元亀の動乱
改元への決意
戦が終わって、早くも3週間が経った。もう2月に差し掛かろうとしている中、オレ達は・・・。ではなく、オレは剛力君や青木さん達の仕事を激励している。
本来は、色々な取り決めに顔を出さないといけないけれど、信長さんが気を利かせてくれているから、オレはする事が無い。かといって、帰る訳にもいかない。
そんな中、奥の庵から信長さんの怒号のような声が聞こえた。
「改元ですとッッ!?」
この日は公家の人達も沢山、来訪していた日だ。恐らく論功行賞だと思っていたが違うようだ。
「ほっほっほっ。将軍にしてはまた大胆な事を言いましたね」
「半兵衛さん。改元がそんなに信長様は嫌な感じなのですかね?」
「おや?知らないと?改元とはその時代の覇者を示す事ですよ?つまり、将軍が改元を行ってしまうと、世間から見れば足利の世と思ってしまうのでしょう」
「なるほど・・・。それだけは避けたいでしょうね」
確か史実では永禄の次は元亀だったかな。その由来までは知らないけど、ここでも修正力なのか。改元を何とかして防ごうとしても、それの理由が見当たらない。それに今のオレは部外者に近い。あっ!いい考えがあるぞ!
「大野さん!カステラ作れる?」
「はっ。直ちに!」
「ありがとうございます!できれば、10人前分くらい!」
「了解致しました」
怒号が聞こえるという事は、話が上手くいっていないという事だ。糖分補給を兼ねて、オレが小姓のような事をして、部屋に入ってみようか。
流石、大野さんだ。簡易的な竈門で手際良く作ってくれたお陰で、直ぐに出来上がった。しかも火力の違う竈門にて、蒸し焼きという一行程を加え、スフレのようなフワフワカステラだ。
トントントン
「誰ぞ!」
「剣城でございます。白熱したお声が聞こえましたので、休憩がてら甘味をお持ち致しました。
「ふん。入れ」
この部屋には将軍が居る筈だが、信長さんが仕切っているような口振りだ。
「お前か。何用ぞ?」
将軍は侮蔑したような目でオレの方を見て、興味なさ気に答えた。
この部屋に居る人は、細川さん、明智さん、信長さん、松永さん、将軍、飛鳥井さん、山科さん、二条さん、後は知らない人が数人だ。
「これはこれは。剣城殿。お久しぶりですな」
「飛鳥井様。お久しぶりでございます。皆様の声は外まで聞こえております。休憩がてら、甘い物でもいかがですか?」
「そ、そうですな!まずはこの見た事もない物を食べてから、議論致しましょうぞ」
明智さんが場を濁す感じで喋ると、皆は静かに楊枝を手に取り食べ始めた。
「ふん。カステイラか。久しぶりだな」
「織田殿はこれを食べた事があると?」
「美濃に来れば、巷ではこのような南蛮菓子に溢れている。うむ。将軍!やはり織田家と致しましては、改元とは朝廷主導で致す事だと思うております」
「じゃが、これで京を乱す者は居なくなった。これも予の威光の成す事じゃ。御父 信長公は幕府主導で改元し、世の安寧を願う事を否定するのか?思えば永禄は戦ばかりじゃった。これからは予が大名を纏め、日の本を一つにするのじゃ!その意味を兼ねての改元であるッ!!」
うん。清々しいまでの夢想で、信長さん風に言うなら、実の実(じつのみ)も無いような言葉だと思う。なーにが、足利の威光ぞ。だ。細川さんや明智さんも然り、毛利、上杉と他の家の皆の活躍あってこそだろう。
「征夷大将軍である将軍殿の言い分は分かった。じゃが、朝廷側としてはそのような言い分を『はい』と言える訳がないでおじゃりまするな」
「この期に及んで、公家達は状況が分かっていないのか?ここは一度、守護共を京に呼び寄せて、予がどのような治世を導かんとするか、言わねばなるまい。その新しき道を示す改元ぞ」
うわ・・・。マジでお花畑とはこの人の頭の事だ。あぁ〜あ。皆が引いているのが分かる。信長さんですらドン引き顔だ。
「ではこうしましょう。まずは帝にお赦しをいただき、諸大名も賛同するならば私も喜んで賛同致しましょう。いや・・・織田家が改元の銭を持ちましょう。ですが、焦り過ぎるのは良くないですぞ。将軍」
「まぁ確かに予は焦りすぎだ。ここは信長公の言う通り、まずは守護達を呼び寄せ、帝にもお伺いをたてなくてはな。飛鳥井卿や二条卿は、帝にこの事を伝えておいてくれ。予は将軍である!武家の頂点 征夷大将軍である!必ずや足利の威光にて、この乱世を鎮めてみせよう!」
「・・・・・」 「「「「はっ!」」」」
「・・・・・・」
幕府側に連なる人達は元気良く返事はしていたが、オレと信長さんは、示し合わせたかのように無言だった。
その後、信長さんはドタドタと歩きながら、外に設置してあるオレ専用のゲルテントへと赴く。ちなみに、このゲルテントはツリー型で、オレのだけ少し大きめな10人用テントだ。中身は大膳君が運んでくれた薪ストーブまで設置してくれていて、暖かい。なんならそこら辺の武将や有力者の家より、快適なんじゃないかと思う。ここを基本的に1人・・・じゃなかった。小川さんと寝泊まりしている。
「がははは!大殿様!お久しぶりですじゃ!」
「小川か。久しいな。それにお主は相変わらず元気だな。此度も働いたと聞いている。これからも剣城の家老として支えてやれ」
「はっ!筆頭家老に恥じぬ働きを致します!」
あ、うん。名実共に本当に、小川さんは筆頭家老になったんだな。
「(チッ)相変わらず貴様だけは、どこでも贅沢しているような装備ばかりだ。それに、すとおぶだったな。このような使い方も出来るのだな。奥の庵なんかより、ここの方が快適だな」
「ありがとうございます。配下の者が、『剣城様は我等の大将です。大将が配下と同じ場所や同じ寝床では沽券に関わる』と聞かないものですから、オレだけこんな感じです。すいません」
「ふん。相変わらず良い配下だな。遠藤にも見習わせたいくらいだ。茶を出せ!出来れば抹茶ミルクだ!うんと甘く致せ」
オレはあまり抹茶が好きではない。だが、こんな事もあろうかと、オレは自分用のクーラーボックスに抹茶ミルク、コーラ、サイダー、スポーツ飲料、ビール、ウィスキー、烏龍茶、天然水、そして・・・タッパー入りカレーを常に持ち歩いている。いつ何時何が起こるか分からないからだ。主には信長さんがいつ現れてもいいようにだ。
ペットボトルに入った抹茶ミルクを、カセットコンロで温め湯呑みに注ぐ。
「・・・どうぞ。それにしても本当に将軍は強烈ですね」
「ふぅ〜。その前に・・・温め過ぎじゃ!熱くて飲めぬ!用意に関しては最近は分かってきたようじゃが、今少しワシの好みの熱さを覚えておけ」
クッ・・・。そういえば、信長さんは猫舌だった。忘れてたぜ。
「すいません。以後、気を付けます」
「うむ。不思議と、貴様のこの抹茶ミルクなる物を飲めば落ち着く」
そりゃあな。神様印の抹茶ミルクだからな。確か効能で、気分を落ち着ける効果があった筈だ。
「それは良いことで」
「うむ。改元だけは流石のワシも許し難い。だが、諸大名を京に呼び寄せると言っておったが、来れる訳なかろう」
「言わなくてもオレも今なら分かります。『正式な守護大名が誰か?』とは把握しておりませんが、恐らくあの将軍は近辺の大名の事を、言っているのでしょう。六角は今は居ない。ならば、朝倉、上杉、武田、織田、徳川辺りですか。浅井や北条にも文を送りそうではあります。ではどうやって来るのか。武田も上杉も織田家と浅井家の領土の、どちらかを通らないと京に辿り着けませんからね」
「まったく・・・。いつの間に貴様も分かるようになったのだ。まぁ、周辺の事は今は良い。謹賀の折に言った通り、今は蓄える時期だ。ワシから飛鳥井等に、何としても改元はさせぬよう働き掛ける。改元するのはワシだ。織田家が主導で改元する事が1番良い。だが、表立って将軍を反対するには時期尚早。未だ古い考えの者が蔓延っている」
「上杉、朝倉、武田ですか?」
「上杉はまだ良い。交流がある。筋を通しておけば問題ない。だが、武田だ。同盟の文が届いた。倅と武田の姫の婚姻だ」
松姫と奇妙君か。ここも史実通りだな。
「争うよりかは良いかと思いますが?」
「抜かせ。貴様が武田を警戒している事は知っている。信濃の豪族と誼を結んだであろう?背後関係を調べれば自ずと分かる」
いやいや、何でこの人は既に矢沢さんと、物資のやり取りしてる事を知っているんだよ!?この間の事、『近々、配下の者をそちらに送る。よしなに頼む』と返事が来たばかりだぞ!?
「な、何でも知っておられるのですね・・・」
「ふん。今や貴様はワシから見ても、飛ぶ鳥を落とす勢いで駆け上がっているからな。味方にも当初は疎まれていた者が、今や味方ばかりだ。それ故に、他国にも注目されておる。貴様が出た戦は全戦全勝だしな」
「へ!?」
「これを見てみろ。下の方じゃ」
信長さんは四割印が押された手紙を差し出して来た。所謂、武田家の家紋だ。だが・・・
「信長様。すいません。護衛を呼んでも?」
「チッ。構わん」
「ミヤビちゃん?居る?」
「はっ。ここに。大殿様、失礼します」
「ごめんごめん。これを読んでくれる?あっ、間違っても他言無用にね」
相変わらずミミズの這ったような字は読めん!
「では・・・『同盟を結ぶ時期は、当人同士がもう少し大きくなってから。それと織田家の中に、芝田剣城殿と申す者が居るかと思われるが、その者がしている私塾、学舎は老若男女、身分関係なく誰でも学べると聞いた。就いてはその私塾、学舎に我が武田家 家中の者を学ばせたい』と書かれております」
「マジか・・・。ミヤビちゃん、ありがとう」
「はい!いつでもまたお呼び下さい!大殿様!失礼致します」
シュルル〜
相変わらず、お菊さんのような身のこなしだな。
「何故、武田がお主の事を知っている?学舎に関しては致し方あるまい。誰にでも解放しているからな」
「間者ですか?」
「いや。こんなに貴様の配下が居る中に同業が忍び込める訳はない。恐らく下々の民達であろう。貴様は下々の民と関係が近い。近い故に、何処で何をしているかが把握されやすい。美濃の茶店や飲み屋で行商を装った、武田家中の者が我が領の民に聞いたのだろう。まったく・・・。だが、断る理由もない」
「オレはどうすればよろしいですか?」
「どうするもこうするも、向こうは最強と名高い兵を持っている、甲斐源氏 武田だ。今は争う理由は無い。学びたいというなら学ばせてやれば良い」
「分かりました。で、その武田家の人を応対するのは?」
「何を言っておる。貴様しか居ないであろうが!貴様が目立ち過ぎるからいけないのだ!と言いたいところだが、こちらも甲斐の事を学ばせてもらうとする。向こうが忍ばせてくるなら、こちらは堂々とそれを言う。そして、如何に最強の騎馬軍団を率いているのか、確かめてやろう。なんぞ、ちょうど良い物は無いのか?」
「アクションカメラとかいかがでしょう?小型のカメラです。以前にデジカメ見せたでしょう?あれの小型の物です。バッテリーを予備で持たせ、1ヶ月に一度程、定期便と称して色々と物資を武田に格安で売るようにしましょう。その中にもう一つ同じカメラを物資に混ぜて、撮影したカメラと交換する形なら大丈夫かと。ただ・・・機械に強い人じゃないといけないですが・・・。人選は誰かはお決まりですか?」
「誠、らしくなってきたではないか。この調子ならもし貴様が敵となれば、少々面倒になりそうじゃな」
「まさか!オレは絶対に信長様に敵対なんてしませんよ」
うん。本当に。こうやってこの人はたまに褒めてくれるし、これが脳内麻薬のようで癖になってしまいそうなのだが、この人が本気になればオレはオーラだけで、失神してしまいそうだ。
「うむ。詳しくは貴様に一任致す。事は秘密裏にせねばならぬ。これは森や佐久間等にも言わぬ。どこに誰が潜んでいるか分からないからな。人選は平手だ。ワシを諌めようと切腹した平手の爺の子だ。彼奴には申し訳ない事をしたからな」
「分かりました。美濃へ帰れば一度紹介して下さい」
「分かった。ちゃんとそのあくしょんなんとかってのを覚えさせておけ。それと、ワシはもう中へは入らん。よって、今宵の飯は貴様が作れ!今宵はラーメンにしてやろう。味噌ラーメンだ!忘れるな!」
「ら、ラーメンですか!?カレーではないのですか!?」
「馬鹿者!いつもいつもカレーだとは思うな!」
いやいや、いつもカレー食ってたのはあんたじゃん!?
「・・・・分かりました!それで、いつ頃に帰れそうですか?」
「まぁ、2、3日向こうくらいだな。将軍が、『守備隊の者に褒美を出す』と言っておった。それと将軍のご機嫌取りに、『武衛陣だけでは足りない』と言っておったから、先代将軍の御所に、正式に将軍御所を建てる事にした。武衛陣は攻めの要とし、新設する場所は防衛にのみ、適した装備にしろ」
「武衛詰めの者はどうしましょうか?」
「確か、剛力配下の者を詰めさせておったよのう?剛力隊は数人を何日かずつで交代させ、常に常駐するように致せ。後の人選は、ワシの配下の者から選抜するように致す。この武衛陣を拠点に、京の治安を守る警備隊の基地も同じに致す」
「分かりました。その都度、オレも連携するように致します」
「うむ。先も言った通り、将軍に表立って反対意見を申すのは時期尚早。将軍にはまた勝手に動かれぬよう、焼き出された者の家々の復興の監督をお願い致す。民の機嫌も取らねばならぬ。折角、織田家が京にやって来たというのに『また戦乱で京の町が焼けた』と言われたくはない。
雑用仕事は民を使い、破格の給金を出せ。ワシは将軍に『銭を下町で使わせるように』と言っておく。幸い、奉行衆がかなり残っている。その奉行衆等にも特別給金として、織田から銭を送れ。さすれば、町に銭が還元され銭が回る」
「畏まりました。オレも使わない金があるので、オレも出すようにしましょう」
「ふん。良きに計らえ」
さて・・・。次から次へとイベントが発生するな。もう少しで帰れるし、皆にもちゃんと挨拶しないといけないな。
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