きな臭い一揆

 「何!?状況は!?」


 事の経緯は今年の正月明けに西尾城城下で無法を働いた人が居て、その人が本證寺に逃げ込み、西尾城主、酒井正親って人が怒って引っ捕らえたらしい。本證寺は守護不入?ってやつらしく、武家は手を出してはならない場所なのだが、その酒井正親さんがその守護不入の特権を侵害したから、事に及んだとのこと。


 「あれはもう話は付けてあっただろう!空誓殿は!?空誓殿に伝令を!」


 「松平様?そもそも何故その寺の人達は民を使い、襲うのですか?」


 「本證寺第十代・空誓。この方はワシが三河を統一する事を良しとしてないのだ。絵空事を描いたような説法を唱えながら、その実は高利な金貸しを民にし、雁字搦めにした後に女は売り、男は自分の宗派に取り込み門徒を増やし、手駒の様にしておる」


 いや最悪の坊主だな!?そんな人が仏の道を唱えているの!?農業神様に言いつけようか!?いや、今休暇中だった筈だ。それに眷族の人からもあまり無理を言うなとお願いされたし・・・。ここは自力でどうにか手を貸すか。


 「まともな歓待もできず申し訳ない。配下をお付け致す。剣城殿は清洲にお帰り下さい」


 いやさすがにほっとけないだろ!?史実では家康さんがどうにかした筈だけど・・・。


 「忠次!剣城殿をお送り致せ!矢作川の浅い所から──」


 「殿!矢作川沿いは・・・」


 「なに!?石川も夏目も正信も渡部もか!?他は!?他の者は!?」


 「他にも一揆勢に属した者多数でございます・・・」


 いやこれ小競り合いじゃなくマジのやつじゃね!?信長さんに一度話すか!?


 「松平様、少し席を外しても?」


 「いや、剣城殿は待たれよ。忠次!まだか!?」


 「芝田殿、我らはまだこんなものだ。ゆっくりさせられんで悪かったな」


 「いやだから帰りませんよ。さすがに戦の用意はしてないので配下に用意させます。ただ私の配下は本当に遠慮が無いので、その・・・松平様の配下の人達ももしかすると・・・なので、大切な人は特徴を教えておいて下さい。では少し失礼します。最初居た部屋をお借りしますね」



 「えらいこっちゃ。金剛君!トランシーバー用意!信長様に繋いでもらって!」


 「いえ、ここは我らは帰る方が良いかと」


 「私からも。いくら同盟を結んだとは言え、家の者も参加する一揆なんて、あの松平様は統率力が無さ過ぎでございます」


 言いたい放題だな。本当はあの人が天下人なんだよ。と声を大にして言いたいくらいだ。


 「あまりこんな事言いたくないけど・・・。金剛君やお菊さんの大将は誰?」


 「「・・・・剣城様です」」


 「オレの記憶が正しければこれは三河一向一揆。後世にも残る一揆です。帰らないよ」


 「芝田殿!準備まだ・・・・何だそれは!?」


 「酒井様、すいません。私は帰りませんよ。同盟の時に見せたトランシーバーですよ」


 「確かそうであったな。取り乱した。許せ。この機を逃せば城から出られなくなるぞ!?今もう一騎伝令が参った。中心勢力は本宗寺、上宮寺、勝鬘(しょうまん)寺、本証寺や一家衆寺院の本宗寺、三河守護吉良、荒川も含まれておる」


 いやまあまあの大群じゃね!?急がないと!


 『こちら織田軍。通信班、前田』


 「剣城様、繋がりました」


 「前田さん、時間がありません!信長様に代わってもらえますか!?」


 『あぁ、その事だがお館様は全ての事を踏まえて彼奴に任せておる。必要な物は何でも渡せと言われてある』


 「え!?もう状況が分かってるのですか!?」


 『当たり前だ。この付近でお館様の知らぬ事は無いと思え。それと貴様なら簡単な事だ。いつものお前でやり遂げろ。と申し付けておったぞ!』


 簡単な事!?いつものオレ!?どういう事だ!?


 『要る物は無いのか?』


 「いえ、私の手勢でどうにかしてみせます。一応松平様の領土なので、あまり大々的な行動は控えます。信長様に帰りが遅くなると伝えて下さい。ありがとうございました。通信終わり」


 「金剛君?次は慶次さんのトランシーバーに繋げて。周波数忘れてしまった」


 『おうっ!金剛か?どうした?』


 「剣城様、繋がりました」


 「慶次さんすいません。オレだけど、小川隊と隼人隊と杉谷隊と衛生班全員、岡崎の城まで派遣してくれる?行軍装備は二号装備で」


 『二号装備って言やぁ〜・・・戦か!?松平と戦か!?』


 この二号装備とは、先日話した事だ。一号装備は軽めのただの行軍装備の事で、二号装備は一号装備とイージスに乗った状態の事で、三号装備は敵を殲滅できる野戦砲や焙烙玉を用意した、全軍フル装備での事だ。


 「いや松平様じゃないから。それに今ここに重臣の酒井忠次様が居るから。聞こえてるから気を付けてね」


 『おう!すまんすまん!なら俺も用意してすぐ向かうからな!?』


 「いや、待って。さっき言ったようにこれは織田の戦じゃないから。さっき言った人数で大丈夫だし、三号装備じゃ小泉さん有り気になってしまうから、二号装備って言ったんだよ。それにもし慶次さんまで来たら、無茶苦茶になるの知ってるから。今回は敵を倒すだけじゃないんだ」


 『いやいやそんな事言うなよ!!俺も──」


 「だから時間が無いの!偉そうに言いたくないけど言う事聞いて下さい!」


 『・・・・分かった。この事は覚えておくぞ!三左衛門殿が居れば大丈夫だと思うが、もし死んだらあの世に行ってでも迎えに行くからな!!帰ってくれば酒500合だぞ?それと剣城ッッ!!武運長久を』


 「ははは!我が儘ですいません!慶次さん!ありがとう!残りの人、お願いします!」


 「誠、その箱で喋れるのだな?」


 「あぁ、これ便利ですよね!?この戦?一揆?が終われば一セットプレゼントしますよ!」


 '剣城様、贈り物です'


 「すいません、贈り物として一つお渡ししますよ」


 「すまん。本当にワシらの事なのに悪いな。ここ三河は宗教に繋がりが多い家が多くてな」


 「まあ、またその事は今度教えて下さい!」







 「おい!お前ら!!!集合!!剣城から伝令だ!戦が始まる!人数も指定してきた!今から呼ばれる者は急いで向かえ!小川隊!隼人隊!杉谷隊!衛生班全員!二号装備を持って急げッ!!!」


 「二号装備だと!?慶次!!ワシは!?ワシの名前は!?」


 「伝七郎殿は留守番だ。無論俺もだ。酒500合で手は打った」


 「何ということだ・・・・」


 「がははは!我が君はこの小川三左衛門が必要ということだ!!小泉!貴様は留守番しておけ!!」


 「あぁ!なんか無闇に人を殺さないと言ってたからな?今回の任務は骨に堪えると思うぜ?まあ、三左衛門殿なら簡単だよな!?頑張りな?剣城を死なせるなよ?」


 「ふん!ワシが居て我が君を死なす道理は無いッ!!!おいっ!喜八郎!!!ワシのハルモニアのスーツと方天戟はまだかッ!?」


 

 「元気のいい爺さんだ。伝七郎殿?そうガッカリしなさんな。俺の草に調べさせたがどうも三河で一揆だそうだ。だが陽動しておるのが武家だそうだぞ?」


 「なに!?武家が一揆だと!?では松平殿は、飼い犬に噛まれたようなもんじゃないのか?」


 「い〜や?それだけじゃないな。西三河から奥三河、殆どの寺まで加わっている。いくら強い装備がある我らの殿でも、狂った農民達を止められるか?」


 「・・・・・・・・」


 「覚えているだろう?剣城が拾ってくれる前にあった飢饉の年を」


 「あぁ。あの時はワシも狂っておったな。食べる物がなく松の皮をふやかして食べたりして飢えを凌いだ」


 「どうも本證寺に駆け込んだ3人の武家の男が、岡崎の城に居る織田の武将がお前達を惑わし、松平と手を組み守護不入を無き物にしようとしている!と上人に言って焚き付けてるらしいぞ?」


 「なに!?それは剣城様の事か!?」


 「さぁ〜な?だが今岡崎に居るのは我らの殿だ。きな臭いな。我らも時間差で出るぞ。剣城から咎めを貰えば俺が責任を取る。伝七郎殿も来るか?」


 「当たり前だ!そんな輩を放っておけん!即刻捻り潰してやりたいくらいだ!馬鹿にしおって!」


 「剛力にも、次郎左衛門殿も一蔵殿にも伝えよう。一蔵殿を怒らせると大変だぞ?あの御仁は容赦ないからな」

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