永禄の改革

岐阜の町の散策

 「という事だから、一応ゆきさんとの婚姻の許可は貰えたから。そっちは今日は皆、ちゃんと休んでる?」


 『あぁ。一蔵殿に関しては、休みでも何をしていいか分からん、と動き回ってるけどな。それと三河から綿花の第一陣がやってきたぞ』


 「もう持ってきたの!?お金はまだだけど対価はちゃんと渡したの!?」


 『当たり前だ!ビールに米を渡したぞ!向こうは要らないと言っていたが、無理矢理渡したぞ』


 「了解。じゃあ倉庫に入ってる物はいいけど、慶次さんは飲み過ぎないように!オレは今日は岐阜の町を見て回るから」


 『はいよ!通信終わり』


 「よし!定時連絡も終わったし行こうか!」


 「はい!」


 「がははは!この爺が居れば、ゆきとのでーとなるものの邪魔ですな!」


 うん。その通りだ。邪魔ですな!と言うなら遠慮してくれていいよ?遠慮する気は無いみたいだけど。それにしてもよくデートの単語を覚えたな!?


 「ゆきさん?お金、お菊さんから預かってる?」


 「はい!50貫預かっております!」


 うん。そんなに買い物に使う訳ではないから、そこまでは要らないけど。


 人の往来はかなりだな。剛力君、青木さん達の頑張りがあってか、道は平らだし家々も昔ながらには間違いないが、頑丈になってる気はする。


 「ちゃんとオレ達が渡した苗や種で育てた、ジャガイモやキュウリ、ブドウなんかも売っているね?相変わらず値段は分からないけど」


 「そうですね!あの村の者達が広めてますからね!」


 オレは貫は何となく覚えたが他の単位、文やら匁、両なんかは覚えられていない。何か買う時はゆきさんに任すか。ってか、この時代で買い物するの初めてだな。


 「おっと!貴方様は芝田様じゃないかい!?」


 「そうですが、お会いした事ありました?」


 野菜や果物を売ってるおばちゃんに、声を掛けられた。まあ、八百屋っぽいが、結構な数の八百屋っぽい店があるからな。


 「いえいえ!お会いして声を掛けるのも初めてでございます」


 「おい!さと!気安く声を掛けるんじゃない!お武家様、申し訳ございません──」


 いやオレってばどんな風に見られてるの!?別に声掛けられるくらい構わないよ!?ここでも階級のせいか!?


 「岐阜の民よ!ワシらは今や飛ぶ鳥を落とす勢いの芝田隊じゃ!じゃが旦那殿!案ずるな!剣城様は優しい方だ!言いたい事を言えば良い!がははは!」


 いや、自分で飛ぶ鳥を落とす勢いとか言うなよ!?恥ずかしいだろ!?


 「いえ、清洲の村の人達に教わり色々な種や苗を植え、特別な肥料を撒くとたまげるような作物がなりました。誰がこのような事を考えたか聞くと、皆が『芝田剣城だ』と言うから、是非一度お礼をと思いまして」


 「そうだったのですね。見た感じ、良い感じに育ってるようで良かったです!」


 「これをお持ち下さい!芝田様には何の価値もございませんと思いますが、うちの畑で育てたぶどうです!」


 「あ、ありがとうございます!いただきますね!」


 この感謝を向けられる感じ・・・嫌いじゃない。この人達の笑顔を大切にしたいな。


 「オ、オラ達の畑になった物も食べてくれ!これで良いのか!?」


 「それなら私達のも確認してくれ!」


 気付けばあっという間に、そこら中の民達に囲まれてしまった。一様に皆は『ありがとう』やら『感謝してる』とか言ってくれるが、そこまでの事はしてないと思うんだが。


 「つ、剣城様!?これ以上はもう持ちきれません」


 「おい!これ!静まらぬか!一度に皆の所には行けぬ!この小川三左衛門が!この剣城様の右腕!小川三左衛門が!必ずお前達の所に剣城様を連れて行くから、道を空けい!」


 「必ずですよ!!」「待ってますからね!」


 いやいや、いつから小川さんは右腕になったんだよ!?かなり働いてくれてるけどよ!?ってかオレ全然休みじゃねーじゃん!?



 「あぁ〜疲れた・・・」


 「クスッ!剣城様のお名前も覚えてもらえて良かったですね!」


 「いや、さすがに疲れたよ・・・。折角、櫛屋さん見つけたから買おうと思ったのに、また皆がうちの店でも!って言うから買えなかったよ。ゆきさんごめんね?近々何かプレゼントしてあげるから」


 「ならワシは我が君の爪が欲しいですぞ!」


 いやこの爺さん何言ってんの!?


 「オレの爪ですか!?嫌ですよ!」


 「我が君の爪を煎じて飲めば、ワシも我が君に近付けると思うのですが・・・」


 なに真顔で言ってんだよ!?キモイぞ!?


 「意味不明な事言わないでください!小川さんには、狂君ハバネロのお菓子をプレゼントしますよ!」


 「おっ!菓子ですか!甘い物だと喜びますぞ!がははは!」


 ふん!今の内に喜んでおけ!あのクソ程辛い菓子を渡してやる!


 「折角ですのでそこの汁粉でもいかがですか?」


 「いいね!行こうか!」


 「へい!らっしゃ──・・・あ、貴方様は・・・」


 「汁粉3つ、よろしいですか?」


 「・・・・・・・・」


 「あれ?聞こえてますか?」


 「す、すいません!ただ今お持ちします!」


 「おーい!とく!芝田様が参られたぞ!!!!」


 またかよ・・・。普通に汁粉食べさせてくれよ・・・。


 「ここでも人気者ですね!」


 あぁ〜・・・オレの癒しはゆきさんだけだわ。


 それにしても昼時は過ぎてるけど、誰も他の客が居ないんだな。


 「お待たせ致しまた。汁粉3つでございます。いえいえ!代金は貰えません!」


 ゆきさんが支払いしてくれてるが、何で断るんだ?それに汁粉と聞いて、オレは小豆の汁粉をイメージしたけど、この時代の汁粉は具無し味噌汁に、団子が入ってるのを汁粉と言うのか。小豆くらいならありそうなのにな。たまたま時期的なものかな?うん!美味い!


 「ゆきさん?かなり美味しいね!ガッツリ味噌の味が効いて美味い!」


 「本当に美味しいですね!」


 「おい店主!この汁粉もそれなりに美味いが、剣城様が出したほうれん草や人参、玉ねぎなんか入れれば、もっと美味くなるんじゃないか!?」


 「それは誠でございますか!?」


 いや貴方達も料理人だろ!?それくらい気付けよ!?これはこれで美味いけど具無しは寂しいぞ!?


 「料理とは日々研究です。色々な食材具材で試し、美味しいと思う物をお作り下さい。私は貴方達、料理屋などに具材が届くように頑張りますから」


 決まった・・・。こんなカッコイイ言葉、オレじゃなきゃ言えないね!


 「ありがとうございます!頑張ります!」


 「はい。ご馳走様です。また来ますので次も楽しみにしてますね!」

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