織田家 攻撃艦ドンペリ

 初めての船旅での夜、オレの飯は変わらず大野さんだ。出先の飯は基本、大野さんが作る以外食わないようにしている。普通に美味いし、リクエストすれば思ってた物を作ってくれるからだ。


 船上飯は、備え付けられていた神々しく金色の釣り竿とリールがあり、疑似餌のルアーまで装備されていた竿を使い、投入直後に釣れたマグロだ。


 オレがわずか2秒で釣り上げたマグロに狂喜乱舞し、皆が1匹ずつ釣り、どうしようかと思ってたところに、鈴ちゃんがレールガン横に生簀がある事に気付き、とりあえずそこに入れている。最早、至れり尽くせりの船である。


 マグロの漬け丼を作ってもらい、しかも大野さんの漬け丼は先日オレが作ったのより、当たり前だが美味い。オレはただ醤油に浸しただけであったが、大野さんが作った物は、生姜、ニンニク、胡麻油少々、白胡麻を振りかけた漬け丼だ。


 「流石、次郎左衛門殿だ!美味い!何杯でも食えそうだ!!」


 「また腕を上げたな?」


 「大野さん?マジで美味い!最高!!!」


 「ありがとうございまする」


 そしてここで止まらないのが大野さん。ツナまで作りだすのだ。


 「このツナ瓶も手土産にし、作り方を教えれば友好の印になるやもしれませぬ」


 「盲点だった。ナイスアイデア!日持ちするしこれも土産にいれましょう!あと皆、聞いてほしい」


 俺は今の島津家を分かる範囲だが教えた。今は1563年だから、現当主は島津貴久って人の事。この人の息子の4兄弟が、とにかく未来では名前がかなり有名って事。


 明やポルトガルの船などがよく来ていると思うから、ある程度は柔軟な考えだろうと思う事。まあこれに関してはオレの希望的観測だが。


 「あと、薩摩はこの時期はいつも戦してるような覚えがある。薩摩・大隅・日向をもう少しすれば制圧すると思うけど、もしかすると既に小競り合いは始めてるかもしれない」


 「がははは!ならば島津何某に協力すれば、友好になれるやもしれませんな!?」


 「そんな簡単に会ってくれるかも分からないけどね。ちなみに鉄砲を最初に合戦に使ったのが、島津家だったと思う」


 「ほうほう。ですが我らの方が威力も精度も高いと思いますよ!」


 「隼人君の言う通り!まあゆくゆくは岐阜で作ってる銃を輸出できれば、と思っているんだよ」


 「我が君は更に金儲けですか!?」


 「そう聞こえるだろうけど、日の本のどこの鍛治師でも同じ規格の銃が作れれば、技術力が上がったって事でしょう?そうすれば他の分野でも技術力が向上し、また他の新たな物が作れたりして、どんどん豊かになる」


 「ほうほう。流石、我が君ですな!!」


 「まあ敵も同じ装備を持つって事だから、余程の蜜月関係にならないといけないけどね。せめて生活必需品なんかの作りは教えたいね。氷とか、やはり食物なんかは早急に広めたいよね。餓死で死人を出すというのは、国として恥ずかしいからね」


 「では薩摩とやらの場所をまずは見てからですな!!話は変わりますが、時にこの船の名は何なのですか?」


 「そうそう。私も疑問に思っていたのですよ」


 「う〜ん。オレも考えてはいたのですが・・・・」


 船の名前は必要と考えてはいたが、まだ付けてなかった為、皆で考える事となった。皆で思い思いの名前を出し合い、良さそうな名前にする事にした。


 「尾張丸!」「剣城丸!」「オールジャパン丸!」


 皆、色々言い合っているが変な名前ばかりだ。未来の船の本を見て、似たような雰囲気にしてるのだろう。そもそもオールジャパン丸って何ぞ!?


 「攻撃艦 ドンペリなんて如何ですか?」


 「「「「「ドンペリ・・・・」」」」」


 いやいや、何でシャンパンの名前なんだよ!?皆、引いてるじゃないか!?


 「俺はドンペリ号に1票」「ワシもだ!」「某も」


 「私も!」


 はぁ!?マジで!?かっこ悪いし弱そうなんだけど・・・。


 「竹中さん。ちなみに命名するに、意味は?」


 「そりゃドンペリが最高級に美味いからですよ?他に意味なんかある訳ないでしょう?」


 クッ・・・・竹中さんに決めさせなければよかった・・・。


 とりあえず船の名は、オレは不本意ながらドンペリと決まった。


 まあ元々、島津の事を教えると言っても大した事は分からず、色々な事を話して船の名前になったから、自業自得だよな。


 そんなこんな話していると、あっと言う間に見えて来た。ってか昨日まで全然船が見えなかったのに、かなりの船の往来が見える。


 「おっ!あれが明や南蛮の船か!?大きいな!大きさならこの船より大きいのじゃないのか!?」


 「慶次さん!?身を乗り出し過ぎ!危ないから!」


 どうやら船舶の往来が多く、航路に障害がある時には自動操縦は解除されるみたいだ。だから今はオレが操舵しているが、かなり大きい明の船の船団がこちらに近付いて来る。


 何故、明と分かったかと言うとドラゴンの旗を掲げているからだ。まあワンチャン、ポルトガルとかの可能性もあるだろうけど、ポルトガルがドラゴンの旗なんか掲げる筈ないと思う。


 「剣城様?3隻程近付いてきております。レールガンの発砲の許可を」


 いやいや、何でいきなり隼人君は発砲すんの!?野田さんも小泉さんも杉谷さんも頷くなよ!?


 「がははは!我が君の道を遮る者は何人(なんぴと)たりとも消屑になるのみじゃ!慶次坊!海戦じゃ!!」


 「ちょ!ストップ!いきなり戦なんかしないから!!消屑になんかしないから!!大野さん!静かに槍を構えないで!!?」


 どうしてこんなに好戦的なのだろうか。


 「剣城様!?相手方が何か叫んでいます!!」


 オレはスクリューを逆回転させ減速させる。向こうの船は所謂、人力船だ。左右からかなり大きい櫂が出ている。


 「多分、あれは奴隷を使って漕いでいるのだろうな」


 「奴隷ですか。剣城様が嫌いな言葉ですね?殺っちゃいます?」


 「すずちゃんはもっと女の子らしくしような?簡単に殺さないから!」


 相手の船と10メートルくらいの距離となり、いい加減向こうが止まらないとぶつかりそうになるが、いかんせんオレ達の船は農業神様パワーで、揺れや風の影響をあまり受けないが向こうは大揺れだ。


 「ⅣÅ⊿∟⊃@+※∵⌒¢-⌘▽〜!!?」


 「は!?訳の分からん言葉を話すなや!日の本の言葉を話せ!!」


 いや望月さん!?なんで喧嘩腰なんすか!?


 「お前達はどこの者だ!?薩摩人ではないな!?」


 「剣城様?薩摩人かと聞いております」


 「うん。とりあえず薩摩人ではないと伝え、オレ達は陸地に向かうと言ってくれます?あっ、拡声器どうぞ」


 「テスッ。テスッ。我らは薩摩人ではない!己れ等は明の船団とお見受け致す!我等は陸地に向かっておる!断じて邪魔する事なかれ!さもなくば・・・・伝七郎!今じゃ!」


 望月さんがそう言うと、いつの間にか小泉さんが例の左舷、右舷に装備されている水鉄砲の一つを、マックスパワーで一度、発射した。


 チュドォ──────ン!!!!


 「「「・・・・・・・・・・・」」」


 うん。明の船3隻は沈黙してるね。しかも誰も発砲許可してないんだけどな!?


 「これを明の船団に放ちたくはない!友好的に相対したいものだな?既に我等は貴様等の船に航路を邪魔されている訳だ!」


 するとすぐに3隻が引いてくれた。カタコトの日本語を叫んでいた人は呆然としてたのが見えた。なんならお股から水滴が垂れてるのも見えたが。


 「剣城様。邪魔者は排除致しました。あちらの港への道が開けました!」


 「え?あ、うん。望月さん?ありがとう」


 「本当は問答無用に沈めてやりたかったのですが、あれくらいにて勘弁しましょう」


 もう考えても無駄だな。とにかく陸を目指そう。モニター越しで見たけど、かなり栄えているように見える。それに防波堤なんかこそ無いが、砂浜を整備しているように見える。大型船は沖で停泊し、小さな船で陸を目指すんだな。


 「ってかどうやって陸地に向かえばいいのだろう」


 「陸地に向かう渡し舟を行う者が居るかと思いますが?」


 「へぇ〜そうなんだ。なら待ってればいいのかな?」


 「恐らく向こうから接触してくるかと」

 

 物知りな望月さんから聞いて、オレ達は未来では坊ノ岬と呼ばれる所を越え、峰ヶ崎に囲まれる湾に向かう。ここまで来ると船の渋滞だ。


 「マジか!?本当にこんなに船がいるんだ!?よくもまあ、こんな真冬の荒波の時に来るんだな!?」


 「確かに。我等は剣城様の師匠のお陰で揺れすら感じませんでしたが、明船なんかは凄まじいでしょうな」


 いつの間にか農業神様は師匠という認識らしい。


 とりあえず端の端、陸地に1番近い端にオレ達は停泊した。他の船からかなり注目されている。それによく見ると、確かに渡し舟をしている人達も見える。


 「剣城様?小早が10隻程向かって来ております!多分あれがそうかと」


 「杉谷さんありがとうございます。ここで技にて船を収納すれば目立つよな・・・・」


 「某が留守役になりましょう」


 「え!?いいのですか!?」


 「えぇ。どうせいくらここが栄えていようが、冷蔵庫なんか無いでしょう?優しい便器なんか無いでしょう?」


 いや杉谷さん!?ウォシュレットを優しい便器て・・・。


 「おう!杉谷坊!お主一人では心許ないであろう?伝七郎!船を守っておれ!愚か者が近寄れば・・・」


 「頭領?貸しだからな!?剣城様?俺も留守役になりましょう」


 少し不穏な言葉が聞こえたが、まあ大丈夫かな?


 「なら二人にお任せ致します。宜しく頼みます」


 



 「さっきの船は何だったのだ!?」


 「えらい速かったが・・・ただ、櫂が見当たらんかったがどうなっている!?」


 「いやそもそもあの鉄砲は何だ!?奴らは俺たち明を恐れていないのか!?この事が朱華様に知られるとどうなる!?」


 「そんなの言わずもがな・・・。だがこのまま税も取れず通したと言えば・・・」


 「フカの餌にされてしまうな」


 「朱華様はいついかなる時も、商いの事を考えるお方だ!例え本国で敵対関係になる者だろうと、利になる時は手を組む方だ」


 「確かに相手の航路を阻んだのは、我らの落ち度であったな。まずは友好的に近付こう。そして相手が何者なのか、あの船は何なのかを知ろう」


 「確か坊津に向かったな?我等も行こう。見つければ・・・とりあえず砂糖なら間違いないだろう」

 

 

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