頭角を表す第一歩 羽柴藤吉郎

 お風呂では、ゆきさんに髪の毛、身体を洗ってもらい、ベッドインならぬ・・・風呂の中で抱き合い、ゆきさんの中に果てる事となった。相変わらず早撃ちだ。


 「ふぅ〜。今回の戦は流石にヤバかったな」


 「え!?あれは冗談じゃなく本当の事だったのですか!?」


 「そうなんだよ。雑賀孫一っていう鉄砲の名手が頭領の、雑賀衆って奴等が居てね。その後は三好軍を相手にしたんだけど」


 「小川の爺や、金剛、剛力が居てですか!?」


 「うん。今回は別行動だったんだ。けど、ちゃんと目的は果たしたしね。松永がどうなるか分からないけど、大和は平定されるだろうね。それと摂津はこれから豪族がどう動くかだよね」


 「そうですか・・・。これからも遠征が多くなるのですか?」


 「いや、暫くは停滞かな?木下さんに仕事の引き継ぎしなきゃいけないし、この家も拡張しなきゃいけないよ」


 「あっ!大殿と濃姫様の姫のお迎えですか!?」


 「そうそう。今でも部屋は余っているし、小見様が後見人になるかと思うけど、見窄らしい家はダメだろう?あっ!それと、オレの後ろに居たおじさん・・・覚えてる?」


 「えぇ。あの隙がありそうで無さそうな方ですよね?あの方なら菊が、温泉宿に無理を言って貸し切りにして、今は湯に浸かっている頃かと」


 「そうそう!あの人なんだけどね・・・。未来では、剣豪とも剣聖とも剣鬼とも言われてる人なんだ。オレが居た時代で『剣豪とは誰か?』と聞けば、7割くらいはあの人の事を言うと思うよ。名前は上泉信綱さん。オレが適当に発声して『一之太刀』って言ってたの、覚えてる?」


 「えぇ。発声する事によって、力が増すと言われていましたよね?」


 「そう。その『一之太刀』の本物の人だよ。ちなみに、オレの時代では仮説程度なんだけど、上泉信綱さんの師匠と言われている、塚原卜伝って人も剣豪の部類だね」


 「そうなのですね。そんな方だとは・・・」

 

 「まぁ、上泉さんは警備班の愛洲さんと旧知らしく、それで義によって助太刀してくれたって感じの人だよ。それに笑いのツボは分からないけど、意外に良い人っぽいよ?だから、気に掛けてあげてよ」

 

 「分かりました。1人、側女を見つけて世話をさせるようにしておきます。それと私の方からもですが、朱華様?という方が参られました。暇だから剣城様が帰られるまで、那古屋の吉蔵さん達の『仕事を手伝う』と、言っていました」


 「え!?朱華さんが!?すぐに遣いを出して!今後あの人がどう動くか分からないけど、海運が本当に動くよ!」


 「分かりました!」


 本当に朱華さん達が帰って来たのか。という事は、本当に織田の下に付くという事だな。物流に海も入るって事だな。更に考えないといけない。


 

 「剣城ぃぃぃ・・・居るかぁぁぁ・・・・?」


 「えぇ!?木下さん!?どうしたのですか!?」


 「すまん・・・。戦帰りで疲れている事を承知で・・・」


 「分かりました!兎に角上がって下さい!それにもう夕方近くですし、ねね様もお呼びして今後の交流も兼ねて、夜飯でも一緒にどうですか?」


 「いや、その事なんじゃが・・・」


 どうせ女絡みの事なんだろう。とオレは思っていたが、事は結構深刻そうだった。まぁ未来を知っているオレからすれば『そんな事で!?』と、思うけど。




 「すいません。砂糖、ミルク多めのコーヒーになります」


 「むむ。恩に着る。で、ゆき!剣城に抱かれているか?今日は一段と綺麗ではないか!」


 「はい。木下さん、黙ろうか。人の妻にそんな聞き方すれば次は許さないですよ。年末の茶店の女性の事を、ねね様に言いましょうか?」


 「(ゴホンッ)すまん。冗談だ。はぁ〜・・・・」


 さっきから何を落ち込んでいるのか、核心を早く言ってほしい。


 「で、どうしたのですか?」


 「はぁ〜。さっきまで登城していたのだが、これからアッシの仕事が、柴田殿達は気に食わないみたいなのだ」


 「気に食わない?物流の事ですか?」


 「あぁ。丹羽殿は表立っては言って来なかったが、柴田殿はな・・・」


 『剣城の物流の仕事を全て引き受けるのか!?お館様!何故にこのサルめにそのような仕事を!?』


 『勝家は黙れ。お主はワシの差配に文句があるのか?それにその口の利き方に気を付けよ。今一度、飛鳥井の所へ戻るか?』


 『いえ・・・。申し訳ござらん』


 『適材適所だ。お主より、サルは下々の上がりだから、銭や農民達の事をよく知っておる。銭を動かすのは此奴だ』


 

 「と、こんな事があってな・・・。別に功を上げた訳でもないのに、大役を仰せつかったからのう」


 「まぁ、上司からすれば面白くないかもしれませんね。で、柴田様や丹羽様より上ではないですよ!って感じにしたいという事でしょう?」


 「おっ!?よく分かったな!?」


 まぁそりゃな。未来で羽柴と変えたくらいだからな。オレはカンニングしてるような感じだし。


 「名字を変えては如何ですか?柴田様と丹羽様の字を一つずつ頂き、羽柴という名字なんかが、オレは良いと思うのですけど?」


 「おぉ!それは良い!!だが・・・木下という名字は、ねねの母方から貰ったものでのう・・・。名字の無かったアッシに良くしてくれたのじゃ。それを捨てるとなるとな・・・」


 「まぁ、そればかりは・・・。オレが一肌脱ぎましょうか?ゆきさん?ゆきさんは、伴家の名字を捨てる事を躊躇した?確か1人娘だったよね?」


 「最初は思う所はありました。ですが、剣城様の芝田という名字を頂き、今は寧ろ嬉しさで一杯です。例えば伴家が無くなったとしても、人まで無くなる訳ではありません」


 「そっか。ありがとう。木下さん?このように、男女に愛があれば、名字が変わる事に抵抗なんてありませんよ。仮にオレが妻のゆきの家で『婿になれ』と言われれば、了承しますよ?価値観の違いは人によってあるかもしれませんが、一度、自分の口から言ってもいいのではないでしょうか?」


 「そんなものかのう・・・。じゃが、その前に柴田殿と丹羽殿にも、了承を得ねばならぬのだ」


 「あぁ、その辺はオレも言いますよ。オレが言い出しっぺですからね」



 思い立ったら吉日。オレと木下さんは直ぐに、丹羽さん柴田さんに了承を得ようと両家に向かう。ゆきさんにはねね様を呼ぶように伝え、オレの家の料理頭の金右衛門さんに、約5人分の飯を作ってもらうようにお願いした。


 長い廊下を歩いていると、雑賀衆の・・・鶴さんが、名目上の茶室に1人待たされていた。忘れてた訳ではない。記憶に無かっただけだ。


 「ゆきさん。ごめん。あの女の人は捕虜ではないけど、捕虜?みたいな感じの人なんだ。隼人君に『鍛えてくれ。週に5日は勉強させて』って伝えてくれる?」


 「誰ですか?」


 「さっき言った、雑賀衆の1人だよ。拷問はダメだよ。オレも今後の事を言いたいけど、先に木下さんの問題を片付けるから」


 鶴さんはオレに何か言いたそうにしていたが、時間が勿体ないから、オレはそのまま家を後にした。


 柴田さんの家に到着すると、先触れを出していないし『訪問する』とも言っていないが、下男さんに伝えると直ぐに居間に案内された。木下さんの顔を見て少し不機嫌だ。


 「とまぁ、木下さん的には偉ぶるつもりは毛頭無い、という事なのです。そこでなのですが、柴田様と丹羽様にお願いしたい事があるのです」


 「何だ?それにサル!願いがあるのならば何故、己の口から言わぬのだ?少し待っておれ。長秀も連れて来る」


 オレ達は簡単に説明をすると、柴田さんが丹羽さんも連れて来てくれるとの事だ。手間が省けたな。


 「本当に大丈夫かのう・・・。かなり不機嫌じゃったが・・・」


 「大丈夫ですって!木下さんの思いを伝えるといいですよ!」


 丹羽さんの家は柴田さんの隣だからか、直ぐに来た。誰がどう見ても現代のパジャマ姿でだ。


 「なんぞ?ワシはそろそろ寝ようかと思ってたんだが?」


 いやいや、早過ぎだろ!?まだ夕方の6時にもなってないぞ!?


 「申し訳ありません」「丹羽様、すみませぬ」


 「ふっ。剣城と木下か。珍しい組み合わせだな」


 「・・・・・・・」


 「木下さん!」


 「(ゴホンッ)えぇ・・・。単刀直入に申し上げたい。この度、お館様から大役を頂いた訳ですが、アッシは柴田様、丹羽様より上だとは毛頭思っておりませぬ。それに下々の身分ですし、まだまだ若輩の身ですので、できれば御二方からの御指導、御鞭撻を頂ければと思っておりまする」


 「お館様は『適材適所』と言われておった。これはお館様が命令された事。ワシ等がどうこう言おうと何も変わらん」


 「アッシも不思議に思っておる次第ですじゃ。そこで・・・まだまだ経験の足りないアッシですし、戦の事も礼儀作法も御二方には到底敵いません。ですので、御二方のような者になりたいと思い、柴田様と丹羽様の名字の一文字を頂きとうございます!!」


 「「・・・・・・・」」


 「ここからはオレが。木下さんの事で、オレが出しゃばるのはどうかと思うかもしれませんが、木下さんの初めての大仕事ですので、張り切って学ぼうとしている表れなのです。ただ、どうしても織田家では柴田様や丹羽様のように、何でも出来る人物が居ますから、木下さんは萎縮して力を発揮できないのでは?と思い、オレが提案致しました。現に、柴田様は少し気に入らない感じだった、とお聞きしました」


 「(チッ)剣城相手だとやり難いではないか。ワシは別に木下を邪険にしている訳ではない。ワシは、剣城の仕事をサルが引き継ぐ事が気に食わぬのだ。何故サルなのだ。別にワシも学ぶからワシでも良いではないか」


 「それこそ、先程言っておられた『適材適所』だと思います。柴田様は織田家随一の猛将です。その猛将と名高い柴田様を、物流や経済の事で使うのは『勿体無い』と、信長様は感じているのでは?とオレは思います」


 「だがそれならば、もっと他国に仕掛けても良いのではないのか!?お館様は『今年は蓄える』と言っていたではないか!それならば剣城の思っている事と矛盾するぞ!?」


 マージでこの人は脳筋だな。飛鳥井さんに鍛えてもらい、変わったかと思ってたんだけど、所作や話し方は穏やかになってはいるが、脳筋は変わってないわ。直ぐに戦ばかり仕掛けられる訳ないって、オレでも分かるぞ!?


 「これは、先の話になると思いますが・・・。その蓄えた後の事ですよ。先の防衛戦で、上杉家や毛利家に織田の戦い方を見られた訳です。朝倉家はいませんでしたが、浅井家を通して知る事となるでしょう。そして、これから他国は鉄砲や大砲を分析するでしょう」


 「確かに・・・な。聞いたところによると、鎧に鉛を仕込んだ敵兵に苦労した、と聞いているぞ?」


 「えぇ。丹羽様の言う通り、オレも甲賀隊 鉄砲衆も苦労しました。他国もこれから甲冑や防壁を改良してくるかもしれません。そこで、柴田様の武が必要になってくるのです。オレが新しい武器や装備を開発し、量産する。それを兵に行き渡らせる。何か作るにしても銭が必要です。その目に見えない働きを、木下様が引き受けるという事です」


 まぁ、適当にらしい事を言った訳だが、脳筋には理解できないかもしれない。出会った頃の柴田さんなら、ヨイショヨイショしておけば、二つ返事で了承して終わりだった気がする。飛鳥井さんに変に知恵を付けられて、面倒なところが出て来た感じだな。


 丹羽さんは別に否定している感じではないし、多分大丈夫だろう。


 「そうか・・・。確かお館様は『ワシの見る道筋を知っているのは剣城だけだ』とも言っておられたな。先の考えは確かにお館様が思っているような事だ。サル!いや・・・木下藤吉郎!」


 「は、はい!」


 「ごちゃごちゃ言って悪かったな。色々、裏の事を勘繰り、むしゃくしゃしていたようだ。長秀はあまり思うところも無いようだし、ここはワシの名字の一文字が欲しいと思う者を、邪険にしてはいけないと思う。好きに使って良い」


 おっ!?意外にあれだけですんなりいけたな。オレは3時間くらい掛かるかと思ったけど、1時間も掛からなかったな。


 「ありがとうございます!ありがとうございます!」


 「よせ。そのように謙(へりくだ)る言い方は偶に癪に触る事がある。お前もいつまでも下っ端ではないのだ。堂々と構えろ」


 「は、はい!」


 「ふん。時に・・・要らぬ心配だが、どのような名字にするのだ?それに木下という姓は奥方の・・・ではなかったか?」


 「丹羽様!その辺はアッシが何とか致しますので!」


 「そうか。ならばワシ等は気にしなくても良いのだな?」


 「はい!では、アッシは本日から柴田様の『柴』と丹羽様の『羽』を一文字ずつ頂き、羽柴藤吉郎と名乗らせていただきます!」


 「羽柴か。悪くないな。で、下は変えぬのか?」


 「はっ。そこはまだまだだと思っております。柴田様や丹羽様の名字を頂き、御二方のような人物になれた時に、変えさせていただきとうございます」


 「調子の良い男だな。だが、悪くない。羽柴藤吉郎!これからもお館様の為に励め!それと、剣城!これはお前も噛んでいたのだろう?仕事が無事に引き継ぎ出来れば、よく言って聞かせておいてくれ。我が丹羽家には、そこの筋肉バカの家より融通するようにな!」


 「なっ!?長秀!その言い草は何だ!?」


 まぁ兎も角、すんなり事が運んだから良しとしよう。次は・・・木下さん・・・じゃなかった。羽柴さんの奥さんの方だな。

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