褌の付き合い

 「まずは・・・わざわざ足労してもらい悪いな。あぁ、剣城も無礼講だ。ワシの事は友と思い、話してくれて結構」


 「分かりました。敬語は癖なので気にしないで下さい」


 「分かった。それでこの岡崎を見てどう思った?率直に言ってくれ」


 オレはここに来た時の出来事、農民の人達の事、城の事とオレの思った意見、皆疲れている感じがする事を言った。


 そしてやはり貧しいだろうと。


 「人が疲れ城も疲れているとな・・・。言い得て妙だ。その通り。ワシの不徳の致す所じゃ」


 オレはある程度歴史で知ってる事だけど、家康さんは教えてくれた。


 今川から独立して、ここ三河でもまだ纏まっていないこと。東三河、奥三河ではまだ争ってるということ。早くに纏めたいが中々難しい事。一応は表面上は家康さんを主としてるみたいだが・・・。


 「三河は・・・一揆が絶えない場所だ。無い物は他所から奪えば良いと皆が考え、奪い奪い返されて残るは・・・屍と禍根のみよ」


 「・・・・・・・・」


 「民を豊かにするにはどうすれば良い!?与えるだけ与えるとその上の者が奪っていく。その者を処罰しても他の者が同じ事をする。ワシの目が届く範囲でそれをすると、他が一揆を起こす。どうすれば良いか・・・」


 難しいな。根本的に生産能力が低過ぎるし、民度も低過ぎる。無い物は奪う。


 この時代では当たり前かもしれないが、その当たり前を無くさない事には始まらないな。これは1日2日ではどうにもならないぞ。


 「まずは・・・小さな事から。私は色々な苗や種を持って来ております。それととある物も。それを育てればまずは飢えは凌げるでしょう」


 「それでは今までと同じではないか?」


 「まず根本的な最初の話です。私は何者ですか?」


 「剣城殿は・・・未来から来たとな?」


 「その通りです。正直やろうと思えば、1日で尾張を抜く生産地にする事も可能です。けどさすがにそれをすれば、私の首が物理的に飛ばされそうなので堪えて下さい。24時間で作物を育て、成長できる肥料を持って来ております。一揆の原因は貧しさにあると、私は思っています」


 一揆は貧しさ、貧困からくるものだとオレは思う。食べる物が無いから戦をしてでも奪う。


 じゃあその食べ物があれば、豊かにはならないにしてもまず一揆は起こらなくなる。


 では他所が奪いに来るのでは?他所にも同じように食べ物を潤わす。


 それにこの事を家康さんが率先して、特に三河の人には当面は無償で食べ物を渡し、施しをする。


 弱者に対しては違う食い扶持を持ってもらう。その食い扶持が綿花だ。


 綿花の選別は大変だ。小さなカスとかゴミを取り省いてもらわないといけないし。この事をオレは一生懸命に伝えた。


 「綿花とはあの白いやつか?」


 「そうです。本来はあれを一番に育ててもらおうかと思いましたが、そうもいけなくなりました。まずは他の物からいきましょう。その都度、指示は出します」


 「ワシの領の事なのにすまんな」


 けど、本来ならこの状態から、この人は天下人まで駆け上がるんだよな。やっぱ本物はチートだよチート!


 「もし綿花の栽培までいくとしましょう。そこからは重さに対して、織田は銭を支払いましょう」


 「何故尾張で育てない?」


 「単純に場所が足りないってのもあります。それに綿花は松平様の領土でよく生えているでしょう?」


 「よく調べている。これはお互い様か。綿花は我が領土の人間でも育てておる者も居る。余裕が出来れば人を回そう」


 なんか無礼講と言いつつ何か壁がある気がする・・・。この壁を省けないと一生毒味が続いてしまうな。


 「綿花を育てるまでいけば、尾張では腐らせてしまう程まで、作物が出来ているでしょう。それを他国に輸出して行く予定です」


 「輸出してそれをどうする?」


 「外貨を得ます。まぁまずは国内・・・。日の本からですが。現在尾張より石高が高い地域は無いでしょうね。年がら年中育てられますからね。それを戦に繋げて考えてみて下さい」


 「兵糧を……いや織田に依存し過ぎて…詰みだな」


 回転早いな!信長さん並みだな。


 「その通りです。平時に従来の飯より美味い飯を食べると、余程の事がない限り質素な飯には戻れませんよ。それも戦の間だけなら耐えられますが、それがずっととなると特に下々の人は逃げ出すでしょう。豊かな地に。そう尾張に。それを私が受け入れ仕事を斡旋します」


 「さすれば他国は農民の流入を止めようとしても、織田家より良い待遇をしないと止まらん。戦を仕掛けようとしても兵糧が集まらん。仮に集まっても割高。そして大事な民が居らん。という事か?」


 「簡単に言えばその通りです。信長様にも話は出してあります。最初こそこのやり方は銭がかかります。人を派遣して教えてとしますからね。ですが、回り回って最後の受け皿は織田です。戦をして負けて降参しますでは、今後は済まないですよ」


 「末恐ろしや・・・。だが間者はどうする?」


 「そこを言いますか?現に今、私の村には最高の警備が張ってあると自負しておりますが、潜り抜けたのでしょう?」


 「・・・・・」


 「沈黙は肯定と捉えます。どんなに警備を張ろうが綻びはありますよ。旧知の仲だから。親戚だから。友達だから。全部を防ぐのは無理です。ですが私の行っている事は、いずれ他国にも是非行ってほしい事ですからね」


 「何故、己の技術を宣伝するような事を言うのか?」


 「それは皆が笑って暮らせる、戦の無い世になってほしいからですよ。織田の人達によく言ってるのは、私の配下は高齢の人が多いので【畳の上で往生できるように】が信条です」


 「いい言葉だが、それがこの乱世でどれだけ難しい事か・・・。いや、剣城や信長殿ならやってくれそうではあるな。その中にワシも含まれておるか?」


 「当たり前ですよ!なので今ここに居るのですよ!!ちなみに先日、中伊勢まで侵攻し作戦は成功しましたが、松平様が一番ですよ」


 「何が一番とな?」


 「いや、だからこの技術を伝えに来たのがですよ!?だから頑張りましょう!」




 ふん。面白い未来人だ。当初は信長殿も騙されておると思うておったが、話を聞けば絵空事ばかり言うかと思えば、理論だっておる。考える事は全て織田に帰結する事ばかり。

ここは甘んじて自分を捨て教えを請おう。


 そして、ワシの唯一の友になってもらいたい。変な男だがこの男の前では、ワシは薄っぺらく何もなく感じる・・・。だがこの感じも悪くない。


ワシは信長殿より、この日の本の誰よりも民の事を思っておる!ワシは安祥松平家9代当主、松平蔵人佐家康!ここで終わる男ではないぞ!!

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