毛利家の新たな友!?

 それから将軍は、次の日には毛利や上杉など守備隊の人達に、褒美の太刀やら感状を渡していたそうな。一応、1番に駆け付けたのはオレなんだけど、なんとオレには何も無いそうだ。別に何か欲しい訳ではないけど、まさか本当に何も無いとは思わなかった。


 「ほっほっほっ。将軍は失礼にも程がありますな」


 「まっ、剣城は気にするな!」


 「半兵衛さんも慶次さんもおちょくってるんですか?いやまぁ、感状なんか貰ったところでですけどね。オレも将軍は嫌いだし、将軍もオレは嫌いって事だな」


 「剣城様!」


 「あっ!木脇さん!おぉ〜!なにやら凄そうな太刀ですね!」


 「なんの。なんの。おいは一度、薩摩へ戻ります。此度は援軍ありがとうでごわった。殿には『剣城様は一騎当千の働きでした』とお伝えしておきます!それと、この手柄と引き換えに次回の美濃の学舎への留学を、おいは求めます。その折には薩摩刀法に明るい者を、従者として連れて参りますので是非一度、タイ捨流の極意をば!」


 「そんな、オレは大した事してませんよ。金剛君。あれを」


 オレは義弘さんに手紙を書いた。毛利や上杉の兵もかなり頑張ってくれたが、いかんせん交流が無いから、島津家にしかオレは書かなかったが、オレはこの手紙に『島津守備隊こそ1番功の働きだった。オレは捨てさせなかったが、捨て奸は見事だった』と書いた。あの中陣での島津兵の働きが無ければ、敵本陣までに犠牲があったかもしれない。


 それと、土産に薩摩の人は皆が酒が好きな人が多い為、焼酎を個人的に送った。


 「これは・・・。まさか・・・」


 「えぇ。守備隊全員に1人1本ずつ用意しております」


 「ありがとうでごわった!これは薩摩で飲みたいと思います!」


 「いえいえ。交易品にて酒もかなり入ってますので、これから普通に飲めますよ」



 上杉家や毛利家に何も無いのは申し訳ないので、当たり障りが無いように、両家にはお金を渡す事にした。1人につき、大判50枚。つまり50万円だ。


 現代感覚で、命を懸けた割には少ないかもしれない。しかもこのお金は徐々に波及しつつもあるが、未だ畿内周辺でしか使われていない。

 それでも、オレは十分だと思う。それは何故か。まぁ中々難しいかもしれないが、もし美濃や尾張、近江、三河へ遊びに来ても、これだけあればかなり豪遊できる金額だからだ。


 「うむ。これを我等に?」


 「えぇ。織田家としてお渡しするのは上下を意味するので、よろしくないかと思うので、これは芝田家・・・つまりオレ個人からお渡しします。そりゃあ、将軍からの感状や太刀のような喜びは、無いかもしれませんが、機会があれば美濃や尾張に遊びに来て下さい。そこそこ豪遊できる額ですよ」


 「そうか。これは一度、御実城様にお渡し致す」


 「あ、いえ・・・。それは個人的に使ってもらいたいのですが」


 上杉家の隊長の山本寺定長って人は真面目だ。いや、真面目すぎる。


 逆に毛利家の熊谷信直って人は、こんな人だっけ!?って思った。


 「これも配下全員に頂けるので!?構わないのですか!?」


 「えぇ。故郷ではまだまだ、この銭が流れる事はないかもしれませんが、徐々にこの銭が主流になりますので、貯めておけば後々、いいかもしれませんよ?もしくは、上杉家の人にも言ったのですが、美濃や尾張に遊びに来る事ができるならば、かなり豪遊できますよ」


 「誠ですか!?織田領の商店などの殆どに、芝田殿が噛んでいると聞きました!ちなみに、美濃には女子(おなご)と遊べる場所などは!?いや、拙者はこんな歳になりながら・・・妻しか女を知らず・・・(ヒソヒソ)」


 この熊谷さん・・・。年齢は60近くのように思う妙齢だ。なのに、この人の言う事を信じるならば、奥さんしか女を知らないらしい。だが、どうせこの時代の、しかも守備隊長になるくらいだから、そこそこ格の高い人だろうし正室1人、側室10人くらい居るんだろ!?


 「ちなみに・・・側室は何人居るのでしょう?」


 「え?居ませんが?」


 ガシッ


 思わずオレは握手してしまった。いや・・・しなければならない。そんな気がした。


 「分かりました!貴方とは歳はかなり違いますが、気が合いそうです!女と遊ぶような場所はオレは知りませんが・・・。もし需要があるようなら、そのような店を作るのも吝かではありません!」


 「はい!是非に!っと・・・。この件は内密に・・・(ヒソヒソ)」


 「分かっています!」


 男と女が居るのだから、春を売る女性も居る。それも路地裏や暗闇の場所などでだ。以前に、温泉宿を経営する中に少しだけ春町の件をしようか、と思ってはいたが後ろめたさもあり、話は頓挫している。


 今も似たような事はしている。だがそれは、身分の高い人限定でだ。正にその温泉宿で商売にしている。これを一般の男性でも頑張れば、遊べるくらいにできれば・・・良いのだろう。

 

 そりゃ、女性がそんな仕事をしなくても良いような環境を作ってあげるのが、オレのように上に立つようになった者の立場だろう。

 だが、需要もある訳だ。鐚銭で劣悪な環境じゃなく、女性も喜んで働けるような環境を作る事が出来れば尚良い。まぁこれは持ち帰ってだな。ゆきさんとも話さないといけないし。


 とりあえず、熊谷さんとは初めての毛利家との繋がりでもある。この誼を持ってても損は無いし、なんなら気が合いそうな気もする。


 

 帰りは実に楽だ。ちなみに京の政情に関しては、織田家としては村井さんに兵を預けるらしい。オレ達甲賀隊は、剛力君配下と青木さん配下の大工衆を残し、帰る事となった。


 大津で一泊し、ミヤビちゃんのマッサージを受けて、信長さんにカレーラーメンを振る舞ったり・・・。後は琵琶湖を渡り、関ヶ原を抜けて美濃入りだ。


 「「「「「「大殿様ッ!!!」」」」」」


 「「「森様!」」」 


 「「「丹羽様ッ!!」」」 


 「「佐久間様!」」


 「「「「「剣城様ッ!!!」」」」」


 織田領へ入ると、往来の人も多くなる。そして、民家も今やかなり多い。真冬だというのに、露店には数々の野菜や果物、乾き物などかなり並んでいる。そんな中、民衆から起こる歓声だ。一際大きく名前を呼ばれるのは、我等の総長でもあり、社長、殿でもある信長さんだ。


 「うむ!皆の者!励んでおるか!あぁ良い!そのままにして良い!」


 何度も思う。未来の信長さんの想像では、このように民衆から好かれている武将には、思えないだろう。だが、実際はかなり民に好かれている。お忍びで、オレのようによく、巷の商店に寄って買い物したりしているらしい。


 本人は、『このように顔を隠せばワシだと分からぬだろう。視察をせねば民衆は直ぐに一揆を起こすからな。少しでも不満を聞き、やれる事はしてやるのが武士であり、大名だ。民あっての国。国とは民だ』と言っていた事もある。


 考えは本当に素晴らしい。素晴らしいが、誰がどう見ても髑髏の刺繍がされてある頭巾は、信長さんしか居ないと分かると思う。そして、オレは濃姫さんしか見ていないが、意外にもプレイボーイな信長さん。側室も多いが、濃姫さん含め関係はかなり良好。その濃姫さんとも、子供を身籠る前などは意外にも、2人で城下にも来ていたらしい。


 この歓声の大きさで、民達の人気が分かる。意外と言えば失礼だが、森さんより丹羽さんの方が人気があるのだ。それは森さんの顔も関係してるとオレは思っている。笑わなければ、森さんは少し怖い。だから、物腰柔らかそうな丹羽さんの方が、民からのウケは良い。佐久間さん?あ、うん。あの人はダメだ。未だに『ワシ等がお前達を守ってやってるんだぞ』というような感情が強いせいか、余り民衆ウケは良くない。


 オレは民達とよく喋ったり、なんなら芝田家からの期限無限無利息融資で商子(たなこ)となり、商人になる事を夢見て発起した人も居るから・・・というか、かなり居るから覚えは良い。律儀に皆、ちゃんと30日に一度、銀判一枚・・・1000円だ。まぁその1000円だろうと返済してくれる人達ばかりだ。


 現代なら『舐めてんのか!?あん!?』と言われる金額だが、この時代ではそれなりの金額だ。オレは利息なんて無くても良いし、極論、返済もいらないくらいだが、それをしてしまうとお金の価値を自ら崩してしまう。そのくらいオレはここではお金を持っているから、一応その辺は金剛君やゆきさん任せだけど、ちゃんとしている。


 「お館様!!森様!柴田様!丹羽様!佐久間様!剣城!!」


 「サルか。なんぞ迎えに来たのか?」


 「はっ!いつ早馬が来ても良いように、控えておりました!」


 「そうか。だが、お前の出番は無い。此奴が全て片付けよったわ」


 「で、では三好は・・・」


 「撃破させた。剣城がな。まぁ良い。一度、城へ来い」


 「木下殿。お久しぶりですな」


 「うん?おっ!?其方は!?」


 「私もそろそろ身の振り方を考えましてね。末席ながら、織田家へと仕官させていただこうか、と思いました」


 「ふん。サル!侮るなよ?聞くところによると、明智の妙兵は凄まじいぞ。鉄砲を交差するように配置し、入って来た敵を撃滅せしめん布陣だそうだ。此度の防衛も大いに活躍したそうじゃ」


 「いや、私は芝田殿に比べると大した事ありませぬ」


 「ふん。賢しい。此度は目立った働きは無いが、殺し間だったか?そこで撃ち漏らした敵や逃げた敵をも追撃するように、敵の退路に兵を配置していたそうではないか。用意周到だな」


 「念には念をと・・・。それにしてもバレておりましたか」


 オレは殺し間の陣を見ただけで、実際に敵が来たところを見てはいないけど、あの信長さんがここまで褒めるという事は、凄いんだろうな。

 わざと敵を懐に入れて、一気に倒すのは効率も良さそうだ。

 あっ、ちなみに明智さんだが、正式に織田家へと来る事となった。どこのどういった任務に就くかは分からないが、この人とはオレも仲良くしようと思う。本能寺の変だけは起こさせないように、しないといけないし。




 そんなこんなで、すぐに岐阜城 城下へと帰って来た。丹羽さんや柴田さん、森さん達はすぐさま解散となった。なんでも、大津では避難してきた民達と喋ったり要望を聞いたりと、かなり評判が良かったそうだ。まぁ、それを叶えるのはオレの配下の剛力隊及び、青木隊だが。


 そして、遅れて来た佐久間さんだ。この人は大津に到着した次の日に帰る事となった為、何もしていない。なんなら行軍演習をしたような感じだ。

 帰り道で散々愚痴を言われた。


 『お前が敵を残しておかんからこうなったのだ』


 『少しは目上の者を立てる事も肝要だ』


 『少々、お前の兵もやるようだが、ワシの兵の方が強い』


 等々・・・。まぁ相当に疲れるくらいの愚痴だった。まぁ、オレと甲賀隊だけで三好の相手をするのは、信長さんの一存だったと思うけど、せめてフォローくらいはしてほしかったな。その愚痴を言われていた時、信長さんは軽くこちらを見て、ニヤッとして反対を向いたからな。


 「うむ!皆の者!御苦労!剣城以外の者は城へ来い!剣城は2日の休養をし、兵を労え!その後、明智の屋敷を1番に建ててやれ。岡部とも連携するように!」


 「は、はい!お疲れ様でしたッ!!」


 オレは元気よく返事し、家へと帰る事となった。他の部隊の末端の兵の人達も家族が迎えに来て、抱き合ったりしながらも、すぐに解散となった。


 残されたのはオレ達、甲賀隊だ。


 「金剛君。疲れてる時に申し訳ないけど、清洲の村に全員連れてってくれる?今日はこのまま休み。各々がちゃんと休むように!そして明日・・・。明日、この屋敷に順番に来るようにしてくれるかな?皆に褒美の要望を聞くから」


 「はっ!畏まりました」


 「がははは!我が君!ワシは我が君の横に居る事こそが褒美ですぞ!」


 「いや、そんな意味の分からない事ばかり言わないで!じゃあ、金剛君。頼むよ」


 「はっ!」


 さて・・・そろそろオレも・・・。


 「剣城様!!」 「剣城殿!」


 「ゆきさん・・・。ただいま。小見様。ただ今戻りました」


 「よくぞ御無事で・・・」


 「大丈夫だよ。まぁ、少し危なかったところもあるけどね。とりあえず、風呂に入らせてくれ!話は後から!」


 オレはそそくさと、風呂へと向かった。

 

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