曜変天目の登場

 志布志城はいい所だ。城だがどことなく三の丸は、旅館に似たような感じがする。にしさんも綺麗だよ?綺麗だがどうしても違う気がする。俺も40が近くなってきた身だが、やはり若い子が良かった。


 特段ムフフな事は無く、丁寧に身体を洗ってくれただけだが、何か寂しい感じがする。素直にゆきさんに会いたい。


 すぐに大隈と決戦との事で、酒は出されていない。それに意外な事実を知った。酒豪で大変そうな島津家だが、義久さんは下戸らしい。というか酒を飲めば吐いてしまうらしく、飲まないそうな。


 「この剣城君が贈ってくれた、濁りの無い酒が今飲めぬとはな・・・。肝付を葬ってからの楽しみとしよう」


 「まあ全て終われば好きなだけ飲んで下さい。義久様には甘いジュースでもお渡ししますよ」


 「じゅーす?とは何だ?」


 「まあ甘い水みたいな物です。義弘さんも飲ませてあげますよ」


 オレは束の間の休息を楽しんだ。明の船団の人達の事はオレは全く知らない為、わざわざ歳久さんが一室設けてくれた。


 「やぁ。あんたが剣城様ってかい?」


 「えぇ。一応そうです。それで・・・配下の者から少し聞きましたが、9対1の商いをしたいと?オレ達が9でいいと?なんでも船が欲しいみたいですね?」


 「そう話を急かさないでちょうだい?我が明では長い付き合いをしたい方には、快くもてなしから始まるのさ。だがここは島津の城。だから私からはもてなせないけど、お近付きにこれだけ今お渡ししよう。ハオユー?」


 「はい。朱華様の下僕、ハオユーと申します」


 いや下僕って!?自ら言う事なのか!?確かにこの朱華さんって人はお市さんに似て、一際綺麗な女の人とは思うけど・・・。


 ドフッ


 「ハオユー!客人の前だろうが!フカの餌にしちまうよ!?」


 うん。性格もまんまお市さんみたいだ。やりにくい。


 「えっと、タダでこれをくれるのですか?開けても?」


 「えぇ。それは私が現在日の本に持ってきている交易品で、1番の値を張る物と言い切れる」


 厳重な木箱に入れられてる物を貰い、中を開けてみたら湯呑みだった。しかもこれは・・・。


 「嘘!?曜変天目!?マジで!?」


 「おや?あんたはこれを知ってたのかい?明でも数が少ないから、かなりの値がしたけど日の本の統治者は茶の湯に使える、と思ったのだがね?」


 「いやいやかなり有名ですよ!?これマジでくれるのですか!?」


 「まじでとはどういう意味だ?ハオユー!どういう意味だ!?」


 「はて?初めて聞きまし──」


 ドフッ


 「日の本の言葉をもっと勉強しろ!」


 「いやすいません。本当に!?って意味です!構わないのですか!?」


 「あぁ。それはもうあんたの物だ。今から300年程前の南宋の時代で作られた物なのだが、時代が代わり元と呼ばれる国に淘汰されて、色々失われて残る物は数が少ない」


 「確か日の本にも元寇がありました。フビライの時代ですよね?」


 「よく知っているな?そうだ。南宋の窯で焼かれ最上層の者に好まれていたのだが、元の連中は『この紋様が不吉だ』と言って、破棄されたのだ。だがあたいのように目利きの良い者はこれを買い、日の本の統治者に売ろうとしている」


 マジか!?確か日本にしか残ってないって、タイムスリップ前は聞いた覚えがあったけど、そんな簡単な理由なのか!?しかもこの口振りでは値段は高そうだけど、まだありそうな感じだよな!?


 「朱華さん!でいいですよね?朱華さん!この曜変天目、明にあるだけ持ってこれませんか!?値は、言い値で払います。まあ岐阜のお金で払えれば助かりますが・・・・一応、寛永通宝も相当数持っています!」


 「何だい!?何だい!?あんたもこれの虜になるのかい?いいんだね?次戻った時に持って来てあげるさ。だけどこっちの願いも聞いてもらいたいね?」


 「暫くは島津家にお世話になるつもりです。帰る時に一度岐阜に・・・尾張国に来て下さい。オレの主にも紹介致します。ただ・・・くれぐれも湯呑みは渡さないように。名物狩りとか始めてしまうかもしれないですので」


 「何がなんやら分からないが、気を付けておこう。なら船は確約で構わないのかい?」


 「いつとは言えませんが確約しておきます」


 芳兵衛君達だからな。それに信長さんも興奮して船開発は進めろと言ってたし、なんならもう木造船は出来上がって、鉄甲船とか造り始めてるのじゃないのかな?とりあえずこの曜変天目・・・マジで嬉しいぞ!


 「だいぶ仲良くなったようだな?」


 「あっ、歳久様?ありがとうございます。だいぶお近付きになれました!」


 「そうかそうか。今、早馬が届いた。明後日に攻め上がる。義弘兄者や剣城殿は『是非に海から攻撃を願いたい』と父御が言っておられるが、構わないか?」


 「分かりました。海から内陸に向かい、攻めます。あの・・・良ければ捕らえた肝付家の人と、会わせてくれませんか?話くらいしてみたいなと・・・」


 「話す程の男ではないと思うが?まあ会ってみたいならついて来てくれ」


 そう言われ朱華さん達に一礼して部屋を出た。そして三の丸より少し離れた場所に、5人の兵を入り口に立たせた家の前に来た。


 意外にも幽閉と聞けば牢屋なイメージがあったし、現に小見さんの事もあったから可哀想と思ってしまい会おうとしたが、普通に対応が良さそうな感じだな。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る