時代を先取りした島津家の三段撃ち

 「追え!追えッ!!志布志城を再度奪還するのだ!!」


 「掛かったッ!!種子島殿!!今だ!!!」


 パパパパパパンッパパパパパパンッパパパパパパンッ


 それは道とも言えるか怪しい道の左右にある、背丈くらい長い雑草に隠れて、敵が来たら交差するように斉射する作戦だった。オレは今度は義弘さんダディーの、貴久さんの背中を見ながらの引きだったが音だけで分かる。敵はかなりの被害なのだろうと。


 「うっぐ・・・・」「ヒィー ヒィー」


 「ゲホッ・・・」「グフッ・・・」


 改めて振り返り敵を見たが悲惨の一言だ。何回も言うが、オレが敵の指揮官ならこんなに突っ込まない。でもこんな簡単な事に引っかかってしまうとは・・・。


 しかも本来の歴史ならば、長篠の戦いまで銃を使う戦はあまり無かった筈だが、さすが薩摩と言うべきか。


 琉球国や南蛮、明などと交易してるせいか、鉄砲はかなり装備されてある。しかも、あの信長さんが行った鉄砲の三段撃ちに似た事を、この種子島時堯さんは行った。


 「薩摩兵児!反転!敵を一網打尽に致せ!」


 オレもやはり島津兵と同じように奮戦した。というか島津兵が強過ぎてビックリしている。


 パシュンッ パシュンッ パシュンッ パシュンッ パシュンッ


 「剣城君!その鉄砲は片手で持てるのか!?しかも連射しているな!?また今度見せてくれ!」


 「ははは!構いませんよ」


 「うむ!後詰めに来た兵が引いていきよる!」


 「やめッ!やめッ!敵は引いた!」


 「殿!このまま肝付を攻めましょう!」


 「そうです!勝機はこちらにあります!」


 「だめだ!高山城はこうも簡単にはいかん!それに城攻めの用意はしておらん!歳久!お前は志布志城に詰めておけ!民達に施しをして飢えさせるな!」


 「はっ!」


 『フッ フッ 剣城様?聞こえますか!?今よろしいですか?』


 「小泉さん、どうしました?ちょうど敵が引いたところです」


 突然聞こえたトランシーバーからの声に皆、驚いている。その横で何故か小川さんが今生、見た事ないくらいのドヤ顔をしている。


 『簡潔に言います。明が我等に手を貸すと。そして岐阜で造っている船を購入致すとの事です。一度、文にてやり取りを認めたいと、例の明船の朱華という女が申していました』


 「はい!?明が!?」


 「剣城君?聞くつもりはないが聞こえてしまったのだが、明と手を組んだのか!?」


 「いやまあ・・・まだ決まってないですが、オレの配下が言うにはそうですね・・・」


 『あっ、後このまま高山城を攻めるのならば攻撃船を呼び寄せるとの事──あっちょっと!待てい!』


 『明の船団を率いる朱華と申す。見た事聞いた事ない箱から声がしていて驚いている。聞こえているのか!?』


 「あ、はい。聞こえていますよ」


 「その声は・・・朱華か!?」


 『おや?その声は島津のお父っさんかい?』


 「ははは!やはり朱華か!また商売か?剣城殿は島津の客将・・・引いては薩摩の大切な客人である!あまり不利益な事を申せば、薩摩はお前の敵となる。その事を覚えておけ」


 いやいや、貴久さん!?めっちゃ器大き過ぎだろ!?客将ってかなりじゃない!?しかも全体的にオレの味方してくれるのか!?いや、そもそも知り合いなんかい!


 『そんな事する訳ないさね!まさかお父っさんの知り合いとは、知らなかっただけさ!どうする?このまま攻めるなら、あたい達は剣城様の下に付くよ!』


 「父御!!?ここで引いてはさすがに・・・」


 「言わなくても分かっている。城に速馬を出せ。集まる者は全員、内山城の城下前に集まれ!城攻めじゃ!」


 「「「「オォォォォ─────!!!」」」」


 いやいやマジかよ!?まだ戦うのかよ!?しかも、知らない明の人までオレの下についたんだが!?


 「うむ。おいどんは一度、内城に戻る!大隈は守護すら支配できなかった地。おいどんが併合させてやろう。まずは、高山城を落とす。憎っくき肝付を滅ぼしてやる!」


 「殿!嫡男の肝付良兼はどうされますか!?」


 「志布志城にて幽閉しておけ。乱暴な真似はするな。交渉に使える」


 「はっ」


 「剣城殿?引き続き義弘を頼む。志布志城にて暫し疲れを癒してくれ。おいどんも2、3日後には軍を整えて進軍致す。義弘!志布志の湯に浸からせてやれ!」


 「はっ!」


 志布志の湯って温泉の事か!?あの城、温泉があるのか!?


 城の横の禿山を眺めつつ登城する。岐阜城に負けないくらいの山道だ。何故にこんな山に城を建てるのか、小一時間くらい問いただしたい。しんどい!上がるのめんどい!疲れる!ロープウェイでもありゃ楽なんだけどな。


 城に到着すると義弘さんそっくりな弟、歳久さんが出迎えてくれた。兵の人達は慌ただしく城門を修理している。


 「其方が尾張の国からの客人、剣城殿ですか!?」


 いや、この人も名前呼びかよ!?まあ別にいいけど。


 「はい。芝田剣城と申します。後は配下の前──」


 「筆頭家老の小川三左衛門と申す!此度の小競り合いでの剣城様の槍となり盾となり矛となり、粉骨砕身働いた小川三左衛門である」


 「お、おぅ・・・そうであったか。俺が言える立場ではないが、よくぞ島津の為に頑張ってくれた。今、城内を掃除している。暫し待ってほしい。その間に、三の丸にある湯治でも行っていただきたい」


 いや、小川さんは確かに身体で敵の鉄砲を止めたけど、恩着せがましく何言ってんだよ!?歳久さん、かなり引いてるぞ!?


 その後、甲賀隊の人達全員を紹介して案内された場所に赴く。少し気になる場所だ。

 

 「剣城君!ここだ!叔父御が気に入った所でもある!」


 「うわっ!マジか!!」


 それは紛う事なき温泉であった。岐阜にも農業神様の協力?の元で温泉は作ったが、これは紛いものではなくマジの温泉みたいだ。


 「まじかとはどういう意味かは分からないが、是非入っていただきたい。束の間の休息しか取れないと思うが、配下の者も堪能してほしい。作法として、身体の汚れを落としてから入ってくれ。掃除の者が大変なのだ」


 「当たり前です!全身洗った後に入ります!義弘さん!!ナイス!!最高です!志布志大好きになりそうです!」


 「そうかそうか。尾張の国とは薩摩と似てるようでもある!今後も仲良くしたいものだな」


 いや、こんな豪快な人は少ないとは思うけど、義弘さんの叔父さん、貴久さんの兄弟はこの温泉の素晴らしさを知ってたのだろう。未来でも見る露天風呂のような感じだ!


 これで懐石料理、日本酒があればまんま旅行だよな。本当に束の間の休息だ。


 「なぁ?剣城?この温泉は岐阜のと似ているが違うのか?」


 「慶次さんは分かりませんか?天然の温泉ですよ!」


 「いやまあ確かに気持ちいいがな。これで酒でも飲めれば最高ではあるな。それで岐阜の大殿には何て言うんだ?」


 「うん?何がです?」


 「いや、くれぐれも戦はするなと言われてただろう?まあ薩摩と同盟やらは五分ならば良いとは言っていたが、他国でしかも勝手に客将になって、大殿はさぞかし不機嫌にならないか?」


 慶次さんに言われて現実に戻る。確かに好き勝手し過ぎだと思うが、あの場面で『じゃあ帰ります!』は言えないだろ!?


 「がははは!慶次坊はそう細かい事言うでない!大殿も分かって下さる!誠の友とは長い年数付き合って、分かる訳ではない!会った瞬間、分かり合える者も居る!義弘殿と我が君は気が合ってるように見えますぞ!」


 「ははは。小川さん?ありがとうございます。まあ信長さんの件は、お土産でも渡して謝りますよ。もしキレられたりでもすれば、薩摩に住もうかな?ははは」


 「ほうほう。剣城君はおいを気に入ってくれるか」


 「おぉ!義弘殿のその傷は中々のものだ!」


 「初陣の時に敵の矢を5発も喰らってしまってな?消えるかと思えば跡が残ったのだ」


 「殿方?お背中、お流し致しまする」


 「うむ。入って参れ!ちと今日は客が多い。戦の後だから念入りに頼む」


 そう言われ現れた人達は女の人5人だった。ヤバイ・・・愚息が元気になりそうだ。


 「まずはおいの友の、尾張の国の剣城君からだ!にし!入って参れ!」


 「はいはい!ただいま!」


 いや、流れ的に女の人がもう一回、体を洗ってくれるのは分かったよ!?何故にオレはにしさんなんだよ!?他の若い女の人がいいんだけど!?


 「剣城様?こちらへ・・・」


 「がはは!我が君!ここはお言葉に甘えるところですぞ!」


 元気になりかけた愚息は沈んだ。

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