美の基準
いやぁ〜褌一丁で長く入り過ぎた・・・。井戸の水を浴びたけどさすがにまだ寒いわ。
「ではあの部屋で夜までお寛ぎ下さい。今宵は岡崎の料理人達が出来る、最大のもてなしをさせていただきますので」
「松平様、ありがとうございます。楽しみにしておきますね」
「ただいま。あれ?皆怖い顔してまだ間者の事?」
「そうです!失礼過ぎますよ!」
そう怒るはゆきさんだ。
「いやその事だけど気にしなくていいよ。オレは松平様の事信用してるし、なんなら例の事も教えてもいいくらいだけど、さすがにね?信長様から言われてないからな」
「剣城様は優し過ぎです!本来ならあの3人も──」
「いいから!いいから!ゆきさんは怒ってばかりだと折角可愛いのが台無しだよ?」
「か、可愛いですと!?」
「うん?金剛君?おかしい?ゆきさんは普通に可愛いと思うけど?ショートカットも似合ってるし、この時代では珍しく身長も高くて、オレの居た未来ではモデル級だよ?それに小麦色の肌が健康そうで良いだろう?旦那さん候補も今後相当くるんじゃない?旦那さんが羨ましいくらいだよ」
「ちょっと!金剛!?どういう意味よ!?ゆきが可哀想でしょう!?謝りなさい!」
「痛い!痛い痛い!すいません!琴さま!許して下さい!ゆきもごめん!ごめんって!!!」
・・・・・なんて・・・なんて羨ましいんだ!?ご褒美か!?え!?ご褒美なのか!?金剛めがッ!!ランニングするか!?あ!?ランニングするのか!?
「つ、つ、剣城様!!わ、わた、私!少し外の空気を吸って参ります!!!」
「ほら金剛君!ゆきさんが怒ってるじゃないか!!ちゃんと後で謝りなさい!後、金剛君はちゃんと目を養いなさい!ゆきさんもだけど、お菊さんも琴ちゃんも皆ショートカットの似合う可愛い子達だろう?肌も焼けて健康的じゃん!逆にどんな子が金剛君はタイプなんだ!?」
「え!?某のたいぷ・・・好みでしょうか?」
「そうそう。そこまで言ったんだからどんな人がいいか、気になるだろう?」
「それは・・・少しふっくらしてツベ(おしり)も丸く色が白く髪も長く黒く、お歯黒が似合うような女性が好ましいですな」
クッ・・・・。この時代の美人の基準とオレの基準は違うのか・・・。そりゃポッチャリもいいけどオレも人の事は言えないけど、金剛君が言ってるのは不健康そうなデブじゃないのか!?
「金剛にはそんな女一生寄ってこないよ!早く謝っといで!!剣城様?ありがとうございます!私の将来の旦那様は剣城様みたいな、余裕のある方をお願い致しますね!」
いや、余裕のある人って・・・。琴ちゃんや?目が明らかにお金マークなんだが!?そっちの余裕ですか!?
それから暫くは皆で雑談しながら過ごして、暗くなる前くらいに呼び出される。
「芝田様、お待たせ致しました。お食事の御用意が出来ました。こちらへ」
「あぁ〜お腹空いたな。楽しみだな!!」
大広間へ案内されて入ると、オレは色々な目で見られた。憎む目の人も居れば興味津々な人も居る。はたまた、本多さんみたいに嬉々とした顔の人も居る。
「さぁさぁ、剣城殿。こちらへ」
案内されたのは家康さんの横の一段高い場所だった。いや、これはかなりの歓待だな・・・。
接待レベルかと思ったんだけど、これはオレもプレッシャーだな。偉そうに面倒見ると言った手前、できませんでした!じゃ済まないよな。
「人間、飯を食う時と糞垂れておる時と女を抱く時が、素が出ると言われておる!飯を食うてからこの織田家料理ご意見番、芝田剣城殿の話を聞こうぞ!」
「「「はっ!!!」」」
いや、なんちゅう理論だよ!?
飯は・・・やっぱこの時代ならではな感じだな。尾張で贅沢し過ぎたな。
米に味噌汁に餅か?餅はこの時代では初めて見たな。一応米は白米だけどまだ精米が甘いな。少し籾殻が混ざってる感じか。それと魚は・・・うん。川魚だな。臭いな・・・。
「剣城様、お食事前のお薬をお忘れです!お飲み下さい!」
「え?薬!?オレそんな物──」
「早くッ!!」
出されたのはあの栄養ドリンクだった。すると琴ちゃんが耳打ちしてきた。
「毒味が出来ませんでしたので、絶対お飲み下さい」
いや、そこまで気にするもんなの!?普通に飯食いたいだけなんだけど・・・。
「ほう。織田方は変わったビードロに入った薬を飲むのだな?」
「これ!忠世!失礼な事を言うでない!」
「いやこれは失礼。先の同盟よりいただいたグラスなる物も相当な物だがその入れ物も中々な物」
忠世・・・忠世・・・大久保忠世か!?大物だな。というか今気付いたけど人が少ないな・・・。わざとかな?
「家臣が少ないと思いでしょうな。左から紹介しましょう。あぁ、食べながらで結構。酒井忠次、大久保忠世、本多忠勝、榊原康政、石川家成、鳥居元忠、服部半蔵です」
「ご紹介ありがとうございます。皆さんも知ってるとは思いますが、芝田剣城と申します。よろしくお願い致します」
それから15分程は皆、黙食が続いてオレもそこそこお腹いっぱいになってきたところで、家康さんが口を開く。
「剣城殿も腹は膨れましたかな!?急な申し出で充分な食事を用意できなく申し訳ない」
「いえ、美味しかったですよ!ありがとうございます!」
「嘘を申せ!某は同盟の時に食した物の方が美味かったと思うぞ!!」
え!?社交辞令で感想言ったけど本音を言うの!?そりゃ尾張で、普段のオレが食べてるご飯の方が圧倒的に美味いし、なんなら普段甲賀の人達の方が良い物食べてるけど・・・。
「実は今日の食事と人が少ないのに理由があってな」
あの3人、名前を朝岡五郎左衛門、浅原孫七郎、伊奈貞次という人らしい。
少し前に、家康さんが人質解放された時にゴタゴタがあり、その時家康さんの妨害?したらしいけど、家康さんは家臣があまり居なかった為、許したそうな。
「奥三河は本当に一揆が多くてな。ワシの重臣を今も何人か派遣しておるから少ないのだ、許せ。人がおらんから食材の確保が出来なくてな」
「いえ、それは構いませんが大丈夫ですか?」
「なぁ〜に!いつもの事よ!さっ、そろそろ黒い水を!!」
本多さんは簡単に言ってるけど、三河一向一揆は有名だよな!?大丈夫か!?
本来ならいつ起こるか分からないけど、まさかオレが居る時に始まらないよな!?オレ、戦の装備持ってないよ!?
「金剛君?渡してあげなさい。それと快適グッズを」
「おう!これだ!これだ!」「おっ!?澄み酒とな!?中々芝田殿は分かっておるではないか!」
「飲みながらでいいので聞いて下さい。最後はこの布団です!」
オレは事前に与えられた部屋で、タブレットのボックスから購入していた、布団を3セット取り出していたのを持ってきてもらう。
「それは何だ?寝れば快適そうではあるが・・・」
「ご名答!正にその寝る時の物です!人生の半分は睡眠です。睡眠は普段の疲れを癒し、この布団は睡眠の質を上げる大切な物です。誰かお試しを」
「殿っ!拙者が!」
「康政、許す!」
「はっ!ありがとうござ・・・・これは・・・これは気持ちいい!?いかん!!これはいかんぞ!!」
「康政!?どうしたのだ!?」
「殿!これは気持ち良すぎです!殿も心して横におなり下さい」
「どれ・・・。うん!!うんっ!?これは良いのう!!これが先に言った綿で出来ておるのか!?」
「正確には全てではないですが、ほぼほぼそうですね。松平様、あの蒸し風呂の話を皆に伝えて下さい」
それから家康さんはオレがサウナで言った事を、皆に諭しながら伝えてくれた。
これまた喋り方が上手い。抑揚をつけつつ、時に身振り手振りを交えながら。
「芝田殿?ではこの布団なる物を作る権利を、我らにくれると?それに農業などの監修もしてくれると?」
「はい。量産できれば織田が綿を買い取ります」
「綿、綿とその方は先程から言うておるが、他にも使い道があるのじゃないのか?」
「元忠!控えろ!言葉が過ぎるぞ!」
「いえ、ワシは疑問に思うただけでございます。この布団なる物は大変素晴らしいですが、ただのこれだけに我らを使うのは些か弱い。もっと他にもあるのじゃないかと思うのは、至極当然」
いや鳥居元忠さんだったか?名前だけは聞いた事あったけど鋭いな。上手く誤魔化そう。
「この綿を広げ、皆さんに貿易を学んで貰います。さっき松平様にも言っていただいた通り、銭を循環させ経済を発展させ座を撤廃させ、自由経済の始まりです。物を色々作り民の死亡率を下げ、懐を潤わせるのです。その為なら私は何でもしますよ」
こんな偉そうに実は嘘です!火薬作ってます!なんてバレると信用は吹っ飛ぶだろうな・・・。どうしよう。
「まあ。嘘でしょうな」
なんですと!?オレのこの話を嘘と!?そりゃ嘘だけどよ!?服部さんは見破ると!?
「目の動き、呼吸、必要以上な手の動き。およそ弱者が上の者に、嘘を真実の如く話す素振りですな。だが、某はこの話に敢えて乗っても良いと思う」
「半蔵!皆まで言うな。ワシも分かっておる。分かっておるが信長殿の事だ。きつく口止めされておるのだろう。何でも剣城殿の首が飛ぶ話らしいぞ。大きい仕事だ。その大きい仕事にワシも関われる事が嬉しく思う」
いや、家康さんも分かってたの!?
「松平さん・・・。申しわ──」
「やめろ!嘘を吐くなら最後まで通せ!嘘は相手に疑心が生まれる。だがワシは織田殿以上に剣城殿を信用したい。先に言った事、岡崎の民の事は嘘偽りないと思うておる」
「・・・・・・・・」
「腹を割って申せ。剣城殿から見てワシは信用に足る者か?」
「皆さんの顔を見て、織田には無い良い主従関係だと思い、民の事もよく考えてる人だと思います。信用できるかできないかで言えば信用できる人です。ただもう少し、貴方を知りたいとも思うのが本音です」
「おい!お主!言葉が過ぎるぞ!」
「忠次!構わん」
「分かった。剣城殿にワシを分かってもらうとしよう。皆の者も剣城殿の意見は聞くように!割り当てられた仕事はちゃんとするように!」
次の日。まずは付近の村々を回り調査したいと申し出をし、護衛を付けてくれるとの事だったが・・・うん。監視ですね。服部さんだからまだ良かったけど、鳥居さんならやりにくかっただろうな。
怪しまれないようにオレはお菊さんの馬の後ろに2人乗りで乗せてもらったけど・・・。
「剣城殿はその〜、女子(おなご)の後とは恥ずかしくないのですかな!?」
「いや恥ずかしいですよ?ですが私の大黒剣は目立ちますからね。清洲に帰れば私の愛馬も居るので、今度お見せしますよ」
「いやそれは楽しみですな。その颯号でしたか?立派な体躯で素晴らしい馬ですな」
ノアが眷族化してくれたから言葉分かってるし、褒められたから足取りが軽くなってるな。お菊さんも無言だけど喜んでる感じだ。
そしてこの日は夕方遅くまで周辺を調査した。服部さん配下の方が、近付いてきそうな農民の人をシャットアウトして、安全ではあったけど民と領主の距離があるな・・・。昼飯も本当に握りを用意されただけだったし。
「今宵も昨夜と同じ質素な飯、同じ面子で申し訳ない。さ、どうぞお食べ下さい」
「ありがとうございます。いただきます」
「それでどうでしたか?」
「う〜ん。民と距離が遠いですね。あっ、それは壁があるというか何というか。まあ今の状況ならしょうがないとは思いますが」
「距離が遠いと?ワシが民目線でないと?」
「そこまでは言いませんが、下々の人に余裕が無い為、襲われる危険があるから近付かせない為とは分かりますが、あれはしない方がいいですね」
「だが中には害する者も──」
「で、で、伝令!!!!!野寺の本證寺門徒達が──」
「客人の前ぞ!!」
「いえ、私は大丈夫です。琴ちゃん、伝令さんにスポーツ飲料を」
「はっ」
「え!?あっ、忝い。うん?ここを横に回すのですか?うっ美味い!?甘い!?これはどの──」
「早う次を言わぬかッ!!!」
「申し訳ありません!門徒達の暴動・・・!一揆です!!」
はい出たよ!タイミングの悪さよ・・・。さてどうしよう。
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