取り残された金剛
「市!その出立ちはどうしたのだ!?」
「はい・・・。長政様の為に・・・」
「美しい・・・。俺は女にうつつを抜かさなぬと決めておったが、最早それも敵わぬ。それ程までに綺麗じゃ!」
「ありがとうございまする・・・。それとこれを。先程、織田の者が撮影したピクチャーです」
チッ!お市さんもオレには毒吐くくせに女の顔になってるじゃん!ってか写真で良くない!?何で英語なの!?
「何じゃこれは!?おい!お前達も見てみろ!」
「おぉ!?」「なんと精巧な・・・」「どの高名な絵師が描くよりも素晴らしい」
「このぴくちゃーとやらは!?」
「それは人を先程、ハイチーズと言った箱の様な物で撮れるのですよ。人と言わず景色や風景なんかを撮影し、部屋に飾ったりも出来ます」
「だが義弟よ。決して他国の者に渡すなよ?特に敵国にじゃ。後は分かるな?」
顔がバレて狙われないようにだな。
「これ程精巧な姿絵が敵方に渡ると、オチオチ寝られませんな」
「ふん。そういう事じゃ。剣城!貴様の配下が道中撮影したであろう?見せてやれ」
「はっ。金剛君?お願いします」
「なっ、何だそれは!?」
「まぁ騒ぐ前に見て学ぶ事も肝要ぞ」
いやこの時代の人がビデオカメラやモニター見れば驚くだろ!?
「この小さな箱の中で人が生きておるぞ!」
「おぉぉぉ!!」
「うん!?三田村か!?何故二人も三田村が居る!?」
「殿!これは正に、お市様をお運びした時の道でございまする!」
「こっちの方は動いてる『今』そのままを、保存する道具でございます」
「そんな物まであるのか・・・。して、この道の横に光っておる物は何ぞ!?幻想的に見えるが・・・」
現代みたいに街の明かりがある訳じゃなく、本当の真っ暗な中のイルミネーションは、画面で見ても本当に綺麗だな。
「これはイルミネーションと言われる物です」
「どのように光っておるのか!?火種を入れておるのか!?」
どうやって説明すればいいんだろう・・・。
「義弟よ。まずはワシらの事を見て学べ。そして一度岐阜に来い。自らの目で見れば答えが分からずとも、見えてくるものはあるだろう」
「見て学ぶ・・・。分かりました。恥を捨て義兄上を見て学び、追い付いてみせましょう」
「お前も男じゃ。よその家の事はとやかく言うまいが・・・ワシは家族に散々な目に遭わされておる。父、久政には気を付けよ。よし!我らは帰るぞ!」
「えっ!?こんな夜更けに帰られるのですか!?城に一室用意致します!是非──」
「これは宴席でも同盟の席でもない。義弟と市の祝言ぞ。お主もワシらと話すだけでなく、市の相手をしてやれ」
なんだよ!オレも三田村さんみたいに、女の手解きをしてもらおうと思ってたのに・・・。
「剣城!馬車を持て!帰りはワシが乗る!義母殿と同席致す!それと市!!・・・・身体を厭えよ」
「浅井様、バタバタしてすいません。とても祝言の席とは言えず──」
「いやいや、大変喜ばしい他にない祝言であったと思うぞ!」
「私の配下の金剛を暫くお使い下さい。金剛君?悪いけど2週間くらいここに留まって、何から手を付ければいいかお願い出来る?必要な物はトランシーバーで大膳に言って。届けさせるから!人も何人必要か自分で考えるように」
「はっ!必ずや!」
「お市様。信長様からの手紙でございます。後でお読み下さい。持ってきた物も、浅井様は分からない物も多数あると思いますので、教えてあげて下さい」
「兄上からの手紙・・・・。分かった。剣城もこの様な祝言は聞いた事なかったが、よくぞやってくれた。礼を言う。剣城も食べ過ぎず、その腹を早う引っ込ませろよ!」
クッ・・・・!最後まで毒を吐くか!!でも美しい・・・。そしていい匂いだ・・・。
城から出ると慶次さん達は、浅井の兵の人達と肩を並べて宴会をしていた。
「お?剣城、どうした・・・大殿様!」
「ふん。帰るぞ!道先導せい!」
あぁ〜あ・・・。皆、嫌な顔になってるよ。
「ということだ!我らは帰るからもし近江が嫌になったら、俺達の元へ来い!がははは」
この人はなんちゅう勧誘してるんだよ!?
「小見様。本日はありがとうございました。馬車にお乗り下さい」
「いいえ。楽しかったでございますよ。ただ少しばかり休みたかったですがね?婿殿?」
「はは。そう言われますな。市が近江に届けばそれで良しでございますよ。小雲雀!頼むぞ!」
ヒィィィィーーーーン!!
"ノアもごめんね。また岐阜までお願いね!"
"嫌だ!"
"えっ!?何で!?やっぱ疲れてる!?"
"途中あーしが言う場所で休憩してくれるなら運んであげるけど?"
なんだ!?珍しくノアが自己主張か!?
「信長様?」
「ははは!これは良いの!居心地抜群ではないか!何じゃ?」
めっちゃ馬車にはしゃいでる件。
「私の馬が『決められた場所で休憩しないと動かない』と言ってまして・・・」
「ふん。ワシはこの中で寝る!好きな様に致せ!」
"ノア?許可が出たからいいよ!"
"キャハッ♪さすが剣城っち♪いっくよ〜♪"
決められた場所で休憩ってなんなんだろう?
出発したオレ達の足取りは重かった・・・。重かったと言うよりフラフラだった。酒を飲み完全に酔ってる人もいたからだ。特に信長さんの私兵の方が酷く見えるが、信長さん本人はマジで寝たみたいで、小見さんも信長さんの横で目を瞑ってる事を確認した。
「あぁ〜あ。どうせなら泊まりたかったな・・・」
「近江が気に入りましたか?」
「あっ、ゆきさん!横に座っていいよ!」
「ありがとうございます。失礼します」
近い!近いぞ!!クソ!後ろに信長さんが居なければイチャイチャ出来そうなのに・・・。
「今日はありがとね。お菊さんもありがとう」
「いえ、任務でしたので」
「まあそうは言ってもお市さんも喜んでたよ!あの服もかなり似合ってたしね」
「確かに。雑誌で見るモデルと呼ばれる未来の仕事の方より、お市様の方が綺麗だと思いましたね」
「ははは!そうだね!それとこれから暫くは内政に動くから、そのつもりでよろしく!」
"剣城っち♪次の山に入れば休憩するよ♪"
"分かったよ"
「お菊さん?先頭に次の山に入ると休憩と言ってくれる?」
「了解致しました」
時間は・・・多分夜中の0時くらいかな?オレも眠くなってきたな・・・。信長さんはグースカ寝れていいな。
"ここ!ここ!ここでいいよ!剣城っち♪あーしの身体に付けてる物、外してくれる?"
"はい。これでいい?"
"キャハッ♪じゃあ少し休んでてね!すぐ戻るから♪"
ノアはそう言うと漫画のような土煙りを上げ、全速力で走り山の方へ消えていった。
いやマジで何かする気なのか!?
「では金剛殿。こちらへ」
「ありがとうございまする」
「本来は芝田殿にと思っておりましたが、尾張程の美人は揃えられませんでしたが、折角ですので今後のご指導の事も兼ねて、どうぞごゆるりとお楽しみ下さい」
この事を剣城様に言えば叱責されてしまう。鈴や菊にバレるともっと酷い目に遭う・・・。だがここで断れば好意を無駄にしてしまう・・・。これは甘んじて受けよう。
「気遣い感謝致します。少しの間ですが精一杯、教えられる事は教えようと思います」
「ははは!布団なる物を我が殿も楽しみにしておられました。では・・・」
剣城様・・・すいません。これも任務の内でございます。
「失礼致します。今宵は殿方のご寵愛を・・・」
「うむ。どうしたのだ?」
「あっ、いやすいません。聞いていた方と違い驚きました」
「ははは。本当は某の主人、剣城様が見える筈だったが違う仕事が入ったので、某になったのですよ。こんな形(なり)で申し訳ない」
「とんでもございません!仕事に感情は出しませぬが今宵は無理やもしれませぬ」
「うん?何故だ?」
「貴方様が好ましく思いまする・・・」
「上手だな。まずは、一献・・・」
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