぞ!」 「戻ったぞ!」


 うん。足軽の人達のお迎えも居るようだ。オレも、ゆきさんが来てくれたら嬉しかったのに・・・。


 「剣城様!!お帰りなさい!ご無事でなによりです!」


 「ふふふ。帰りましたね。お疲れ様でございます」


 「ゆきさん!小見様!!」


 オレに出迎えはないかと思ったが、ちゃんと来てくれたようだ。しかも、例の喋る蜘蛛さんこと、糸子さんが作ったと一目で分かる、この時代に似合わないダウンジャケットを着ている。


 「あの攻め出すと破竹の勢いかの様な剣城殿も、女には弱いと見えますな。それにしても誠に美濃に入ってからは、驚かされる事ばかりですな。年の瀬も近いというのに、物が溢れている」


 いやいや、松永ボンバーマンの方が凄いと思うよ?なんせ、史実では爆発自殺するのだから。まぁ、そんな事は言えないけど。


 「いえいえ。家族を大切にしてるだけですよ」


 「ふん。落ち着けば剣城は松永を案内してあげろ。ここら辺は殆どが此奴の提案の店が並んでいる」


 「うむ。大和の城下も指導していただきたいものですな」


 「大和といえば・・・船なんかも最近は凄いですよ。今度案内しますね」


 「楽しみにしている」


 「剣城も大儀であった。暫し体を休めておけ。今年は登城しなくても良い」


 信長さんが珍しく労ってくれた。この言葉が何気に嬉しいんだよな。




 モグモグ


 「うん!流石、金右衛門さんだ。いつもの野菜炒めだ!やっぱり普通が1番だ」


 「はは。ありがとうございまする。剣城様は京料理の虜になってしまい、アッシの飯は食えんと言われたらどうしようか、と思っていました」


 「いやいや。金右衛門さんは、死ぬまでオレの飯を作ってもらいますよ」


 「ふふふ。ほんに、剣城殿は家が好きなのですね。それで、お仕事は終わりましたの?」


 「小見様。その事はバッチリです。信長様も従四位上 左近衛権中将になりました」


 「ほほほ。良き哉。これで、美濃、尾張は安泰ですね」


 「信長様は気に入らないみたいですけどね。それより、濃姫様のお加減はどうですか?」


 「琴は『いつ産まれてもおかしくない』と言っておられます。産婆の用意もするつもりでしたが、1人で大丈夫と言っていますので、私は琴を信頼しています」


 「ははは。ならそろそろお祝いも考えないといけませんね!琴ちゃんが断言するくらいだから大丈夫ですよ!」


 「剣城殿。私とばかりではなく、ゆきと話してあげなさい。私は下がりますので」


 小見さんの優しさだ。その小見さんが下がった後、すぐだ。


 「剣城様!!!会いたかったです!!!」


 「お、おぅ・・・ゆきさん・・・オレもだ」


 ゆきさんから、少しキツめのハグだ。久しぶりのゆきさんの匂い。現代女性のようなトリートメントの匂いともいえるし、オレは二度とつける事のない、香水のような匂いもする。


 「剣城様・・・もう無理です・・・」


 この日の夜も、選ばれた者しか装着する事が許されない物を装着せず、オレはゆきさんの中で果ててしまう。しかも今回は久しぶりのせいか・・・


 「え!?剣城様!?もう終わりですか!?」


 「え!?あ・・・いやいや、まだまだだよ!これからだよ!ははは!ハァー・・・・」


 うん。秒殺だった。

 

 1発どころか、結局3発も付き合わされた。何度もオレは自分を奮い立たせた。観音寺などの戦いで死線を潜り抜けた・・・・訳ではないが、久しぶりに肌に危険を感じた夜だった。


 


 「我が君ッ!!!おはようございます!!」


 「んぁ?小川さん!?」


 「がははは!我が君の寝起きのお顔を拝見出来、感謝感激雨霰ですぞ!」


 いや、何でオレの横に小川さんが居るんだよ!?そこはゆきさんの場所だぞ!?しかも70にもなる爺さんから、かなり香水の甘い匂いがするんだが!?


 「まぁいいや。ゆきさんは?」


 「ゆきは朝飯の支度をしてくれていますぞ!ワシも朝飯は我が君と共に・・・と、決めておりますからな!」


 時刻は朝の6時・・・この爺さんはいつ寝てるんだよ!?年寄りだから早起きなんだ!ってレベルじゃねーぞ!?


 その後、顔を洗い服を着替えてダイニングに向かう。オレの寝室は一応、剛力君の力作の地下だった筈・・・だが、気が付けば小川さんは何度も入ってくる・・・これはいつか罰が必要だな。だが、忙しくなった金剛君、剛力君なんかより、小川さんが横に居る事の方が多いからな。


 「剣城君!起きとるかぁ〜?おいだ!」


 朝っぱらから来客かと思いきや、あの声は義弘さんだ。


 「義弘さん。おはようございます!どうしました?」


 「飯の匂いに釣られ・・・まさに釣り野伏せ・・・ってか!?ははは。ゴホンッ。冗談は顔だけにしておこう。いや、とりあえずは島津家の探題は決まった訳だ」


 やけに、テンション高いな!?こんなダジャレなんか言う人だっけ!?しかも、1人ノリツッコミをしてるし。


 「えぇ。誠におめでとうございます。まだこれから血が流れるかとは思いますが、心置きなく九州を統括されれば、良いんじゃないですか?」


 「うむ。それでだ・・・」


 うん。義弘さんは腹減ってるな。


 「ゆきさん!義弘さんの分も!」


 「はい!」


 「相すまぬ。それでだ。おいも一度戻らねばならなくてな。しかももう謹賀であろう?嫁御を薩摩に置いてきているからな。広瀬にお亀に皐月に・・・息災であろうか・・・」


 クソが!確か義弘さんも側室がそこそこ居ると言っていた。それに皆、仲が良かったんだよな!?プレイボーイめが!


 「とりあえず食べながら話しましょうか。オレも政務がかなりありまして、書類だけで3日程かかるくらいに溜まってるんですよ」


 「うむ。そうしよう。時は有効に使わなくちゃいけないからな」




 それから程なくオレ、ゆきさん、自称筆頭家老の小川さん、義弘さんとで食べながら話す。ちなみに朝御飯は、久しぶりの(株)天照物産の天界の上質な金色(こんじき)小麦を使った食パンだ。


 「うむ。剣城君の奥方が作ったパオンは柔らかくて美味い!剣城君は羨ましい限りだ!」


 「ふふふ。島津様。お世辞でも嬉しいです」


 「いや、世辞なんかではない。薩摩に居る、広瀬なんかも中々に飯炊きは上手だが、奥方殿ほどではない」


 義弘さんはオレが出したパンが気に入ったようだ。


 「それで・・・薩摩に帰るとして、信長様にはもう伝えてあるのですか?」


 「うむ。織田殿と父御が既に話は付けている。肝付家亡き後は伊藤だ。日向を平定し、まずはそこを足掛かりとする」


 確か史実でも伊藤は滅亡した筈だ。一応、友好且つ、オレ自身も義弘さんの事を友と思っているから、何か協力してあげたい気もする・・・。


 「義弘さん、オレは・・・」


 「剣城君!最後まで言うな。剣城君は優しいからな。だが剣城君は織田家の家臣だ。これは島津の戦である!もし間違いが起こった場合は援軍を頼むやもしれぬが、まずは岐阜にて、おい達の活躍を聞いてほしい」


 確かにそうだな。薩摩人はバトルジャンキーばかりだからな。それにあの兵の人達の負ける姿が想像できないや。


 「分かりました。軍目付は誰かとか聞きましたか?」


 「うむ。織田殿からある程度は聞いた。軍目付は九鬼殿だ。織田家の鉄船にて食料、鉄砲、飼料を輸送してくれる手筈となった。『九鬼水軍の演習にもなる』と言っておられた」


 「あぁ〜。九鬼様ですね。確かに適任ですね!分かりました。いつ会えるかは分かりませんが、また酒・・・ではなくジュースでも飲みましょう!」


 思わず流れで酒と言いそうになったが、オレは辞めた。薩摩の人と酒は飲みたくない。必ず二日酔いになるからだ。


 「うむ。酒だな。その時は是非、ういすきぃなる酒を所望したい」


 うん。飲み確定になったみたいだ。


 


 義弘さん達は12月31日で帰るようだ。冬の海は荒れているが、農業神様が作った船ならビクともしないだろう。金剛君に任せて送るようにした。オレが何故送らないかって?それは・・・。


 ドスンッ


 「はい!剣城様!こちらが例の温泉の伝票類となっております!こちらが雑貨屋の方で、こちらが美濃から尾張にかけて点在する飯屋の顧問料で、こちらが三河から送られてくる綿花の詳細になります」


 「・・・・・・」


 ドスンッ


 「そして、こちらが那古屋の市場での伝票、こちらが三河に輸出している武器類の詳細になります」


 「・・・・・・」


 ドスンッ


 「こちらが配下の皆の給金明細書になります。こちらが『仕官したい』と言っている人達の、履歴書になります。私が独自に纏めてみました。あっ!あからさまに素行の悪い人や、他人を見下すような人達は弾いておりますよ!後は、近江や越前、三河、西美濃、伊勢の方面の商人から色々贈り物が届いておりました。ナマモノがあるといけないので、一応私が検め、分かりやすいように贈り主の名前を書いた紙を入れてあります!」


 もうね・・・嫌になってしまう。目の前に溜まりに溜まった書類・・・。いや、ゆきさんはマジで素晴らしいよ。先回りしてオレがやりやすいように色々してくれているのが分かる。なんならオレが決裁や確認するより、ゆきさんに全て任せた方が早いんじゃないか、とすら思う。


 「ゆきさん。ありがとう。頑張って見るよ・・・」


 「ふふふ。私も手伝いますよ!今は剣城様と戦場に居る事は叶いませんが、岐阜に居る間は一緒です!まずはお金の方から始めましょう!」


 「ゆきさん・・・ありがとうね!」


 オレは軽くゆきさんと唇を交わせてから、仕事を始めた。

 

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